事業承継を考え始めた中小企業の経営者にとって、M&Aの価格はとても重要なものです。
しかし実際には、「M&Aの価格の決め方がわからない」「提示された金額が妥当か判断できない」と感じる方も少なくありません。
事業承継の選択肢としてM&Aが広がっている一方で、価格の算定方法や評価の考え方には専門的な内容も多く、難しく感じられることもあるでしょう。
そこで本記事では、M&Aの価格の決め方について、算定方法や価格決定の流れ、相場の目安や価格に影響する評価ポイントについて、解説していきます。
納得できる価格で事業承継を進めるためにも、まずは基本的な考え方として参考にしてください。

目次
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
弁護士・法律事務所Si-Law/(株)TORUTE代表・西田幸広 熊本県を中心に企業顧問70社、月間取扱160件以上(2025年8月時点)。登録3,600社・20超業種を支援し、M&A・事業承継を強みとする。弁護士・司法書士・社労士・土地家屋調査士の資格保有。YouTubeやメルマガで実務解説・監修/寄稿多数。LINE登録特典で「事業承継まるわかりマニュアル」提供。
M&Aにおける「価格」とは
M&Aにおける「価格」は、会社にある資産の金額だけで決まるわけではありません。
これまで積み重ねてきた事業の土台・将来の収益の見込み・買い手が感じる成長への期待など、さまざまな要素を踏まえて、総合的に評価されるものです。
言い換えるなら、M&Aの価格は「今の会社の価値」であると同時に、「これから先への期待」も反映した数字だと考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
企業価値の評価はあくまで交渉の出発点であり、最終的な価格は売り手と買い手が話し合いを重ねながら決めていきます。
そのため、決まった計算だけで答えが決まるものではない、と理解しておいてください。
M&Aの価格の決め方
M&Aの価格の決め方にはいくつか代表的な方法があり、複数の手法を組み合わせながら妥当性を判断していきます。
特に中小企業のM&Aでは、計算結果そのものよりも「どのような考え方で算出されたのか」が重視されることも少なくありません。
同じ会社であっても、買い手によって価値の見方が変わるためです。
そこで、ここでは実際の現場でよく使われる代表的な3つの方法をご紹介します。
- 時価純資産+年倍法(営業権法)
- EBITDAマルチプル
- DCF法(キャッシュフロー割引法)
どれかひとつが正解というわけではなく、会社の状況や業種に応じて使い分けることが大切ですので、まずはそれぞれの考え方の違いを知ることからはじめてみてください。
時価純資産+年倍法(営業権法)
「時価純資産+年倍法(営業権法)」は、中小企業のM&Aでよく使われる、比較的イメージしやすい価格の考え方です。
まず、会社が持っている資産や負債を実際の価値(時価)で見直し、純資産を計算します。
そのうえで、これまでの利益実績をもとに、「将来も利益を生み出せる力」として評価を上乗せする考え方があります。
実際にはこれを「営業権」として扱いますが、会計上の「のれん」とは位置づけが異なるため、評価の目安として理解しておくとわかりやすいでしょう。
計算イメージは、次のようになります。
| 企業価値 = 時価純資産 +(年間利益 × 年数) |
例えば、時価純資産が1億円、年間利益が2,000万円、年数を3年とすると、
1億円 +(2,000万円 × 3年)= 約1億6,000万円
が目安になります。
考え方がシンプルでわかりやすい反面、将来の成長性や市場の変化は反映されにくい計算方法だと言えるでしょう。
EBITDAマルチプル
「EBITDAマルチプル」は、会社の「本業での稼ぐ力」を基準に価格を考える方法です。
「EBITDA」とは、営業利益に利息・税金・減価償却費を加えて考える指標で、会社の本業の稼ぐ力を確認するために使われます。
借入の有無・税金の違い・設備投資の影響をいったん除いて見ることで、企業同士を公平に比較しやすくなるのが特徴です。
基本的な計算式は次のようになります。
| 企業価値 = EBITDA × 業界倍率(マルチプル) |
例えば、EBITDAが3,000万円で、同業種の倍率が4倍だとすると、
3,000万円 × 4 = 約1億2,000万円
が目安になります。
実際の市場での取引水準を反映しやすいため、買い手側が参考にすることも多い方法です。
ただし、倍率は業種や企業規模によって変わるため、数字だけで判断しないように注意してください。
