飲食店の事業承継はどう進める?営業許可の引き継ぎ・店舗の賃貸借と造作譲渡の注意点を熊本の弁護士が解説!

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西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

長く続けてきたお店なのに、「体力が続かない」「子どもは別の仕事に就いた」という理由で、閉店を考え始めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

熊本市や八代市でも、常連さんがついていて黒字なのに、後継者がいないという理由だけで看板を下ろすお店が少なくありません。

ところが飲食店の事業承継は、他の業種と比べて確認すべき点が独特です。保健所の営業許可が引き継げるのか、借りている店舗の賃貸借契約はどうなるのか、厨房設備や内装(造作)は誰のものとして渡すのか——ここを詰めないまま話を進めると、引き渡しの直前で止まってしまいます。

そこで本記事では、飲食店の事業承継で選べる方法と、営業許可・届出の引き継ぎ、店舗の賃貸借と造作譲渡、従業員や契約の引き継ぎで争いになりやすい点を、熊本・八代で中小企業のご相談をお受けしている弁護士の視点から解説していきます。

\事業承継、何から始めるか迷ったら/

飲食店の事業承継が熊本・八代で増えている背景

飲食店は、個人または家族で営んでいる小規模なお店が多い業種です。そのため経営者のご本人の年齢や体調が、そのまま店の存続に直結しやすい構造になっています。

まずは、なぜ今「畳む」のではなく「渡す」という選択肢が現実的になってきたのかを整理します。

店主の高齢化と、家族が継がない前提

飲食店は開業のハードルが比較的低い一方で、立ち仕事と長時間労働が前提になりやすく、年齢とともに続けること自体が難しくなります。70代に入ってから初めて先のことを考え始める、というご相談も珍しくありません。

また、お子さんがすでに別の職種で生活を組み立てている場合、「店は継がない」という前提から出発せざるを得ません。親族内承継が選べないことは、決して特別な事情ではなくなっています。

熊本市中心部でも八代市でも、「自分が辞めたら終わり」と考えていた方が、第三者に渡すという発想を知って初めて動き出すケースが多いという印象です。

コスト高と人手不足が決断を早めている

食材費や光熱費、包装資材の価格が上がると、小規模な店ほど値上げで吸収しきれず、利益が薄くなります。加えて調理・ホールの人手が集まらず、営業時間や席数を絞らざるを得ないお店もあります。

この状態が続くと、「まだ回っているうちに次の人へ渡す」という判断が合理的になります。赤字が深くなってから動くと、引き受け手が見つかりにくくなるためです。

判断を先延ばしにした結果、黒字のまま廃業を選ぶことになる例もあります。廃業と承継の損得は、別記事の黒字廃業の解説も参考にしてください。

店舗・常連客・レシピには引き継ぐ価値がある

飲食店を閉めると、内装や厨房設備は原状回復工事で撤去され、常連客との関係も途切れます。つまり廃業は、積み上げてきた価値を自ら消す選択でもあります。

一方、承継であれば、立地・設備・常連客・レシピ・従業員といった要素をまとめて次の人に渡せます。買い手側から見ると、ゼロから出店するより初期投資と立ち上げ期間を抑えられるため、小さなお店にも引き受け手がつくことがあります。

もっとも、価値があるからといって高く売れるとは限りません。価格は後述のとおり、設備の状態や契約関係の整理具合に大きく左右されるのが実情です。

飲食店の事業承継で選べる3つの方法と向き・不向き

飲食店の事業承継で選べる3つの方法と、営業許可の扱いの違いを示した図解

事業承継の選択肢は、誰に渡すかで大きく3つに分かれます。飲食店の場合、どれを選ぶかによって、後で説明する営業許可の扱いまで変わってくる点が重要です。

まずは全体像を押さえたうえで、自分のお店がどの型に近いかを考えてみてください。

承継の方法渡す相手飲食店での向き・不向き特に注意したい点
親族内承継子・配偶者・兄弟など屋号や味をそのまま残しやすい相続人が複数いる場合の自社株・不動産の分け方
従業員承継店長・料理長・社員現場をわかっている人が継ぐので混乱が小さい株式や設備を買い取る資金をどう用意するか
第三者承継(M&A)同業者・他業種の企業・個人の開業希望者後継者がいなくても選べる営業許可・賃貸借の引き継ぎ可否、条件交渉

