阿蘇市・阿蘇郡の事業承継はどう進める?旅館とあか牛の畜産・牧野の入会権を引き継ぐ手順と阿蘇支部での手続きを熊本の弁護士が解説!

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西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

阿蘇で旅館や牧場、商店を営んでこられた方から、「そろそろ次に渡したいが、何から手をつけていいかわからない」というご相談をいただくことがあります。

阿蘇市や阿蘇郡の事業は、旅館業の許可、農地や採草放牧地、牧野の入会権といった「書類の上では見えにくい権利」が事業の中身そのものになっていることが少なくありません。会社の株式や預金を渡すだけでは引き継ぎが完了しない、という点が他の地域と大きく違うところです。

また、手続きの窓口も熊本市内とは異なります。登記は熊本地方法務局の阿蘇大津支局、相続の調停や相続放棄は熊本家庭裁判所阿蘇支部というように、阿蘇地域には地域ごとの管轄があります。どこに行けばよいのかがわからず、動き出しが遅れてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで本記事では、阿蘇市・阿蘇郡(南阿蘇村・高森町・産山村・小国町・南小国町・西原村)で事業承継を進めるときの手順を、旅館業と畜産・農業を中心に、牧野の入会権の扱いや管轄の窓口まで含めて熊本の弁護士の立場から解説していきます。

\事業承継、何から始めるか迷ったら/

阿蘇市・阿蘇郡で事業承継が急がれている背景

阿蘇地域の事業承継は、熊本市や八代市のような都市部とは事情が異なります。まずは、なぜ今、阿蘇で承継の相談が増えているのかを整理します。

背景を押さえておくと、「何を先に決めるべきか」の優先順位がつけやすくなります。

家族経営が中心で、経営と家計が分かれていない

阿蘇地域の旅館・民宿・牧場・商店の多くは、家族の労働で成り立ってきた事業です。法人であっても、実態は家族経営というケースが珍しくありません。

この場合、事業用の土地建物が社長個人の名義になっていたり、事業の借入に社長が個人で連帯保証をしていたりします。承継とは、事業そのものだけでなく、こうした個人と会社の結びつきをほどく作業でもあるのが実情です。

ご相談の現場では、「会社の決算書は見たことがあるが、誰の名義の土地で商売をしているかは知らない」という後継者の方も少なくありません。名義の確認が、承継の最初の一歩になります。

経営者の高齢化に、担い手の減少が重なっている

阿蘇地域では、観光業も畜産も、経営者の年齢が上がる一方で、地域内に若い担い手が増えにくい状況が続いているといわれています。

親族の中に継ぐ人がいない場合、従業員への承継や第三者への譲渡(M&A)を検討することになりますが、この判断には時間がかかります。体調を崩されてから相談にみえると、選べる方法が限られてしまうのが実情です。

準備に必要な期間は事業の形によって異なりますが、株式や許認可の整理まで含めると数年単位で見ておくのが現実的な目安といえます。

災害からの復旧投資が、判断を先送りさせている

阿蘇地域は、2016年の熊本地震をはじめ、たびたび大きな災害を経験してきた地域です。施設の復旧に多額の投資をした直後は、「この借入を返し終えてから考えよう」と承継の話が止まりやすくなります。

しかし、借入が残っているからこそ、経営者保証の扱いや返済計画を含めて早めに整理しておく意味があります。保証をどう外すか、あるいは後継者がどこまで引き受けるかは、金融機関との交渉が必要になる場面もあるためです。

なお、経営者保証の解除には一定の要件が求められるのが一般的で、要件や運用は金融機関によって異なります。取引先の金融機関に早い段階で相談しておくことをおすすめします。

阿蘇の事業承継で最初に確認したい資産と権利

阿蘇の事業承継で確認する3つの権利(許認可と事業用資産・農地と採草放牧地・牧野の入会権)を示した図解

阿蘇の事業では、「会社の資産」として帳簿に載っていないものが、事業の価値を支えていることがあります。承継の検討に入る前に、次の3つを分けて確認しておくと話が進みやすくなります。