DCF法(キャッシュフロー割引法)
「DCF法(キャッシュフロー割引法)」は、これから会社が生み出す将来の利益をもとに、「今の価値はいくらか」を考える方法です。
将来の利益はそのまま同じ価値として扱うのではなく、「将来には不確実性がある」という前提で、現在の価値に引き直して評価します。
考え方をイメージしやすくするため、簡単な式で表すと次のようになります。
| 現在の価値 = 将来の利益 ÷(1+割引率) |
例えば、1年後に3,000万円の利益が見込まれ、将来リスクを10%と考える場合は、
3,000万円 ÷ 1.1 = 約2,700万円
となり、「将来の3,000万円は、今の価値にすると約2,700万円」といったイメージです。
ただし、実際のDCF法ではこのように1年分だけを計算するわけではありません。
通常は3〜5年程度の将来キャッシュフローを予測し、それぞれの年の価値を割り引いて合計します。
さらに、その後も続く事業価値を示す「ターミナルバリュー(継続価値)」を加算して企業価値を算出するため、上記の式は、あくまでも考え方をわかりやすく示した簡略的なイメージです。
将来の成長性を評価できる点は大きな特徴ですが、利益予測や前提条件によって結果が変わりやすい側面もあります。
そのため、中小企業のM&AではDCF法だけで判断せず、ほかの算定方法とあわせて参考にするのがおすすめです。
M&Aの価格の算定方法

前の見出しでは、M&Aの価格の決め方として、実際に使われる具体的な計算方法をご紹介しました。
ここでは少し視点を変えて、「なぜそのような計算になるのか」という考え方の違いを整理していきます。
つまり、先ほどの内容が「価格を計算する方法」だとすれば、ここで解説する算定方法は「会社の価値をどの視点で見るか」という評価の考え方です。
M&Aの価格の算定方法は、大きく次の3つのアプローチに分類されます。
- コストアプローチ
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
同じ会社であっても、どの視点で評価するかによって価格の考え方は変わりますので、実際にはこの3つを組み合わせながら総合的に判断することが一般的です。
それぞれの算定方法について、具体的に解説していきます。
コストアプローチ
「コストアプローチ」は、会社が現在持っている資産や負債を基準に企業価値を考える方法です。
貸借対照表をもとに、土地や設備などを実際の価値(時価)に直し、純資産を算出します。
考え方を簡単な式で表すと、以下のようになります。
| 企業価値 = 資産(時価)- 負債 |
例えば、資産が2億円、負債が1億円の会社であれば、企業価値は1億円というイメージです。
客観的な数字をもとにするためわかりやすく、資産を多く持つ会社では基本的な目安になります。
ただし、将来の成長性やブランドなど目に見えない価値は反映されにくいため、「まず会社の土台を確認する方法」としてとらえておくのがよいでしょう。
マーケットアプローチ
「マーケットアプローチ」は、実際に市場でおこなわれたM&Aの取引事例を参考に、企業価値を考える方法です。
同業種や同規模の会社がどれくらいの価格で取引されているかを見ることで、相場感をつかみやすくなります。
計算イメージは、以下のような形です。
| 企業価値 = EBITDA × 業界の取引倍率 |
例えば、EBITDAが3,000万円で、同じ業界の取引が4倍程度であれば、約1億2,000万円が目安になります。
市場の実態を反映しやすい点が特徴ですが、条件が完全に同じ企業はほとんどありません。
あくまでも、「市場ではどのくらいの評価になるか」を知るための参考値として活用していくのがよいでしょう。
インカムアプローチ
「インカムアプローチ」は、これから会社が生み出す利益やキャッシュフローをもとに企業価値を考える方法です。
将来の成長性を重視する考え方であり、DCF法が代表的な手法として知られています。
考え方を簡単に表すと、次のようなイメージです。
| 現在の価値 = 将来の利益 ÷(1+調整率) |
例えば、将来3,000万円の利益が見込まれる場合でも、リスクを考慮して割り引くことで現在の価値を算出します。
将来の伸びが期待できる会社では評価が高くなる可能性がありますが、そのぶん、事業計画の内容や根拠が非常に重要になります。
買い手が納得できる説明ができるかどうかが、大きなポイントになるでしょう。
事業承継における企業価値については、以下の記事でも解説していますので、こちらも参考にしてください。
関連記事:事業承継の企業価値とは?算出方法や3つのアプローチ・高値がつくケースも解説!