親族内承継|屋号と味を残しやすいが分け方でもめやすい

お子さんや配偶者が継ぐ形です。屋号・レシピ・常連客との関係をそのまま残しやすく、法人であれば株式を、個人事業であれば事業用資産を引き継ぐことになります。

気をつけたいのは、相続人が複数いる場合です。お店が家業の中心であるほど資産の大半がお店に偏るため、継がない兄弟姉妹との取り分の調整が必要になります。遺言書や生前贈与を使った整理を早めに検討しておくのが原則的な対応です。

店舗が自宅兼店舗になっている場合は、不動産をどう切り分けるかも論点になります。八代市や熊本県南では、このパターンのご相談が多い印象です。

従業員承継|現場は回るが資金の工夫が要る

店長や料理長など、長く働いてきた従業員に渡す形です。オペレーションや仕入先を把握している人が継ぐため、引き継ぎ後の混乱が小さいという利点があります。

最大の壁は資金です。従業員個人が株式や設備を買い取る原資を持っていないことが多く、分割払い、持株会社の設立、金融機関の融資などを組み合わせて設計するのが一般的です。

資金調達の進め方は事業承継の融資の解説でも触れていますので、あわせてご確認ください。

第三者承継(M&A)|後継者がいなくても選べる

同業者や、独立開業を考えている個人に渡す形です。後継者が社内にも親族にもいない場合、現実的に残る選択肢がこれになります。

飲食店は、居抜きでそのまま営業を始められることが買い手の魅力になりやすい業種です。そのため、設備が動くこと、営業許可を取り直せる施設であること、賃貸人が入れ替わりを認めることが、そのまま条件交渉の材料になります。

第三者承継とM&Aの位置づけについては、事業承継とM&Aの違いと事業承継者を募集する方法もご覧ください。

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株式譲渡と事業譲渡はどちらを選ぶ?飲食店で結論が変わる理由

第三者承継を選ぶ場合、手続の型は大きく「株式譲渡」と「事業譲渡」に分かれます。飲食店では、この選択が営業許可の取り直しの要否に直結するため、他の業種より影響が大きくなります。

法人か個人事業か、お店が1店舗か複数店舗かによって、現実的な選択肢が決まってくるのが通常です。

比較する点株式譲渡事業譲渡
渡すもの会社の株式(会社ごと渡す)店舗の資産・契約を個別に渡す
営業許可許可の名義人である法人が変わらないため影響を受けないのが原則譲受人が新たに取得する必要があるのが原則
店舗の賃貸借賃借人が変わらないため承諾は不要なのが原則(契約条項の確認は必要)賃借権の譲渡に賃貸人の承諾が必要
従業員の雇用そのまま継続個別の同意を得て転籍させる必要がある
簿外債務・未払残業会社ごと引き継ぐため買い手のリスクが大きい引き継ぐ範囲を契約で絞りやすい
使える場面法人で、店舗ごと会社をまとめて渡すとき個人事業のとき、多店舗のうち一部だけ渡すとき

法人のお店は株式譲渡が簡便になりやすい

法人で営業している場合、株式を譲渡すれば、許可・契約・従業員の関係は会社に残ったまま経営者だけが代わります。飲食店にとっては、営業許可を取り直さずに済むという点が決定的な利点です。

ただし買い手側は、会社ごと引き受けることになるため、未払残業代や社会保険の未加入、税務上の論点といった見えない負債まで背負うことになります。そのため買い手は調査(デューデリジェンス)を求め、価格や保証条項で調整を図ってくるのが通常です。

株式譲渡の手続の流れは事業承継の株式譲渡の方法で詳しく整理しています。

個人事業のお店は事業譲渡になるのが原則

個人で営業しているお店には譲渡できる株式が存在しないため、設備・造作・在庫・契約上の地位などを個別に渡す事業譲渡の形になります。熊本市や八代市の個人経営店では、こちらが基本形です。

