製造業の事業承継はどう進める?熊本の下請け工場を引き継ぐ手順と取引先の同意・設備リースの注意点を弁護士が解説!

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西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

「工場と機械は残っているのに、継ぐ人がいない」。熊本県内の製造業の社長から、そんなお話をお聞きすることがあります。設備も技術者もそろっているのに、承継の話だけが前に進まない——そういう方もいらっしゃるのではないでしょうか。

菊陽町への半導体工場の進出以降、県内の金属加工・電子部品・自動車部品の下請け工場には引き合いが増えました。ただ、受注が伸びているぶん「今は忙しいから承継の話は後にしよう」となり、かえって準備が止まってしまう。熊本市や八代市でお受けするご相談にも、その傾向があります。

製造業の事業承継は、飲食店や小売業と比べて動かすものが多いのが特徴です。工場の土地建物、設備のリースや割賦、取引先との基本契約、公害関係の届出、そして熟練工の技能。どれか一つを見落とすと、株式を渡したあとで「主要な取引が切れた」「設備の名義が変わっていなかった」という事態になりかねません。

そこで本記事では、製造業の事業承継をどう進めるかを、承継の形の選び方から取引先との契約、工場と設備、許認可、従業員、借入金と経営者保証の整理まで、熊本の中小製造業の現場でつまずきやすい点に沿って弁護士が解説していきます。

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製造業の事業承継が「他の業種より難しい」といわれる理由

製造業の事業承継で先に棚卸しする3つ(取引先との契約・工場と設備の名義・許認可と人)を示した図解

製造業の承継が難しいといわれるのは、経営者の能力の問題ではなく、会社が抱えている資産と契約の構造によるものです。まず、どこに難しさがあるのかを整理しておくと、後の手順が理解しやすくなります。

資産が工場と機械に偏り、自社株の評価額が上がりやすい

製造業の貸借対照表は、土地建物と機械装置で資産の大半を占めることが珍しくありません。長年かけて設備を入れ、借入を返し終えた会社は、帳簿上の純資産が厚くなっています。

非上場株式の評価は、会社の規模や業種に応じて純資産価額方式や類似業種比準方式などを組み合わせて行うのが原則です。純資産が厚い会社では、株価が社長の想定より高く出て、贈与税や相続税の負担が重くなることがあります。

一方で、その工場が老朽化していて、買い手から見れば建て替え費用がかかる——という場合もあります。税務上の評価額と、第三者が実際に支払う金額は別物だという前提で、早めに両方の数字を見ておくことをおすすめしています。

取引先との基本契約に、承継をまたぐ壁がある

製造業の価値の多くは、継続している受注にあります。ところが、取引先との基本契約書には、株主や代表者が変わったときに相手方が契約を解除できる条項が入っていることがあります。いわゆるチェンジオブコントロール条項です。

また、条項がなくても、承継を機に相手方が品質監査をやり直したり、単価の再見積りを求めてきたりすることがあります。「株式を渡せば取引はそのまま続く」とは限らない、というのが実務の感覚です。

だからこそ、製造業の承継では契約書の点検を最初に行います。どの取引先に、いつ、誰から伝えるかという順番まで決めておくことが、受注を守るうえで効いてきます。

熊本では受注の増加が、かえって準備を遅らせている

熊本県は自動車部品、半導体関連の装置部品、食品機械、農業機械など、中小の加工業者が層をなしている地域です。菊陽町周辺の投資の影響もあり、ここ数年は設備投資と採用の相談が増えました。

ただ、忙しい時期は社長が現場に出ているため、承継の準備に手が回りません。結果として、社長が体調を崩した時点で初めて相談に来られる、という流れになりがちです。

受注が伸びている時期は、実は承継にとって最も有利なタイミングです。業績が良いうちに後継者を決めておけば、親族内でも第三者でも、選べる手段が広がります。許認可を引き継ぐ業種という点では建設業の承継と共通する論点も多いため、あわせてご確認ください。

別記事では「建設業での事業承継の注意点は?許可の引き継ぎと認可手続き」、「事業承継の企業価値とは?算出方法・価格の目安」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