価格の決め方に不安がある場合は、TORUTE株式会社でサポートさせていただくことが可能ですので、一度ご相談いただけますと幸いです。

M&Aの価格を左右する9つの評価ポイント
M&Aの価格は、算定方法や計算式だけで決まるものではありません。
実際の現場では、会社の実態や将来性など、さまざまな要素を総合的に見ながら価格が調整されていきます。
つまり、計算で出た数字が出発点となり、そのあとに「会社の中身」が評価される、と考えるとわかりやすいでしょう。
特に中小企業の場合は、経営者の影響力や取引先との関係性など、数字だけでは見えにくい部分が価格に大きく影響する傾向があります。
ここでは、M&Aの価格を左右する9つの評価ポイントをご紹介します。
- 純資産
- 将来収益
- 市場価値
- 取引先との関係性
- 顧客基盤の強さ
- 人材と組織力
- 技術やノウハウ
- ブランドや信用力
- 経営の引き継ぎやすさ
これらを順番に確認することで、自社の強みや改善しておきたい点が見えてくるはずです。
純資産
純資産は、会社にどれだけ「土台となる価値」が残っているかを示すポイントです。
資産から負債を差し引いたものであり、現預金・不動産・設備などが対象になります。
M&Aでは、帳簿上の数字ではなく、実際に売却した場合の価値(時価)で見直されることが一般的です。
例えば帳簿では5,000万円とされている土地でも、実際の時価が7,000万円なら、そのぶんは評価に反映されます。
純資産が厚い会社は、買い手にとっては安心材料になりますが、それだけで高い評価になるわけではありません。
利益や将来性とあわせて判断される点を押さえておくようにしましょう。
将来収益
将来収益とは、今後どれだけ安定して利益を生み出せるかという見込みを指します。
買い手は「これまでの実績」だけでなく、「これからどれだけ成長できるか」に注目するため、価格に大きく影響する評価ポイントになるでしょう。
例として、直近の利益が少し落ちていても大型案件の受注が決まっている場合や、継続契約が増えている場合は、将来性が評価されることがあります。
逆に、現在の利益が高くても先の見通しが不透明だと、慎重な評価になるケースも少なくありません。
売り手としては、将来の見込みをしっかりと説明できる資料を準備しておくと安心です。
市場価値
M&Aでは、同じ業界や似た規模の会社がどのくらいの価格で取引されているかという「外から見た評価」も重要になります。
市場価値は、自社だけを見て判断するのではなく、市場全体の流れのなかで価値が決まるという考え方です。
例えば同じ利益水準の会社でも、成長業界に属していれば高めの評価がつきやすく、成熟した業界では控えめになることがあります。
つまり、自社の努力だけではなく、業界環境も価格に影響するということです。
相場感を知っておくことで、提示された価格への理解も深まりやすくなるでしょう。
取引先との関係性
取引先との関係性は、売上の安定性を判断するうえで重要な評価ポイントです。
長年の取引が続いている企業や継続契約が多い会社は、将来も売上が見込めると判断されやすくなります。
例えば、複数の取引先と安定的に取引している場合は、買い手にとっても安心材料になるでしょう。
一方で、売上の多くを1社に依存している場合には、注意が必要です。
もし取引が終了すれば、業績が大きく変わる可能性があるため、評価が慎重になることもあります。
契約内容や取引の継続性を整理し、関係の安定性を示せるようにしておくとよいでしょう。
顧客基盤の強さ
会社がどれだけ安定して売上を確保できるかを見るためのポイントとして、顧客層が幅広いか・リピートが多いか・定期的な売上があるかといった、顧客基盤の強さが評価されます。
毎月継続的に利用してくれる顧客が多い会社であれば、将来の収益が予測しやすいため、高く評価されやすくなるでしょう。
近年では、顧客データや会員制度なども価値として見られる傾向があります。
ですが反対に、顧客が経営者個人についているだけの状態では、引き継ぎ後の不安材料になることも考えられます。
会社として、しっかりと関係を維持できる仕組みを整えておくことが大切です。
