「オーナーが代わったら、スタッフは残ってくれますか」——買い手が最後まで確かめていたのは、数字ではなく人のことだった

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西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

会社や店を次に渡すとき、売り手の社長が気にされるのは、たいてい価格と時期です。いくらで、いつまでに。

ところが、買い手の側が最後まで気にしているのは、そこではないことがあります。「オーナーが代わったら、いまのスタッフは残ってくれますか」——この一点です。

実は、この質問に答えられるかどうかで、話が前に進むかどうかが決まってしまう場面があります。価格の交渉より手前のところで、です。

この記事では、熊本市の中心市街地にある飲食店が次の担い手に渡ったときのやりとりを手がかりに、「人が残るかどうか」をどう確かめ、どう整えておくのかを、弁護士の視点で整理します。

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買い手が最初に聞いてきたのは、売上のことではなかった

年配の飲食店経営者が、シフト表と契約書を前に弁護士と相談しているイラスト

熊本市の中心市街地で、夜を中心に営業している飲食店がありました。店としては知られていて、宴会や二次会でも使われる、いわゆる「街の店」です。

この店を次の担い手に渡す話が進んだとき、買い手になった方が、商談の早い段階で繰り返し確かめていたことがありました。人のことです。

人材をどう確保するか。足りているのか。教育はどうなっているのか。夜が中心の店で、シフトのローテーションは実際どう回っているのか。雇用の形はどうなっているのか。

そして、いちばん大事なこととして挙げておられたのが、「オーナーが交代したら、いまの人は残ってくれるのか」でした。

売上と利益の見通しについても、もちろん心配はされていました。原価の構造まで含めて、資料はあらゆる角度から分析されています。それでも、優先順位の一番上にあったのは人でした。

これは、当方でお手伝いした承継の中で実際にあったやりとりです。業種も場所もさまざまな案件をお預かりしていますが、人がいて初めて成り立つ事業では、この順番はだいたい共通しています。

売り手にとっては、意外な順番に見える

渡す側に立つと、この順番は少し意外に映ることがあります。買い手はまず数字を見るものだ、と思っておられる社長が多いからです。

けれども、飲食や介護、建設のように「人がいて初めて回る」事業では、買い手にとっての最大のリスクは数字の中には出てきません。決算書のどこにも「店長が辞めるかもしれない」とは書いていないのです。

買う側は、引き継いだ翌月から店を開けなければなりません。そのときに厨房とホールに人がいなければ、どれだけ立地がよくても売上は立ちません。

だから、人の質問が先に来ます。これは値切るための質問ではなく、買ったあとに事業が続くのかを確かめる質問です。

この質問に答えられる会社と、答えられない会社がある

ここで差が出ます。シフト表、雇用契約書、勤続年数、誰がどの時間帯を支えているか。こうしたものがすぐ出てくる会社は、質問にそのまま答えられます。

逆に、長く社長の頭の中だけで回してきた店では、答えようとしても資料がありません。「だいたい足りています」としか言えない。

買い手から見ると、この「だいたい」がいちばん怖いのです。確かめられないものは、リスクとして高めに見積もるしかありません。

人のことを整理しておくのは、買い手を安心させるためだけではありません。結果として、評価を不当に下げられないための準備にもなります。

なお、ここで整理するのは個人情報そのものではありません。氏名や住所を見せる必要はありませんし、見せるべきでもありません。役割と人数と勤続の長さが分かれば、買い手の知りたいことはおおむね満たせます。

本業ではない事業を抱えたまま、時間だけが過ぎることがある

この店を手放した側は、もともと飲食が本業の方ではありませんでした。別の業種で会社を経営しておられた方です。

地域を盛り上げたい、街なかに人が集まる場所をつくりたい。そういう思いで店を持たれたと伺っています。その思いは、受け継いだ側にもはっきり伝わっていました。

ただ、飲食業そのものには精通しておられなかった。そこでの苦労が大きかったことが、次に渡すことを考えられた理由だったそうです。

これは、県内でも珍しい話ではありません。本業は堅調なのに、本業と関係のない事業を一つ抱えていて、そこだけが重い。そういう会社のご相談は、実際にあります。

本業で手いっぱいの社長が、本業外の店の採用やシフトまで見る。これは、時間の問題というより集中力の問題です。どちらも中途半端になるのが、いちばん避けたい形です。

赤字でなくても、手放す理由になる

本業外の事業を手放す理由は、必ずしも「儲かっていないから」ではありません。むしろ、社長の時間と神経をどれだけ使うか、のほうが効いています。

飲食は、人の入れ替わりが多く、夜に動き、クレームもその場で起きます。本業の合間に片手間で見られるものではありません。

それでも「自分が始めたものだから」と抱え続け、判断が先送りになる。気づけば数年経っている、ということが起こります。

次に渡すという選択は、撤退とは違います。その事業を続けられる人に引き継ぐのであれば、店も、そこで働く人も残ります。

廃業してしまえば、そこで働いていた人の仕事はなくなります。設備も、積み上げてきた常連との関係も残りません。同じ「やめる」でも、渡すのと閉じるのとでは、後に残るものがまったく違います。

