学習塾の事業承継はどう進める?熊本の個別指導塾を引き継ぐ手順と生徒名簿・前受金・特定商取引法の注意点を熊本の弁護士が解説!

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西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

長く続けてきた学習塾を、そろそろ次の世代に渡したい。けれども「塾の承継」は許可を引き継ぐ話ではないため、何から手をつければよいのか分からない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

学習塾の事業承継は、建設業や運送業のように行政の許可を移す手続きが中心になるわけではありません。代わりに、生徒さんと保護者との契約、前もってお預かりしている月謝や講習費、講師の雇用、教室の賃貸借といった「契約と人」をどう引き継ぐかが勝負どころになります。

ここを曖昧にしたまま引き渡すと、承継の直後に「前の塾に払った春期講習費はどうなるのか」「担任の先生は続けてくれるのか」という問い合わせが一度に押し寄せ、せっかく引き継いだ生徒さんが離れてしまうことがあります。

そこで本記事では、学習塾の事業承継の進め方を、承継方法の選び方、生徒名簿の引き継ぎと個人情報保護法の考え方、前受金の精算、特定商取引法上の義務、講師の雇用、教室の賃貸借やフランチャイズ契約の注意点まで、熊本市・八代市でのご相談の実務に即して解説していきます。

\事業承継、何から始めるか迷ったら/

学習塾の事業承継は「許可」ではなく「契約と人」で決まる

学習塾の事業承継で引き継ぐもの(教室と契約・生徒と前受金・講師の雇用)を示した図解

学習塾は、飲食店の営業許可や運送業の事業許可のように、開業にあたって行政庁の許可・認可を必要とする業種ではないのが原則です。そのため、他業種の承継で最大の山場になる「許可を引き継げるか」という論点が、学習塾ではほとんど問題になりません。

一方で、学習塾の価値は、机や椅子やテキストではなく、通ってくださっている生徒さんと保護者からの信頼、そして教えている講師に乗っています。つまり、引き継ぐべき中身のほとんどが契約と人なのです。

この違いを理解しないまま「許可がないから簡単だろう」と進めてしまうと、かえって難しい承継になります。契約と人は、紙の上で名義を変えれば移るものではないからです。

許可はいらないが、届出と契約の整理は必要になる

許可が不要であっても、手続きがまったくないわけではありません。法人の代表者が変わるなら登記が必要になり、個人事業として営んでいた塾を別の方へ引き継ぐなら、廃業と開業の届出をそれぞれ税務署へ出すことになります。

教室の規模や建物の用途によっては、消防署への防火管理者の選任届など、建物側の届出を出し直す必要が出てくることもあります。建物を借りたまま運営者だけが変わる場合でも、届出の名義が前の経営者のままになっていないかは確認しておきたいところです。

手続きの数自体は多くありませんが、「どの契約が誰の名義で、いつまで続くのか」を一覧にする作業には時間がかかります。ここが学習塾の承継準備の中心になります。

熊本市・八代市でご相談が増えている背景

熊本市内では、中心部や郊外の住宅地に、一人の塾長が長年続けてこられた個人塾や小規模な個別指導塾が数多くあります。熊本高校や済々黌高校といった県立の進学校を目指す生徒さんを長く預かってきた教室も珍しくありません。

こうした塾では、塾長が60代後半に差しかかっても後継者が決まっていないことが多く、「体力が続くうちに次の方へ渡したい」というご相談につながっています。

八代市や熊本県南の地域では、少子化の影響がより早く表れており、生徒数が以前の水準に戻らない中で判断を迫られる例が目立ちます。ただ、生徒数が減っていても、地域に代わりの教室がないために承継の価値が認められるケースもあります。あきらめる前に、一度整理してみる意味は十分にあります。