それぞれ、確認する先も、引き継ぎに必要な手続きも違います。

確認するものどこで確認するか引き継ぎに必要になりやすい手続き
自社株・出資持分株主名簿・法人の登記事項証明書株式譲渡契約、贈与・相続の手続き、株主名簿の書換え
事業用の土地・建物登記事項証明書(阿蘇大津支局)所有権移転登記、賃貸借契約の名義変更
農地・採草放牧地農業委員会、登記事項証明書農地法3条の許可または届出
牧野の入会権・組合員資格牧野組合の規約・総会議事録組合の承認、規約に沿った資格の引き継ぎ
旅館業・飲食店などの許可管轄の保健所承継の承認申請、または新規の許可申請
借入と経営者保証取引金融機関、契約書保証の解除・差し替えの交渉

自社株と事業用資産の名義を分けて洗い出す

法人の場合、まず株主が誰になっているかを株主名簿で確認します。設立のときに名前だけ借りた親族や知人が株主として残っていることがあり、これを放置したまま承継を進めると、後から議決権をめぐる争いになりかねません。

あわせて、事業で使っている土地・建物が法人名義か個人名義かを登記事項証明書で確認します。個人名義の場合は、相続で他の相続人に渡ってしまうと、事業を続けられなくなるおそれがあります。

名義の整理は、税金の負担にも影響します。どの方法で移すかによって課税関係が変わるため、税理士と相談しながら進めるのが原則です。

農地と採草放牧地は「許可が要る財産」として扱う

農地や採草放牧地は、売買や贈与で権利を移すときに、原則として農地法3条の許可が必要です。許可を受けないままの契約は、効力が生じないとされるのが原則とされています。

一方、相続によって農地を取得した場合は許可が不要ですが、取得を知った時から一定期間内に農業委員会への届出が必要とされています。期限がありますので、相続が起きたら早めに市町村の農業委員会に確認してください。

阿蘇地域では、採草放牧地として利用してきた土地が登記上は山林や原野になっているケースもあります。登記の地目と実際の使われ方が食い違う場合は、現況での扱いを農業委員会に確認しておくと安全です。

  • 売買・贈与で農地を移す → 農地法3条の許可が原則必要
  • 相続で農地を取得した → 許可は不要だが農業委員会への届出が必要
  • 農地を農地以外にする → 農地法4条・5条の手続きを検討
  • 登記の地目と現況が違う → 現況での扱いを農業委員会に確認

牧野の入会権は帳簿に載らない重要な権利

阿蘇の畜産では、牧野組合が管理する草原を放牧や採草に利用してきた経緯があります。この利用の根拠になっているのが、地域の慣習に基づく入会権です。

入会権は登記されないことが多く、決算書にも出てきません。それでも、牧野を使えるかどうかは畜産経営の継続に直結します。承継を考えるときは、必ず現在の権利関係を確認しておく必要があります。

詳しくは後ほどの章で解説しますが、「株式を譲れば牧野も一緒についてくる」という理解は誤りになりかねない点に注意が必要です。

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旅館・ペンション・観光業の事業承継で気をつけること

旅館・ペンション・観光業の事業承継で気をつけることのイメージ画像

内牧や阿蘇の山あいには、代々続いてきた旅館や、移住して始められたペンションが多くあります。観光業の承継では、建物や予約顧客よりも先に、許認可の引き継ぎ方を確認しておくことが大切です。

旅館業の許可は、承認を受ければ引き継げるようになった

旅館業の許可は、かつては事業譲渡で引き継ぐことができず、譲り受ける側が新たに許可を取り直す必要があるとされていました。

この点について、令和5年12月13日に施行された改正旅館業法により、合併・分割に加えて事業譲渡による地位の承継についても、都道府県知事等の承認を受ける仕組みが設けられています。承認を受けることで、譲受人が営業者の地位を引き継げるのが原則です。