承継の形を決める|親族内・従業員・第三者(M&A)の3つ

製造業でも、承継の選択肢は大きく3つです。どれが正しいということはなく、後継者の有無、借入と保証の状況、技術者の年齢構成によって向き不向きが変わります。

承継の形製造業で向いている場面主な課題
親族内承継子や親族が現場を分かっており、主要取引先との関係もある自社株の評価額と納税資金、工場不動産の分け方、他の相続人の遺留分
従業員への承継(EBO)工場長や製造部長が技術と取引先を把握している株式を買い取る資金、社長個人の経営者保証の引き継ぎ
第三者承継(M&A)後継者がおらず、設備と技術者を残したい相手探しと情報管理、取引先の同意、価格の折り合い

親族内承継は、自社株と工場不動産の分け方が要点になる

親族内で承継する場合、株式を後継者に集めることが第一の課題です。株式が兄弟に分散すると、後継者が重要な決議を単独で通せなくなり、設備投資の判断が止まります。

製造業で特に問題になるのが、工場の土地建物が社長個人の名義になっているケースです。株式は後継者に、不動産は会社を継がない子に——という分け方をすると、後継者は工場を借りて事業を続けることになり、将来の立退きや賃料の交渉が残ってしまいます。

対策としては、生前の贈与や遺言で株式と事業用不動産を一体で後継者に渡し、他の相続人には別の資産や代償金で調整する方法が考えられます。遺留分への配慮が必要になるため、具体的な配分は個別の事情により異なります。

従業員への承継は、資金と経営者保証が壁になる

工場長や製造部長が後を継ぐ形は、技術と取引先の引き継ぎという点では最も確実です。熊本でも、親族に後継者がいない加工業で実際に選ばれている形です。

ネックになるのは資金です。従業員個人に株式を買い取る原資がない場合、金融機関からの借入や、持株会社を使う方法、段階的に株式を移す方法などを組み合わせることになります。事業承継を目的とした融資制度や保証制度の活用も検討対象になります。

もう一つは、社長個人が負っている経営者保証です。会社の借入をそのまま引き継ぐ場合、後継者が新たに保証を求められることがあります。保証を外せるかどうかは、承継の可否そのものを左右する論点です。

第三者承継では「設備と技術者が残るか」で評価が変わる

後継者がいない場合、第三者への譲渡が現実的な選択肢になります。製造業は、買い手から見て評価しやすい業種です。設備があり、受注があり、作れる人がいる——この3つがそろっていれば、売上規模が小さくても引き合いがあります。

逆に、評価が下がるのは、特定の熟練工1人に依存していて作業が標準化されていない場合、主要取引先が1社に偏っている場合、そして設備の多くがリース期間満了間際で入れ替えが必要な場合です。

第三者承継を考えるのであれば、作業手順の文書化と、取引先の分散、設備の更新計画の整理を先に進めておくと、提示される条件が変わってきます。価格の決まり方については、企業価値の考え方をまとめた記事もあわせてご覧ください。

別記事では「事業承継とM&Aの違いとは?選び方やメリット・デメリット」、「事業承継の株式譲渡の方法は?手続きと税金の特例制度」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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取引先との契約を点検する|チェンジオブコントロール条項と再見積り

製造業の承継で、法律面から見て最初に手を付けるべきなのが契約書の点検です。ここを後回しにすると、承継の実行日を決められません。

株主や代表者が変わると解除できる条項(COC条項)を探す

取引基本契約書や品質保証協定書に、「支配権に変動が生じたときは相手方は本契約を解除できる」「あらかじめ書面による承諾を得なければならない」といった条項が入っていることがあります。大手メーカーや上場企業が相手方の場合に見られる条項です。

この条項がある場合、株式譲渡の前に相手方の承諾を得る段取りが必要になります。承諾を取る時期を間違えると、まだ決まっていない話が社内や同業者に伝わり、技術者の離職につながることもあります。

そのため、まず全取引先の契約書を集めて一覧にし、承諾が必要な先、通知だけで足りる先、何も規定がない先に分けます。そのうえで、伝える順番と時期を決めるのが実務的な進め方です。

図面・金型・治具の所有権と、貸与の区分をはっきりさせる

下請け加工の現場では、取引先から支給された図面、金型、治具、検査器具が工場に置かれていることがよくあります。これらの所有権が取引先にあるのか自社にあるのかは、契約書や貸与品の台帳で確認する必要があります。