受ける側にとっては「本業のど真ん中」であることがある

面白いのは、渡す側にとって重荷だった事業が、受ける側にとっては本業のど真ん中だった、ということがよくある点です。

この店を受けた方は、長く食の分野で仕事をしてこられた方でした。食にこだわって社会に関わりたいという考えを持っておられ、自分の組織の中にその店を位置づける絵が最初からあった。

同じ店でも、持つ人が変われば、重荷にも中核にもなります。これが第三者への承継の、いちばん分かりやすい効き目だと思います。

「うちのこの部門は、誰も欲しがらないだろう」と決めてしまう前に、誰にとって価値があるのかを一度考えてみる価値があります。

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現場を見に来た日に、買い手が見ていたもの

この承継では、受ける側が従業員向けの説明の場にも足を運び、現場を自分の目で確かめています。資料だけで判断していません。

では、買い手は現場で何を見ているのか。経験のある買い手ほど、見る場所は決まっています。

一つは、シフト表です。シフト表は、その店の体力をいちばん正直に映します。誰が何時間入っているか、特定の人に負荷が寄っていないか、穴をどう埋めているか。

もう一つは、人の動きです。注文が重なった時間帯に、声を掛け合って回っているのか、一人が全部を抱えているのか。これは数分見れば分かります。

三つ目は、店の裏側です。バックヤードの整理、在庫の置き方、掃除の行き届き方。ここは、日々の運営がきちんと回っているかどうかが、いちばん正直に出る場所です。

「誰が辞めたら回らなくなるか」を探している

買い手が見ているのは、結局のところ「この店は、誰が抜けたら止まるのか」です。

店長なのか、特定の職人なのか、社長本人なのか。止まる原因が社長本人である場合、買い手はそこをいちばん心配します。渡したあとに、その人はいなくなるからです。

ここで、引き継ぎ期間をどう設計するかという話が出てきます。渡したあと一定期間は残って引き継ぐのか、完全に離れるのか。これは価格にも、契約書の書き方にも影響します。

一般には、どのくらいの期間、どういう立場で、何をするのかを文章にしておかないと、後で「そこまでやるとは聞いていない」という食い違いになります。

逆に、社長が現場から一歩引いていて、店長が回している店は、買い手にとって安心材料になります。渡したあとも同じ形で続けられるからです。これは評価にも効いてきます。

見学の前に、売り手が整理しておけること

見学や面談の日が決まったら、渡す側で整えておけることがあります。難しいことではありません。

従業員の一覧(氏名でなく役割と勤続年数でかまいません)、雇用の形、だいたいの勤務時間、有給の取得状況、直近の採用と退職の履歴。この程度です。

そして、社長自身がいまどの業務をしているのかを書き出しておくこと。これがいちばん効きます。社長の仕事が可視化されていないと、買い手は引き継ぎの絵を描けません。

こうした整理は、承継の話がまとまらなかったとしても、会社の中に残ります。やって損になることがありません。

加えて、過去に労務のトラブルがあったかどうかも、早めに整理しておいてください。未払いの残業代や、退職をめぐる紛争の有無は、買い手が必ず確認する項目です。隠して進めても、調査の段階でほぼ出てきます。

従業員には、どの時点で伝えるのが良いのか

新しい経営者が従業員に向けて説明をしている場面のイラスト

ご相談でいちばん多い悩みの一つが、これです。従業員にいつ言うか。

早く言えば、動揺して辞めてしまうかもしれない。遅く言えば、「なぜ黙っていたのか」と信頼を失うかもしれない。どちらにも失うものがあります。

一般には、相手が決まり、条件の大枠が固まるまでは、ごく限られた範囲に留めるのが通常の進め方です。固まっていない段階で漏れると、憶測が先に走ってしまうからです。

ただし、「最後まで黙っていて、ある日いきなり発表する」のも危ない。買い手にとっては、引き継いだ初日から人が不信感を抱いている状態になります。

ここに正解の一つがあるわけではありません。会社の規模、従業員との距離、業種によって適切な時期は変わります。ただ、「成り行きに任せる」のだけは避けていただきたいところです。

