個人版事業承継税制とは?特定事業用資産の要件・2028年までの期限と小規模宅地等の特例との選び方を熊本の弁護士が解説!

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西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

法人にはしていないけれど、何十年も個人名義で店や工場、農地のそばのハウスを守ってきた。その事業用の土地と建物を子どもに引き継がせたいが、相続税や贈与税がいくらかかるのか見当がつかない——という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

株式会社であれば自社株の評価と事業承継税制の話になりますが、個人事業の場合は「株式」がありません。代わりに、土地・建物・機械といった事業用資産そのものが課税の対象になります。

この個人事業のための納税猶予制度が、個人版事業承継税制です。しかも2026年の税制改正で、入口にあたる個人事業承継計画の提出期限が延びました。一方で、制度そのものを使える期限は延びていません。

そこで本記事では、個人版事業承継税制の対象になる資産の範囲と要件、2028年までの2つの期限、そして多くの方が迷う小規模宅地等の特例との選び方を、熊本市・八代市でご相談をお受けしている弁護士の視点から解説していきます。

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個人版事業承継税制とは?個人事業主の事業用資産にかかる税金を猶予する制度

個人版事業承継税制でおさえておきたい3つのことを示した図解

個人版事業承継税制は、個人事業主が後継者へ事業用資産を贈与または相続させたときに、その資産にかかる贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。正式には「個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除」と呼ばれます。

2019年度の税制改正で創設された、比較的新しい制度です。法人の事業承継税制が先に知られていたため、個人事業主の方には「うちは法人ではないから関係ない」と思われていることが少なくありません。

法人版との違いは、対象が「株式」ではなく「事業用資産」であること

法人版の事業承継税制は、後継者が取得した自社株式にかかる税金を猶予する制度です。会社の土地や建物は会社の名義のままなので、承継の対象になるのは株式だけで足りました。

これに対して個人事業は、事業に使っている土地・建物・機械が、すべて経営者個人の名義になっています。そのため個人版では、株式の代わりに「特定事業用資産」という形で、事業用資産を直接の対象としています。

法人版の仕組みと見比べておくと、ご自身の事業がどちらの制度の話なのかが整理しやすくなります。

猶予される税額は、特定事業用資産にかかる全額が原則

個人版事業承継税制の猶予割合は、特定事業用資産に対応する贈与税額・相続税額の100パーセントとなるのが原則です。評価額を一定割合下げる制度ではなく、計算された税額そのものの納付を先に延ばす仕組みです。

ここが後述する小規模宅地等の特例との最大の違いになります。評価を80パーセント下げるのか、税額の納付を100パーセント先送りするのか、という構造の違いだとお考えください。

「猶予」は「免除」とは違う——どこまで続ければ免除になるのか

注意していただきたいのは、この制度が原則として「猶予」であって、その時点で税金がなくなるわけではないという点です。要件を満たさなくなれば、猶予されていた税額に利子税を加えて納付しなければならなくなるのが原則です。

最終的に免除されるのは、後継者が亡くなった場合など、法令で定められた事由にあたったときです。言い換えれば、後継者は原則として終身にわたって事業を続けることを前提に、この制度を選ぶことになります。

「とりあえず税金が止まる制度」として入口だけを見てしまうと、10年後20年後に後継者が苦しむことがあります。制度を使うかどうかは、後継者本人の意思を確かめてから決めるべきものです。

別記事では「事業承継税制の要件とは?特例措置と一般措置の違いやメリット・デメリット」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

対象になる「特定事業用資産」の範囲と面積の上限

個人版事業承継税制で猶予の対象になるのは、事業用資産のすべてではありません。「特定事業用資産」として定められた範囲に限られ、しかも土地と建物には面積の上限があります。

ご相談の現場でも、ここの線引きを誤解されているケースが目立ちます。まずは何が入り、何が入らないのかを押さえてください。

資産の種類上限の目安主な留意点
宅地等(土地・借地権)400平方メートルまで事業の用に供されているものに限られる
建物床面積800平方メートルまで事業専用部分で判断されるのが原則
機械・器具備品など減価償却資産面積の上限なし固定資産税の課税対象であることなどが条件
車両運搬具面積の上限なし自動車税等で事業用の税率が適用されるものなど
生物(乳牛・果樹など)面積の上限なし農業・畜産では実務上の意味が大きい
無形固定資産(特許権など)面積の上限なし貸借対照表への計上が前提となる