この場合、譲受人は自分の名義で飲食店営業許可を取得し直す必要があるのが原則です。食品衛生責任者の選任や、消防関係の届出も、営業者が変わるのに合わせて改めて行うことになります。

何を渡し、何を渡さないのかを一覧にして契約書に落とすことが、後の争いを防ぐ最大のポイントです。口約束で「厨房はそのまま置いていく」とだけ決めておくと、残置物の処分費用や原状回復義務の負担をめぐって対立しやすくなります。

多店舗のうち1店だけ渡すときの考え方

複数店舗を持っている法人が、不採算の1店舗だけを切り離したい、あるいは別業態の1店舗だけを譲りたいという場面では、事業譲渡を使うことになります。会社を残したまま、その店舗に紐づく資産と契約だけを移す形です。

この場面では、その店舗だけの収支を切り出せるかが実務上の関門になります。本部経費や共通仕入れが混ざっていると、買い手が採算を評価できず、交渉が前に進みません。

なお、会社の売却と事業承継は同じものとして語られがちですが、売却後の社長の立場や手取りは手続の型によって変わります。事業承継と会社売却の違いも参考になります。

飲食店営業許可は引き継げる?相続・合併と事業譲渡で扱いが違う

飲食店営業許可の引き継ぎのイメージ画像

飲食店の事業承継で最もつまずきやすいのが、保健所の営業許可です。「許可は店についているもの」と思われていることが多いのですが、実際には営業者(人・法人)に対して与えられるものとして扱われます。

そのため、誰が営業者になるのか、どういう原因で代わるのかによって、必要な手続が変わってきます。

相続・合併・会社分割なら地位の承継と届出で足りるのが原則

食品衛生法では、営業許可を受けた方について相続、合併または分割があったときに、相続人や合併後に存続する法人などが営業者の地位を承継できる旨が定められています。この承継の仕組みは、2021年6月から施行されている改正後の規定として整えられたものです。

この場合、改めて許可を取り直すのではなく、遅滞なく保健所へ届け出るという流れになるのが原則です。お店を続けながら名義を切り替えられるため、営業を止めずに済みます。

ただし相続人が複数いるときは、誰が営業者になるのかを決めておく必要があります。相続の話がまとまらないまま営業を続けると、名義と実態がずれた状態が長引くことになります。

事業譲渡では譲受人が新たに許可を取る必要があるのが原則

一方、事業譲渡(営業譲渡)は、上記の承継の対象として扱われないのが原則です。したがって譲り受ける側は、自分を営業者として飲食店営業許可を新たに取得することになります。

ここで問題になるのが施設基準です。許可はその時点の基準に照らして判断されるため、古い店舗だと、現在の基準に合わせて手洗い設備や区画などの改修を求められる可能性があります。長く続いている店ほど、この点を先に確認しておく価値があります。

許可を取り直す必要があるかどうかは、同じ飲食でも業態や自治体の運用で判断が分かれることがあります。最終的には管轄の保健所に確認するのが確実です。

営業を止めない段取りと、保健所に先に確認したいこと

新たに許可を取る場合、申請から許可までに施設検査の日程が入ります。引き渡し日を先に決めてしまうと、許可が下りるまで営業できない空白期間が生まれ、常連客が離れる原因になります。

実務では、譲渡契約の締結と引き渡し(クロージング)を分け、許可が下りることを引き渡しの条件にしておく進め方が安全です。あわせて、許可が下りなかった場合にどうするかも契約に書いておきます。

保健所に確認しておきたいのは、①現在の施設で新規許可が通る見込みか、②改修が必要な箇所はどこか、③食品衛生責任者の資格者を誰にするか、④申請から許可までの標準的な期間の4点です。熊本市内の店舗なら熊本市、八代市の店舗なら県の保健所が窓口となるのが通常です。

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営業許可以外に確認したい届出・免許|深夜営業・酒類・風営法

飲食店は、飲食店営業許可だけで営業できるとは限りません。深夜に酒類を出す、接待を伴う、酒を未開栓のまま売る——こうした要素が入ると、別の届出や免許が必要になります。