承継の相手は大きく3つのパターンに分かれる

学習塾の承継は、相手が誰かによって進め方がまったく変わります。ご相談の入り口として、まずどのパターンに当たるのかを整理しておくことが大切です。

  • 親族内承継:お子さんやご親族が教室を引き継ぐ。株式や事業用資産の渡し方と、相続・遺留分の整理が中心になる
  • 従業員承継:長く勤めてきた教室長や専任講師が引き継ぐ。買い取り資金の調達と、個人保証の付け替えが論点になりやすい
  • 第三者承継(M&A):同業の塾や教育関連の会社へ譲渡する。生徒の在籍状況の開示と、引き継ぎ後の運営方針のすり合わせが要になる

別記事では「熊本市で事業承継を進める手順|名義変更と管轄の整理」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

学習塾の承継方法は3つ|株式譲渡・事業譲渡・個人の廃業と開業

学習塾をどう引き継ぐかは、現在の塾がどの形で運営されているか(株式会社か、個人事業か)によって選べる方法が変わります。

どれを選ぶかによって、契約の移し方、税金、従業員の扱い、必要な期間がすべて変わります。入口の選択を誤ると、後の工程でやり直しが生じやすくなります。

方法向いている場合契約の移し方主な注意点
株式譲渡株式会社・有限会社で運営している塾契約はそのまま続く(名義変更は不要なのが原則)過去の債務や未払い残業代も引き継ぐことになる
事業譲渡法人の一部の教室だけを渡したい場合契約を1本ずつ巻き直す必要がある生徒・講師・貸主それぞれの同意が必要になる
個人の廃業と新規開業個人事業として営んできた塾生徒との契約は新たに結び直す承継日が空くと生徒が離れやすい

法人の塾なら株式譲渡がもっとも手間が少ない

株式会社として塾を運営している場合、株式を後継者に渡せば、会社と生徒・講師・貸主との契約はそのまま続きます。契約の相手方である会社が変わらないため、一つひとつの同意を取り直す必要がないのが原則です。

ただし、多くの中小企業の株式には譲渡制限が付いており、譲渡には株主総会または取締役会の承認が必要になります。定款を確認せずに株券を渡しただけで終わらせてしまうと、後から譲渡の効力を争われるおそれがあります。

また、株式譲渡では会社の過去がそのまま付いてきます。講師の未払い残業代、生徒へ返金すべき未消化分の授業料、税金の申告漏れなどが残っていれば、引き継いだ後継者が負担することになります。渡す側としても、ここを隠したまま進めると後の紛争につながりやすい点にご注意ください。

事業譲渡は「契約を1つずつ移す」地道な作業になる

複数の教室を運営している法人が、そのうち1教室だけを譲りたいという場合には、事業譲渡という形をとることになります。

事業譲渡では、生徒さんとの受講契約、講師の雇用契約、教室の賃貸借契約、コピー機のリース契約などを、それぞれ相手方の同意を得て移していく必要があります。契約の数が多い塾では、この作業に数か月かかることも珍しくありません。

どの契約を移し、どれを移さないのかを譲渡契約書の別紙で明確にしておくことが重要です。「教室に関するもの一切」という書き方では、後からリース残債や未払いの広告費をどちらが負担するのかで揉めることになります。

個人事業の塾は廃業届と開業届で切り替える

塾長個人の事業として運営してきた塾を第三者へ渡す場合、法人の株式のような「まとめて渡せる器」がありません。そのため、前の塾長が廃業の届出を出し、新しい塾長が開業の届出を出すという形になります。

この方式でもっとも気をつけたいのは、生徒さんとの契約が自動では移らないという点です。承継後は新しい事業者との契約になりますので、保護者から改めて同意をいただく段取りが必要になります。

承継日をいつにするかも実務上の大きな判断です。多くの場合、月の途中や学期の途中を避け、月初や新学期の切り替えに合わせたほうが、月謝の精算も保護者への説明もすっきりします。

別記事では「事業承継の株式譲渡の方法とメリット・税金の特例」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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生徒名簿と成績データの引き継ぎ|個人情報保護法でどこまで許されるか

学習塾でもっとも慎重に扱うべき財産は、生徒名簿です。氏名・住所・電話番号に加えて、通っている学校、志望校、定期テストや模試の成績、ご家庭の事情に関するメモまで含まれていることが多く、他業種の顧客リストよりも機微な情報が集まっています。