ただし、これは事前の承認申請が必要な手続きであり、届出をすれば足りるというものではありません。譲渡予定日から逆算して、余裕をもって管轄の保健所に相談することをおすすめします。

運用の詳細や必要書類は自治体によって異なりますので、必ず最新の案内をご確認ください。

相続のときは期限に注意が必要

営業者が亡くなった場合、相続人が営業を続けるには、死亡後60日以内に承認を申請して承認を受ける必要があるとされています。この期限を過ぎると、改めて新規の許可を取り直すことになるのが原則です。

ご家族が亡くなった直後は、葬儀や相続の手続きで手いっぱいになりがちです。その間に60日が過ぎてしまい、宿を一時休業せざるを得なくなったというご相談も現実に起こり得ます。

相続人が複数いる場合は、誰が営業を引き継ぐのかを早い段階で決める必要があります。遺産分割の話し合いが長引きそうなときほど、先に許可の手続きだけを進められないかを保健所に相談しておくとよいでしょう。

温泉を使っている場合の権利の確認

阿蘇地域の旅館の多くは温泉を利用しています。温泉については、温泉法に基づく許可や、源泉の所有者・組合との間の利用契約が関わってきます。

源泉を自分で所有している場合と、他人の源泉から分湯を受けている場合とでは、承継のときに必要な手続きが変わります。分湯契約は、経営者が代わるときに相手方の承諾が必要とされていることがあるためです。

契約書が見当たらず、長年の口約束で湯を引いているというケースもあります。この場合は、承継の前に書面化しておくことを強くおすすめします。

建物が借地・借家の場合は賃貸人の承諾を確認する

旅館の建物や駐車場が借地・借家である場合、事業譲渡や会社分割の形で承継すると、賃借人の地位を移すために賃貸人の承諾が必要になることがあります。

一方、株式譲渡の形で会社ごと引き継ぐ場合は、契約の当事者である会社自体は変わりません。ただし、契約書に「経営権の変動があった場合は解除できる」といった条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が入っていることもあるため、契約書の確認が欠かせません。

どちらの方法を選ぶかによって必要な手続きが変わりますので、契約書を一通り確認したうえで方式を決めるのが安全です。

別記事では「熊本市で事業承継を進める手順と管轄の整理」、「事業承継の株式譲渡の方法とメリット・税金の特例」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

あか牛の畜産・農業を引き継ぐときの手続き

阿蘇は褐毛和種、いわゆるあか牛の産地として知られています。畜産の承継は、牛という動産、農地という不動産、そして牧野の利用権という3つをそろえて初めて成り立ちます。

農地法3条の許可は誰が申請するのか

親から子へ農地を生前に贈与する場合も、第三者に譲る場合も、原則として農地法3条の許可が必要です。許可の申請は、譲る側と譲り受ける側が共同で行うのが原則とされています。

許可にあたっては、取得した農地をすべて効率的に耕作・利用すると認められること、必要な農作業に常時従事すると認められることなどが審査されます。要件の詳細や運用は地域によって異なりますので、阿蘇市や各町村の農業委員会にご確認ください。

第三者への承継を考えるときは、この要件を相手方が満たせるかどうかが最初の関門になります。会社員の方が脱サラして牧場を引き継ぐ、といったケースでは、営農計画の作り込みが必要になることが多いといえます。

牛と施設の引き継ぎには届出が伴う

飼養している牛を引き継ぐ場合、牛の個体識別に関する法律(牛トレーサビリティ法)に基づき、飼養者の変更について届出が必要とされています。

また、堆肥舎や処理施設については、家畜排せつ物の管理に関する法律に基づく基準への適合が求められます。施設が古い場合、承継を機に改修が必要になることもありますので、事前に点検しておくと安心です。