承継の場面では、これらが引き継げるのか、取り直しなのかを一つずつ確認する必要があります。

許可・届出・免許根拠・窓口承継での扱い(原則)
飲食店営業許可食品衛生法・保健所相続・合併・分割は承継+届出/事業譲渡は新規取得
食品衛生責任者の選任食品衛生法・保健所営業者が変わるときは改めて選任・届出
深夜酒類提供飲食店営業の届出風営法・警察署営業者ごとの届出のため、改めて届け出るのが原則
接待を伴う営業の許可風営法・公安委員会相続や法人の合併等について承継の仕組みがあるが、手続が必要
酒類小売業免許(持ち帰り販売)酒税法・税務署相続は申告で継続できる場合がある/事業譲渡は新規申請
防火管理者の選任・消防の届出消防法・消防署営業者・使用者が変わるときは改めて届出

深夜0時を越えて酒を出すお店は届出のやり直しが必要になりやすい

深夜0時以降に主として酒類を提供する営業は、風営法に基づいて警察署へ届け出ることになっています。居酒屋やバーは、ここに該当するお店が多くあります。

この届出は営業者を単位とするものと扱われるため、営業者が代わる事業譲渡では、新しい営業者が改めて届け出るのが原則です。届出に必要な図面や書類は、元の営業者が持っているものを引き継いで使えることがあるため、廃棄せずに残しておくようお伝えしています。

深夜に客に遊興させる営業は、届出ではなく許可が必要な類型に当たることがあります。ダンスや生演奏を伴う営業形態の場合は、個別に確認したほうが安全です。

酒類の持ち帰り販売をしているなら免許の扱いを確認する

店内で酒を提供するだけであれば、酒類販売業免許は不要とされるのが原則です。ところが、瓶やボトルを未開栓のまま持ち帰り販売したり、通信販売をしている場合には、税務署の免許が必要になります。

この免許は申請者に対して与えられるものとして扱われるため、事業譲渡では譲受人が新たに申請することになるのが原則です。相続の場合は、相続人が引き続き営業できるよう申告する仕組みが用意されています。

コロナ禍以降に始めたテイクアウトや物販が、免許の要否に関わっていることに気づいていないお店もあります。承継前の棚卸しで、何をどう売っているかを洗い出しておくことをおすすめします。

衛生管理の体制が整っているかも引き継ぎの材料になる

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理は、原則としてすべての食品等事業者に求められる仕組みとして運用されています。小規模な飲食店では、業界団体の手引書に沿った記録を続ける形が一般的です。

承継の場面では、この記録が残っているかどうかが、買い手にとっての安心材料になります。逆に記録が全く無いと、引き継ぎ後に一から体制を作る負担として価格交渉の材料にされることがあります。

アレルギー表示や原産地の表示についても、運用の実態を確認しておくほうがよいでしょう。許可そのものとは別に、引き継いだ後の責任に関わる部分です。

店舗が賃貸のときの落とし穴|賃借権の譲渡と造作譲渡

店舗の賃貸借と造作譲渡の注意点のイメージ画像

飲食店の多くは、店舗を借りて営業しています。そのため賃貸人(大家さん)の意向が、承継の成否を左右する場面が少なくありません。

ここは「話がまとまってから大家さんに相談する」という順番で進めると、最後にひっくり返りやすい部分です。

事業譲渡では賃貸人の承諾が欠かせない

賃借権を他人に譲るには、賃貸人の承諾が必要とされています。承諾を得ないまま借主を入れ替えると、契約を解除される理由になり得ます。つまり事業譲渡で店舗を引き継ぐ場合、大家さんが「新しい人でよい」と言ってくれるかどうかが前提条件になります。

大家さんが気にするのは、新しい借主の支払能力と、どういう業態で使うのかという点です。業態が変わると、においや営業時間、設備の使い方が変わるため、慎重になるのは自然なことです。

そのため実務では、相手が固まった段階で、守秘に配慮しながら早めに大家さんへ打診します。熊本市中心部のテナントは条件が厳しめで、賃料や保証金の見直しを提示されることもあるため、交渉の時間を見込んでおく必要があります。

