熊本でM&Aを進めるには?県内の買い手の探し方・価格の決まり方と仲介会社の選び方を熊本の弁護士が解説!

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西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

「息子に継がせるつもりはないが、会社と社員は残したい」「熊本でM&Aというと、よそから来た会社に買われるイメージしかない」——そんな漠然とした不安を抱えたまま、何年も動けずにいらっしゃる経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

熊本県内でも、親族に後継者がいない会社が第三者へ事業を引き継ぐ例は、この数年で確実に増えています。一方で、買い手の顔ぶれや価格の決まり方、相談できる窓口は、東京や福岡の情報をそのまま当てはめても見えてきません。

そこで本記事では、熊本でM&Aを検討するときに最初に知っておきたいこととして、県内でどんな相手が買い手になるのか、買い手とどこで出会うのか、価格はどう決まるのか、そして熊本で実際に手続きをする窓口や法律上の注意点までを、順を追って解説していきます。

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熊本でM&Aという選択が広がっている背景は?

はじめに、なぜ熊本でM&A(第三者への事業の引き継ぎ)の相談が増えているのかを整理しておきます。背景がわかると、ご自身の会社が今どの段階にいるのかも判断しやすくなります。

熊本県は、建設業・農業と食品加工・運送業・旅館業・医療介護といった、地域の暮らしに直結する事業者が多い県です。これらは一度やめてしまうと地域の中で代わりがききにくいため、「廃業」よりも「引き継ぎ」を探す動きが強くなるのが特徴です。

親族に後継者がいない会社が熊本でも珍しくなくなった

中小企業庁や各種の調査では、親族内で後継者が決まっている会社の割合は年々下がり、親族以外への承継や第三者へのM&Aが選ばれる場面が増えているとされています。熊本県内のご相談でも、お子さまが県外で就職されていて戻る予定がない、というお話は非常によく伺います。

特に熊本市内の事業者では、お子さまが福岡や関東で勤めておられ、ご本人も「無理に呼び戻すのは気の毒だ」と考えておられるケースが目立ちます。この段階で「継がせない」と決めたこと自体は、悪い判断ではありません。問題は、そこから次の相手を探し始めるまでに何年も空いてしまうことです。

会社の価値は、社長の年齢とともに自然に下がっていく面があります。許認可や取引先との関係、技術を持った従業員が揃っているうちに動けるかどうかが、結果を大きく分けるのが実務上の感覚です。

復旧投資と物価高で「設備を更新できるうちに」という相談が増えた

熊本県では、2016年の熊本地震からの復旧投資に加え、近年の災害や資材価格の上昇で、設備や車両の更新負担が以前より重くなっています。八代市や熊本県南の事業者からは、「あと一度大きな投資をするなら、その前に引き継ぎ先を決めたい」というご相談をいただくことがあります。

借入をして設備を入れ替え、その返済が残った状態で承継を考えると、後継者や買い手に債務の引き受けを求めることになり、話が複雑になりがちです。逆に、設備が使える状態で、借入の残りが見通せるうちに動けば、選べる相手の幅は広がります。

なお、災害関連の支援制度や補助金は年度ごとに内容が変わります。活用を前提に計画を立てる場合は、必ず最新の公募要領をご確認ください。

半導体関連の投資で人手の確保が難しくなっている

菊陽町・大津町を中心とした半導体関連の大型投資以降、熊本県内では建設・運送・設備工事などの分野で人手の確保が一段と難しくなりました。賃金水準も上がり、小規模な事業者ほど採用で競り負ける場面が増えています。

これは売り手にとっては「人を抱えているうちに引き継いだ方がよい」という事情になり、買い手にとっては「人と許認可がセットで手に入るなら買いたい」という動機になります。熊本では、この双方の事情が噛み合ってM&Aが成立する例が少なくありません。

つまり熊本のM&Aは、単なる「会社の売買」ではなく、人手不足を補い合う手段として選ばれている面があるということです。この見方を持っておくと、買い手候補の探し方も変わってきます。

熊本でM&Aの買い手になるのはどんな相手?