人材と組織力
中小企業のM&Aでは、人材と組織力が企業価値を大きく左右します。
買い手が特に気にするのは、「経営者がいなくなっても会社が回るか」という点です。
例えば、現場リーダーが育っており、日々の判断を任せられる体制がある会社は高く評価されやすい傾向があります。
一方で、特定の社員や経営者に業務が集中している場合は、引き継ぎリスクが懸念されます。
業務の分担や権限委譲を進め、組織として機能する状態をつくっておくようにしましょう。
技術やノウハウ
独自の技術やノウハウは、他社との差別化につながり、M&Aでは評価を押し上げるポイントになります。
同じ仕事でも、品質が高い・短期間で対応できるなど、長年の経験によって築かれた強みは大きな価値として見られます。
特に、簡単に真似できない技術や、業界特有のノウハウを持っている場合は、評価されやすくなるでしょう。
ただし、その知識や技能が特定の社員や経営者だけに集中している場合には、注意が必要です。
引き継ぎ後も活かせるよう、資料化やマニュアル化を進め、組織に定着させておくことが大切になります。
ブランドや信用力
長年の経営で築いてきたブランドや信用力も、企業価値を支える重要な要素です。
地域での知名度や取引先からの信頼、品質への評価などは、数字に表れにくいものの大きな強みになります。
例えば、「この会社なら安心できる」と言われるような評判は、買い手にとっても魅力的に映ります。
特に地方の企業では、地域とのつながりや信頼関係が価値として評価されるケースも少なくありません。
これまでの実績や顧客からの評価を整理しておくことで、会社の価値をより正しく伝えやすくなるでしょう。
経営の引き継ぎやすさ
買い手は「経営者が交代しても会社が安定して運営できるかどうか」ということを重要視するため、中小企業のM&Aにおいて、経営の引き継ぎやすさは特に重視されるポイントだと言えます。
業務の流れが整理され、現場の判断を任せられる体制ができている会社は安心感が高く、評価も上がりやすくなるでしょう。
一方で、経営判断や重要な業務が社長に集中している場合は、引き継ぎリスクがあると見られることがあります。
引き継ぎ計画を事前に考え、次の体制がイメージできる状態にしておくのがおすすめです。
M&Aの価格に基準や相場目安はある?

ここまででM&Aの価格がどのように決まり、どう評価されるのかを見てきましたが、「実際に価格の基準や相場の目安はあるのだろうか」と疑問に感じられる方もいらっしゃるのではないかと思います。
結論から言えば、M&Aに不動産のような明確な相場はありません。
会社ごとに業種・規模・利益の安定性・将来性は異なるため、同じ基準で価格を決めることができないからです。
ただし実際には、おおよその価格感を把握するための考え方として、「利益倍率」というものが使われています。
特に中小企業のM&Aでは、利益を基準にして相場の目安を考えるケースが多いと言えるでしょう。
M&Aの価格は利益の何倍が目安?
では、M&Aの価格は実際に、利益の何倍を目安に考えればよいのでしょうか。
中小企業のM&Aでは、実務の現場でEBITDAや営業利益を基準に、一定の倍率をかけて価格感を検討することがあります。
具体的な倍率は案件や業種によって幅があるため一概には言えませんが、一般的な目安として語られるケースがある、という程度に理解しておくとよいでしょう。
例えば、EBITDAが2,000万円で、評価倍率が5倍とされた場合、価格の目安は約1億円というイメージになります。
ただし、この倍率は公的に定められた基準ではなく、業種や事業の安定性・将来の成長性・リスクの有無などによって大きく変わります。
継続収益がある事業では高めに評価されることもあれば、景気の影響を受けやすい業種では低めになるケースもあるのです。
そのため、「利益の何倍」という考え方はあくまで相場感をつかむための参考と考え、最終的な価格は個別の評価や交渉条件によって決まると理解しておくことが大切になります。

M&Aの価格決定の流れ
M&Aの価格は、最初に提示された金額がそのまま最終価格になるわけではなく、一定の手順を踏みながら価格が調整され、最終的な合意に至ります。