株式譲渡でも契約条項(チェンジ・オブ・コントロール)を確認する

株式譲渡なら、賃借人である法人は変わりません。そのため賃借権の譲渡には当たらず、承諾は不要なのが原則です。

ただし賃貸借契約の中に、株主や代表者が変わったときに通知や承諾を求める条項、あるいはそれを解除事由とする条項が入っていることがあります。いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項です。契約書を最後まで読み、この種の条項の有無を必ず確認してください。

また、先代の経営者が個人で連帯保証をしている場合、承継後に保証人を入れ替えるには大家さんの同意が必要になります。保証を外さないまま引退すると、辞めた後も責任が残り続けることになります。経営者保証の考え方は事業承継と連帯保証人の解説で整理しています。

造作・厨房設備は「誰のものか」から確かめる

内装や厨房設備をまとめて引き継ぐことを、実務では造作譲渡と呼びます。ここで問題になるのは、その設備が本当に先代のものかという点です。リースの厨房機器、POS、看板、ビールサーバーなどは、所有権が別の会社にあることがあります。

リース物件を引き継ぐには、リース会社の承諾が必要になるのが通常です。借り物を自分の資産として売ってしまう形になると、後から精算を求められます。承継前に、設備を一覧にして「自己所有・リース・貸与品」に色分けしておくのが確実です。

あわせて、将来の原状回復義務を誰が負うのかを契約で決めておきます。何十年も使ってきた店舗だと、撤去費用が数百万円単位になることもあり、ここを曖昧にしたまま渡すと、退去時に先代へ請求が向かう余地が残ります。保証金・敷金が誰に返るのかも、譲渡価格に織り込んで整理しておく必要があります。

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従業員・取引先・契約の引き継ぎで争いになりやすい点

お店は、人と取引関係で動いています。設備や許可の話がまとまっても、ここが抜けていると引き継ぎ後に混乱します。

特に事業譲渡では、契約関係が自動では移らないという点を押さえておく必要があります。

事業譲渡では雇用は自動で移らない

事業譲渡の場合、従業員との雇用契約はそのままでは引き継がれません。働いている方一人ずつに説明し、同意を得て新しい営業者と契約を結び直すという手順になります。

ここを軽く扱うと、長年支えてきた従業員が辞めてしまい、味もオペレーションも維持できなくなります。飲食店では、調理の中心にいる方が抜けるだけで店の価値が大きく下がるため、誰に、いつ、どの順番で伝えるかの設計が重要です。

勤続年数や有給休暇の残日数をどう扱うのかも、あらかじめ決めておく必要があります。具体的な進め方は事業譲渡で従業員はどうなるかの解説をご覧ください。

未払残業や社会保険の未整理は価格に跳ね返る

飲食店では、長時間の勤務や、固定残業代の設計があいまいなまま運用されている例が見られます。株式譲渡で会社ごと引き継ぐ場合、こうした未払いの可能性は買い手がそのまま背負うことになります。

そのため買い手は、調査でこの点を必ず見ます。問題が見つかれば、価格を下げる、一定額を留保する、売り手が責任を負う条項を入れるといった形で調整されるのが通常です。

逆に言えば、承継を考え始めた時点で労務を整えておくと、交渉で不利になりにくくなります。タイムカードの運用、就業規則、社会保険の加入状況の3点から見直すのが現実的です。

屋号を続けるときは債務の引き継ぎと競業の制限に注意する

常連客がついているお店では、屋号をそのまま使い続けたいという希望が出ます。ただし会社法には、事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を続けて使う場合に、譲渡会社の事業から生じた債務について責任を負うとする仕組みがあります。免責の手続を取らないまま屋号を続けると、買い手が思わぬ請求を受ける余地が残ります。

また、事業譲渡をした側には、一定の期間・地域で同じ事業をしないという競業の制限が及ぶのが原則です。「引退するつもりだったが、やはり近所で小さく再開したい」という話は実際に起こるため、どこまで認めるのかを契約で具体的に決めておくほうが安全です。

