事業承継の種類株式とは?黄金株・無議決権株式の使い方と遺留分・名義株の注意点を熊本の弁護士が解説!

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西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

後継者には会社を任せたい。けれども、自分がすべての株式を手放してしまうのは、まだ少し不安が残る。そういう方もいらっしゃるのではないでしょうか。

一方で、お子さんが複数いらっしゃる場合、「会社を継ぐ長男に株式を集めたいが、他の子にも財産は残したい」という悩みもよく伺います。株式は会社の経営権そのものですから、相続で等分に分けてしまうと、次の代で意思決定が止まってしまうことがあります。

こうした場面で検討されるのが、会社法が認めている「種類株式」です。議決権のない株式、特定の決議に拒否権を持つ株式(いわゆる黄金株)などを設計することで、財産としての株式と、経営権としての株式を切り分けることができます。

そこで本記事では、事業承継で使われる種類株式の種類と仕組み、黄金株・無議決権株式の具体的な使い方、発行までの手続きと費用、そして遺留分や名義株との関係について解説していきます。熊本市・八代市の同族会社でご相談を受ける際に実際に論点となる点を中心にまとめました。

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事業承継の種類株式とは?普通株式との違いと9つの類型

種類株式で株式を経営権と財産に切り分ける仕組みの図解

種類株式とは、権利の内容が異なる2種類以上の株式を発行したときの、それぞれの株式のことです。会社法108条1項が、権利の内容を変えられる事項を9つ挙げています。

ふだん「株式」と呼んでいるものは、配当を受け取る権利と、株主総会で議決権を行使する権利が、1株ごとに同じだけ付いている普通株式です。種類株式は、この権利の束を組み替えて、「配当は多めに受け取れるが議決権はない株式」「議決権は1株だけでも特定の決議を止められる株式」といった設計をするものです。

普通株式を後継者に6割、他のお子さんに2割ずつ分けても、定款変更や組織再編には3分の2以上の賛成が必要となるのが原則ですから、残りの4割が反対にまわれば会社は動けなくなります。種類株式を使えば、財産の価値は等分に近づけながら議決権は後継者に集中させる、という設計が可能になります。

会社法が定める9つの類型

会社法108条1項は、次の9つの事項について、普通株式と異なる定めを置けるとしています。中小企業の事業承継で実際に使われるのは、このうち議決権制限・拒否権付・譲渡制限・取得条項付のあたりが中心です。

なお、取締役・監査役の選解任権付種類株式は、非公開会社(全株式に譲渡制限が付いている会社)でなければ発行できないとされています。熊本の同族会社はほぼ非公開会社ですので、この類型も選択肢に入ってきます。

類型内容の概要事業承継での使いどころ
剰余金の配当配当を優先して受ける/劣後する後継者以外の相続人に配当で報いる
残余財産の分配解散時の分配を優先・劣後させる配当優先株式とセットで設計する
議決権制限議決権を一部または全部なくす株式を分けても経営権を分散させない
譲渡制限譲渡に会社の承認を要する株式が社外へ流出するのを防ぐ
取得請求権付株主から会社に買取りを請求できる少数株主に出口を用意する
取得条項付一定の事由で会社が強制的に取得できる相続・退職を機に株式を回収する
全部取得条項付株主総会決議で全部を取得できる分散株式の整理(スクイーズアウト)
拒否権付種類株主総会の決議も必要とするいわゆる黄金株。先代が歯止めを残す
取締役・監査役の選解任権付その種類の株主が役員を選べる非公開会社限定。共同経営の枠組みづくり

熊本の同族会社で種類株式が検討される場面

当事務所でご相談をお受けするなかで種類株式の話が出るのは、おおむね次のような場面です。ひとつは、創業社長が70代に入り、息子さんに代表を譲る段になって「まだ自分の目は残しておきたい」と希望されるケースです。

もうひとつは、きょうだいのうち一人だけが会社に入っており、他の方は県外にお住まいで会社の事情をご存じないケースです。熊本市や八代市の製造業・建設業では、先代名義の不動産を会社が使っているなど、会社と家の財産が混ざっていることも多く、株式だけを等分しても問題が解けないことがあります。