熊本でM&Aの買い手になる3つの型を示した図解

「M&A」と聞くと、県外の大企業や投資ファンドを思い浮かべる方が多いのですが、熊本の中小企業のM&Aで実際に相手になるのは、もっと身近な会社であることがほとんどです。買い手の型を知っておくと、条件交渉で何を守れるかの見通しが立ちます。

買い手の属性によって、価格の付け方、従業員の処遇、社長に残ってもらいたい期間の考え方が変わります。同じ会社でも、相手が違えば提示される条件はまったく別のものになるのが通常です。

県内の同業・隣接業種の会社

もっとも多いのが、熊本県内の同業者や、取引でつながりのある隣接業種の会社です。建設業であれば施工分野が違う会社、運送業であれば営業エリアが隣接する会社、といった組み合わせです。

同業であれば事業の中身が理解されやすく、従業員の雇用も比較的そのまま維持されやすい傾向があります。一方で、地場の同業者は互いに顔見知りであることが多く、情報が漏れたときの影響が大きい点には注意が必要です。

打診の順番や、どの段階で社名を明かすかを先に決めておくことが、この型では特に重要になります。

福岡を含む九州の中堅企業やグループ会社

九州全域で展開している中堅企業が、熊本での拠点や人員を確保する目的で買い手になることもあります。福岡に本社を置く会社が、熊本・八代に営業基盤を求めて動くパターンです。

この型は、資金力があるため価格面で有利になりやすく、退職金や役員報酬の調整にも応じてもらいやすい面があります。反面、グループの人事制度に合わせる形で就業規則や給与体系が変わることがあり、従業員への説明をていねいに設計する必要があります。

県外企業・投資ファンド

関東・関西の企業や投資ファンドが買い手になる場合もあります。許認可や有資格者、不動産を目的に熊本の会社を探している例もあり、条件によっては地場の相手より高い評価が出ることがあります。

ただし、この型では買収監査(デューデリジェンス)の資料要求が厳しくなりやすく、最終契約に表明保証や補償条項が細かく入るのが通常です。契約段階での法務の確認が特に重要になります。

個人の買い手(独立・移住を考える人)

近年は、会社勤めを辞めて事業を引き継ぎたい個人が買い手になる例も増えています。熊本への移住とあわせて検討される方もおり、小規模な小売・飲食・サービス業ではこの型が現実的な選択肢になります。

個人の買い手は資金が限られるため、価格は低めになりやすく、金融機関の融資が付くかどうかが成否を分けます。また、経営経験がない相手の場合、引き継ぎ後の一定期間、前社長が支援に入る取り決めを契約に入れておくのが安全です。

買い手の型主なねらい価格の傾向注意したい点
県内の同業・隣接業種人員・許認可・エリアの補強相場どおり情報が漏れやすい
九州の中堅企業熊本の拠点と人員の確保やや高め制度統合で待遇が変わる
県外企業・ファンド許認可・資格者・不動産条件次第で高め買収監査と契約条項が厳しい
個人の買い手独立・移住低め融資の可否と引き継ぎ支援

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熊本でM&Aの買い手と出会う方法は?

次に、どこで買い手と出会うのかを整理します。熊本では公的な窓口と民間のサービスが併存しており、どちらか一方に絞る必要はありません。

大切なのは、同じ会社の情報を複数のルートへ無計画に流さないことです。あちこちから同じ案件が出回ると、買い手側に「売れ残っている会社」という印象を与えてしまいます。

熊本県事業承継・引継ぎ支援センターと後継者人材バンク

国の施策として各都道府県に置かれている公的な窓口で、熊本県にも熊本市内に設置されています。相談自体は無料で受けられるのが原則で、後継者を探している事業者と、事業を引き継ぎたい個人とをつなぐ後継者人材バンクの登録も扱っています。

公的機関のため中立的で、費用を抑えて進めたい場合の出発点として適しています。一方で、候補者の数や業種の偏りには限りがあり、相手が見つかるまでに時間がかかることもあります。

センターで相手が見つかった場合でも、契約書の作成や条件交渉そのものは当事者側で進める必要があるため、法務の確認は別に手当てしておくと安心です。

地元金融機関・商工会議所・商工会のルート

熊本県内の銀行・信用金庫・信用組合は、取引先同士をつなぐ形でM&Aの橋渡しをしていることがあります。熊本商工会議所や各市町の商工会、熊本県商工会連合会でも、経営指導員が事業承継の相談に応じています。

決算の中身をすでに知っている取引銀行に相談できるのは大きな利点です。ただし、融資の判断をする立場でもあるため、伝え方によっては与信の見方に影響することがあります。どの情報をどの段階で出すかは、あらかじめ整理しておいた方がよいでしょう。