仕入先との取引、フランチャイズ契約、デリバリーや予約サイトの契約、SNSアカウントの名義も、引き継ぐ対象として一覧に載せておきます。フランチャイズ契約の譲渡には本部の承諾が必要になるのが通常です。

熊本・八代で飲食店の事業承継を進めるときの手順と相談先

最後に、実際に動き出すときの順番と、相談先の使い分けを整理します。飲食店の承継は、許可・賃貸借・設備・人という4つの確認が同時に走るため、準備期間を見込んでおくことが大切です。

熊本県内では支援機関や補助金の受け皿も用意されているので、使えるものは使っておきたいところです。

半年〜1年前からそろえておきたい資料

相手を探し始める前に、手元の資料を整えておくと交渉が速くなります。最低限そろえておきたいのは次のものです。

書類が散逸していると、それだけで買い手の不安材料になります。逆に整っていれば、小規模なお店でも「きちんと経営されてきた」という評価につながります。

  • 直近3期分の決算書・確定申告書(個人事業の場合は青色申告決算書)
  • 店舗の賃貸借契約書と、更新時の覚書・保証金の領収書
  • 飲食店営業許可証、深夜酒類提供の届出書、消防関係の届出書の控え
  • 厨房設備・POS・看板の一覧(自己所有・リース・貸与の区分つき)
  • 従業員名簿、雇用契約書、シフトと勤務時間の記録
  • 仕入先・フランチャイズ・デリバリー・予約サイトの契約書

価格の考え方と、0円で渡す前に確かめること

小規模な飲食店の譲渡価格は、利益をどれだけ生めるかという見方と、設備・造作にいくらの価値があるかという見方の両方から考えるのが一般的です。立地と賃料、客単価、席数、設備の年式が材料になります。

後継者が見つからず、「お金はいらないから誰か続けてほしい」と考える方もいらっしゃいます。実際に無償で渡す選択はありますが、譲渡の形によって税務上の扱いが変わり得るほか、原状回復義務や連帯保証が残っていないかの確認が欠かせません。0円譲渡の解説と無償譲渡の注意点を読んでから判断されることをおすすめします。

税額や評価の最終判断は、個別の事情によって異なります。金額に関わる部分は、税理士や管轄の税務署にもご確認ください。

支援機関・補助金と、弁護士に相談するタイミング

熊本県内では、事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所、金融機関が相談の窓口になっています。後継者候補とのマッチングや、専門家の紹介を受けられることがあります。熊本県の制度や相談先は熊本県の事業承継の解説でまとめています。

また、事業承継やM&Aに関する補助金の枠が用意されている年度もあります。対象経費や申請期間は年度ごとに変わるため、必ず最新の公募要領をご確認ください。

弁護士に相談するタイミングとしては、相手が具体的に見えてきた段階より前、つまり「渡す方向で考えたい」と思った時点が適しています。許可が引き継げるか、賃貸借が動かせるか、保証が外せるかという前提条件は、交渉を始める前に確かめておくほうが手戻りが少なくなります。契約書の形に落とす段階だけを依頼する使い方も可能です。

飲食店の事業承継は、営業許可、店舗の賃貸借、造作と設備、そして働いている方という4つの確認が同時に必要になります。特に営業許可は、相続・合併・分割であれば地位の承継と届出で足りるのが原則である一方、事業譲渡では譲受人が新たに取得することになるのが原則であり、ここを見落とすと引き渡しが止まります。

店舗を借りている場合は、大家さんの承諾が前提条件になります。株式譲渡であっても、契約の中に経営権の変動を扱う条項が入っていないかを確認しておく必要があります。造作やリース品は「誰のものか」を一覧にし、将来の原状回復義務を誰が負うのかまで決めておくと、後の争いを避けられます。

熊本市や八代市のお店では、自宅兼店舗であることや、長く続けてきたぶん設備が古いことが論点になりやすいという印象です。黒字のまま閉めてしまう前に、渡すという選択肢を検討する価値は十分にあります。

当事務所では、熊本市・八代市を中心に事業承継のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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