この名簿を後継者へどう渡すかは、個人情報保護法の整理を踏まえて決める必要があります。

事業承継に伴う提供は「第三者提供」にあたらないのが原則

個人情報保護法では、本人の同意を得ずに個人データを第三者へ提供することは原則として認められていません。しかし、合併その他の事由により事業を承継することに伴って個人データが提供される場合は、第三者提供にはあたらないものとして扱われるのが原則です。

したがって、事業譲渡によって塾を引き継ぐ場合、生徒名簿を後継者に引き渡すこと自体について、一人ずつ同意を取り直さなければならないわけではありません。

株式譲渡の場合は、そもそも名簿を持っている会社が変わりませんので、外部への提供という問題が生じません。この点でも株式譲渡は手続きが軽くなります。

承継前の利用目的の範囲を超える使い方はできない

名簿を受け取れることと、自由に使えることは別の問題です。事業の承継によって個人データを取得した場合、承継前の利用目的の範囲を超えて取り扱うことはできないのが原則とされています。

たとえば、「学習指導および当塾からの講座案内のため」という利用目的で集めた名簿を、承継後に別事業の教材販売や保険商品の案内に使うことは、目的外の利用に当たるおそれがあります。

後継者が他にも事業を持っている場合には、承継の段階で、どこまで使えるのかを確認しておくことをおすすめします。利用目的を広げたいのであれば、承継後に改めて本人へ通知し、必要な手続きを踏む流れになります。

法律より先に「保護者への伝え方」が勝負になる

法律上は同意なく名簿を引き継げるとしても、保護者の実感はそれとは別です。何の説明もないまま、新しい塾長からの案内が届けば、「成績の情報まで勝手に渡ったのか」という不信につながります。

実務では、承継の時期・新しい運営者・これまでの指導をどう引き継ぐのか・問い合わせ先を記した書面を、承継日の前に保護者へお渡しする形をとることが多いです。

熊本市内の個別指導塾のご相談では、「塾長が変わっても担任の先生は変わりません」と一行添えられるかどうかで、退塾の数が大きく変わるという実感があります。名簿の引き継ぎは、法律の整理と並んで、伝え方の設計までが一続きの作業だとお考えください。

月謝・季節講習費の前受金をどう精算するか

月謝・季節講習費の前受金の精算のイメージ画像

学習塾の承継で、金額の面でもっとも揉めやすいのが前受金です。前受金とは、授業をまだ提供していないのに、先にお預かりしているお金のことです。

月謝の口座振替、春期・夏期・冬期講習の一括払い、年間教材費、入塾時にお預かりした施設維持費などが、すべてこれに当たります。

前受金の種類よくある預かり方承継時の区切り方の考え方
月謝前月末に翌月分を口座振替承継日が月初なら当月分から後継者、月中なら日割りや授業回数で按分する
季節講習費講習開始前に全額を一括実施済みのコマ数と未実施のコマ数で分け、未実施分を後継者へ引き継ぐ
年間教材費4月に1年分をまとめてすでに渡した教材と未配布の教材を区別して清算する
施設維持費・管理費半年ごと、または年ごと期間按分が基本。入塾時のみの費用なら引き継がない整理もあり得る

未消化の授業料は承継日で区切って按分する

考え方の軸はシンプルです。承継日までに実際に授業を提供した分は前の経営者の売上、まだ提供していない分は後継者が提供義務を負う、という切り分けになります。

そして、未提供分に対応するお金は、前の経営者が受け取ったまま後継者に提供義務だけが移る状態を避けるため、譲渡代金から差し引くか、別途後継者へ引き渡すのが通常です。

この整理を譲渡契約書に書かず、「お金は入ったほうのもの」として進めてしまうと、承継直後に後継者がタダで授業をする状態になります。実際の紛争はここから始まります。

季節講習の一括前受けは金額が大きくなりやすい

夏期講習や冬期講習は、受験学年になると一人あたり十万円を超える金額を前もってお預かりすることがあります。生徒数が40名の教室でも、数百万円規模の前受金が動くことになります。