宅地等は400平方メートル、建物は床面積800平方メートルが上限

宅地等については400平方メートル、建物については床面積800平方メートルが上限とされています。これを超える部分については、猶予の対象から外れるのが原則です。

後継者が複数になる場合、この400平方メートル・800平方メートルという枠は、それぞれが取得した面積を合計して判定されるものとされています。兄弟で分けて承継すれば枠が2倍になる、という制度ではありません。

熊本県南の工務店や運送関連の事業では、資材置き場や車庫を含めると敷地が400平方メートルを超えることが珍しくありません。どの部分を猶予の対象に充てるかという設計が、初めから必要になります。

機械・車両・生物・無形固定資産も対象になりうる

土地と建物だけが対象だと思われがちですが、実際には機械・器具備品、一定の車両運搬具、乳牛や果樹といった生物、特許権などの無形固定資産も、特定事業用資産に含まれうるものとされています。

とくに農業・畜産や製造の個人事業では、土地よりも設備や生物の評価額が大きいことがあります。土地だけを見て「大した額にならない」と判断してしまうと、見積りを誤ることになります。

出発点は「青色申告の貸借対照表に載っていること」

どの資産が特定事業用資産にあたるかは、原則として、先代事業者の青色申告書の貸借対照表に計上されていることを前提に判断されます。帳簿に載っていない資産は、この制度の土台に乗りません。

ここは制度の入口であると同時に、最も多くの個人事業がつまずく場所です。白色申告のままである、あるいは青色でも貸借対照表を作っていないという状態では、そもそも検討の対象になりません。

制度を使う可能性が少しでもあるなら、正規の簿記の原則による記帳へ切り替えることが先決です。顧問の税理士がいらっしゃる場合は、早い段階でご相談ください。

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適用を受けるための要件——先代と後継者に求められること

個人版事業承継税制は、申告書を書けば使えるという制度ではありません。都道府県知事の認定という手続きを経る必要があり、先代事業者と後継者のそれぞれに要件が定められています。

先代事業者に求められる主な要件

先代事業者については、贈与や相続の前に、正規の簿記の原則にしたがった青色申告を行っていたことが求められるのが原則です。贈与の場合は、事業に使っていた特定事業用資産のすべてを後継者に引き継がせることも前提になります。

「土地は長男、機械は次男」というように資産を分けて渡す形は、制度の設計と相容れない場面があります。分けたい事情があるときは、制度を使うかどうかを含めて組み立て直す必要があります。

後継者に求められる主な要件と、知事の認定

後継者については、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に基づく都道府県知事の認定を受けることが必要とされています。あわせて、開業の届出と青色申告の承認を受け、自ら事業を続けていくことが求められます。

一定期間、事業に従事していたことなどの要件も定められています。細かな要件は改正で変わることがあるため、検討される時点での最新の公表資料をご確認ください。

個人事業を親族内で承継する場合は、税制だけでなく届出や許認可の引き継ぎも同時に動きます。全体の段取りを先に押さえておくことをおすすめします。

不動産貸付業は対象から外れている

アパートや駐車場の賃貸といった不動産貸付業は、この制度の対象から外されているのが原則です。資産を保有して収益を得る事業は、政策の目的である「事業の継続」とは別のものとして扱われています。

ここは実務でとくに注意が必要な部分です。事業用の建物の一部を他人に貸している、店舗を縮小して空いた棟を賃貸に回している——こうした混在があると、どこまでが対象なのかの判断が難しくなります。

熊本市内の商店街沿いの店舗付き建物では、こうした混在がよく見られます。現況をどう整理するかによって結論が変わるため、早めに専門家を交えて確認することをおすすめします。

別記事では「事業承継の消費税は個人事業主でもかかる?相続時の納税義務やインボイス登録・届出の期限」、「事業承継で個人から法人にすべき?違いと判断基準・代替わりの手続きと期限」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

【2026年の改正】個人事業承継計画の提出期限は2028年9月末まで延びた

個人事業承継計画の提出期限が2028年9月末まで延びたことを示すイメージ画像

2026年の税制改正に関する公表資料では、個人版事業承継税制の入口である個人事業承継計画の提出期限について、延長する内容が示されています。従来は2026年3月31日が期限とされていましたが、2028年9月30日まで延びたものとされています。