牛を商売として売買する立場に立つ場合は、家畜商の免許が必要になることもあります。どの範囲の行為に免許が要るかは個別の事情によりますので、県の畜産担当部署に確認してください。

法人化してから承継するという選択肢

個人で営んできた農業や畜産を、いったん法人にしてから株式の形で承継する方法があります。法人であれば、農地以外の設備や許認可、従業員との雇用契約をまとめて引き継ぎやすくなるのが利点です。

ただし、法人が農地の所有権を取得するには、農地所有適格法人の要件を満たす必要があるのが原則です。役員の構成や議決権の割合などに条件がありますので、法人化の設計段階から確認しておく必要があります。

法人化には設立費用や社会保険の負担などの面もありますので、税理士を交えて損得を見比べたうえで判断するのが現実的です。

別記事では「農業の法人化は事業承継に有利?農地所有適格法人の要件」、「熊本で農業の後継者を募集する方法と農地法3条の許可」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

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牧野の入会権はどのように引き継がれるのか

阿蘇の事業承継で、もっとも誤解が生じやすいのが牧野の権利です。ここだけは、一般的なM&Aの知識では対応できない部分があります。

入会権は集団のもので、持分を売り買いできないのが原則

入会権は、民法上、各地方の慣習に従うとされており、権利の中身は地域ごとに異なります。もっとも、一般には、入会集団の構成員全員が一体として権利を持つ形(総有)であると理解されています。

このため、構成員が自分の持分だけを他人に売ったり、単独で相続させたりすることは、原則としてできないと考えられています。つまり、「牧野を使う権利」だけを切り出して譲渡する、という発想が通用しない場面があるということです。

阿蘇の牧野組合でも、組合員としての資格があって初めて草原を利用できる、という組み立てになっていることが多いと考えられます。

資格の承継は、組合の規約と地域の慣習で決まる

では、親から子へ牧場を継ぐときに牧野を使い続けられるのかというと、これは牧野組合の規約と、その地域で積み重ねられてきた慣習によって決まります。

規約に「組合員が死亡したときは、その世帯を引き継ぐ者が組合員となる」といった定めが置かれていることもあれば、総会の承認を要件としていることもあります。まずは規約と直近の総会議事録を確認することが出発点になります。

規約が古く、現在の実態と合っていないこともあります。承継を機に、組合側と話し合って整理しておくほうが、後々の行き違いを防げます。

第三者承継・法人化のときに起きやすい行き違い

親族外の第三者に事業を譲る場合や、個人から法人に切り替える場合は、「個人としての組合員」が入れ替わることになります。この点を事前に組合へ相談せずに進めると、譲渡の後で牧野を使えないと言われてしまうおそれがあります。

実務上は、譲渡契約を結ぶ前に、組合員としての地位を引き継げるかどうかを確認し、その結果を契約書の前提条件として書いておくという進め方が考えられます。

買い手の側から見れば、牧野が使えるかどうかは価格を左右する要素です。曖昧なまま話を進めるより、先に確認してしまうほうが、結果的に交渉がまとまりやすくなります。

  • 牧野組合の規約と総会議事録を確認する
  • 組合員資格を引き継げるかを、譲渡の前に組合へ相談する
  • 確認の結果を、契約書の前提条件や表明保証として書面に残す
  • 法人化する場合は、法人が組合員になれるかどうかを個別に確認する