そのため、承継の日取りを決める際には、季節講習の前にするのか後にするのかを意識的に選ぶ必要があります。講習の途中で運営者が変わる形は、精算も保護者への説明もいちばん複雑になります。

熊本市内の進学塾では、入試と新年度のはざまにあたる3月下旬から4月初旬を引き渡しの時期に選ぶご相談が多くあります。前受金の残りが少なく、新年度の契約から後継者の名義で結び直せるためです。

教材費と施設維持費も対象から漏らさない

月謝と講習費は意識されやすい一方で、教材費や施設維持費は「細かいから」と精算の対象から漏れがちです。しかし、年間教材費を4月に一括で受け取っていれば、年度途中の承継では未配布分が残ります。

入塾時にのみお預かりする費用については、返金の予定があるものかどうかで扱いが変わります。入塾金のように返金しない前提の費用であれば引き継がない整理も可能ですが、預り金として扱ってきたものは承継後に返金請求を受ける可能性があります。

承継の準備としては、過去2年分の入金明細から、名目ごとに「何をいつまでの対価として受け取ったのか」を洗い出しておくことをおすすめします。

別記事では「事業承継の費用は総額いくら?熊本の中小企業の内訳相場」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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特定商取引法の「特定継続的役務提供」としての義務を引き継ぐ

学習塾は、特定商取引法が定める特定継続的役務提供に該当する場合がある業種です。これは、継続してサービスを提供する契約のうち、政令で指定された役務について、消費者を保護するための規制を課すものです。

学習塾については、入学試験の受験対策や学校教育の補習のための学力の教授で、契約期間が2か月を超え、かつ金額が5万円を超えるものが対象になるのが原則とされています。個別指導塾の年間契約や、受験学年の長期コースは、この基準に入ってくることが多いです。

規制の内容は契約時の書面交付と中途解約のルールが柱になりますが、これらの義務は承継後の事業者にも続いていく点に注意が必要です。

概要書面・契約書面の名義を承継後の事業者に直す

特定継続的役務提供にあたる契約では、契約を結ぶ前に概要書面を、契約を結んだときには契約書面を交付することが求められるのが原則です。これらの書面には、事業者の氏名・名称や住所、役務の内容、支払うべき金額、中途解約に関する事項などを記載することになります。

承継によって事業者が変わるのであれば、承継後に新たに結ぶ契約の書面は、当然に後継者の名義に直す必要があります。前の塾長の名前が入った雛形をそのまま使い続けている例は実際に見かけますので、引き渡しの前に書面一式を点検しておきたいところです。

記載すべき事項は法令で細かく定められており、改正もあります。最新の条文と主務省令のご確認をおすすめします。

中途解約の精算ルールは承継後も続いていく

特定継続的役務提供にあたる契約では、消費者はいつでも中途解約ができるものとされており、その際に事業者が請求できる金額にも上限が設けられているのが原則です。

学習塾の場合、役務の提供が始まった後の解除では、2万円または契約残額の2割に相当する額のいずれか低い額が上限とされ、提供が始まる前の解除では1万1,000円が上限とされているのが基本的な枠組みです。具体的な金額の算定は契約内容により異なりますので、個別にご確認ください。

承継の実務で問題になるのは、承継前に結ばれた長期契約について、承継後に中途解約の申し出があった場合です。返金すべき未消化分を前の経営者が受け取っているのに、返金請求は後継者に向かうという構図になります。前受金の精算を契約書で詰めておく理由がここにもあります。

クーリング・オフの期間中に承継日が来ないよう気をつける

特定継続的役務提供にあたる契約には、契約書面を受け取った日から一定期間、無条件で解除できるクーリング・オフの仕組みが設けられているのが原則です。

新年度の入塾手続きが集中する3月から4月に承継日を置く場合、申込みを受けたばかりの契約がクーリング・オフの期間中であることがあります。この期間に解除の申し出が入ったとき、誰が返金するのかを決めておかないと、保護者をお待たせする事態になります。

