天草で事業承継を進めるには?漁業・観光・農業の引き継ぎと相談窓口・登記の管轄を熊本の弁護士が解説!

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西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

天草で長く商売を続けてこられた経営者の方から、「そろそろ誰かに引き継ぎたいが、島の中に継いでくれる人が見つからない」というご相談をいただくことが増えています。

子どもは熊本市や福岡に出たまま帰ってこない、従業員も高齢化している、かといって黒字のうちに閉めてしまうのは惜しい。そうした板挟みで何年も動けずにいる、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

天草の事業承継には、熊本市や八代市とは違う事情があります。漁業権や農地といった「売買では動かせない権利」が事業の土台になっていること、旅館業や飲食店営業の許可が経営者個人に紐づいていること、そして会社の登記や裁判所の手続きで本土まで出なければならない場面があることです。

そこで本記事では、天草市・上天草市・苓北町で事業を引き継ぐときに最初に確認すべきこと、水産・観光・農業それぞれの業種で問題になりやすい法律上の論点、地元で使える相談窓口と費用の目安、そして手続きの管轄までを、熊本の弁護士の立場から順に解説していきます。

\事業承継、何から始めるか迷ったら/

天草の事業承継が「あと5年」では間に合わなくなる理由

天草地域は、熊本県の中でも人口減少と高齢化が早く進んでいる地域のひとつです。事業承継の相談現場でも、経営者の年齢と、引き継ぎに必要な準備期間とが、すでに合わなくなっている例が目立ちます。

事業承継は、後継者が決まってから登記をすれば終わり、というものではありません。後継者を探し、育て、取引先や金融機関の理解を得て、株式や事業用資産を移すまでに、親族内承継であれば5年から10年、第三者への譲渡でも1年から2年ほどを見込むのが一般的です。

つまり、70代になってから「そろそろ」と動き始めると、間に合わない可能性が出てきます。天草の場合、ここにさらに地域特有の事情が重なります。

後継者候補が島外に出ており、話を切り出せていない

天草でよく伺うのが、「息子は熊本市で勤めているので、会社の話はしたことがない」というお話です。本人に継ぐ意思がないと決めつけたまま、確認しないで何年も過ぎてしまっているケースが少なくありません。

実際に意向を確かめてみると、「事業の中身も借入の額も知らされていなかったので、判断のしようがなかった」と言われることがあります。継ぐ・継がないの前に、情報が共有されていないという段階で止まっているわけです。

まずは、数字と借入の実態を開示したうえで一度だけ正式に意思を確認する。その答えによって、親族内承継を目指すのか、従業員承継や第三者承継に切り替えるのかが決まります。この一手間を飛ばすと、残りの選択肢をいつまでも検討できません。

水産・観光・農業は「事業の価値」が設備や権利に偏りやすい

天草の事業者には、漁業・水産加工、宿泊・飲食、農業・畜産に関わる方が多くいらっしゃいます。これらの業種は、売上や利益よりも、漁場・養殖施設・建物・農地といった資産や権利が事業の中心を占めやすいという特徴があります。

ところが、こうした資産や権利は、株式を売買すればそのまま付いてくるとは限りません。漁業権や農地のように、行政庁の許可や組合の資格が前提になっているものは、承継の方法を誤ると引き継げなくなるおそれがあります。

「会社ごと譲れば全部付いてくる」という前提で話を進め、後から許認可が引き継げないと分かって破談になる。この失敗を避けるために、何が株式に付いてきて、何が別の手続きを要するのかを、早い段階で切り分けておく必要があります。

黒字のまま閉めてしまうと、地域の雇用と取引先が同時に失われる

後継者が見つからないまま高齢になり、体力の限界を理由に廃業を選ぶ。これが、いわゆる黒字廃業です。天草のように事業者の数そのものが限られている地域では、1社の廃業が、従業員の職と、その会社に納めていた周辺の事業者の売上を同時に奪うことになりかねません。

解散・清算には、在庫や設備の処分、従業員の退職手当、建物の原状回復といった費用がかかります。手元に残る金額は、第三者に譲渡した場合より少なくなることが多いのが実情です。

別記事では「事業承継の後継者不足の原因と解決策」、「黒字廃業とは?事業承継できない理由と回避策」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