伝える順番と場をつくる

うまくいった例に共通しているのは、伝え方を事前に決めてあることです。誰に、どの順番で、誰の口から伝えるか。

先ほどの店では、受ける側が従業員向けの説明の場に出ています。顔が見える状態で、新しい担い手が自分の言葉で話した。これは、紙の通知を配るのとは意味がまったく違います。

働く側がいちばん知りたいのは、会社の名義が誰になるかではありません。自分の給与、シフト、勤務地、そして上司が変わるのかどうかです。

この四つについて答えを用意しないまま説明の場を持つと、かえって不安を増やします。「決まっていないことは、決まっていないと言う」ことも含めて、準備が要ります。

説明の場を持つ時期も、引き渡しの直前では遅いことがあります。働く側にも、考える時間と質問する時間が要ります。新しい担い手の顔を見て、話を聞いて、それから判断する。その余白をつくれるかどうかが分かれ目です。

伝え方の設計も、承継の設計のうち

契約書を整えることと、人に伝えることは、別の作業のように見えます。しかし、実際にはひと続きです。

契約がどれだけ精緻でも、現場の人が辞めてしまえば、買い手が買ったはずのものは残りません。そうなると、引き渡し後に条件をめぐる争いが起きます。

ですから、開示の時期と方法は、契約の交渉と同じテーブルで決めるべき項目です。売り手だけで決めることでも、買い手だけで決めることでもありません。

当方でお手伝いするときも、「いつ、誰に、どう伝えるか」は必ず議題に入れています。ここを曖昧にしたまま進めた案件は、あとで必ずつまずきます。

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人は契約では残らない。ただし、契約の形で扱いは変わる

株式を譲る形と事業だけを譲る形で、従業員の雇用・許認可・契約・債務の扱いがどう変わるかを比べた図解

身も蓋もない言い方になりますが、従業員を「残れ」と契約で縛ることはできません。辞める自由があるからです。

それでも、どの形で事業を渡すかによって、従業員の扱いは法律上まったく変わります。ここは渡す前に知っておいていただきたいところです。

大きく分けると、会社の株式を譲る形と、事業だけを切り出して譲る形があります。どちらを選ぶかで、人の引き継ぎ方が変わります。

どちらの形を選ぶかは、税金や手続の軽さだけで決まるものではありません。人、許認可、契約、そして簿外の債務。この四つを見てから決めるのが筋です。

株式を譲る場合

株式を譲る場合、雇い主である会社そのものは変わりません。社長が交代しても、法人としては同じ会社が続きます。

ですから、雇用契約も、勤続年数も、有給休暇も、原則としてそのまま続きます。一人ずつ同意を取り直す必要はありません。

手続としては軽い。ただし、会社の過去の債務や未払いもそのまま付いてきますので、買い手は中身をよく調べます。

従業員から見ると、ある日から社長が変わる、という形になります。説明の場をどう設けるかは、やはり別途の設計が要ります。

なお、従業員から見て雇い主が変わらないということは、就業規則や給与の体系もそのまま続くということです。承継を機にそれらを変えたいのであれば、それは承継とは別の手続として、きちんと段階を踏む必要があります。

事業だけを譲る場合

事業だけを切り出して譲る場合は、話が変わります。雇用契約は当然には移りません。

一般には、働く人それぞれの同意を得て、新しい会社との間で雇用契約を結び直す形になります。同意しない人を強制的に移すことはできません。

勤続年数の扱い、有給の引き継ぎ、退職金の計算をどうするかも、あらかじめ決めておかないと後で揉めます。ここは条件として交渉する部分です。

詳しくは 事業譲渡で従業員はどうなる?同意書・有給休暇・勤続年数と法律上のルール で整理していますので、あわせてご覧ください。

実務では、同意を得る順番とタイミングが難しいところです。全員に一斉に声をかけるのか、キーパーソンから先に話すのか。ここは案件ごとに設計します。先に相談していただければ、順番から一緒に考えられます。

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店を支えているのは、看板と人だけではない

先ほどの承継では、もう一つ検討に時間がかかったものがありました。フランチャイズの契約が絡んでいたことです。

受ける側は、契約の切り替えがどうなるのか、運営のマニュアルはどこまで拘束されるのか、ライセンスの料金はどうなるのかを、資料を読み込み、問い合わせを重ねて確かめておられます。