民間のM&A仲介会社とマッチングプラットフォーム

民間の仲介会社や、インターネット上のマッチングプラットフォームを使う方法もあります。候補となる買い手の数は公的窓口より多く、業種を越えた相手に出会える可能性があります。

注意したいのは、社名を出さない「ノンネーム」の形で掲載しても、地域と業種と売上規模が揃うと、熊本県内では会社が特定されてしまうことがある点です。掲載内容の書き方は、必ず自分の目で確認してください。

手数料の体系も会社ごとに違い、着手金・中間金が必要なところと、成約時のみのところがあります。契約前に、途中でやめた場合の費用がどうなるかまで確認しておくことをおすすめします。

顧問税理士・弁護士など士業からの紹介

顧問税理士や取引先の弁護士が、別の顧問先を紹介する形でまとまることもあります。相手の内情を知っている専門家が間に入るため、話が早く、情報の管理もしやすいのが利点です。

この場合、紹介した専門家が双方の助言役を兼ねてしまうと、利益が相反する場面が出てきます。条件交渉と契約の確認は、自分の側に立つ専門家に別途お願いするのが安全です。

別記事では「熊本県事業承継・引継ぎ支援センターの無料相談の範囲と後継者人材バンクの流れ」、「自治体の事業承継支援と民間仲介との違い」、「事業承継を取引銀行に相談するときの注意点と手数料」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

熊本のM&Aで価格はどう決まる?

熊本のM&Aで価格がどう決まるかのイメージ画像

もっとも気になるのが価格でしょう。M&Aの価格に定価はなく、算定方法で出した目安を出発点に、交渉で決まっていくのが実際です。

ここでは、よく使われる算定方法と、熊本の案件で価格に効きやすい要素を整理します。なお、以下はあくまで一般的な考え方であり、実際の評価は個別の事情により異なります。

よく使われる3つの算定方法

中小企業のM&Aでは、年買法(時価純資産に営業利益の数年分を加える方法)、時価純資産法、DCF法(将来の収益を現在価値に割り戻す方法)が使われることが多いとされています。

熊本の中小企業の案件では、年買法と時価純資産法を併用して目安を出し、そこから買い手の事情で上下する、という流れが一般的です。DCF法は、事業計画の精度が求められるため、規模の大きい案件や成長性を評価する場面で使われます。

どの方法でも、決算書に出ていない資産・負債をどう見るかで金額が動きます。退職金の積み立て不足、名義が社長個人になっている事業用不動産、簿価と実勢が離れた機械などは、必ず論点になります。

熊本の案件で価格を左右しやすい要素

熊本の案件で特に評価に効きやすいのは、許認可・有資格者・不動産・車両機械の4つです。建設業の許可や経営業務の管理責任者、運送業の運行管理者、介護事業の人員基準を満たす職員などは、買い手が自前で揃えるのに時間がかかるため、そのまま価値として見られます。

不動産は、評価が上がる要素にも下がる要素にもなります。本社や工場の土地を自社で持っていれば加点されますが、市街化調整区域や農地が絡むと手続きの手間と不確実性が増え、評価が慎重になることがあります。

逆に、価格を下げる要素としてよく出てくるのが、未払いの残業代、社長個人との貸し借り、名義が整理されていない不動産、取引先との契約書がない状態です。これらは、売り手側で先に整理しておくほど有利になります。

要素買い手の見方売り手が先にできること
建設業などの許認可自前で取るには時間がかかるため加点要件を満たす人員の在籍を確認しておく
有資格者・熟練職員採用難のため強く評価される雇用条件を整え、離職を防ぐ
事業用の不動産自社保有は加点、調整区域・農地は慎重に名義と境界、担保の状況を確認する
未払い残業代将来の負債として減額要素勤怠と賃金規程を点検する
社長個人との貸し借り整理の手間として減額要素精算の方針を決めておく

「0円でもいいから引き継いでほしい」というケース

熊本県南や郡部の小規模な事業者では、「お金はいらないから、設備と社員を引き継いでほしい」というご相談もあります。価格が付かない、あるいは無償に近い形での引き継ぎも、選択肢としては成り立ちます。

ただし、無償や著しく低い価格での譲渡は、税務上の評価や、他の相続人の遺留分との関係で後から問題になることがあります。進める前に、税務と法務の両面から確認しておく必要があります。

別記事では「M&Aの価格の決め方と最終価格が変わる契約条項」、「100万円以下でM&Aされるケースと株式譲渡・事業譲渡の注意点」、「事業承継で無償譲渡をするときの税金と契約条項」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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熊本でM&Aを進める流れと期間の目安は?

