事業承継で法人の生命保険はどう使う?自社株の買取資金と死亡退職金・契約者変更の注意点を熊本の弁護士が解説!

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西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

「保険の担当者から事業承継対策として法人保険をすすめられたが、本当に自社に必要なのか分からない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

長く経営されてきた会社では、社長個人の保険と会社契約の保険が何本も混ざっていて、誰が契約者で誰が受取人なのかを社長ご自身も把握しきれていないことが少なくありません。いざ相続が起きたときに、保険金は下りたのに自社株の問題は何も解決していない、という事態も起こります。

生命保険は、事業承継で足りなくなりがちな「現金」を用意する手段としては有効です。一方で、株式や経営権といった「権利」の問題を解決してくれるものではありません。ここを混同したまま契約を増やすと、保険料で資金繰りが苦しくなるだけで終わってしまいます。

そこで本記事では、事業承継で法人の生命保険がどの場面で役に立つのか、死亡退職金や自社株の買取資金として使うときの手順、契約者変更で起きやすいトラブルまでを、熊本市・八代市の中小企業のご相談をお受けしている立場から解説していきます。

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事業承継で生命保険が使われる3つの場面

事業承継で生命保険が使われる3つの場面を示した図解

事業承継の場面で生命保険が検討されるのは、ほとんどの場合「現金が足りない」という問題に突き当たったときです。

会社の価値が高いこと自体は喜ばしいことですが、自社株は売ろうとしても買い手が限られます。納税や代償金の支払いは現金で求められるため、資産はあるのに払えないという状態になりやすいのが中小企業の事業承継の特徴です。

生命保険が使われる場面を整理すると、おおむね次の3つに分かれます。

場面困るのは誰か生命保険で備える内容
相続税・贈与税の納税後継者(相続人)納税資金を保険金で用意する
自社株の買取り後継者または会社買取代金の原資を用意する
後継者以外への配慮他の相続人代償金として渡す現金を用意する

相続税・贈与税の納税資金をつくる

自社株の評価額が高い会社では、相続税の負担が数千万円規模になることもあります。後継者に手元資金がなければ、納税のために自宅や事業用不動産を手放すという話にもなりかねません。

死亡保険金はまとまった金額が比較的早く支払われるため、納税期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月)に間に合わせやすいという利点があります。

ただし、具体的な税額や保険金の課税関係は会社の状況や契約内容によって異なりますので、顧問税理士とあわせて確認していただくのが原則です。

後継者が自社株を買い取る資金をつくる

親族内の承継であっても、株式を贈与ではなく売買で移すケースは珍しくありません。先代の生活資金を確保したい場合や、他の相続人との公平を保ちたい場合です。

このとき後継者個人に買取資金がないことが多く、会社が自己株式として買い取る(いわゆる金庫株)方法や、保険金を原資に充てる方法が検討されます。

後継者以外の相続人へ渡す現金をつくる

会社の株式と事業用不動産を後継者に集中させると、他の相続人の取り分が極端に少なくなります。その差を埋める代償金を用意できるかどうかが、争いになるかならないかの分かれ目になります。

保険金を代償金の原資として想定しておくと、話し合いの場で具体的な金額を示せるようになります。実際のご相談でも、現金の当てがあるかどうかで合意のしやすさが大きく変わります。

法人契約と個人契約のどちらにすべきか

生命保険は、契約者(保険料を払う人)と被保険者(保険の対象となる人)と受取人(保険金を受け取る人)の組み合わせで性質が大きく変わります。

事業承継の相談で問題になるのは、この組み合わせが目的と合っていないケースです。「社長に万一のことがあったときのために」と加入したはずの保険が、実際には会社の資金繰りにも納税にも使えない形になっていることがあります。

確認する項目法人契約(契約者=会社)個人契約(契約者=社長個人)
保険料の負担者会社社長個人
保険金の受取人会社配偶者・子などの個人
主な使い道死亡退職金・弔慰金、自己株式の買取資金、当面の運転資金相続税の納税資金、代償金
遺産分割での扱い会社の資産なので遺産分割の対象外となるのが原則受取人固有の権利とされるのが原則