飲食の経験が長い方であっても、ここは軽い気持ちでは進められなかった、とおっしゃっていました。これは正しい慎重さだと思います。

店というのは、建物と人だけで成り立っているわけではありません。契約の束の上に乗っています。

契約の束を一本ずつほどいていく作業は、地味で時間がかかります。しかし、ここを飛ばして価格の話だけを先に進めると、後から条件が崩れます。

契約上の地位は、当然には動かない

一般論として、契約上の地位を別の人に移すには、相手方の承諾が要ります。勝手に替わられては相手が困るからです。

フランチャイズやライセンスの契約は、その典型です。本部は「誰が運営するか」を見て契約しています。運営者が変わるなら、本部の了解が必要になるのが通常です。

店舗の賃貸借も同じです。賃借権を他人に譲るには、一般には貸主の承諾が要ります。無断で譲ると契約を解除される理由になり得ます。

厨房設備のリース、仕入先との基本契約、各種のサブスクリプションも、ひとつずつ確認が必要です。

株式を譲る形でも、安心はできない

「株式を譲る形なら契約はそのまま残るから大丈夫」と考えたくなりますが、そうとも限りません。

契約の中に、支配株主や経営陣が変わったときは相手方に通知する、あるいは承諾を得る、場合によっては契約を解除できる、という条項が置かれていることがあります。

こうした条項を見落としたまま進めると、引き渡したあとに本部や貸主から待ったがかかることがあります。買い手が買ったつもりだったものが、手元に残らない事態です。

ですから、承継を考え始めたら、主要な契約書を一度ぜんぶ並べて読む作業をおすすめしています。飲食の場合に見るべき点は 飲食店の事業承継はどう進める?営業許可の引き継ぎ・店舗の賃貸借と造作譲渡の注意点 にもまとめています。

読む順番としては、売上に直結するもの(本部との契約、主要な取引先)、店を続けるのに不可欠なもの(賃貸借、設備のリース)、お金の流れに関わるもの(借入、保証)の順をおすすめしています。

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許認可は「店」ではなく「事業をする人」に付いている

もう一つ、飲食に限らず見落とされやすいのが許認可です。

許可というのは、建物に与えられているのではなく、事業を行う人(法人または個人)に与えられています。ここを取り違えると、引き渡しの日に店を開けられない、ということが起こり得ます。

一般論として、株式を譲る形であれば、許可を受けている法人そのものは変わりませんので、許可は続きます。

一方、事業だけを譲る形では、譲り受けた側が自分の名前で許可や届出を取り直す必要が出てくるのが通常です。

なお、相続や合併、会社分割の場面については、承継のための手続が別に用意されていることがあります。どの手続が使えるかは制度によって異なり、改正もありますので、最新の要件は必ず所管の窓口でご確認ください。

「許可は建物についている」と思い込んでおられる社長は、実際に少なくありません。店舗をそのまま引き継ぐのだから手続は要らないはずだ、という感覚です。ここは早い段階で確認しておきたいところです。

段取りの順番を間違えない

ここで実務上いちばん大事なのは、段取りの順番です。許可や届出の手続には時間がかかります。

引き渡しの日を先に決めてしまい、あとから「許可が間に合わない」と気づく。これが、現場でよく起きる失敗です。

ですから、必要な許認可を洗い出す作業は、価格の交渉と並行して進めます。遅くとも、基本的な合意ができた段階では着手しておきたいところです。

夜に酒類を提供する店では、別の届出が必要になることもあります。業態によって要件が違いますので、早めに確認してください。

保健所や警察署といった窓口に、いつ、誰が、何を出すのか。この割り振りを売り手と買い手のどちらが担うのかも、決めておくと動きが速くなります。曖昧にしておくと、お互いが相手の作業だと思って止まります。

許認可は、他の業種でも同じ構造

この「許可は人に付く」という構造は、飲食に限りません。

建設業の許可、介護事業の指定、薬局や運送の許可。熊本でご相談をお受けする業種のほとんどが、何らかの許認可を持っています。

どの業種でも、事業だけを切り出すときに許認可が一緒に動かない点は共通しています。承継の形を選ぶ段階で、許認可の扱いから逆算することも多くあります。

「どちらの形が税金で有利か」だけで形を決めてしまうと、あとで許認可のところで行き詰まります。

熊本の街なかで、店を次に渡すということ

熊本市の中心市街地には、長く続いてきた店がたくさんあります。宴会で使われ、誕生日に使われ、仕事帰りに使われてきた店です。

こうした店が閉まると、建物が空くだけではありません。そこで働いていた人の仕事と、通っていた人の居場所が同時に消えます。

だから、店を閉めるかどうかの判断は、社長個人の進退の問題にとどまりません。受けてくれる人がいるのであれば、渡すという選択肢を先に検討する価値があります。

そして実際に、受けたいと考える人はいます。食の分野で仕事をしてきた人が、街なかに自分の拠点を持ちたいと考える。そういう動きは、この街にもあります。

もっとも、街なかの店だから必ず買い手がつく、というわけでもありません。家賃の水準、建物の状態、近隣との関係。見られる点は多岐にわたります。だからこそ、こちらから出せる材料を揃えておく意味があります。