次に、実際の進み方を見ていきます。全体では半年から1年半程度かかるのが一般的で、準備が整っている会社ほど短くなります。

熊本県内の案件では、相手探しに時間がかかる一方、相手が決まってからの進行は比較的早い、という傾向があります。

決算書・契約書・権利関係を整える準備期間

最初にやるべきは、会社の中身を人に見せられる状態にすることです。直近3期分の決算書、株主名簿、不動産の登記事項証明書、主要な取引先との契約書、就業規則と賃金規程、許認可の書類を揃えます。

この段階で、株式が親族に分散していたり、過去の増資の記録が残っていなかったりといった問題が見つかることがよくあります。熊本の古い会社では、名義株や、亡くなった方の名義がそのまま残っている例も珍しくありません。

こうした点は、後から直すと交渉の最中に止まってしまいます。打診を始める前に整理しておくことが、結果的にいちばん早い道になります。

ノンネーム打診から秘密保持契約・トップ面談まで

社名を出さない形の概要資料で候補先に打診し、関心を示した相手と秘密保持契約を結んでから、詳しい資料を開示します。その後、社長同士が顔を合わせるトップ面談に進みます。

熊本のように地域が限られる場では、誰に打診するかの順番そのものが戦略になります。先に同業の有力者へ出してしまい、断られたという話が業界内に広まると、その後の打診が難しくなることがあります。

トップ面談では、価格の話よりも、従業員の処遇や屋号を残すかどうかといった点を確認しておくと、後の交渉が楽になります。

基本合意からデューデリジェンス

大筋の条件が合えば基本合意を結び、買い手による買収監査(デューデリジェンス)に入ります。財務・税務・法務の面から、資料に基づいて会社の状態を確認する作業です。

ここで未払い残業代や、許認可の要件の不足、契約書のない取引といった問題が出てくると、価格の引き下げや条件の見直しにつながります。売り手として不利な事実があるなら、隠すのではなく早めに開示して対処を相談した方が、結果はよくなるのが通常です。

最終契約とクロージング・引き継ぎ

最終契約では、譲渡する株式や事業の範囲、価格、支払いの時期、表明保証と補償、競業避止、社長の引き継ぎ期間などを定めます。ここが法務上もっとも重要な場面です。

契約後、代金の決済と株主名簿の書き換え、役員変更の登記、許認可の変更届、取引先への案内を進めます。従業員への説明は、原則として最終契約の前後に、社長自身の言葉で行うのが望ましいといえます。

段階主な作業期間の目安
準備決算書・株主名簿・契約書・許認可の整理1〜3か月
相手探しノンネーム打診、秘密保持契約、資料開示2〜8か月
面談・基本合意トップ面談、条件のすり合わせ1〜2か月
買収監査財務・税務・法務の確認1〜2か月
最終契約・引き継ぎ契約、決済、登記、各種届出1〜3か月

熊本のM&Aで特に注意したい法律上の論点は?

熊本のM&Aで注意したい法律上の論点のイメージ画像

ここからは、弁護士としてご相談を受ける中で、熊本の案件で実際につまずきやすい論点を挙げます。いずれも、気付くのが遅れるほど選べる手が少なくなるものです。

なお、どの論点も会社の状況によって結論が変わります。以下は一般的な考え方の整理として読んでいただき、判断は個別にご確認ください。

建設業・運送業・介護など許認可の引き継ぎ方

熊本県で多い建設業・運送業・介護事業は、いずれも許認可や指定があって初めて営める事業です。ここで決定的なのが、株式譲渡なら会社そのものが残るため許認可も原則としてそのまま続くのに対し、事業譲渡では買い手が自分で取り直す必要が出てくる、という違いです。

建設業の知事許可であれば、経営業務の管理責任者や専任技術者の要件を引き続き満たせるかが問題になります。社長一人が要件を支えていた場合、譲渡後に要件を欠いてしまうことがあるため、事前の確認が欠かせません。

介護事業の指定は、株式譲渡でも役員変更などの届出が必要になるのが通常です。手続きの期限を外すと、報酬の請求に影響が出ることもあります。

農地・山林・市街化調整区域の不動産

熊本県では、事業用の土地に農地や山林が含まれていることがよくあります。農地の権利を動かすには農地法上の許可が必要になるのが原則で、会社が取得する場合には要件がさらに限られます。