法人契約が向いている場面

会社として備えたいのは、社長が急に欠けたときの当面の運転資金、取引先や金融機関への対応、そして死亡退職金・弔慰金の支払いです。これらは会社が受取人でなければ使えません。

また、後述する自己株式の買取りを想定する場合も、原資は会社に入る必要があります。

個人契約が向いている場面

相続税の納税や、後継者以外の相続人へ渡す代償金は、個人が支払うお金です。会社に入った保険金をそのまま個人の納税に充てることはできません。

そのため、納税や代償金を目的とするのであれば、受取人を個人にしておく必要があります。

熊本の中小企業で判断を誤りやすいポイント

熊本市や八代市でご相談をお受けすると、会社契約の保険だけが何本もあり、個人の納税資金はまったく手当てされていないという状態をよく見かけます。逆に、社長個人の保険しかなく、会社には社長が欠けた直後の支払いに回せる現金がないというケースもあります。

どちらが正しいという話ではなく、「会社として必要な現金」と「個人として必要な現金」を分けて数えることが出発点になります。

保険証券を並べて、契約者・被保険者・受取人の3つを一覧にするだけでも、足りていない部分が見えてきます。

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死亡退職金・弔慰金の原資に使うときの手順

死亡退職金・弔慰金の原資に使うときの手順のイメージ画像

法人契約の保険金を、社長のご遺族へ死亡退職金や弔慰金として渡したいというご希望は多くいただきます。

ここで注意していただきたいのは、保険金が会社に入ったからといって、会社が自由にご遺族へ渡せるわけではないという点です。会社のお金を支出するには、会社法上の根拠と手続きが必要になります。

役員退職慰労金規程がないと支給できないことがある

役員への退職金は、定款の定めまたは株主総会の決議によって決めるのが原則です(会社法361条)。従業員の退職金と同じようには扱えません。

規程が整備されていない会社では、相続が起きた後に「いくら払うのが適正か」を決める段階で親族間の意見が割れ、支給そのものが止まってしまうことがあります。

保険に加入するのとあわせて、役員退職慰労金規程を整えておくことをおすすめしています。

株主総会決議と支給基準を押さえる

規程がある場合でも、実際の支給額は株主総会の決議や取締役会での決定を経るのが通常の流れです。最終月額報酬、在任年数、功績倍率といった基準を用いて算定するのが一般的です。

決議の議事録を残しておかないと、後に税務や相続人との間で説明が難しくなります。手続きの記録を残すこと自体が、将来の争いを防ぐ備えになります。

弔慰金と退職金では税務上の扱いが異なる

弔慰金については一定の範囲まで相続税の課税対象とされない取扱いがあり、死亡退職金についても相続人が受け取る場合の非課税枠が設けられています。

もっとも、名目が弔慰金であっても実質が退職金と判断されれば退職金として扱われるのが原則です。金額の設定は、顧問税理士と最新の取扱いを確認しながら決めていただく必要があります。

金額が過大と判断されるリスクもある

保険金が入ったからその全額を退職金にする、という決め方は避けたほうが安全です。同業・同規模の水準から見て過大な部分は、損金として認められない可能性があります。

また、他の相続人から「会社のお金を特定の相続人に流した」と見られると、別の争いの種になります。算定の根拠を示せる形にしておくことが大切です。

自社株の買取資金に使うとき(金庫株と個人買取)

相続で分散してしまった株式を会社が買い戻す、あるいは後継者が買い集めるという場面でも、保険金が原資として検討されます。

ただし、会社が自社の株式を買い取る場合には会社法上の制約があり、お金があれば自由に買えるというわけではありません。

会社が自己株式を取得するときの財源規制

会社が株主から自己株式を取得するには、株主総会の決議など所定の手続を踏む必要があり、さらに分配可能額の範囲内でしか取得できないのが原則です(財源規制)。

赤字が続いて剰余金が乏しい会社では、保険金が入っても買取りに回せる金額が限られることがあります。この点は決算書を見ながら事前に確認しておく必要があります。

相続人から取得する場合の特則に注意する

相続によって株式を取得した株主から会社が買い取る場合には、他の株主の売主追加請求が及ばない形で進められる場面があるなど、通常の自己株式取得とは異なる取扱いがあります。