阿蘇地域の手続きはどの窓口で行うのか

阿蘇地域の手続きはどの窓口で行うのかのイメージ画像

阿蘇市・阿蘇郡で承継を進めるとき、手続きの窓口は熊本市内とは限りません。どこに行くことになるのかを、あらかじめ把握しておきましょう。

なお、管轄は変更されることがありますので、実際に動く前に各機関の最新の案内をご確認ください。

手続きの内容窓口備考
不動産・商業登記熊本地方法務局 阿蘇大津支局阿蘇市・阿蘇郡のほか菊池市・合志市・大津町・菊陽町も管轄
相続放棄・遺産分割調停熊本家庭裁判所 阿蘇支部阿蘇市と阿蘇郡の町村が対象
民事訴訟・保全熊本地方裁判所 阿蘇支部不動産競売・債権執行は熊本地裁本庁が扱う
農地法3条の許可・届出阿蘇市および各町村の農業委員会農地のある市町村ごとに申請する
旅館業・飲食店営業の許可管轄の保健所承継の承認申請は事前に相談する
後継者探し・無料相談熊本県事業承継・引継ぎ支援センター後継者人材バンクの登録も扱う

登記は熊本地方法務局 阿蘇大津支局

阿蘇市および阿蘇郡の不動産登記・商業登記は、熊本地方法務局の阿蘇大津支局が管轄しています。この支局は、菊池市・合志市・大津町・菊陽町も含む広い範囲を受け持っています。

株式会社の役員変更登記や、事業用不動産の所有権移転登記は、この支局で手続きすることになります。オンライン申請や郵送での申請も可能ですが、書類の内容を相談したい場合は窓口が便利です。

登記すべき内容を長く放置していると、過料の対象になることもあります。代表者の交代が決まったら、期限内に登記を済ませてください。

相続に関する裁判所の手続きは阿蘇支部

相続放棄の申述や、遺産分割がまとまらないときの調停は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てるのが原則です。阿蘇市・阿蘇郡にお住まいだった場合は、熊本家庭裁判所阿蘇支部が窓口になります。

相続放棄には、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月という期間の制限があります。事業に多額の借入がある場合、この3か月の間に財産と負債を調べ切れるかが重要になります。

調査に時間がかかりそうなときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てる方法もあります。期限が迫っている場合は、早めに弁護士へご相談ください。

裁判と執行手続きで扱う裁判所が分かれる

民事訴訟や保全(仮差押えなど)は熊本地方裁判所阿蘇支部で扱われますが、執行事件については扱いが分かれています。

具体的には、不動産競売と債権に関する執行事件は熊本地方裁判所の本庁が扱い、その他の執行事件は阿蘇支部が扱うとされています。債権回収を考える場面では、どちらに申し立てるのかを間違えないよう注意が必要です。

事業承継との関係では、売掛金が回収できないまま承継の話が進んでいるケースなどで、この区別が問題になることがあります。

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親族に継がせられないときの第三者承継という選択

お子さんが県外で就職されている、あるいは事業を継ぐ意思がないという理由で、親族内の承継が難しいご家庭は少なくありません。その場合でも、廃業しか道がないわけではありません。

阿蘇の事業に関心を持つ買い手は実際にいる

観光地としての阿蘇の知名度は高く、宿泊施設や飲食店については、県外の事業者や移住を考える個人から関心が寄せられることがあります。畜産についても、規模拡大を考える同業者が引き受け手になる場合があります。

ただし、立地や施設の状態、許認可の引き継ぎやすさによって、関心の集まり方は大きく変わります。「売れるかどうか」は、実際に打診してみないとわからない部分が大きいのが実情です。

決算の内容に自信がなくても、まずは相談してみる価値があります。土地建物や許認可そのものに価値が認められることもあるためです。

公的な窓口と民間の仲介をどう使い分けるか

熊本県事業承継・引継ぎ支援センターは、国の委託を受けて設置されている公的な窓口で、相談は原則として無料です。後継者人材バンクを通じて、独立を考える個人とつなぐ取り組みも行われています。

一方、民間の仲介会社やM&Aプラットフォームは、より広い範囲から買い手を探せる反面、成功報酬などの費用がかかります。どちらが向いているかは、事業の規模や急ぎ具合によって変わります。

まずは公的な窓口で全体像を聞き、必要に応じて民間の支援を併用するという進め方が、費用を抑えるうえでは現実的です。

情報が広がることのリスクに備える

阿蘇のような地域では、「あそこは売りに出すらしい」という話が、従業員や取引先、同業者の間で思いのほか早く伝わることがあります。話がまとまる前に広まると、従業員の離職や取引の縮小につながりかねません。