天草で事業承継を考え始めたら最初に確認する4つのこと

天草の事業承継で最初に確認する4つのことを示した図解

ご相談をお受けするとき、私たちが最初に確認するのは次の4点です。順番にも意味があります。ここが固まらないうちに後継者探しだけを進めると、話がまとまりかけた段階で振り出しに戻ることになるためです。

下の図は、天草の事業者の方からご相談をいただいたときに、実際にこの順で確認している内容をまとめたものです。

  • 会社の株式や個人事業の資産が、今誰のものになっているか
  • 事業を続けるために必要な許認可・権利が、何に紐づいているか
  • 借入と経営者保証が、どこまで個人にかかっているか
  • 建物・土地・漁場・農地の名義と、使用の根拠が何か

株式や持分が、思っていた人のものになっていないことがある

古くからある会社ほど、設立当時に名義を借りた株主がそのまま残っていることがあります。すでに亡くなっていて、相続人が誰かも分からないという状態も珍しくありません。

株式が分散していると、後継者に経営権を集中させられず、重要な決議ができない場面が出てきます。第三者への譲渡を考える場合も、買い手は原則として全株式の取得を求めますから、この整理ができていないと交渉が進みません。

許認可が「会社」ではなく「人」に付いているかを見分ける

許認可には、会社に与えられていて株式が移っても存続するものと、事業者個人や施設ごとに与えられていて引き継げないものとがあります。この違いが、承継の方法を事実上決めてしまうことがあります。

たとえば個人事業として受けている飲食店営業の許可や旅館業の許可は、原則として引き継ぐことができず、後継者が改めて取得し直す必要があるとされています。一方、法人が受けている許認可は、株式を譲渡しても許可そのものは法人に残るのが原則です。

ただし、業種によっては支配株主の変更について届出を求められたり、常勤の有資格者の配置が要件になっていたりします。業種ごとに扱いが異なりますので、所管する窓口への事前確認が欠かせません。

経営者保証を外さないと、後継者が引き受けてくれない

事業は引き継ぎたいが、会社の借入に個人保証を付けるのは怖い。後継者候補から実際によく出る言葉です。天草でも、保証の問題が理由で親族内承継が止まっている例に何度も行き当たります。

近年は、経営者保証に関するガイドラインや事業承継特別保証制度など、保証に依存しない形を目指す仕組みが整えられてきました。金融機関との交渉次第では、承継を機に保証を外せる場合もあります。

もっとも、これらを使えるかどうかは、法人と個人の資産が明確に分離されているか、財務情報の開示が適切にされているかといった要件の充足状況により判断されます。利用の可否は、取引金融機関と早めに相談しておくのが確実です。

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天草で事業を引き継ぐ3つの方法と、向き・不向き

事業の引き継ぎ先は、大きく親族内・従業員・第三者の3つに分かれます。どれが良いかは会社の状況によって異なりますが、天草の事業者の場合、それぞれに特有の事情があります。

次の表は、3つの方法を準備期間・資金・引き継ぎやすさの観点で整理したものです。目安であり、個別の事情により実際の期間や負担は変わります。

引き継ぎ先準備期間の目安後継者の資金負担天草で起きやすい課題
親族内承継5〜10年贈与・相続が中心で資金負担は小さめ後継者が島外におり、戻る決断が要る
従業員承継3〜5年株式の買取資金が必要になることが多い従業員も高齢で、次の代まで見通せない
第三者承継(M&A)1〜2年買い手が資金を用意するため負担は小さい買い手が本土・島外の企業になりやすい

親族内承継は、戻ってくる条件を具体化できるかが分かれ目

親族内承継は、取引先や従業員の理解を得やすく、引き継ぎの期間も長く取れるという利点があります。株式の移転も、贈与税や相続税の特例を検討する余地が残されています。

天草で難しいのは、後継者が島外で生活基盤を作っている場合です。本人だけでなく配偶者の仕事、子どもの学校、住まいをどうするかまで含めて条件を詰めないと、口約束のまま何年も進みません。

いつまでに戻るのか、戻るまでの間の報酬や役職はどうするのか、先代はいつ退くのか。こうした点を書面にしておくと、後からの行き違いを防げます。

従業員承継は、株式の買取資金をどう手当てするかが要点

長年働いてきた従業員や役員に引き継ぐ方法です。事業の中身を熟知しているため、引き継ぎそのものはなめらかに進みやすい傾向があります。

問題になるのは、株式を買い取る資金です。個人でまとまった資金を用意できないことが多く、金融機関からの借入や、持株会社を設立して資金調達する方法などを検討することになります。