一方で、会社の側から相続人に対して売渡しを請求できるようにしておくには、あらかじめ定款にその定めを置いておく必要があります。相続が起きてから定款を変えることはできませんので、元気なうちの整備が重要になります。

後継者個人が買い取る場合との違い

後継者個人が買い取る場合は、会社法上の財源規制はかかりませんが、本人に資金が必要になります。金融機関からの借入れや、個人契約の保険金を充てる形が考えられます。

会社が買い取るのか個人が買い取るのかで、議決権の集まり方も税負担も変わります。どちらが自社に合うかは、株主構成と資金の出どころを並べて検討することになります。

別記事では「事業承継の株価対策とは?自社株評価3方式・引き下げ策と退職金・遺留分の注意点」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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契約者変更・受取人変更をするときの注意点

契約者変更・受取人変更をするときの注意点のイメージ画像

事業承継にあわせて、会社契約の保険を社長個人に移したい、あるいは後継者を被保険者にした契約へ切り替えたいというご相談もいただきます。

契約者の名義を書き換えるだけの簡単な手続きのように見えますが、法律上も税務上も「権利を移す」行為として扱われるため、慎重に進める必要があります。

契約者変更は解約返戻金相当の価値が移る行為になる

積み立てのある保険契約には解約返戻金という価値があります。会社から社長個人へ契約者を変更すれば、その価値が個人に移ることになります。

無償で移せば実質的な利益の供与と見られる可能性があり、役員給与や贈与として扱われる余地があります。会社の資産を無償で動かすことになるため、取締役会・株主総会での意思決定の記録も残しておくべきです。

受取人の指定が古いまま放置されていないか

長く続いている契約では、受取人が先に亡くなった方や、離婚した元配偶者のままになっていることがあります。実際にそのまま相続が起きると、受け取る権利を誰が持つのかで争いになります。

受取人の変更は保険会社への手続が必要です。遺言書に「保険金は誰に」と書いても、それだけで受取人が変わるわけではない点にご注意ください。

死亡保険金は原則として遺産分割の対象外になる

受取人が指定された死亡保険金は、受取人固有の権利とされ、遺産分割の対象にならないのが原則です。遺産を分ける話し合いとは別の枠にあるお金だとお考えください。

もっとも、他の相続人との不均衡が著しく大きい場合には、特別受益に準じて持ち戻しの対象とされた裁判例もあります。保険だけで公平を保とうとすると、かえって争いの火種になることがあるという点は押さえておいてください。

別記事では「事業承継に遺言書は必要?自社株・遺留分の注意点や作成ステップ」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

経営者保証・借入金との関係も一緒に見る

中小企業の事業承継では、社長個人が会社の借入金に連帯保証を付けていることがほとんどです。社長に万一のことがあれば、保証債務の問題が同時に発生します。

この場面で保険をどう位置づけるかは、金融機関との交渉にも影響します。

保証債務は相続の対象になるのが原則

連帯保証債務は、原則として相続人が法定相続分に応じて引き継ぎます。後継者だけでなく、会社と関わりのない相続人にも及ぶ点が見落とされがちです。

保険金が入ることを前提に借入れを残したままにしておくと、ご遺族が思わぬ負担を抱えることになります。

経営者保証ガイドラインの活用と保険の役割

経営者保証に関するガイドラインの考え方を踏まえ、法人と個人の資産・経理を明確に分けている会社では、保証を外す交渉の余地があります。

保険は保証を外す代わりの手当てとして説明材料になることもありますが、保険があるから保証が不要になるという単純な関係ではありません。決算内容と資産の切り分けが前提になります。

団体信用生命保険や借入先の保険の有無も確認する

借入れに付随する保険がすでにあるのに、同じ目的の保険を別に掛けていることがあります。保険料は毎年の固定費ですので、重複は資金繰りを圧迫します。

会社の保険を見直す際には、借入れの一覧と保険の一覧を並べて確認していただくことをおすすめしています。

別記事では「事業承継で連帯保証人はどうなる?経営者保証の解除要件と相続時の扱い」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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熊本・八代の中小企業でよくあるご相談