株式譲渡であれば、不動産の名義は会社のまま変わらないため農地法の手続きが不要になる場合がありますが、事業譲渡や個人名義の不動産が絡むと、許可の見通しを先に立てておく必要があります。

また、社長個人の名義になっている工場や倉庫を会社が使っている例も多く、この場合は賃貸借の形にするのか、譲渡に含めるのかを決めなければなりません。ここを曖昧にしたまま進めると、クロージング直前で止まります。

経営者保証と社長個人の資産の切り分け

会社の借入に社長が個人保証を付けているのが通常ですが、株式を譲渡しても、保証契約は自動では消えません。金融機関との間で、保証を外す、あるいは買い手側の保証に差し替える手続きが別に必要になります。

熊本県内の金融機関でも、経営者保証に関するガイドラインに沿った対応が広がっていますが、個別の判断になります。譲渡の条件を固める前に、取引金融機関への相談を済ませておくことを強くおすすめします。

従業員の雇用条件と未払い残業代

株式譲渡では雇用契約はそのまま続きますが、事業譲渡では従業員ごとの同意が必要になるのが原則です。この違いを知らずに事業譲渡の形で進め、主要な職人に断られて成立しなかった例もあります。

また、買収監査でもっとも多く指摘されるのが、残業代の計算です。固定残業手当の設計が不十分だったり、勤怠の記録が残っていなかったりすると、将来の負債として見積もられ、価格が下がります。

熊本の中小企業では、長年の慣行で運用されている例が多く、ここを先に点検しておくことが、価格を守るうえでもっとも効きます。

別記事では「建設業の事業承継での許可の引き継ぎと認可手続き」、「介護事業の承継で指定を引き継げるかと手続きの流れ」、「事業承継で連帯保証人はどうなるかと経営者保証の解除要件」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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熊本で手続きをする窓口と管轄はどこ?

M&Aが成立すると、登記や届出といった手続きが続きます。熊本県内では、手続きの種類によって窓口が分かれているため、あらかじめ押さえておくと段取りが組みやすくなります。

ここでは代表的なものを整理します。個別の管轄や受付の運用は変わることがあるため、実際に動く前に各窓口でご確認ください。

登記は熊本地方法務局とその支局

役員変更や商号・本店の変更といった会社の登記は、熊本地方法務局(熊本市中央区)が窓口となります。県内の会社の登記は本局で扱われているため、八代市や人吉市の会社でも、商業・法人登記は熊本市へ申請することになるのが通常です。

一方、不動産の登記は、その土地建物の所在地を管轄する支局・出張所が窓口です。熊本地方法務局には八代・玉名・山鹿・阿蘇・人吉・天草などに支局等が置かれており、工場や倉庫の名義を動かす場合はその所在地の管轄を確認します。

複数の市町に不動産がある会社では、申請先が分かれるため、スケジュールに余裕を持たせておくとよいでしょう。

争いになったときの裁判所の支部

株式の帰属や代金の支払いをめぐって争いになった場合、管轄は熊本地方裁判所(熊本市中央区)とその支部になります。熊本地方裁判所には、八代・玉名・山鹿・阿蘇・人吉・天草に支部が置かれています。

相続が絡む場面、たとえば亡くなった先代名義の株式の扱いで調停を申し立てる場合は、熊本家庭裁判所とその支部が窓口です。会社の所在地と相続人の住所が離れていると、申立先が変わることがあります。

契約書に合意管轄の条項を入れるときは、こうした地理的な事情も踏まえて、どこを指定するかを検討しておくことになります。

許認可の窓口は県・市・保健所に分かれる

建設業の知事許可は熊本県の担当部署、一般貨物自動車運送事業は九州運輸局の熊本運輸支局、飲食店の営業許可は所管の保健所が窓口になります。介護事業の指定は、事業の種類により熊本県と熊本市などの市で権限が分かれます。

届出には期限が定められているものが多く、クロージングの日程を決める段階で、どの届出をいつまでに出すかを一覧にしておくのが実務的です。ここが抜けると、譲渡自体は終わっているのに事業が止まる、という事態になりかねません。

熊本でM&Aの相談先と費用はどう考える?