また、先代の個人保証を後継者が引き継ぐかどうかも避けて通れません。保証を求められるなら受けたくない、という理由で断られることがありますので、資金と保証はセットで組み立てる必要があります。

第三者承継は、従業員の雇用と屋号をどう守るかを条件に入れる

親族にも従業員にも引き継げない場合、第三者への譲渡が選択肢になります。天草では、熊本市や福岡、県外の企業が買い手になることが多く、譲渡後の経営方針が気になるというご相談をよくいただきます。

譲渡の交渉では、価格だけでなく、従業員の雇用を一定期間維持すること、屋号や商標を残すこと、仕入先との取引を継続することなどを条件として交渉に乗せることができます。

こうした条件は、最終的な契約書に入れておかなければ法的な意味を持ちません。口頭で約束したから大丈夫、とされていたものが守られなかったという相談も受けますので、合意した内容は必ず条項に落とし込みます。

漁業・水産加工の承継で押さえる漁業権と組合員の資格

漁業権と組合員資格の確認を示すイメージ画像

天草の事業承継で最も誤解が多いのが、漁業に関わる権利の扱いです。「会社を譲れば漁場も付いてくる」という前提で話が進み、後から引き継げないと分かるケースがあります。

漁業権は、その種類によって免許を受ける主体が異なります。ここを取り違えると、承継の設計そのものが成り立ちません。

共同漁業権は漁協に免許され、個人は行使する資格を持つにとどまる

漁業権のうち共同漁業権は、漁業協同組合または漁業協同組合連合会に対して免許されるのが原則です。個人の漁業者は、漁協の組合員として、その漁業権を行使する資格を持っているという関係になります。

つまり、個人や会社が共同漁業権そのものを売り買いすることは想定されていません。株式を譲渡して会社の支配権が移っても、漁協の組合員資格が自動的に移るわけではないのです。

第三者承継を検討する場合、買い手の側が組合員資格を得られるのか、得られないとして事業として成り立つのかを、交渉の初期に確かめておく必要があります。

養殖や定置網は個人でも免許を受けられるが、承継には別の手続きが要る

養殖を営む区画漁業権や、定置漁業を営む定置漁業権については、個人が免許を受けることも可能とされています。天草で真鯛や車海老の養殖、定置網を営んでおられる方は、この類型に当たることがあります。

この場合でも、免許は行政庁から特定の者に与えられたものですから、株式の譲渡や事業の譲渡だけで当然に移るとは限りません。免許の存続期間、変更の届出、新たな免許の申請といった手続きの要否を、県の漁業調整を所管する部署に確認することになります。

施設や漁具といった設備は譲渡できても、営む権利が続かなければ事業にはなりません。設備と権利を分けて考えるのが出発点です。

「名義を残して経営だけ任せる」は規則に触れるおそれがある

後継者が決まるまでのつなぎとして、名義は自分のまま残し、実際の経営は別の人に任せたい、というご希望を伺うことがあります。しかし、漁協の行使規則では、資格に係る漁業を営む権利の譲渡や貸付け、経営の委任を禁じている例があります。

良かれと思って作った形が、規則違反として資格の喪失につながるおそれがあるわけです。規則の内容は漁協ごとに異なりますので、所属する漁協の定款と行使規則を実際に取り寄せて確認するほかありません。

承継の形を決める前に漁協へ相談しておくと、後戻りを避けられます。順序を逆にして、話がまとまってから相談に行くと、やり直しになることがあります。

相続人が組合員になれるかどうかを、先代が生きているうちに確かめる

組合員が亡くなった場合、その相続人が組合員となったときに行使する資格が認められる、という定めを置く行使規則の例があります。裏を返せば、相続人が組合員になれなければ、漁業を続けられないということです。

組合員資格には、その地区に住んでいること、一定の日数以上漁業に従事していることといった要件が定められているのが通常です。島外で暮らす子が、相続をきっかけにすぐ組合員になれるとは限りません。

先代がお元気なうちに、後継者を一定期間従事させて要件を満たしておく、といった備えが現実的な対策になります。亡くなってから慌てて相談に来られても、取れる手が限られてしまいます。