一方で見落としていただきたくないのが、計画の提出期限と、制度を使える「適用期限」は別だという点です。

区分期限の目安延長されたか
個人事業承継計画の提出2028年9月30日まで延長された
贈与・相続そのもの(適用期限)2028年12月31日まで延長されていない
法人版の特例承継計画の提出2027年9月30日まで延長された

延びたのは「計画の提出」、延びていないのは「制度を使える期限」

個人版事業承継税制が適用されるのは、2028年12月31日までに行われた贈与・相続についてとされています。この適用期限は、今回の改正では延長されていないものとして扱われています。

つまり、計画を出す猶予は増えたけれども、実際に贈与や相続を済ませる期限は変わっていないということです。計画の提出期限が2028年9月末、贈与・相続の期限が同年12月末ですから、終盤はほとんど余裕がありません。

「期限が延びたのでまだ大丈夫」という受け取り方は、かなり危ういと考えています。相続はこちらの都合で時期を選べませんし、贈与であっても後継者との話し合いや資産の整理に時間がかかります。

法人版の期限とは1年ずれている

法人版の特例承継計画については、2027年9月30日までとされており、個人版より1年ほど早い期限が示されています。同じ「事業承継税制」という名前でも、個人版と法人版で期限が異なります。

法人化を検討しながら承継も考えている場合、どちらの期限を先に見るかで動き方が変わります。混同しやすいところですので、ご自身の事業がどちらに当たるのかを先に確定させてください。

熊本県内の事業者はどこに計画を出すのか

個人事業承継計画は、先代事業者の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県に提出するものとされています。熊本市や八代市で事業をされている方であれば、熊本県の担当窓口が提出先となるのが原則です。

認定経営革新等支援機関の確認を受けた上で提出する形が想定されており、顧問の税理士や金融機関が支援機関になっている場合は、そこから進められることが多くあります。

なお、期限や様式、提出先の運用は変わることがあります。実際に提出される際は、国税庁および熊本県の最新の公募要領・案内をご確認ください。

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手続きの流れと、見落としやすい期限

個人版事業承継税制は、計画の提出から始まり、贈与・相続の後の認定申請、税務署への申告、その後の継続届出まで続く、長い手続きです。どこかひとつを落とすと猶予が受けられなくなるため、流れを押さえておく必要があります。

1. 個人事業承継計画を都道府県に提出する

まず、後継者が誰か、承継後にどう事業を続けるかを記載した個人事業承継計画を、都道府県に提出します。この提出が済んでいないと、後の段階でいくら要件を満たしていても制度を使えないのが原則です。

相続が起きてから慌てて準備される方が多いのですが、計画は生前に出しておくことが本来の形です。先代がご健在のうちに済ませておきたい手続きだとお考えください。

2. 贈与または相続が起きた後の認定申請

贈与や相続が実際に行われた後、都道府県知事に認定申請を行います。この申請には、贈与の場合と相続の場合でそれぞれ期限が定められており、相続では相続の開始から数か月以内という比較的短い期間での対応が求められるのが原則です。

相続の場面では、遺産分割の話し合いと並行して進めることになります。分割がまとまらないうちに期限が来てしまう事例もあり、ここは弁護士が関わる意味が大きい場面です。

3. 税務署への申告と担保の提供

認定を受けたら、期限内に贈与税または相続税の申告を行い、猶予される税額等に見合う担保を提供します。担保として事業用の不動産を差し出すことが多く、その不動産に抵当権が設定されることになります。

ここは金融機関からの借入とぶつかりやすい部分です。すでに事業用不動産に担保が設定されている場合、どう調整するかを先に確認しておく必要があります。

4. その後は3年ごとの継続届出書

猶予が始まった後も、税務署に継続届出書を提出し続ける必要があります。個人版では3年ごととされており、法人版の経営承継期間中は毎年という扱いとは異なります。

3年ごとという間隔は、裏を返せば忘れやすい間隔でもあります。担当の税理士が代わったタイミングで引き継がれず、提出漏れで猶予が打ち切られるという事故が起こりえます。承継の記録として、提出時期を文書で残しておくことをおすすめします。