ただ、種類株式は万能な道具ではありません。後述するとおり、使わないほうがよい場面もあります。まずは何を守りたいのかを整理してから、手段を選ぶ順番が大切です。

黄金株(拒否権付種類株式)で先代が最後の歯止めを残す

拒否権付種類株式は、一定の事項について、株主総会の決議に加えて、その種類の株主だけで開く種類株主総会の決議も必要とする株式です。たった1株でも、会社の重要な決定を止められることになるため、実務では「黄金株」と呼ばれています。

事業承継では、普通株式のほとんどを後継者に贈与・譲渡したうえで、黄金株1株だけを先代が持ち続ける、という使い方が代表的です。経営そのものは後継者に任せつつ、会社を売る・解散する・多額の借入をするといった場面では先代の同意が要る形にしておく、という発想です。

どの決議に拒否権を付けるかは定款で決める

拒否権の対象は、定款で具体的に書いておく必要があります。すべての決議を対象にすると後継者が何もできなくなりますので、実際には対象を絞るのが通例です。

よく挙げられるのは、合併・会社分割・株式譲渡などの組織再編、定款変更、取締役の選任・解任、一定額を超える借入や資産の処分、解散などです。どこまで絞るかは、先代が本当に心配しているのは何かという点から逆算して決めることになります。

  • 合併・会社分割・事業譲渡など、会社の形を変える決議
  • 定款の変更(種類株式の内容そのものを変えられてしまうため)
  • 取締役の選任・解任(後継者が一族を外す場面への備え)
  • 一定金額を超える借入れ・担保提供・重要な資産の処分
  • 解散および残余財産の分配

黄金株が相続されたときの危険

黄金株でもっとも注意が必要なのは、先代が亡くなったときです。黄金株も相続財産ですから、何も手を打っていなければ、相続人に承継されます。会社の事情をご存じない方や、後継者と折り合いの悪い方の手に渡ると、1株で会社の重要決議が止まるという事態になりかねません。

そのため実務では、黄金株に取得条項を付けておき、先代の死亡や一定の年齢到達を事由として会社が取得できるようにしておくのが一般的です。あわせて、定款に相続人等に対する売渡請求の規定を置いておく方法も併用されます。

黄金株を発行する場合は、「どうやって役目を終わらせるか」まで同時に設計しておくこと。これが実務上の勘所になります。

黄金株が向かない場合もある

将来的に第三者への譲渡(M&A)も視野に入れている会社では、黄金株はかえって足かせになります。買い手は、1株で重要決議を止められる株式が残っていることを嫌いますので、譲渡の前に消す作業が必要になります。黄金株は「身内で承継し、先代がしばらく目を配る」局面に向いた道具だとお考えください。

別記事では「事業承継で親子が対立する理由と、株式や役職をめぐる法律上の注意点」、「事業承継の株式譲渡の方法とメリット・手続きの流れ」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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無議決権株式(議決権制限株式)で株式を分けつつ経営権を守る

無議決権株式で株式を分けつつ経営権を守るイメージ画像

議決権制限株式は、株主総会での議決権の全部または一部をなくした株式です。議決権をまったく付けないものを、実務では無議決権株式と呼んでいます。

相続で株式を分けざるを得ないとき、もっとも使われているのがこの類型です。後継者には議決権のある普通株式を、他の相続人には無議決権株式を渡すことで、財産としての取り分は確保しながら、議決権は後継者に集めることができます。

配当優先無議決権株式という組み合わせ

議決権をなくすだけでは、受け取る側に納得していただきにくいのが実情です。そこで、議決権をなくす代わりに配当を優先して受けられる設計を組み合わせるのが通例です。これを配当優先無議決権株式と呼びます。

「経営には口を出さないが、利益が出れば先に配当を受け取れる」という形にすることで、会社に入っていないご家族にも説明がしやすくなります。ただし、配当を出せるのは分配可能額の範囲内ですから、赤字が続けば配当は出ません。優先配当を約束したつもりでも実際には支払われない、という不満が後から出ることがある点は、設計の段階でご家族に説明しておくべきところです。