そのため、検討の初期段階から秘密保持契約を結び、誰にいつ伝えるかの順番をあらかじめ決めておくことが大切です。特に、長く勤めてくれた従業員への伝え方は、丁寧に設計する必要があります。

相談する相手を選ぶ段階から、情報管理をどう考えているかを確認しておくと安心です。

別記事では「熊本県事業承継・引継ぎ支援センターの無料相談はどこまで使えるか」、「菊池市の事業承継と、市内で分かれる裁判所・法務局の管轄」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

阿蘇の事業承継についてよくあるご質問

最後に、阿蘇市・阿蘇郡の経営者の方からよくいただくご質問をまとめます。

準備はいつから始めればよいですか

一般には、後継者の育成や株式の移転、許認可の整理まで含めると、数年単位の時間がかかるといわれています。60代に入られたら、まず現状の棚卸しだけでも始めておくことをおすすめします。

ただし、何歳からでなければ遅い、というものではありません。ご本人がお元気なうちに意思を示しておくことが、いちばんの備えになります。

旅館の建物が古く、価値がないと言われました

建物の評価が低くても、営業許可、温泉の利用権、立地、予約の顧客基盤などが評価されることがあります。建物単体の価格だけで判断するのは早計です。

一方で、耐震性や消防法上の基準を満たしていない場合は、買い手が改修費を見込んで価格を引き下げる交渉をしてくることもあります。事前に点検して、どこまで手を入れる必要があるかを把握しておくと交渉がしやすくなります。

相続人が県外にいて話がまとまりません

相続人の方が県外にお住まいの場合、集まって話し合う機会自体をつくりにくいという問題があります。書面やオンラインでのやり取りを併用しながら、事業を続けるために何が必要かを共有するところから始めるのが現実的です。

話し合いがまとまらないときは、熊本家庭裁判所阿蘇支部に遺産分割調停を申し立てる方法があります。ただし、調停には時間がかかりますので、事業の継続に支障が出る前に、生前の遺言書で道筋をつけておくことが望ましいといえます。

牧野を使えなくなると、畜産は続けられませんか

放牧や採草を牧野に頼ってきた経営では、牧野が使えなくなることの影響は小さくありません。飼料の購入費が増え、採算が変わってしまうこともあります。

だからこそ、承継の検討を始めた段階で、牧野組合との関係を確認しておくことが重要です。使えるという前提で話を進めてから覆ると、やり直しがききません。

どの専門家に相談すればよいですか

税金の試算は税理士、登記は司法書士、許認可は行政書士というように、分野ごとに専門家が分かれています。弁護士は、株式や遺産をめぐる争いの予防、契約書の作成、保証や債務の整理といった法律上の調整を担当します。

阿蘇の事業承継では、許認可・農地・入会権といった複数の論点が絡むため、どの順番で誰に相談するかを整理するだけでも前に進みます。迷われたときは、まず全体像を一緒に整理するところからお手伝いできます。

阿蘇市・阿蘇郡の事業承継は、株式や預金を渡すだけでは終わりません。旅館業の許可、農地や採草放牧地の権利、そして牧野の入会権という、その土地ならではの権利を一つずつ確認していく作業が必要になります。

登記は熊本地方法務局阿蘇大津支局、相続の調停や相続放棄は熊本家庭裁判所阿蘇支部というように、窓口も地域ごとに分かれています。どこで何をするのかを先に押さえておくだけでも、動き出しは早くなります。

そして、どの論点も「早く確認しておけばよかった」と後から言われることの多いものばかりです。ご家族がお元気なうちに、名義と許認可と権利関係だけでも整理しておくことを強くおすすめします。

当事務所では、熊本市・八代市を中心に事業承継のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

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