熊本県南を含む地場の会社では、業種によって保険の使い方の課題が少しずつ違います。実際にお受けするご相談から、典型的なものをご紹介します。

八代のい草・農業法人で「社長個人の保険しかない」ケース

八代市周辺のい草や施設園芸の法人では、法人化したあとも保険が個人契約のままになっていることがあります。機械や設備のリース料、雇用している従業員の給与といった支払いは法人に残るため、社長が欠けた直後の資金が法人側に入りません。

個人の納税資金と、法人の当面の支払いを分けて考えることが必要になります。

熊本市の建設業・運送業で許可と資金が同時に問題になるケース

建設業や運送業では、経営業務の管理責任者や運行管理者といった人の要件が許可・認可に関わります。資金の手当てができていても、人の要件を満たせなければ事業が止まります。

保険で資金を用意するのと並行して、許可の要件を満たす人員の確保を進めていただく必要があります。

株主名簿が整っていないまま保険の話が進むケース

名義株や、亡くなった親族の名義が残ったままの株式があると、買取りの相手方が確定しません。保険金を用意しても、誰にいくら払うのかが決まらないという状態になります。

株主名簿と登記の内容を先に確認することが、遠回りに見えて最短の道になります。登記の内容は熊本地方法務局で確認でき、相続に関する調停・審判は熊本家庭裁判所やその支部(八代支部など)が管轄となるのが原則です。

ご相談のときに用意していただきたいもの

すべて揃っていなくても構いません。保険証券と決算書だけでも、何が足りていないかの見立てはお伝えできます。

  • 保険証券の写し(契約者・被保険者・受取人が分かるもの)
  • 直近3期分の決算書・法人税申告書
  • 株主名簿と、取れる範囲の履歴事項全部証明書
  • 借入金の一覧と、連帯保証の状況が分かる資料
  • 役員退職慰労金規程があればその写し

生命保険だけに頼らないための備え

最後に、弁護士としてお伝えしておきたい点をまとめます。

保険は「資金」の手当てであって「権利」の手当てではない

保険金が入っても、誰が議決権を持つのか、株式が誰に渡るのかは決まりません。経営権の問題は、株式の移転と定款・株主名簿の整備で解決するものです。

ここを混同したまま保険を増やしても、争いの構造は変わらないという点にご注意ください。

定款・規程・遺言とセットで考える

相続人等に対する売渡請求の定款規定、役員退職慰労金規程、自社株の承継先を定めた遺言。保険はこれらと組み合わせてはじめて効いてきます。

どれも、相続が起きた後では作れないものです。元気なうちに手を付けられるかどうかが分かれ目になります。

見直すタイミングの目安

保険は一度入れば終わりという商品ではありません。少なくとも数年ごとに、目的と契約内容が合っているかを見ていただくのが安心です。

  • 後継者が決まったとき、または候補が変わったとき
  • 株価の評価額が大きく動いたとき(業績の急変、不動産の取得・売却など)
  • 借入れを増やしたとき、経営者保証の見直しを金融機関と話したとき
  • 家族構成が変わったとき(結婚・離婚・相続の発生)

別記事では「事業承継の相続対策とは?具体的な方法や気をつけたい落とし穴」、「事業承継の手順は?引き継ぐ3つの要素や必要書類・受けられるサポート」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

事業承継における生命保険は、納税資金・自社株の買取資金・他の相続人へ渡す代償金という「現金が足りなくなる場面」に備える手段として有効です。

一方で、法人契約か個人契約かという入り口を間違えると、保険金が目的の支払いに使えないという結果になります。死亡退職金として渡すには役員退職慰労金規程と総会決議が必要であり、自己株式の買取りには財源規制がかかります。契約者変更も、価値が移る行為として慎重に進める必要があります。

そして何より、保険は資金の手当てであって、株式や経営権という権利の手当てではありません。定款の整備、株主名簿の確認、遺言の作成とあわせて組み立てることで、はじめて事業承継の備えとして機能します。

熊本・八代・熊本県南の中小企業では、法人化の前から続く個人契約の保険が残っていたり、株主名簿が整わないまま保険の話だけが進んでいたりするケースが目立ちます。まずは保険証券と決算書を並べて、会社に必要な現金と個人に必要な現金を分けて数えることから始めてみてください。

当事務所では、熊本市・八代市を中心に事業承継のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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