発行できる上限は会社の種類で変わる

議決権制限株式には、発行できる数に上限があります。公開会社では、議決権制限株式が発行済株式の総数の2分の1を超えた場合、直ちに2分の1以下にするための措置をとらなければならないとされています。

一方、全株式に譲渡制限が付いている非公開会社には、この上限の適用はないと解されています。熊本の同族会社はほとんどが非公開会社ですので、議決権のある株式を1割、無議決権株式を9割といった設計も、制度上は可能です。

もっとも、制度上できることと、実際にやってよいことは別です。極端に議決権を絞ると、後に少数株主から不公平だという主張を受ける余地が生まれます。設計の合理性を説明できるかどうかが、実務では問われます。

無議決権株式でも株主の権利は残る

無議決権株式を渡せば、その後は何も言われないというわけではありません。議決権がなくても、株主としての権利の多くは残ります。たとえば、計算書類の閲覧を求める権利、剰余金の配当を受ける権利、会社の行為について差止めや無効を求める訴えを起こす権利などです。

また、議決権制限株式を含む種類株式を発行している会社では、ある決議によって特定の種類の株主が損害を受けるおそれがあるときに、その種類株主総会の決議が必要となる場合があります。議決権をなくしたはずの株主の同意が必要になる、という場面が起こり得るわけです。

「無議決権株式にしたから経営は自由にできる」と考えてしまうと、後で手続きの不備を指摘されることがあります。具体的な場面ごとに確認しておくことをおすすめします。

種類株式を発行するまでの手続きと費用の目安

種類株式を使うには、定款に、発行する各種類の株式の内容と発行可能種類株式総数を定める必要があります。つまり、定款変更が出発点になります。

ここは手続きの順番を間違えると後から覆されやすいところですので、流れを押さえておきましょう。

新しく発行するのか、既存の株式を変えるのか

実務では2つの道があります。ひとつは、定款を変更して新しい種類の株式を定め、それを新たに発行する方法です。もうひとつは、すでに発行されている普通株式の内容を変更して、種類株式にする方法です。

後者のほうが新たな払込みが要らないため使いやすいのですが、株主の権利を一方的に削ることになります。そのため、内容を変更される株式を持つ株主全員の同意を得ておくのが原則的な取扱いだと考えられています。

きょうだい間で話がまとまっていない段階で、先に手続きを進めてしまうと、後から決議の効力を争われることがあります。合意の形成と手続きは、必ずセットで進めてください。

株主総会の特別決議と種類株主総会

定款変更は、株主総会の特別決議によります。議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となるのが原則です。

さらに、すでに種類株式を発行している会社では、その定款変更によって、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるときには、その種類株主総会の決議も必要になります。株主総会だけ開いて登記に進んでしまい、後で手続きの不備が判明する例がありますので、どの決議が必要かは事前に確認が必要です。

議事録も重要です。誰が出席し、どの議決権がどう行使されたかが残っていないと、後の紛争やM&Aの調査の場面で説明ができなくなります。

熊本地方法務局での登記と費用

発行可能種類株式総数と各種類の株式の内容は登記事項ですので、定款変更後は登記申請が必要です。熊本県内の会社の商業・法人登記は、熊本地方法務局(熊本市中央区)で取り扱われています。八代市や人吉市の会社であっても、商業・法人登記の窓口は本局になるとお考えください。

費用は、登記事項の変更にかかる登録免許税が3万円となるのが通例です。新たに株式を発行して資本金が増える場合は、増加した資本金の額に応じた登録免許税(最低3万円)が別にかかります。

これに加えて、定款変更の設計や議事録の作成を専門家に依頼する費用、株価の評価を税理士に依頼する費用がかかります。会社の規模や株主の人数によって幅が大きいため、具体的な金額は個別にお見積りすることになります。

段階必要な手続き費用・期間の目安
1. 設計何を守るかの整理、株主構成と定款の確認株主名簿・定款・決算書の点検から着手
2. 合意形成後継者・他の相続人への説明と同意数か月かかることも珍しくない
3. 定款変更株主総会の特別決議(必要なら種類株主総会)招集手続に原則1週間以上を確保
4. 登記発行可能種類株式総数・株式の内容の変更登記登録免許税3万円が通例
5. 発行・移転募集株式の発行、または贈与・譲渡と名簿の書換え株価評価と税務の検討が別途必要