所有権が取引先にある貸与品は、会社の資産ではありません。株式譲渡であれば会社がそのまま使い続けられますが、事業譲渡の形をとる場合は、貸与の相手が変わるため改めて取引先の同意が必要になるのが原則です。

金型の保管費用や廃棄の取り扱いについて取り決めがない場合、承継を機に整理しておくと、後の負担をめぐる争いを避けられます。

製造委託の取引ルールと、支払条件の引き継ぎ

自社がさらに外注先へ加工を出している場合、下請取引に関する法令の適用を受けることがあります。製造委託等の取引の適正化に関する法令は近年見直しが行われており、支払期日や手形による支払いの取り扱いなどが変わっています。最新の内容は、公正取引委員会や中小企業庁の公表資料をご確認ください。

承継の前後では、発注書の名義、支払条件、検査の基準といった運用が引き継がれているかを点検します。社長の頭の中にしかない取り決めは、承継後にトラブルの種になりやすい部分です。

外注先との関係も、受注先と同じく会社の価値の一部です。誰がどの工程を担っているかを書面で整理しておくことをおすすめします。

工場の土地建物と設備を、どう引き継ぐか

工場の土地建物と設備の引き継ぎのイメージ画像

製造業の承継で金額が大きく動くのは、やはり工場と設備です。名義と契約の形を一つずつ確かめていきます。

工場が社長個人の名義なら、賃貸借か売買かを先に決める

中小の製造業では、創業者が個人で土地を買い、建物を建てて会社に使わせている形がよく見られます。この場合、会社と社長個人の間の契約が口約束のままになっていることがあります。

承継にあたっては、会社が引き続き借りるのか、会社が買い取るのか、後継者個人が相続するのかを決め、書面にします。賃貸借で続けるのであれば、賃料、期間、更新、修繕の負担、増改築の可否までを定めておくべきです。

第三者へ譲渡する場合、買い手は工場を長期に使える保証を求めます。社長個人の名義のままだと、譲渡後に賃料の引き上げや明渡しを求められるリスクが残るため、価格や条件に影響することがあります。

設備のリース・割賦は、承継に相手方の同意が必要になることがある

工作機械、成形機、フォークリフト、太陽光設備などをリースや割賦で導入している場合、契約書に支配権の変動や代表者変更に関する条項が入っていることがあります。株式譲渡でも事前の通知や承諾を求められるのが通常です。

事業譲渡の形をとる場合、リース契約は自動では移りません。契約の地位を移すには、リース会社の承諾を得る必要があるのが原則で、承諾の条件として新たな保証人を求められることもあります。

設備の一覧表を作り、所有・リース・割賦・貸与の区分、残存期間、残債、保証人を書き出しておくと、どこに同意が必要かがはっきりします。

土壌汚染・アスベスト・PCBは、承継後の負担として残る

メッキ、塗装、金属加工、化学系の工程がある工場では、土壌や地下水の汚染が後から問題になることがあります。一定規模以上の土地の形質変更や、有害物質を使用する特定施設の廃止の際には、土壌汚染対策法に基づく調査が必要になる場合があります。

古い工場では、建材に含まれるアスベストや、トランス・コンデンサに含まれるPCBの処理も確認しておきたい点です。これらは除去や処分に相応の費用がかかり、第三者承継では価格の調整要因になります。

これらは「知らなかった」では済まない部分です。承継の検討を始めた段階で、建物の竣工図と設備台帳を確認し、必要に応じて専門業者の調査を入れておくと、後から条件が崩れることを防げます。

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製造業で確認しておきたい許認可・届出の引き継ぎ

製造業は、建設業のように一つの大きな許可で成り立っているわけではありません。その代わり、工程ごとに届出や許可が分散しているため、見落としが起きやすい業種です。

株式譲渡の場合は会社自体が変わらないため、多くの許認可はそのまま使えるのが原則です。これに対して事業譲渡や会社分割、相続では、承継の手続きが必要になるものと、改めて取り直すものが分かれます。