M&Aにおける価格決定の流れは、一般的に次のように進みます。
- 評価で目安を出す
- 交渉で条件をすり合わせる
- 調査後に最終決定
実際には、会社の状況が詳しく確認されるにつれて、価格が見直されることも珍しくありません。
こうした流れを知らないまま進めると、不安や戸惑いにつながることもあるため、大まかにイメージしながら読み進めてみてください。
評価で目安を出す
価格決定の最初のステップは、企業価値を評価しておおよその価格の目安を出すことです。
ここでは、先にご紹介した年倍法やEBITDAマルチプルなどの考え方を使いながら、どのくらいの価格帯になるのかを整理します。
ただし、この段階の数字はあくまでスタートラインであり、売り手が希望価格を考えたり買い手との話し合いを始めたりするための目安にすぎません。
もし、相場から大きく離れた価格を設定してしまうと、交渉そのものが進みにくくなることもあります。
まずは客観的な視点で、自社の立ち位置を把握しておくことが大切です。
交渉で条件をすり合わせる
次に、買い手との具体的な交渉で条件をすり合わせていきます。
ここで調整するのは価格だけではなく、支払い方法・引き継ぎ期間・従業員の処遇など、さまざまな条件です。
例えば同じ金額でも、一括払いと分割払いでは、実際の受け取り方や安心感が大きく変わります。
また、引き継ぎ期間が長いか短いかによっても、売り手側の負担は異なるでしょう。
M&Aでは、価格と条件を合わせて全体で判断することが重要ですので、数字だけにとらわれず、総合的に検討する姿勢を持つようにしてください。
調査後に最終決定
最終段階では、デューデリジェンス(DD)と呼ばれる詳細な調査がおこなわれます。
財務・契約内容・税務上の問題などを確認し、買い手がリスクを精査するプロセスです。
この調査の結果によっては、当初の価格が見直されることもあります。
もしも、未払い債務や契約上の課題が見つかった場合には、減額の交渉につながるケースもあるでしょう。
ですが、情報がしっかり整理されていれば、スムーズに最終合意へと進みやすくなります。
日頃から資料や契約内容をしっかりと整理しておくことが、価格を守るうえで大きなポイントになるはずです。
株式譲渡と事業譲渡で価格はどう違う?
M&Aといっても、株式譲渡と事業譲渡では引き継ぐ範囲が異なるため、価格の考え方も変わります。
株式譲渡の場合は、会社全体を引き継ぐ形になることから、資産だけでなく負債や契約関係も含めた「会社全体の価値」が価格の基準です。
そのため、安定した経営体制やリスク管理の状況なども価格に影響しやすくなります。
一方で、事業譲渡は特定の事業だけを切り出して譲渡する方法で、価格は会社全体ではなく、対象となる事業の収益力や将来性を中心に判断されます。
不要な負債などを含めずに譲渡できる場合もあるため、結果として価格の見え方が大きく変わることがあるのです。
ただし、事業譲渡では注意すべき点もあります。
譲渡対象となる資産には消費税が課される場合があり、これが買い手側の実質的な取得コストに影響することが考えられます。
また、取引先との契約を引き継ぐためには、原則として相手方の個別同意が必要となり、債務についても別途手続きが求められる場合があるでしょう。
このように、株式譲渡と事業譲渡では税負担や引き継ぎの手続きが異なり、最終的な手取り額にも差が生じる可能性があります。
どちらが自社に合っているかを判断する際は、表面的な価格だけでなく、実際の負担や条件も含めて比較することが大切です。
不安がある場合は、早めに専門家へ相談して整理しておくと安心でしょう。
こういった対策を細かに確認していくと、「M&Aに取り組むのは難しいのではないか」と感じられる方もいらっしゃるのではないかと思います。
以下の記事では、M&Aが難しいと言われる理由や中小企業の失敗事例なども解説していますので、こちらも参考にしてください。
関連記事:100万円以下でM&Aされるケースは?安くなる理由や業種・注意点も解説!
M&Aで価格を下げないためにできる対策は?