対応窓口と返金の負担をどちらが持つのかを、譲渡契約書に一文入れておくだけで防げるトラブルです。

講師・スタッフの雇用を引き継ぐときの注意点

講師・スタッフの雇用の引き継ぎのイメージ画像

生徒さんが塾に通い続ける理由は、多くの場合「あの先生に教わりたいから」です。講師が辞めてしまえば、名簿を引き継いでも生徒は残りません。

学習塾の承継において、講師の雇用の引き継ぎは、価格の交渉と同じくらい重要な工程だとお考えください。

株式譲渡なら雇用はそのまま続くが、説明は必要になる

株式譲渡では、雇用契約の相手方である会社が変わりませんので、講師の雇用はそのまま続きます。手続きとしては何もしなくてよい形です。

もっとも、手続きが不要であることと、講師が納得していることは別です。経営者が変わると知らされないまま日々を過ごし、ある日突然新しい塾長が現れれば、専任講師から順に離れていきます。

どのタイミングで誰に伝えるのかは、承継の準備段階で後継者と決めておくべき事項です。教室長クラスには早めに伝え、アルバイト講師には承継日が固まってから伝えるという順序をとることが多いです。

事業譲渡では一人ずつ同意を得る必要がある

事業譲渡の場合、雇用契約を後継者側へ移すには、講師それぞれの同意が必要になるのが原則です。本人が同意しなければ、その講師は移らないことになります。

このとき、勤続年数の通算、有給休暇の残日数、賃金や手当の水準をどう扱うのかを決めておかなければなりません。条件が下がる形での移籍を求めれば、同意を得られないか、後に争いになります。

特に有給休暇の残日数は金額に換算すると大きくなりやすく、引き継ぐのか精算するのかを譲渡契約書で明記しておく必要があります。

学生アルバイト講師の有期契約とシフトの引き継ぎ

個別指導塾では、大学生のアルバイト講師が指導の中心を担っている教室が多くあります。熊本市内でも、熊本大学や崇城大学の学生が長く担任を持っている例は珍しくありません。

学生講師は有期の雇用契約であることが多く、契約期間の途中で承継日が来ると、更新の手続きをどちらが行うのかが曖昧になります。承継日をまたぐ契約について、更新の判断と条件提示を誰がするのかを決めておきましょう。

また、学生講師は授業のコマを前提に生活の予定を組んでいます。承継後にシフトを削る方針であれば、早めに伝える必要があります。黙ったまま進めると、新年度の直前に一斉に抜けるという最悪の形になりかねません。

別記事では「事業譲渡で従業員はどうなる?同意書・有給休暇・勤続年数のルール」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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教室の賃貸借・塾名・フランチャイズ契約で止まりやすいところ

学習塾の承継では、生徒と講師の次に、教室そのものと塾の看板が論点になります。ここは譲渡の直前になって「貸主の承諾が得られない」「本部が認めない」と判明し、スケジュールが崩れやすい部分です。

早い段階で契約書を確認し、必要な承諾の見通しを立てておくことが大切です。

教室の賃貸借は、事業譲渡なら貸主の承諾が必要になる

株式譲渡であれば借主である会社が変わらないため、賃貸借契約はそのまま続くのが原則です。ただし、契約書に経営者や株主の変更を貸主へ通知する条項が入っていることがありますので、確認が必要です。

事業譲渡や個人事業の引き継ぎでは、借主が変わりますので、貸主の承諾を得なければなりません。承諾を得ずに使い続ければ、無断転貸として契約を解除されるおそれがあります。

あわせて、敷金・保証金を前の借主へ返して新しい借主から預かり直すのか、そのまま引き継ぐのかを決めておきます。熊本市内の商業ビルに入っている教室では、保証金が数百万円に及ぶこともあり、譲渡代金の交渉に直接影響します。