街なかの店と、郡部の店では事情が違う

同じ県内でも、街なかの店と、八代や県南の郡部にある店とでは、承継の事情がかなり違います。

街なかの店は、立地そのものに価値があります。だから、業態を変えてでも場所を引き継ぎたいという買い手が現れることがあります。

一方、郡部の店は、店主個人への信用と常連のつながりで成り立っていることが多い。その場合、引き継ぐのは場所ではなく関係です。一定期間、前の店主に残っていただく設計が効くのはこちらです。

どちらが良いという話ではありません。自分の店がどちらの性質を持っているかで、探す相手も、渡し方も変わる、ということです。

地元で進めるときの手続面

熊本市内で会社や店を次に渡す場合、登記や名義の書き換え、管轄の確認といった実務も発生します。

不動産を会社で持っている場合は、その扱いも一緒に考える必要があります。店舗が社長個人の名義になっていることも珍しくありません。

このあたりの手順は 熊本市で事業承継を進める手順は?自社株・不動産の名義変更と法務局・裁判所の管轄 に整理しています。

細かい話に見えますが、ここを後回しにすると引き渡しの日程が動きます。早めに洗い出しておくことをおすすめします。

加えて、許認可の所管や、必要な届出の窓口も地域によって分かれます。熊本市内と郡部では、動き方も所要時間も変わりますので、早めに確認してください。

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いま、何から手をつけるか

最後に、渡す側と受ける側のそれぞれで、今日から着手できることを整理します。

渡す側は、まず人を見える形にすることです。誰が、どの時間帯を、どういう雇用の形で支えているか。これを一枚にする。

次に、契約書を集めることです。賃貸借、フランチャイズやライセンス、リース、主要な取引先との契約。契約書が見当たらないものがあれば、それ自体が課題です。

そして、許認可の一覧をつくることです。何の許可をいつ取り、次の更新はいつか。所管はどこか。

この三つが揃っていれば、相手が現れたときに話が速く進みます。逆に、揃っていないと、相手の熱があるうちに資料が出せません。

受ける側が確かめておきたいこと

受ける側は、数字の分析と並行して、人のところを自分の目で見てください。資料だけでは分かりません。

可能であれば、現場に足を運ぶ。従業員への説明の場があるなら出る。先ほどの承継で受け手の方がされていたのは、まさにこれです。

そして、自分が引き継いだあとに「誰に残ってほしいのか」を具体的に考える。全員ではなく、この人、と言えるところまで絞れていると、条件の詰め方が変わります。

人の問題は、引き渡したあとに表に出てきます。前に出しておくほど、後が軽くなります。

判断を急がないために、早めに動く

承継の準備は、資料を揃えるところから始まります。そして、資料は一日では揃いません。

体調や取引先の事情で「来月には決めたい」という状況になってから動き始めると、選べる相手が限られます。急ぐほど、条件は不利になりがちです。

逆に、半年や一年の余裕があれば、人の整理も、契約の確認も、許認可の段取りも、落ち着いて進められます。

まだ決めていない段階でも構いません。「渡すとしたら、何が要るのか」を知っておくだけで、いざというときの選択肢が広がります。

相談されたからといって、必ず進めなければならないわけではありません。調べた結果「いまは渡さない」という結論でも、それは一つの判断です。材料を揃えたうえで決めることに意味があります。

会社や店を次に渡すとき、価格は確かに大事です。けれども、買い手が最後まで気にしているのは、引き継いだあとに事業が回るかどうか——つまり、人が残るかどうかです。

人を見える形にして、契約を揃えて、許認可の段取りを押さえる。地味な作業ですが、この三つができている会社は、相手が現れたときに強い。そして、まとまらなかったとしても、その整理は会社の中に残ります。

熊本市や八代をはじめ、県南・県北の会社や店の承継について、私たちは弁護士として、法律面と交渉面の両方からお手伝いしています。従業員への伝え方や、契約・許認可の確認も含めて、ご一緒に整理します。

「まだ決めていないが、何が要るのかだけ知りたい」という段階のご相談で構いません。LINEまたはメールから、お気軽にお声かけください。

※本記事の内容は一般的な説明です。制度や手続の要件は改正されることがありますので、個別の判断にあたっては最新の情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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