ここまででも解説したとおり、M&Aでは最初に想定していた価格よりも、最終段階で価格が下がるケースは珍しくありません。
ですが、事前にしっかりと準備をしておくことで、価格の下落は防ぎやすくなります。
ここでは、M&Aで価格を下げないためにできる対策として、次のポイントを解説します。
- 決算書を整える
- 売上の偏りを減らす
- 社長に頼りすぎない体制をつくる
- 重要な契約や許認可を整理する
- 不要なリスクを減らす
どれも買い手の安心感につながる内容ですので、どのようなことから取り組めそうかをイメージしてみてください。
決算書を整える
決算書は、買い手が会社の状況を判断するために最初に確認する重要な資料です。
数字の整合性が取れていなかったり実態がわかりにくかったりすると、「何か問題があるのではないか」と感じられ、価格が下がる原因になることがあります。
中小企業では、節税のために経費を多く計上しているなど、本来の収益力が見えにくくなっているケースも少なくありません。
M&Aを意識する場合は税理士とも相談しながら、「会社が実際にどれだけ稼げるのか」が伝わりやすいように、決算書を整えておくのがよいでしょう。
売上の偏りを減らす
売上が特定の取引先に集中していると、買い手はリスクを感じやすくなります。
例えば、売上の大半を占める取引先との関係が変化した場合、業績が大きく落ち込む可能性があるためです。
そのため、できる範囲で取引先や顧客を分散させておくと、会社の安定性は高く評価されやすくなります。
新規顧客の開拓や、既存顧客との継続契約を増やすといった取り組みも有効でしょう。
売上の偏りを減らし、構造を安定させるだけでも、買い手からの見え方は大きく変わることがあります。
社長に頼りすぎない体制をつくる
中小企業では、社長が営業や判断の中心になっていることが珍しくありません。
しかしM&Aでは、「経営者が変わっても事業が続けられるか」が重要な評価ポイントになります。
そのため、日常業務を社員に分担し、社長に頼りすぎない体制をつくっておくことが大切です。
例えば業務の流れをマニュアル化したり、責任者を明確にしたりするだけでも、引き継ぎのしやすさは大きく変わるのではないでしょうか。
社長がいなくても回る仕組みをつくることが、会社の価値を守ることにもつながります。
重要な契約や許認可を整理する
取引契約や許認可は、事業を継続するうえで欠かせない土台となるものです。
これらの内容が曖昧だったり引き継ぎが難しい状態だったりすると、買い手は将来のリスクを感じ、価格を慎重に判断することがあります。
例えば、契約書の更新状況・名義の確認・契約を引き継げるかどうかといった点は、調査のなかで必ず確認される項目です。
また、許認可については譲渡方法によって取扱いが異なるため注意が必要です。
株式譲渡では会社の法人格がそのまま続くため、許認可は原則として維持されます。
一方で、事業譲渡では許認可を承継できず、新たに取得が必要になるのが基本的な考え方です。
ただし、業種や許認可の種類によっては変更届出などで対応できるケースもあるため、一律に判断できるものではありません。
そのため、事前に所管官庁へ確認し、専門家と相談しながら整理しておくことが大切です。
重要な契約や許認可を整理し、状況が明確になっていれば、交渉や調査もスムーズに進めやすくなるでしょう。
不要なリスクを減らす
M&Aの調査では、これまで見えにくかった問題が明らかになることがあります。
例えば、未払い残業代・税務上の課題・長期間動いていない在庫などは、買い手から将来のリスクとして見られることがあります。
こうした要素は、一つひとつは小さく見えても、積み重なると価格への影響につながる可能性が考えられるでしょう。
資産を整理したり、未解決のトラブルを早めに解消したりするなど、できる範囲で不要なリスクを減らす対応をしておくことが大切です。
リスクが少ない会社ほど、買い手は安心して評価しやすくなります。
TORUTE株式会社では、会社の状況をしっかりと伺いながら、どのように承継を進めたいかという想いにも寄り添ってM&Aのサポートをさせていただいています。
初回は無料でご相談が可能ですので、ぜひ一度お問い合わせください。

M&Aで高く売るための5つのポイント
ここまでご紹介した内容は、どちらかと言えば「価格を下げないための守りの準備」だと言えます。
一方で、M&Aで高く売るためには、買い手から見て魅力的な会社に見えるように整えていく「攻めの視点」も大切です。
ここでは、M&Aで高く売るための5つのポイントをご紹介します。
- 安定した売上をつくる
- 会社の強みを整理する
- 組織を強くする
- 将来の計画を示す
- 買い手にとってのメリットを整理する
買い手は、これから成長できる会社や、引き継いだあとに成果を出しやすい会社に高い評価をつける傾向があります。
ただし、短期間で大きく変えることは難しいため、日頃の経営の積み重ねが価格に反映されると考えておくとよいでしょう。