対象株式譲渡のとき事業譲渡・相続などのとき
騒音・振動・水質などの特定施設の届出会社が変わらないため、原則として手続きは不要設置者が変わるため、承継や新規の届出が必要になるのが原則
危険物施設(消防法)原則として手続きは不要(代表者変更の届出は別途確認)譲渡や引渡しがあったときは、地位の承継について届出が求められる
高圧ガス・液化石油ガス関係原則として手続きは不要法令上、承継の届出や許可が定められている場合がある
産業廃棄物の処理業の許可原則として手続きは不要合併・分割・相続は承継の制度があるが、事業譲渡では改めて許可が必要となるのが原則
ISOなどの第三者認証認証機関への変更届が必要になることがある認証範囲の変更として、改めて審査が必要になることが多い
官公需の入札資格所在地や代表者の変更届が必要原則として引き継げず、改めて申請が必要になるのが一般的

公害関係の届出は、施設ごとに台帳をそろえておく

騒音規制法、振動規制法、水質汚濁防止法、大気汚染防止法には、それぞれ届出が必要な特定施設が定められています。プレス機、送風機、空気圧縮機、めっき槽、ボイラーなどが対象になることがあり、工場の歴史が長いほど届出書が散逸しがちです。

熊本県内では、市の区域にある工場は市の環境担当課、それ以外は県の出先機関が窓口になることが多く、工場の所在地によって提出先が変わります。熊本市内の工場であれば市の担当課、八代市や菊池郡の工場であればそれぞれの窓口を確認する必要があります。

承継の前に、過去の届出の控えを集めて現況と合っているかを点検しておくと、承継後の立入検査でつまずきません。

危険物・高圧ガス・産業廃棄物は、承継の制度の有無が分かれる

塗料や溶剤を扱う工場では、消防法上の危険物施設の許可を受けていることがあります。施設の譲渡や引渡しがあった場合には、地位の承継について届出が求められるのが原則です。

自社の廃棄物を自分で運ぶ範囲であれば許可は不要ですが、他社の産業廃棄物を扱う許可を持っている場合は注意が必要です。合併・分割・相続については承継の制度が設けられていますが、事業譲渡では改めて許可を取るのが原則とされています。

どの法令に基づく許可・届出をいくつ持っているかは、会社ごとに違います。承継の方法を決める前に一覧にしておくと、株式譲渡と事業譲渡のどちらが手間が少ないかという判断材料になります。

認証と入札資格は「会社の信用」として引き継ぎを設計する

ISO9001やIATF16949などの認証、取引先ごとの品質監査の合格実績は、新規受注の前提になっていることがあります。代表者や所在地、認証範囲が変わる場合は、認証機関への届出や審査が必要になることがあります。

官公庁や自治体の入札に参加している場合、全省庁統一資格や県・市の入札参加資格は、原則として会社を越えて引き継げません。事業譲渡で新しい会社に移すと、資格の取得年数や実績が振り出しに戻ることがあります。

この点は、株式譲渡を選ぶ実務上の大きな理由になります。許認可と資格をまとめて残せるかどうかで、承継の形が決まることも少なくありません。

従業員と技能を、どう引き継ぐか

従業員と技能の引き継ぎのイメージ画像

製造業の価値は、最終的には人に宿ります。設備があっても、段取りができる人がいなければ受注はこなせません。

株式譲渡なら雇用はそのまま、事業譲渡なら個別の同意が必要

株式譲渡では、会社と従業員の雇用契約はそのまま続きます。株主が変わるだけですから、就業規則も勤続年数も有給休暇も引き継がれるのが原則です。

これに対して事業譲渡では、雇用契約は自動的には移りません。従業員一人ひとりの同意を得て、新しい会社との間で雇用契約を結び直す必要があるのが原則です。勤続年数や退職金の算定をどう扱うかも、あらかじめ決めておく必要があります。

製造業では、ベテランが数人抜けただけで一つのラインが止まることがあります。どの形をとる場合でも、誰に、いつ、何を伝えるかを設計してから動くことが重要です。

熟練工の技能は、文書と立ち会いの両方で引き継ぐ

段取り替えの手順、材料ごとの切削条件、機械ごとの癖——こうした知識は、紙に残っていないことが多いものです。承継を機に、作業手順書と条件表を整備しておくと、会社の価値が目に見える形になります。

定年を迎える熟練工については、再雇用や嘱託という形で一定期間残っていただき、後継者や若手への引き継ぎに立ち会ってもらう取り決めをすることがあります。退職金の支給時期や処遇を明確にしておくことが前提です。