小規模宅地等の特例とどちらを選ぶか

小規模宅地等の特例とどちらを選ぶかを考えるイメージ画像

個人版事業承継税制を検討される方が最も迷われるのが、小規模宅地等の特例との関係です。どちらも事業用の土地にかかる相続税を軽くする制度ですが、併せて使うことはできないのが原則です。

比較の視点個人版事業承継税制小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)
効果の形税額の納付を猶予(原則100パーセント)宅地の評価額を減額(原則80パーセント)
対象宅地・建物・機械・生物など宅地等のみ
対象になる移転贈与と相続の両方相続のみ
事前の計画提出必要不要
求められる継続原則として終身の事業継続申告期限までの保有・事業継続
他の相続人への影響猶予を受ける後継者に効果が及ぶ課税価格が下がり相続人全体に効果が及ぶ

宅地については併用できず、選択することになる

特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例の適用を受ける場合、その宅地について個人版事業承継税制を適用することはできないものとされています。どちらか一方を選ぶ関係にあります。

一方で、居住用の宅地や貸付事業用の宅地については、それぞれの小規模宅地等の特例との関係で別の整理がされるとされています。自宅と店舗が同じ敷地にある場合など、取扱いが細かくなる場面があるため、個別の確認が必要です。

「評価80パーセント減」と「税額100パーセント猶予」はどちらが得か

一見すると100パーセント猶予のほうが有利に見えます。しかし小規模宅地等の特例は評価額そのものを下げる制度なので、相続財産の総額が下がり、税額が確定した形で軽くなります。将来の打ち切りリスクを抱えません。

対して個人版事業承継税制は、あくまで納付を先に延ばす制度です。終身の事業継続という重い前提が付き、要件を外れれば利子税を伴って納付することになります。

判断の分かれ目になるのは、土地以外の事業用資産の額です。機械や生物、車両の評価額が大きい事業では、宅地だけを対象とする小規模宅地等の特例ではカバーしきれず、個人版に意味が出てきます。逆に、資産のほとんどが土地であるなら、小規模宅地等の特例で足りることも少なくありません。

見落としやすいのは「他の相続人への影響」

小規模宅地等の特例は課税価格を下げるため、結果として相続人全体の相続税負担が軽くなります。これに対して個人版事業承継税制の猶予は、事業を引き継ぐ後継者について働くものです。

後継者以外のご兄弟がいらっしゃる場合、どちらを選ぶかで「誰の負担がどれだけ軽くなるか」が変わります。税金の大小だけでなく、親族間の納得という観点が入ってくるわけです。

ここを詰めずに制度だけを決めてしまうと、後から不公平感が出て紛争になることがあります。遺留分の問題と重なる場面でもあるため、税の有利不利と並べて、相続人全体の納得をどう作るかを検討してください。

別記事では「事業承継で親子が対立する理由は?起こりやすいトラブル・失敗例と、株式や役職をめぐる法律上の注意点」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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熊本・八代の個人事業で実際に迷いやすい場面

熊本市・八代市を中心にご相談をお受けしていると、個人版事業承継税制の検討が、地域の事業の形と結びついて難しくなる場面があります。代表的なものを挙げます。

農業——農地は別の制度、ハウスや農機具は個人版という使い分け

熊本県南では、い草やトマト、柑橘、畜産といった個人経営の農業が地域の柱になっています。この場合、まず押さえておきたいのが、農地そのものと、農業用の施設・設備では使う制度が違いうるという点です。

農地については、農地等についての相続税の納税猶予という別の制度が用意されています。他方で、ハウスや農機具、乳牛・果樹といった資産は、特定事業用資産として個人版事業承継税制の対象になりうるものとされています。

つまり農業の承継では、複数の納税猶予制度をどう組み合わせるかという設計が必要になります。農地の権利を動かすには農業委員会の許可などの手続きも絡むため、税の話だけでは完結しません。

商店・工務店——自宅と店舗が一体になった建物をどう分けるか

地方の個人事業では、1階が店舗や作業場で2階が住居という建物が珍しくありません。この場合、建物のどこまでが事業専用部分なのかを整理しないと、床面積800平方メートルの判定や、居住用宅地の特例との関係が決まりません。

固定資産税の課税の状況や、確定申告での按分の仕方が、そのまま判断材料になることがあります。長年の申告が実態と合っていないと、そこから手を入れる必要が出てきます。

生計を一にする親族が持っている資産の扱い

事業に使っている土地が、実は配偶者や親の名義のままになっている——これも現場でよくある状態です。生計を一にする親族が有する資産についても、特定事業用資産にあたりうるものとされています。