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遺留分との関係——種類株式だけでは争いは止まらない

種類株式を使って議決権を後継者に集めても、相続のときの争いが自動的になくなるわけではありません。ここを誤解されたままご相談に来られる方が多いので、はっきりお伝えしておきます。

兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められており、遺留分を侵害された相続人は、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できるのが現行の制度です。

無議決権株式も遺留分の計算には入る

無議決権株式には議決権がありませんが、財産としての価値はあります。したがって、遺留分を計算するうえでは財産として評価されることになります。

問題は、その評価額です。非上場株式は、議決権がないことが価値にどう反映されるのか、評価の方法によって結論が変わり得ます。後継者に渡した議決権のある株式の評価が高く算定されると、他の相続人の遺留分侵害額が大きくなり、後継者が多額の金銭を支払わなければならない事態になりかねません。

会社の株式の大半を後継者に集める設計をするなら、後継者が支払う原資をどこから出すのか(生命保険、会社からの退職金、分割払いの合意など)まで、あわせて考えておく必要があります。

経営承継円滑化法の除外合意・固定合意を併用する

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)には、遺留分に関する民法の特例が用意されています。後継者が先代から取得した自社株式について、遺留分の計算から除く合意(除外合意)や、評価額を合意時の価額に固定する合意(固定合意)をすることができる制度です。

ただし、使うためのハードルは低くありません。後継者と推定相続人全員の書面による合意が必要で、そのうえで経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得る必要があるとされています。全員の合意が前提ですから、きょうだい間の関係が良好なうちに動くことが実質的な条件になります。

要件や手続きは法令の改正で変わり得ますので、検討される際は最新の情報をご確認ください。

遺言書との組み合わせが現実的な解になることも

種類株式の設計は手続きに時間と費用がかかります。ご相談の内容によっては、まず遺言書を作って株式の帰属をはっきりさせ、遺留分に配慮した財産配分を定めるほうが、早く確実に効く場合があります。

実際、「種類株式を使いたい」とお越しになった方に、株主構成を確認したうえで、遺言書と生前贈与の組み合わせをご提案することもあります。手段から入らず、目的から入る。これが遠回りに見えて最短の道になります。

別記事では「事業承継に遺言書は必要?自社株・遺留分の注意点と作成ステップ」、「事業承継と相続の違い——自社株の分散リスクと手続きの比較」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

名義株と分散株式——種類株式より先に片付けること

名義株と分散株式の整理のイメージ画像

種類株式の設計に入る前に、必ず確認していただきたいことがあります。それは、いまの株主名簿が本当に正しいのか、という点です。

ここが崩れていると、せっかく定款を変更して種類株式を発行しても、そもそもの株主総会の決議が有効だったのかという疑いが残ってしまいます。

昭和に設立した会社に多い名義株

名義株とは、株主名簿に載っている名義人と、実際に出資をした人が違う株式のことです。かつて株式会社の設立に複数の発起人が必要だった時代、親族や従業員、取引先の方に名前だけを借りて設立した会社が少なくありません。

熊本市や八代市でお話を伺うと、昭和40年代から50年代に設立された会社で、「株主名簿には叔父や当時の従業員の名前が並んでいるが、お金は全部父が出した」という例によく出会います。当時は問題になりませんでしたが、名義人の方が亡くなり、その相続人が株主として権利を主張してくると、一気に難しい話になります。

判例の考え方としては、実際に出資をした人を株主とみる立場が示されていますが、何十年も前のお金の流れを証明するのは容易ではありません。名義人のご本人が健在なうちに整理しておくことが、何よりの備えになります。

名義株の整理の進め方

整理の進め方は、証拠がどれだけ残っているかによって変わります。払込みの記録や、名義を貸しただけだという当時の了解を裏づける資料があれば、名義人の方から確認書をいただいて株主名簿を直す方法が考えられます。