安定した売上をつくる
M&Aでは、今の売上の大きさよりも「今後も続く売上かどうか」が重視されます。
買い手にとっては、将来の収益が予測しやすい会社ほど評価しやすいためです。
例えば、単発の受注が中心の会社よりも、定期契約や継続利用がある会社のほうが、将来の見通しを立てやすくなります。
売上の波が小さいほど、事業の安定性が伝わり、結果として価格面でもプラスに働くことがあると言えるでしょう。
長期的な契約や継続的な取引を少しずつ増やし、安定した売上をつくる姿勢が大切です。
会社の強みを整理する
M&Aでは、「なぜこの会社を買う価値があるのか」を明確に説明できることが評価につながります。
技術力・地域での信頼・独自のサービスなど、会社の強みを整理して言葉にしておくことが重要です。
経営者にとっては当たり前の強みでも、外部の買い手から見ると大きな魅力になることもあるでしょう。
例えば、「長年同じ取引先に選ばれている理由」や「他社にない対応力」なども立派な価値だと言えます。
強みを客観的に整理して伝えられるだけで、価格の見え方が変わることがあります。
組織を強くする
買い手は、引き継いだあとも成果を出せる組織かどうかを重視するため、会社全体がチームとして機能しているかどうかは、価格評価にも影響するポイントです。
例えば、管理職が現場をまとめ、社長が細かい判断をしなくても業務が進む状態などは高く評価されやすくなるでしょう。
組織を強くすることで、買い手に「成長できる会社である」という印象を与えられるようになります。
単に業務を分担するだけでなく、組織として成果を出せる体制をつくることが大切です。
将来の計画を示す
買い手は、今の業績だけでなく「これからどのように成長できるか」にも注目しています。
そのためには、難しいものでなくてもよいので、3年程度の事業計画など将来の計画を示すことができる資料を用意しておくと効果的です。
例えば、新しいサービスの展開や新たな取引先の開拓計画など、将来の見通しが見えるだけでも評価は変わります。
将来の収益イメージが伝われば、買い手が会社の可能性を判断しやすくなり、結果として価格面でもプラスに働くことがあるでしょう。
完璧な計画である必要はありませんので、現実的な方向性を示すことが大切です。
買い手にとってのメリットを整理する
M&Aでは、自社の良さを伝えるだけでなく、買い手にとってどのようなメリットがあるのかを考え、整理しておくことも重要です。
買い手は、「この会社を取得すると何が良くなるのか」を常に見ています。
例えば、既存の販路を広げられる・仕入れコストを下げられる・技術や人材を補完できるなど、買い手が現在経営している会社との組み合わせによる効果まで整理しておくとよいでしょう。
買い手側のメリットが明確になるほど、交渉のなかでも評価を前向きに考えてもらいやすくなります。
自社単体ではなく、相手との組み合わせで価値を考えることがポイントです。
M&Aの価格のご相談は「TORUTE株式会社」へ

ここまで解説したように、M&Aの価格は単純な計算だけで決まるものではありません。
会社の状況や業界の特徴、将来の可能性など、さまざまな要素を総合的に見ながら判断されます。
そのため、「提示された価格が本当に妥当なのかわからない」「自社の価値をどう考えればいいのか迷う」と感じる経営者の方も少なくありません。
TORUTE株式会社では、事業承継やM&Aのご相談を通じて、経営者さまが納得できる形での価格を考えられるよう、サポートさせていただいております。
価格の考え方をわかりやすく整理しながら、会社の強みや将来の方向性を一緒に確認し、安心して承継を進められる状態を目指します。
初回は無料でのご相談が可能ですので、まずは現状を整理するところからでも、お気軽にお問い合わせください。
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まとめ
M&Aの価格の決め方は、単純な計算式だけで決まるものではありません。
算定方法の考え方や評価ポイント、そして実際の価格決定の流れを理解することで、はじめて納得感のある判断ができるようになります。
特に中小企業のM&Aでは、数字だけでは表せない経営者の想いや会社の背景も大切な要素になります。
従業員や取引先への影響を考えながら、安心して次の世代へ事業をつないでいくためには、早めに準備を始めておくことが重要です。
すべてを一度に進める必要はありませんので、できるところから少しずつ整理しながら、着実に進めていくようにしましょう。
正しい知識を持ち、自社の価値を理解することが、後悔のない事業承継への第一歩になります。
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受付時間/AM8:30~PM5:30(土日・祝休)
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