ただし名義と実態がずれていると、誰からの贈与・相続として扱うのかという整理が必要になります。登記名義を確認したうえで、相続関係の全体を見て順番を決めることになります。

どこに相談すればよいか分からないという段階でご連絡いただいても構いません。名義の確認から順番を整えていきます。

別記事では「農業の事業承継の手続きの流れは?必要書類・費用と税金、親子間の名義・相続トラブルへの備え」、「農業の法人化は事業承継に有利?農地所有適格法人の要件・親子間の進め方と納税猶予の注意点」、「熊本県の事業承継はどこに相談?補助金・支援制度と後継者探し・法律面の注意点」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

猶予が打ち切られる場面と、使う前に確かめておきたいこと

最後に、制度を使った後のリスクを整理します。個人版事業承継税制は、入口の手続きよりも、その後を続けられるかどうかのほうが重い制度です。

  • 事業をやめた、または特定事業用資産を事業に使わなくなった
  • 対象となっていた資産を譲渡した(買い替え等で承認を受ける場合を除く)
  • 青色申告の承認が取り消された、または取りやめた
  • 継続届出書を期限までに提出しなかった
  • 資産保有型・資産運用型の事業に該当することになった

事業をやめたとき・資産を売ったとき

猶予されていた税額は、事業の廃止や対象資産の譲渡があったときに、利子税を加えて納付することになるのが原則です。設備の買い替えなどについては承認を受けて継続できる仕組みが用意されていますが、手続きを踏む必要があります。

20年先に事業環境がどう変わるかは、誰にも読めません。「売る可能性のある土地を猶予の対象に入れてよいか」という視点で、対象資産を選んでおくことが現実的な備えになります。

青色申告をやめたときのリスクは意外に大きい

青色申告を続けていることが前提の制度ですので、後継者が記帳の負担に耐えられず白色に戻したり、承認が取り消されたりすると、猶予の前提が崩れます。

後継者がまだ経理に不慣れな場合、承継と同時に記帳体制をどう作るかを決めておく必要があります。制度を使うかどうかは、この体制が組めるかどうかとほぼ同じ問いです。

「終身の事業継続」を後継者が引き受けられるか

ご相談の中で、先代が制度の節税効果に魅力を感じている一方、後継者が将来の身動きの取れなさを不安に感じている、というすれ違いをよく目にします。

原則として終身の事業継続が前提になる以上、これは税務の問題にとどまらず、後継者の人生の選択に関わる話です。制度を使うかどうかは、後継者を交えて決めるべきものだと考えています。

将来、第三者への譲渡という選択肢を残しておきたい場合、猶予の打ち切りと衝突します。その可能性があるなら、猶予を使わずに評価の引き下げや他の制度で備えるほうが、結果として身軽でいられることもあります。

別記事では「事業承継税制のメリット・デメリットは?5年間の要件や猶予が打ち切られる場面」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

個人版事業承継税制は、株式を持たない個人事業主にとって、事業用の土地・建物・設備にかかる贈与税・相続税の納付を猶予できる制度です。猶予割合は原則100パーセントで、宅地400平方メートル・建物床面積800平方メートルという上限のもと、機械や車両、乳牛・果樹といった資産まで対象になりうる点に特徴があります。

2026年の税制改正に関する公表資料では、入口となる個人事業承継計画の提出期限が2028年9月30日まで延びたとされています。ただし、贈与・相続そのものの適用期限は2028年12月31日のままで、延長されていません。期限が延びたことを「まだ先の話」と受け取らず、今から準備を始めていただきたい理由がここにあります。

そして実務上の最大の分かれ目は、小規模宅地等の特例とどちらを選ぶかです。宅地だけで足りるのか、設備や生物まで含めて猶予を使うのか。熊本県南の農業や、熊本市内の店舗付き建物での事業のように、資産の内訳と建物の使い方によって結論は変わります。他の相続人への影響という視点も欠かせません。

なお、制度の要件や期限、様式は改正によって変わります。実際に手続きを進められる際は、国税庁および熊本県の最新の案内を必ずご確認ください。個別の事情によって結論は異なりますので、一般的な解説として読んでいただければと思います。

当事務所では、熊本市・八代市を中心に事業承継のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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