資料が乏しい場合は、名義人の方から実際に株式を買い取る(譲渡を受ける)形で処理することもあります。この場合は譲渡の対価と税務の検討が必要になりますので、税理士と連携して進めることになります。

いずれの方法でも、名義人の方やそのご家族への説明の仕方が結果を左右します。長年の経緯があるご関係ですので、法的な主張を先に立てず、事情を説明して協力をお願いする順番をとることが多いです。

  • 設立時の払込みに関する資料(通帳、払込金保管証明、当時の帳簿)を探す
  • 名義人またはその相続人の現在の住所・連絡先を確認する
  • 名義を貸しただけであることの確認書をいただく
  • 資料が足りないときは、対価を払って株式を譲り受ける形を検討する
  • 株主名簿を書き換え、以後の総会招集の手続きを正しく行う

相続人等に対する売渡請求を定款に入れておく

会社法は、譲渡制限株式について、相続その他の一般承継で株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すよう請求できる旨を定款で定めることを認めています。株主が亡くなり、会社と関わりのない相続人に株式が渡ってしまう事態への備えになります。

ただし、請求には期間の制限があり、相続があったことを知った時から1年以内に行う必要があるとされています。また、会社が自己株式を取得することになるため、分配可能額の範囲でなければならないという財源の制約もあります。

さらに注意が必要なのは、この規定は相手を選べないという点です。先代が亡くなり後継者が株式を相続した場面でも、形式的には請求の対象になり得ます。他の株主が主導して後継者の株式を会社に売り渡させる、という使われ方もあり得ますので、定款に入れる際は会社の株主構成を踏まえて検討してください。

すでに分散してしまった株式を集める方法

株式がすでに何人にも分散している場合、まずは任意の交渉で買い取ることから検討します。価格の折り合いがつけば、これがもっとも穏やかな方法です。

交渉がまとまらない場合の手段として、会社法は、議決権の9割以上を持つ株主が他の株主の株式を強制的に取得できる制度(特別支配株主の株式等売渡請求)や、全部取得条項付種類株式を使う方法、株式併合による方法などを用意しています。種類株式がここで登場するのは、この整理の局面です。

もっとも、これらの手段は少数株主の権利を奪うものですから、価格の決定を裁判所に申し立てられる場合があり、紛争に発展することもあります。使える制度があるからといって安易に進めるのではなく、交渉による解決の余地を先に探るのが実務の順序です。

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種類株式のデメリットと、使わないほうがよいケース

ここまで使い方を見てきましたが、種類株式には相応のデメリットもあります。ご相談の現場では、「種類株式は使わないほうがよい」とお伝えすることも少なくありません。

判断の材料として、主なデメリットを挙げておきます。

株価の評価と税務の扱いに不確実さが残る

非上場の種類株式をいくらと評価するかは、実務上の難問です。配当優先無議決権株式などについては、財産評価の取扱いに関する国税庁の公表資料が参考になりますが、設計が複雑になるほど、評価の方法について見解が分かれる余地が出てきます。

ここで誤解が多いのが、拒否権付種類株式(黄金株)の評価です。「1株だけだから価値はほとんどない」とお考えの方がいらっしゃいますが、拒否権が付いていることを理由に評価を下げる取扱いは示されておらず、普通株式と同様に評価されるのが原則だと考えられています。経営を止める力があることと、税務上の財産価値は別の話だという点に注意が必要です。

評価額が後から争われると、贈与税や相続税の課税額が変わってしまいます。種類株式を使う設計では、必ず税理士に評価の見通しを確認し、その内容を記録に残しておくことをおすすめします。税務の取扱いは改正されることがありますので、最新の通達や公表資料をご確認ください。

第三者への譲渡(M&A)の局面で足かせになる

後継者が見つからず、最終的に第三者への譲渡を選ぶ会社も増えています。熊本県内でも、親族内に後継者がいないまま相談に来られるケースが大半を占めるようになりました。

そのとき、黄金株や無議決権株式が残っていると、買い手は全株式を円滑に取得できるのかを慎重に確認します。整理のために時間と費用がかかり、価格の交渉でも不利に働くことがあります。