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観光・宿泊・飲食の承継で問題になる許認可と建物

天草は、温泉旅館、民宿、海辺の飲食店といった観光関連の事業者が多い地域です。この分野の承継では、許認可と建物の2つが論点になります。

いずれも、株式を譲渡するか、事業を譲渡するかという選択によって、必要な手続きが大きく変わります。

旅館業・飲食店営業の許可は、事業譲渡では引き継げないのが原則

個人で営んでおられる民宿や飲食店の許可は、その方個人に与えられたものです。事業を譲り受ける側は、原則として改めて許可を取得する必要があるとされています。

古くからの建物の場合、現在の基準に照らすと、そのままでは許可を取り直せないことがあります。承継の話が進んだ段階でこれが判明すると、改修費用の負担をめぐって交渉が振り出しに戻ります。

一方、法人として許可を受けている場合は、株式を譲渡しても許可は法人に残るのが原則です。どちらの形になっているかで進め方が変わりますので、まず許可証の名義を確認します。

建物が借地・借家の場合、承継には貸主の承諾が必要になることがある

店舗や旅館の建物を借りている場合、賃貸借契約に、賃借人の地位の譲渡や転貸を禁じる条項が入っているのが通常です。事業譲渡の形を取ると、この条項に触れる可能性があります。

天草では、貸主が地元の個人で、契約書自体が存在しない、あるいは何十年も前のものという例があります。承継を機に、契約関係を文書として整え直す必要が出てくることも珍しくありません。

貸主の承諾が得られるかどうかは、承継の可否そのものを左右します。交渉の順番として、どの段階で貸主に伝えるかは慎重に決めるべきところです。

海沿いの立地では、建物以外の確認事項が増える

海に面した敷地では、護岸や桟橋、船揚場などの附属施設について、占用の許可を受けているかどうかが問題になることがあります。許可の名義が先代個人のままだと、承継後に使えなくなるおそれがあります。

また、高潮や台風による被害のリスク、浄化槽や排水の設備の状況なども、買い手から必ず確認される項目です。資料をそろえておくと、交渉の進みが違います。

これらは事業の価値を下げる材料になり得ますが、隠したまま譲渡すると、後から契約不適合の責任を問われるおそれがあります。先に開示して、価格の中で調整する方が結果的に安全です。

別記事では「飲食店の事業承継と営業許可・造作譲渡の注意点」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

天草の農業・畜産を引き継ぐときの農地と税の特例

天草では、柑橘類をはじめとする農業や、畜産を営んでおられる事業者も多くいらっしゃいます。農業の承継で中心になるのは、農地をどう引き継ぐかという問題です。

農地は、一般の不動産と同じようには動かせません。権利を移すこと自体に行政の関与が必要になる点が、他の業種と大きく異なります。

生前に農地を移すには、農業委員会の許可が要るのが原則

農地の売買や贈与によって権利を移す場合、原則として農業委員会の許可を受ける必要があるとされています。許可を受けないままされた契約は、効力を生じないものとして扱われます。

許可にあたっては、取得する側が農地のすべてを効率的に利用すると認められること、必要な農作業に常時従事すると認められることなどが審査されます。島外に住む子に名義だけ移す、という形は通りにくいのが実情です。

天草市・上天草市・苓北町にはそれぞれ農業委員会が置かれています。申請の受付日や審査会の開催日は月ごとに決まっているのが通常ですので、承継の日程を組むときは、この周期を織り込んでおく必要があります。

相続で取得した農地は、許可ではなく届出が必要になる

相続によって農地を取得した場合は、農業委員会の許可は不要とされる一方、取得を知った時から一定の期間内に農業委員会へ届け出ることが求められています。この届出を失念している例が少なくありません。

届出を怠ると過料の対象となり得るほか、その後に農地を貸したり売ったりする段になって、手続きが滞る原因にもなります。相続登記の義務化もあわせて、名義の整理は早めに済ませておくのが安全です。

先代名義のまま何代も放置された農地が見つかることもあります。この場合、相続人の人数が増えて協議が難しくなっていることが多く、解決までに相応の時間を要します。

納税猶予や法人化は、要件を満たし続けられるかまで見て判断する

農地を後継者に生前贈与したり相続したりする場面では、一定の要件のもとで贈与税や相続税の納税を猶予する制度が設けられています。負担の軽減につながる一方、適用後も農業を継続することなどが条件とされています。

要件を満たさなくなると、猶予されていた税額に利子税を加えて納付しなければならないとされており、かえって負担が重くなる場合があります。制度を使うかどうかは、後継者が何十年も農業を続けられる見込みがあるかまで含めて判断すべきところです。