塾名・屋号・商標の扱いを契約書に書いておく

地域で長く続いた塾の名前には、それ自体に集客の力があります。承継後も同じ塾名を使うのであれば、名称を使う権利を譲り渡すことを契約書に明記しておきましょう。

塾名を商標として登録している場合は、商標権の移転登録の手続きが必要になります。登録していない場合でも、前の経営者が同じ地域で似た名前の塾を始めれば、生徒が流れる事態になります。

そこで、一定の地域と期間を区切った競業避止の取り決めを入れることが一般的です。範囲が広すぎる取り決めは効力を争われる余地がありますので、「どの市町村で、何年間か」を具体的に定めることをおすすめします。

フランチャイズ加盟店は本部の承認が前提になる

大手の個別指導ブランドに加盟している教室の場合、加盟店としての地位を第三者へ移すには、本部の承認を得ることが契約上求められているのが通常です。

本部は、後継者の資力、教室運営の経験、研修の受講などを条件とすることがあり、承認が下りるまでに時間がかかります。候補者と条件の話を進める前に、本部へ相談のルートを確認しておくほうが安全です。

本部の承認が見込めない場合には、加盟契約を終了させてから独立した塾として引き継ぐという選択もあります。ただし、看板・教材・システムが使えなくなりますので、生徒数への影響を踏まえた判断が必要です。

コピー機・システム・看板のリース契約を洗い出す

教室には、コピー機、タブレット、学習管理システム、オンライン授業用の機器など、リースやサブスクリプションで使っているものが多くあります。

これらの契約は、名義変更にリース会社の承諾が必要なものが多く、中途解約には残債の一括清算を求められることがあります。契約の一覧と残債の額を、承継の準備段階でそろえておきましょう。

塾長個人の名義で契約しているものが混ざっていることもよくあります。承継後も教室で使い続けるのであれば、名義を整理しておかなければ、前の塾長に支払いが残り続けることになります。

熊本で学習塾の事業承継を進める手順と相談先

ここまでの論点を踏まえ、実際に進めるときの順序と、熊本で使える相談先を整理します。

学習塾の承継は、年度の区切りに合わせる必要があるため、動き出す時期が遅れると1年先送りになりがちです。逆算して準備を始めることが何より効きます。

時期の目安進めること関わる相手
引き渡しの12か月前承継の方法を決める。契約・前受金・講師の一覧を作る弁護士・税理士
9か月前後継者を探す、または親族・従業員と条件を詰める支援センター・金融機関・仲介
6か月前資料開示と価格の交渉。貸主や本部への打診を始める後継者候補・貸主・FC本部
3か月前譲渡契約書の作成。前受金と有給休暇の精算方法を確定する弁護士
1か月前講師への説明、保護者への案内文の送付講師・保護者
引き渡し登記や届出、名義変更、代金の決済法務局・税務署・金融機関

登記と管轄|熊本地方法務局と各支局の使い分け

法人の代表者が変わる場合、役員変更の登記を申請することになります。管轄は本店の所在地によって分かれ、熊本市内であれば熊本地方法務局の本局が窓口となるのが原則です。

八代市・人吉市・玉名市などに本店がある法人は、それぞれの管轄の支局・出張所が窓口になります。承継にあわせて本店を移すのであれば、移転の登記も必要です。

将来、相続や遺留分をめぐって争いになった場合の裁判の管轄も、地域によって熊本地方裁判所の本庁と各支部に分かれます。八代市・人吉市・玉名市・山鹿市・天草市などには支部が置かれていますので、ご相談の際にはどこが管轄になるのかも確認しておくと安心です。

熊本県事業承継・引継ぎ支援センターと商工会議所の使い分け

後継者がいない塾の第三者承継を考える場合、公的な相談窓口として熊本県事業承継・引継ぎ支援センターがあります。無料で相談でき、後継者人材バンクを通じた引き合わせも行われています。

日々の経営相談や専門家派遣の制度は、熊本商工会議所や各市町の商工会が担っています。すでに会員であれば、まずこちらに相談するのが早い場合もあります。

一方で、譲渡契約書の中身、前受金の精算条項、競業避止の範囲、講師の同意の取り方といった法律面の設計は、弁護士の仕事になります。窓口での相談と並行して、契約の段階では法律の目を入れることをおすすめします。