第三者承継の場面では、買い手が「キーパーソンが残るか」を最も気にします。残っていただく方との合意を先に取っておくことが、条件面でも効いてきます。

外国人材を受け入れている工場は、在留資格の手続きを確認する

熊本県内の製造業でも、技能実習生や特定技能の外国人材を受け入れている工場が増えています。受入れの枠組みは実習実施者や受入れ機関を単位としているため、承継の形によっては届出や計画の変更が必要になることがあります。

株式譲渡であれば会社は同じですが、代表者の変更などに伴う届出が必要になる場合があります。事業譲渡や会社分割では、受入れ機関が変わるため、監理団体や登録支援機関、関係機関への確認が欠かせません。

制度は改正が続いている分野です。実際の手続きは受入れの形態によって異なりますので、最新の取り扱いを所管の機関にご確認ください。

別記事では「事業譲渡で従業員はどうなる?同意書・有給休暇・勤続年数のルール」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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借入金と経営者保証を整理する

設備投資の借入が残っている製造業では、お金の整理が承継の成否を分けます。特に、社長個人の保証をどう扱うかは避けて通れません。

経営者保証は、社長を辞めても自動では外れない

会社の借入に社長が連帯保証をしている場合、代表者を退いただけでは保証は消えません。金融機関との間で保証契約を解除する合意をしない限り、責任は残るのが原則です。

近年は、経営者保証に依存しない融資の推進が進められており、一定の要件を満たす場合には保証を求めない、あるいは解除する取り扱いも広がっています。法人と経営者個人の資産・経理が明確に区分されているか、財務基盤が安定しているかなどが見られる点です。

承継の相談の際には、先代の保証を外すこと、後継者に新たな保証を求めないことの両方を、取引金融機関と早めに協議することをおすすめしています。

設備資金の返済が残っているときの進め方

大型の工作機械を入れた直後の承継では、返済が長期にわたって残っていることがあります。株式譲渡であれば借入はそのまま会社に残りますが、金融機関には事前に説明し、条件変更が生じないかを確認しておく必要があります。

事業譲渡の場合、借入は原則として譲渡会社に残ります。設備だけを移して借入が元の会社に残ると、返済原資がなくなるため、債務の扱いを含めた設計が不可欠です。

どの形をとるかによって、必要な資金も税金も変わります。金融機関と税務の両面から並行して検討するのが実務の流れです。

使える支援制度は、承継の前に確認しておく

事業承継やM&Aを対象とした補助金、信用保証協会の保証制度、日本政策金融公庫の事業承継にかかる融資など、承継の資金を支える制度が用意されています。要件や公募の時期は年度によって変わりますので、最新の公募要領をご確認ください。

設備の更新や新事業への投資を伴う承継であれば、ものづくり関係の補助金とあわせて検討する余地もあります。申請の時期が承継のスケジュールと噛み合うかが、実務上の分かれ目になります。

制度を使う前提として、計画書の作成や認定の取得が必要になるものがあります。承継の実行日を決める前に、どの制度を使うかを固めておくほうが安全です。

別記事では「事業承継で連帯保証人はどうなる?経営者保証の解除要件」、「事業承継特別保証制度とは?メリット・デメリットや要件」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

熊本の製造業が承継を進めるときの相談先と段取り

ここまでの論点を、実際にどの順番で進めるかを整理します。熊本県内であれば、無料で使える公的な窓口と、専門家の関与を組み合わせるのが現実的です。

時期の目安やること主に関わる相手
検討開始〜3か月株価の試算、資産と契約の棚卸し、後継者候補の確認税理士、弁護士、取引金融機関
3〜6か月承継の形の決定、取引先契約の点検、経営者保証の協議弁護士、金融機関、公的窓口
6〜12か月株式や不動産の移転、許認可・届出の手続き、従業員への説明弁護士、司法書士、行政の窓口
実行後登記の確認、取引先への通知、技能の引き継ぎ後継者、熟練工、取引先

県内の公的窓口を、最初の整理に使う

熊本県事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者が見つからない事業者の相談や、後継者人材バンクの運用を担っています。相談自体は無料で受けられるのが通常です。

熊本商工会議所や各地の商工会、八代商工会議所なども、事業承継診断や専門家派遣の窓口を持っています。まずは現状を整理する段階であれば、こうした窓口を活用するのが費用面で合理的です。