将来の選択肢として第三者承継を残しておきたい会社では、種類株式はできるだけ使わず、譲渡制限と株主名簿の整備で足りるかを先に検討したほうが無理がありません。

事業承継税制(納税猶予)との相性を先に確認する

事業承継税制は、後継者が自社株式を贈与・相続で取得したときの贈与税・相続税の納付を猶予する制度です。熊本県内でも、特例措置を使うために計画を提出された会社が相当数あります。

注意すべきなのは、この制度が議決権のある株式を前提に組まれている点です。議決権に制限のある株式は猶予の対象にならないと整理されており、無議決権株式を増やす設計が、結果として税制の適用範囲を狭めてしまうことがあります。

また、特例措置には計画の提出期限や適用期限が設けられており、改正によって動いてきた経緯があります。税制を併用する前提で種類株式を検討されるのであれば、設計に入る前に、適用の可否と期限を税理士にご確認ください。順番を逆にすると、やり直しの費用が発生します。

定款が複雑になり、次の代に引き継げなくなる

もっとも現実的なデメリットは、これかもしれません。精緻に設計された種類株式は、設計した当事者がいなくなると、なぜそうなっているのかを誰も説明できなくなります。

20年後、三代目が会社を動かそうとしたときに、定款に書かれた拒否権の意味が分からず手が止まる。こうした事態を避けるには、設計の趣旨を文書で残し、取得条項などの出口をあらかじめ定款に入れておくことが欠かせません。

複雑な仕組みは、作るときより畳むときに難しくなります。この視点を忘れないでいただきたいところです。

  • 評価額が後から争われ、課税額が変わる可能性がある
  • 第三者への譲渡(M&A)の際に整理の手間と費用がかかる
  • 定款が複雑化し、次の代で趣旨が分からなくなる
  • 設計・登記・評価にそれぞれ専門家の費用がかかる
  • 株主間の合意形成に時間がかかり、途中で頓挫することがある

別記事では「事業承継は他人にもできる?株式の引き継ぎ手続きと継ぐ側の注意点」、「事業承継の株価対策——自社株評価3方式と退職金・遺留分の注意点」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

種類株式の代わりになる選択肢——属人的株式・信託・持株会

種類株式は登記が必要で、設計にも費用がかかります。実は、同じ目的を別の方法で達成できることがあり、そちらのほうが身の丈に合う会社も少なくありません。

ご相談の場では、次の3つと比べてから決めていただくようにしています。

属人的株式なら登記は要らない

非公開会社では、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権について、株主ごとに異なる取扱いを定款で定めることが認められています。これを実務では属人的株式または属人的定めと呼びます。

種類株式が「株式」に権利を結びつけるのに対し、属人的株式は「人」に結びつけます。たとえば「先代が保有する株式は1株につき100個の議決権を有する」と定めれば、持株比率を下げても議決権は維持できます。先代が亡くなって相続されれば、その人に結びついた定めは働かなくなるのが原則ですから、黄金株のような出口の問題が起きにくいという利点もあります。

そして、属人的定めは登記事項ではないとされているため、登記をしなくて済みます。ただし、定めを設けるには総株主の半数以上であって総株主の議決権の4分の3以上という、特別決議よりも重い多数が必要です。また、持株比率と議決権が極端に乖離する定めは、裁判例で効力が否定された例もあり、無制限に使えるわけではありません。

種類株式属人的株式民事信託
結びつく対象株式そのもの特定の株主(人)受託者に移した財産
必要な決議特別決議(3分の2以上)半数以上かつ議決権4分の3以上決議は不要(契約または遺言)
登記必要(登録免許税3万円が通例)不要とされている株主名簿の書換えが必要
相続後の効力株式に付いたまま承継される原則として働かなくなる契約で定めた順序で続く
向いている場面株式を分けつつ議決権を集める先代が議決権だけ残す判断能力の低下に備える

民事信託で議決権と配当を分ける

自社株式を信託し、議決権の行使については後継者を指図権者とし、配当を受ける権利はご本人や他のご家族に残す、という設計も可能です。先代の判断能力が落ちたときに株主総会が開けなくなる事態への備えとして検討されます。