規模が大きい場合は、法人化して農地所有適格法人の形を取る選択肢もあります。いずれも税制や要件が改正される分野ですので、適用を検討する際は、最新の要件を税理士や農業委員会にご確認ください。

別記事では「農業の事業承継の手続きの流れ・必要書類と費用」、「農業の法人化は事業承継に有利?農地所有適格法人の要件」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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天草で使える相談窓口と、費用の目安

天草で使える相談窓口と費用の目安のイメージ画像

事業承継の相談先は複数あり、それぞれ得意とする領域が違います。順番を間違えると、同じ説明を何度も繰り返すことになったり、本来無料で済んだ部分に費用をかけてしまったりします。

天草で利用できる主な窓口を整理すると、次のようになります。

窓口主に相談できること費用の目安
本渡商工会議所・天草市商工会・上天草市商工会など最初の相談、承継計画づくり、補助金の情報会員向けの相談は無料のことが多い
熊本県事業承継・引継ぎ支援センター後継者探し、譲渡先のマッチング、専門家の紹介相談は無料とされている
地元金融機関借入と経営者保証の整理、承継資金の手当て融資の条件による
税理士株価の評価、納税猶予、税務の手続き顧問料とは別に報酬が生じることが多い
弁護士契約書、株式の整理、許認可と権利関係、紛争の予防初回相談と着手金は事務所により異なる

まずは地元の商工団体に相談し、あまくさ事業承継サポート会議につなぐ

天草地域には、本渡商工会議所のほか、天草市商工会、上天草市商工会、苓北町商工会といった商工団体があります。日頃から決算書を見てもらっている経営指導員がいれば、そこが最も話が早い入口です。

天草では、商工団体や金融機関、県の支援機関が連携するあまくさ事業承継サポート会議という枠組みが設けられており、商工会議所の支援計画の中でも、この会議や県のセンターと連携して承継を支援する方針が示されています。

地元の窓口を通すと、天草市が年度ごとに設けている事業承継関連の補助金の情報も得られます。こうした補助金は、公募期間が限られていたり事前の相談が条件になっていたりしますので、動き出す前に確認しておくと取りこぼしがありません。

後継者が見つからないときは、県のセンターの出張相談を使う

熊本県事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設置した公的機関で、相談は無料とされています。後継者人材バンクや譲渡先のマッチングも扱っており、親族や従業員に候補がいない場合の受け皿になります。

センターの事務所は熊本市にありますが、天草エリアでも相談の機会が設けられています。本土まで出る負担を考えると、こうした機会に合わせて日程を組むのが現実的です。

ただし、センターは中立の立場で支援する機関であり、こちらの利益を代理して交渉する立場ではありません。契約条件の詰めや、相手方との交渉が必要な段階では、別に専門家を立てることを検討してください。

弁護士に相談するのは、権利関係と契約条件を固める場面

弁護士の出番は、株式が分散している、先代の個人名義の資産が事業に使われている、許認可や漁業権が引き継げるか分からない、といった権利関係の整理が必要な場面です。

また、譲渡の条件を契約書に落とし込む段階も同様です。従業員の雇用、屋号の存続、譲渡後に先代が負う競業避止の範囲といった条件は、条項の書き方ひとつで意味が変わります。

親族間で意見が分かれている場合も、早めに相談いただくほど穏当に収まる傾向があります。感情的な対立が固まってからでは、法的な手続きによる解決しか残らなくなることがあるためです。

天草で手続きを進めるときに知っておきたい管轄の話

天草で事業承継の手続きを進めるとき、意外な負担になるのが「どこへ行けばよいか」という問題です。登記や裁判所の手続きは、種類によって行き先が変わります。

特に注意していただきたいのが、不動産の登記と会社の登記とで、窓口が異なる点です。

手続き行き先注意点
土地・建物の登記(相続・名義変更)熊本地方法務局天草支局(天草市諏訪町)天草市・上天草市・苓北町の不動産を管轄
会社の登記(役員変更・本店移転など)熊本地方法務局の本局(熊本市)商業・法人登記は本局の管轄とされている
遺産分割調停・相続放棄熊本家庭裁判所天草支部管轄は事案により異なるため事前確認が必要
民事訴訟・調停熊本地方裁判所天草支部・天草簡易裁判所など訴額や事件の種類により窓口が分かれる