窓口の受付時間や制度の内容は変わることがありますので、訪問の前に各機関の公式の案内をご確認ください。

登記と裁判所の管轄は、工場の所在地で確認する

株式の移転そのものに登記は要りませんが、役員の変更、本店の移転、工場不動産の名義変更には登記が必要です。熊本市内の会社であれば熊本地方法務局、八代市であれば八代支局が窓口になります。

相続が絡む場面では、家庭裁判所での手続きが必要になることがあります。熊本市なら熊本家庭裁判所、八代市や人吉市、天草市などはそれぞれの支部が管轄です。菊池郡や合志市など、市町村によって管轄が分かれる地域もありますので、事前の確認が確実です。

複数の市町村に工場や倉庫があると、届出先も管轄も分散します。拠点ごとに一覧を作っておくと、手続き漏れを防げます。

弁護士に相談するタイミング

株価の試算や税制の適用は税理士の領域ですが、取引先との契約、株式の分散、遺留分、経営者保証、許認可の承継といった論点は法律の問題です。承継の形を決める前の段階で一度整理しておくと、後戻りを減らせます。

特に、親族間で意見が分かれている場合や、第三者への譲渡で契約書の提示を受けた場合は、早い段階での関与が有効です。契約書に押印した後では、条件を動かせる幅が狭くなります。

弁護士、税理士、金融機関、公的窓口のどこに何を頼むかは、会社の状況によって変わります。まずは全体像を整理することから始めるのが確実です。

別記事では「熊本市で事業承継を進める手順は?名義変更と法務局・裁判所の管轄」、「熊本県の事業承継はどこに相談?補助金・支援制度と後継者探し」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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製造業の事業承継によくあるご質問

ご相談の中でよくお受けする質問を、いくつか整理しておきます。

準備はいつから始めればよいですか

製造業の場合、許認可の点検、取引先の契約確認、設備の整理に時間がかかるため、実行したい時期の3年ほど前から動き始めるのが望ましいと考えています。株価を下げる対策や、経営者保証を外す交渉も、時間があるほど選べる手段が増えます。

もっとも、体調や相続の事情で急に進めなければならない場面もあります。その場合でも、何を優先して確かめるかがはっきりしていれば、進め方はあります。

工場が社長個人の名義でも、会社を売れますか

売れないわけではありませんが、買い手は工場を長く使える保証を求めます。会社が買い取る、譲渡と同時に個人から買い手に売る、長期の賃貸借契約を結ぶなど、いくつかの方法があります。

どの方法を選ぶかで、社長個人の税負担も会社の資金負担も変わります。個別の事情により結論が異なりますので、早めにご相談ください。

主要な取引先が1社に偏っていると、承継は難しいですか

取引先が集中していると、その1社の判断で会社の将来が左右されるため、第三者承継では価格や条件に影響することがあります。ただ、その取引先との関係が長く安定していれば、評価される面もあります。

できることとしては、承継の前に新しい取引先を増やしておくこと、そして基本契約の内容を確認して承諾が必要かを把握しておくことです。

株式譲渡と事業譲渡は、どちらが有利ですか

製造業では、許認可や入札資格、取引先との契約、従業員の雇用をまとめて残せるという点で、株式譲渡のほうが手続きが少なく済むことが多いです。

一方で、簿外の債務や過去の紛争を引き継ぎたくない場合には、事業譲渡が選ばれることもあります。会社の状況と相手方の希望によって変わりますので、両方を比較して決めることをおすすめします。

製造業の事業承継は、工場と設備という目に見える資産のほかに、取引先との契約、分散した許認可、そして熟練工の技能という、見えにくいものを同時に引き継ぐ作業です。順番を間違えると、株式を渡した後で受注が減る、設備の名義が動いていない、といった形で問題が表に出てきます。

まずは、取引先との基本契約に支配権の変動に関する条項がないか、工場不動産と設備の名義とリース契約がどうなっているか、持っている許認可と届出が現況と合っているか。この3点を棚卸しすることから始めてみてください。そのうえで、親族内・従業員・第三者のどの形が自社に合うかを、資金と保証の状況から判断していく流れになります。

熊本県内では、受注が伸びている時期に準備が止まり、社長の体調や相続をきっかけに急いで動くことになるケースが目立ちます。業績が良いうちに手をつけるほうが、選べる手段は確実に広がります。

弁護士法人Si-Lawでは、熊本市・八代市を中心に事業承継のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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