受益者が亡くなった後の次の受益者まで決めておける仕組みもあり、二代先までの承継を一度に設計できる点が種類株式との違いです。一方で、受託者を誰にするか、信託の報酬や期間をどうするかといった検討事項が増え、税務の取扱いも複雑になります。

家族の関係や会社の規模によって向き不向きが大きい手段です。「信託にすれば解決する」という性質のものではありませんので、他の方法と並べて比べていただくのが安全です。

従業員に株式を持たせる場合の注意

従業員持株会をつくる場合は、配当優先無議決権株式を使うのが通例です。議決権は会社に残しつつ業績が上がれば配当で報いる形にし、退職時に会社が買い戻せるよう取得条項を組み合わせます。

ただし、退職や相続のたびに株式が社外へ出ていく可能性が生まれます。熊本の中小企業では、株式ではなく賞与や退職金の制度で報いるほうが管理の手間を考えると現実的だという結論になることも多いです。

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熊本・八代で種類株式を検討するときの進め方と相談先

最後に、熊本県内で実際に検討を進める場合の段取りをまとめます。

複数の専門家が関わる話ですので、誰に何を頼むのかを整理しておくと、無駄な行き違いが減ります。

公的な相談窓口から入る方法

熊本県には、国の施策として設けられた事業承継・引継ぎ支援センターがあり、熊本商工会議所内に置かれています。親族内承継のご相談も、第三者承継のご相談も、無料で受け付けられています。

また、商工会議所・商工会、取引のある金融機関、よろず支援拠点なども入口になります。まず全体像を整理したい段階であれば、こうした公的な窓口から入るのは合理的です。

ただし、種類株式の設計のように、定款の条項をどう書くか、株主間でどう合意するかという段階に入ると、法律の専門家が設計に加わる必要が出てきます。

弁護士・税理士・司法書士の役割分担

大まかには、株主間の合意と定款の設計、紛争になりそうな論点の整理が弁護士の領域です。株価の評価と税負担の試算は税理士、登記の申請は司法書士が担います。

種類株式は、この三者の判断が絡み合う分野です。税務だけで設計すると会社法上の手続きに穴が残り、会社法だけで設計すると思わぬ課税が生じます。誰か一人に丸投げせず、方針を共有しながら進めることが結果的に早道です。

当事務所では、弁護士と司法書士の業務を一つの窓口でお受けできる体制をとっています。税務については、連携している税理士とともに検討を進めています。

相談の前に用意しておくと話が早い資料

ご相談にあたって、次の資料をお持ちいただけると、その日のうちに具体的な見通しをお示しできることが多くなります。すべてそろっていなくても構いません。

特に、株主名簿と現在の定款は欠かせません。この2つを突き合わせた段階で、名義株の疑いや、譲渡制限の有無、種類株式を使えるかどうかの見当がつきます。

  • 現在の定款(登記事項証明書に添付の定款ではなく、会社保管の原本)
  • 株主名簿、または株主の氏名・持株数が分かるもの
  • 直近3期分の決算書・税務申告書
  • 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
  • 株主の家族関係が分かるもの(相続人の見当をつけるため)
  • 過去の株式の贈与・譲渡に関する契約書や贈与税の申告書

種類株式は、「財産としての株式」と「経営権としての株式」を切り分けるための会社法上の道具です。黄金株で先代が最後の歯止めを残す、無議決権株式で株式を分けながら議決権を後継者に集める、といった設計が可能になります。

一方で、株価評価や税務の不確実さ、第三者承継のときの足かせ、定款が複雑になり次の代に引き継げなくなるといったデメリットもあります。そして何より、名義株や分散株式の整理という土台の作業を飛ばして設計に入っても、後から決議の有効性を疑われてしまいます。

手段から入らず、何を守りたいのかという目的から入る。株主名簿と定款を突き合わせ、ご家族の関係とあわせて見る。熊本市・八代市の同族会社では、この順番を守るだけで解決の見通しが立つことも少なくありません。

当事務所では、熊本市・八代市を中心に事業承継のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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