最後に、相談先の選び方と費用の考え方を整理します。熊本では、公的窓口・金融機関・仲介会社・士業という4つの選択肢があり、組み合わせて使うのが現実的です。

費用は会社の規模や相手によって変わります。以下は一般的な目安であり、実際の金額は依頼先ごとに異なりますので、必ず見積もりでご確認ください。

仲介とアドバイザリー(FA)の違い

仲介は売り手と買い手の双方の間に入って成約を目指す形、アドバイザリー(FA)は一方の側だけに付いて交渉を助ける形です。仲介は相手が見つかりやすく費用も抑えやすい反面、条件が不利になったときに自分の側に立ってくれる人がいません。

熊本の小規模な案件では仲介の形が多く使われていますが、価格や従業員の処遇で譲れない条件がある場合は、自分の側に立つ専門家を別に付けておくことを検討してもよいでしょう。

手数料の相場と最低報酬の見方

成功報酬はレーマン方式で計算されることが多く、取引金額に応じた料率を段階的に掛けていきます。加えて、最低報酬額が設定されているのが通常で、小規模な案件ではこの最低報酬が実質的な費用になります。

着手金や月額の顧問料、基本合意時の中間金が必要かどうかは会社ごとに違います。途中でやめた場合に返ってこない費用がどれかを、契約前に確認しておいてください。

弁護士に頼むとよい場面

弁護士が役に立つのは、株式が分散している、名義株がある、先代名義の株式が相続で未分割、許認可の要件が社長一人に依存している、未払い残業代の見込みがある、といった論点が先に見えている場面です。

また、最終契約の表明保証や補償の条項は、後から争いになったときに直接効いてきます。相手が用意した契約書をそのまま結ぶ前に、一度は自分の側で確認しておくことをおすすめします。

別記事では「事業承継の仲介手数料の相場とレーマン方式の計算」、「M&Aでの弁護士費用の相場と報酬の計算方法」、「事業承継での弁護士の役割と他の専門家との違い」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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熊本のM&Aでよくいただくご質問

ご相談の中でよく伺うご質問を、最後にまとめておきます。

従業員や取引先に知られずに進められますか?

最終契約の前までは、社名を出さない形で進めるのが通常です。ただし、熊本のように地域と業種が限られる場では、売上規模と地域だけで会社が推測されることがあります。

打診先の選び方、資料に載せる情報の粒度、社内で情報を共有する範囲を最初に決めておくことが、いちばんの備えになります。

赤字や債務超過でも買い手は見つかりますか?

赤字でも、許認可・有資格者・取引先・不動産・技術といった要素があれば、買い手が関心を示すことはあります。熊本では、人手と許認可を目的に赤字の会社が引き継がれた例もあります。

ただし、債務超過の場合は、借入の処理と経営者保証の扱いを先に金融機関と相談しておく必要があります。条件次第で、事業譲渡や会社分割といった別の手法を検討することもあります。

どのくらいの規模からM&Aの対象になりますか?

売上が数千万円規模の会社や、個人事業でも引き継ぎが成立することはあります。規模が小さい場合は、仲介会社よりも公的窓口や個人の買い手を想定した方が、現実的な選択肢になりやすい傾向があります。

規模によって、使える手法(株式譲渡・事業譲渡・個人事業の引き継ぎ)も変わります。まずは、自社の形に合った手法を整理するところから始めるとよいでしょう。

相談だけでも費用はかかりますか?

熊本県事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的窓口は、相談自体は無料で受けられるのが原則です。民間の仲介会社や士業では、初回相談を無料としているところもありますが、取り扱いは依頼先ごとに異なります。

費用の心配で動き出しが遅れるのは、いちばん避けたいところです。まずは無料で聞ける窓口で全体像をつかみ、論点が見えてから専門家に依頼する、という順番でも十分間に合います。

熊本でのM&Aは、県外の大企業に買われるものというより、県内や九州の会社、ときには個人が、人手と許認可を引き継ぐ形で成り立っているのが実情です。買い手の型によって条件は大きく変わるため、どの相手にどう打診するかを先に決めておくことが結果を左右します。

そして熊本の案件では、建設業や運送業・介護の許認可、農地や調整区域の不動産、経営者保証、未払い残業代といった論点が繰り返し出てきます。いずれも、打診を始める前に整理しておけば価格を守れるものばかりです。手続きの窓口も、登記は熊本地方法務局、争いになれば熊本地方裁判所とその支部と、動く先が決まっています。

「まだ売る気はないが、いつか必要になりそうだ」という段階でも、資料を整え、論点を洗い出しておくことには意味があります。当事務所では、熊本市・八代市を中心に事業承継のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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