承継日は「年度の切り替え」に合わせるのが基本

学習塾は、3月の入試と4月の新年度という、はっきりした区切りを持つ事業です。承継日をこの区切りに合わせると、前受金の残りが少なく、生徒との契約も新年度分から後継者の名義で結び直せます。

逆に、受験直前の12月から2月に運営者が変わる形は、保護者の不安がもっとも大きくなる時期と重なります。この時期の引き渡しは、可能であれば避けたいところです。

4月の引き渡しを目指すなら、前年の春には準備を始めるのが現実的な時間の取り方になります。

別記事では「熊本県事業承継・引継ぎ支援センターの無料相談はどこまで?」、「事業承継は他人にもできる?株式の引き継ぎ手続きと注意点」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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学習塾の事業承継によくあるご質問

生徒が減ってしまった塾でも引き継いでもらえますか

生徒数が減っていても、承継が成立することはあります。評価されるのは今の生徒数だけではなく、教室の立地、競合の有無、講師が残るか、賃料の水準といった条件の組み合わせです。

八代市や熊本県南の地域では、近隣に代わりの教室がないことが、そのまま引き継ぐ価値につながることがあります。生徒数だけで判断せず、一度条件を整理してみてください。

年度の途中で引き継いでも大丈夫ですか

法律上できないわけではありませんが、前受金の精算が複雑になり、保護者への説明も増えます。やむを得ず年度途中に承継する場合は、月初を承継日に設定し、未消化分の授業料の扱いを譲渡契約書で明確にしておくことが欠かせません。

季節講習の期間中に運営者が変わる形は、精算と説明の両面でもっとも負担が大きくなります。可能であれば講習の前後にずらすことをご検討ください。

税理士と弁護士のどちらに相談すればよいですか

株価の評価や税金の試算、事業承継税制の適用の検討は税理士の領域です。一方、譲渡契約書の作成、前受金や有給休暇の精算条項、講師の同意の取り方、競業避止の範囲、親族間で相続が絡む場合の遺留分の整理は弁護士の領域になります。

学習塾の承継では、生徒・保護者との契約と講師の雇用という「契約と人」が中心になりますので、早い段階から法律面の確認を入れておくと、後の手戻りが少なくなります。どちらか一方ではなく、役割を分けてご相談いただくのが現実的です。

個人塾でも譲渡契約書は必要ですか

必要だとお考えください。個人塾こそ、口約束で進んでしまいがちで、後から「生徒名簿は渡す約束だったか」「教材の在庫は代金に含まれていたか」で争いになります。

引き継ぐ物と引き継がない物、前受金の扱い、名称を使う権利、いつまで前の塾長が引き継ぎに協力するのか。この4点だけでも書面にしておけば、多くのトラブルは避けられます。

学習塾の事業承継は、許可を引き継ぐ手続きがない代わりに、生徒さんと保護者との契約、前もってお預かりしている月謝や講習費、講師の雇用、教室の賃貸借といった「契約と人」をどう渡すかで結果が決まります。

生徒名簿は事業の承継に伴って引き継げるのが原則ですが、承継前の利用目的の範囲を超えて使うことはできません。前受金は承継日で区切って精算し、特定商取引法上の書面や中途解約のルールは承継後も続いていきます。講師の雇用は、株式譲渡ならそのまま続き、事業譲渡では一人ずつ同意が必要になります。

そして学習塾ならではの事情として、承継日を年度の切り替えに合わせられるかどうかが、生徒さんが残るかどうかに直結します。4月の引き渡しを考えるなら、前年の春から準備を始めるのが現実的です。

なお、本記事でご紹介した制度や金額は一般的な考え方であり、具体的な取り扱いは契約の内容や個別の事情により異なります。最新の法令や公表されている資料もあわせてご確認ください。

当事務所では、熊本市・八代市を中心に事業承継のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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