不動産は天草支局、会社の登記は熊本市の本局という分かれ方

熊本地方法務局天草支局は、天草市・上天草市・天草郡苓北町の不動産登記を管轄しています。事業用の土地や建物の名義を変える手続きは、こちらで取り扱われます。

一方、株式会社の役員変更や本店移転といった商業・法人登記については、天草市・上天草市・苓北町の分も熊本地方法務局の本局が管轄するものとされています。天草支局では、証明書の交付など一部の事務に限って取り扱われる形です。

株式を譲渡して代表者が変われば、役員変更の登記が必要になります。この登記を天草支局でできると考えていると、日程が狂います。郵送やオンラインでの申請も可能ですので、司法書士に依頼する場合も含め、段取りを先に決めておくのが安心です。

相続がからむ場合は、家庭裁判所の手続きも視野に入れる

先代が亡くなった後に承継を進める場合、遺産分割がまとまらなければ株式や事業用資産の帰属が決まりません。話し合いで解決しないときは、家庭裁判所の調停を利用することになります。

天草地域には、熊本地方裁判所天草支部、熊本家庭裁判所天草支部、天草簡易裁判所が置かれています。もっとも、支部で扱える事件の範囲や管轄は事案によって異なるため、どこに申し立てるかは個別に確認が必要です。

調停には相応の期間がかかり、その間、事業の意思決定が滞ります。これを避けるためにも、先代がお元気なうちに株式の帰属を定めておくことが、結果的にいちばんの近道になります。

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天草の事業承継でよくいただくご質問

最後に、天草の経営者の方から実際によくいただくご質問を取り上げます。個別の事情により結論は変わりますが、考え方の目安としてご覧ください。

相談したら、必ず会社を売らなければならないのでしょうか

そのようなことはありません。相談の段階で決めるのは、どの選択肢が現実的かを知ることまでです。親族内で引き継ぐ道が残っているなら、その準備を進めることになります。

むしろ、売却しか選べない状態になる前にご相談いただくほうが、選択肢は多く残ります。借入が膨らんだり、設備が老朽化したりしてからでは、譲り受ける側も手を挙げにくくなるためです。

島外の会社に譲ると、従業員や屋号はどうなりますか

株式を譲渡する形であれば、会社そのものは存続しますので、従業員との雇用契約や屋号はそのまま引き継がれるのが原則です。取引先との契約も、会社が当事者である限り続きます。

ただし、譲渡後の経営判断によって、人員配置や屋号の扱いが変わる可能性は残ります。だからこそ、雇用の維持期間や屋号の継続について、契約の条件として交渉しておく意味があります。

事業譲渡の形を取る場合は扱いが異なり、従業員は原則として個別に同意を得たうえで移籍することになります。どちらの方式を選ぶかによって、従業員への影響の出方が変わる点にご注意ください。

準備にはどれくらいの期間を見ておけばよいでしょうか

親族内で引き継ぐ場合は5年から10年、第三者への譲渡でも1年から2年を見込むのが一般的です。天草では、漁業権や農地、許認可の確認に時間を要することがあり、これより長くかかる場合もあります。

期間が読みにくいのは、相手のある話だからです。後継者の意思、金融機関の判断、買い手との交渉、行政の審査といった要素が重なるため、こちらの都合だけでは進みません。

別記事では「熊本県事業承継・引継ぎ支援センターの無料相談はどこまで?」、「熊本県の事業承継はどこに相談?補助金・支援制度と注意点」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

天草の事業承継は、後継者を探すことだけが課題ではありません。漁業権や農地のように売買では動かせない権利、経営者個人に紐づいた許認可、そして不動産の登記は天草支局、会社の登記は熊本市の本局という手続きの分かれ方まで、地域の事情を踏まえた段取りが必要になります。

いずれも、準備に時間がかかるものばかりです。親族内で引き継ぐなら5年から10年、第三者に譲るとしても1年から2年。この期間を確保できるかどうかが、選べる道の幅を決めます。

まずは、株式が誰のものになっているか、事業に必要な許認可や権利が何に紐づいているか、借入と経営者保証がどこまで個人にかかっているか。この3点を確かめるところから始めてみてください。地元の商工団体や熊本県事業承継・引継ぎ支援センターは、最初の入口として使いやすい窓口です。

当事務所では、熊本市・八代市を中心に事業承継のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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