菊池市の事業承継はどう進める?畜産・農業・運送業の引き継ぎと市内で分かれる裁判所・法務局の管轄を熊本の弁護士が解説!

CATEGORY

西田 幸広 弁護士

監修者:弁護士 西田幸広

法律事務所Si-Law代表 / 熊本県八代市出身 / 熊本を中心に企業法務支援

菊池市で長年続けてこられた牧場や農家、運送会社、工務店を「そろそろ息子に渡したい」「継ぐ人がいないまま年を越してしまった」とお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

菊池市は畜産と農業の一大産地であり、近年は隣接する菊陽町・合志市の半導体関連の動きを受けて、建設業や運送業の仕事も増えています。ところが、牛や豚そのもの、畜舎、農地、トラック、許可——引き継ぐ対象がそれぞれ別の法律で動くため、「どこから手を付ければいいのかわからない」というご相談が少なくありません。

さらに菊池市には、他の市にはあまりない事情があります。平成17年(2005年)の合併を経た関係で、同じ菊池市内でも地域によって管轄の裁判所が分かれており、不動産の登記と会社の登記でも窓口が違うのです。

そこで本記事では、菊池市で事業承継を進めるときに最初に確かめるべきこと、畜産・農業・運送業それぞれの引き継ぎの注意点、そして市内で分かれる裁判所・法務局の管轄と相談窓口を、熊本市・八代市を中心にご相談をお受けしている弁護士の立場から解説していきます。

\事業承継、何から始めるか迷ったら/

菊池市で事業承継の相談が増えている背景

菊池市の事業承継で手続きごとに窓口が分かれることを示した図解

菊池市は、熊本県の中でも農業・畜産の比重が際立って大きい地域です。そのうえ、近年は熊本都市圏の北東部という立地から、製造業に関連する仕事も増えています。

この「一次産業の厚み」と「近年の仕事の増加」が同時に起きていることが、菊池市の事業承継を特徴づけています。

農業産出額は県内最大、しかも7割が畜産

熊本県の統計では、令和4年の菊池地域の農業産出額は648.0億円で、県内シェアは18.5%と県内で最大規模とされています。

注目すべきはその内訳です。畜産が440.5億円で約68%を占め、野菜が117.0億円(約18%)、米麦等が40.3億円(約6%)という構成になっています。つまり菊池市の事業承継は、相当な割合が「畜産の承継」なのです。

畜産は、田畑を引き継ぐ農業とは引き継ぎ方がかなり違います。生きた家畜という動産があり、畜舎・堆肥舎という施設があり、衛生管理や排せつ物処理の届出があり、さらに補助事業で導入した設備が混じっていることも多いためです。

菊陽町・合志市に近く、建設業と運送業の仕事が増えている

菊池市は菊池郡菊陽町・大津町や合志市と隣接しています。この一帯の製造業の動きを受けて、土木・建築、設備工事、資材運搬、産業廃棄物の収集運搬といった事業者の受注が増えているという実感をお持ちの方は多いと思われます。

仕事が増えている時期の事業承継は、一見すると追い風のように見えます。しかし実際には、「受注が増えて現場が回らないうちに社長が体調を崩した」「人手を増やしたいが保証や資金の話が社長個人に紐づいていて動けない」という形で、承継の遅れが経営のボトルネックになりやすい局面でもあります。

平成17年の合併で、同じ市内でも事情が違う

現在の菊池市は、平成17年(2005年)に旧菊池市・旧七城町・旧泗水町・旧旭志村が合併して成立しました。

この合併の経緯が、後で述べるとおり裁判所の管轄に残っています。同じ菊池市内でも、どの旧市町村の区域にお住まいかによって、相続や後見の申立てをする裁判所が変わるのが原則です。

「隣の集落の人と同じ窓口でいいと思っていた」という思い込みが、申立ての差し戻しや二度手間につながることがあります。

菊池市の事業承継で最初に確かめる3つのこと

業種にかかわらず、最初に確かめていただきたいのは「何を、どういう形で渡すのか」という枠組みです。ここを決めずに税金や価格の話から始めると、後から手続きごとやり直しになることがあります。

渡し方引き継がれるもの許可・届出の扱い向いている場面
株式譲渡(法人)会社ごと。資産・契約・許可・債務も原則そのまま法人格が変わらないため、原則として許可は継続法人で、許可や取引契約が多い事業
事業譲渡(法人・個人)譲渡契約で決めた資産・契約だけ許可は原則として引き継げず、認可や取り直しが必要になることが多い一部の事業だけを渡したい場合
個人事業の引き継ぎ個人の資産を個別に移す。屋号は別問題事業主が変わるため、原則として許可・届出のやり直しが必要親子間で、資産も少数の場合
相続による承継遺産分割で決まった範囲期限内に認可申請や届出をしないと失効する許可がある準備前に相続が起きてしまった場合

個人事業か法人かで、引き継ぐ対象がまったく変わる

菊池市の牧場や農家、工務店では、法人化しているところと、個人事業のまま続けてこられたところが混在しています。

法人であれば、引き継ぐ主役は「株式(出資持分)」です。株式が移れば、会社名義の畜舎やトラック、取引契約、許可は原則としてそのまま残ります。

一方、個人事業の場合は、農地、畜舎、家畜、機械、取引名義を一つずつ移していくことになります。手数が増えるぶん、どこか一つを忘れると後から問題が表に出やすいのが実情です。

許可・届出が「人」に付いているか「法人」に付いているか

事業承継の実務で最も見落とされやすいのが、許認可の名義です。建設業許可、一般貨物自動車運送事業の許可、産業廃棄物収集運搬業の許可、食品関係の営業許可は、いずれも許可を受けた者に対して出されています。

したがって「同じ屋号で続けるつもりだから大丈夫」とは限りません。誰が許可の主体なのかを先に確認し、渡し方を選ぶ必要があるのが原則です。

家族名義・個人名義になっている資産を棚卸しする

家族経営では、畜舎の敷地が先代名義、トラックが奥様名義、作業小屋が亡くなった親御さんの名義のまま——といった状態が珍しくありません。

この状態のまま代替わりをすると、後継者が事業を続けているのに、肝心の資産について他の相続人が権利を持っているという不安定な形が残ります。

まずは登記簿、車検証、固定資産税の課税明細、農地台帳をそろえて、「事業に使っているのに名義が事業主でないもの」を洗い出すところから始めるのが確実です。

\事業承継、何から始めるか迷ったら/

畜産(牛・豚・酪農)を引き継ぐときに見落としやすい点

畜産を引き継ぐときに見落としやすい点のイメージ画像

菊池市の事業承継では、畜産の比重が大きいことを踏まえた準備が必要になります。畜産には、他の業種にない独特の論点がいくつもあります。

家畜は動産、畜舎は不動産——書面を分けて作る

牛や豚は法律上「動産」であり、所有権は原則として引渡しによって移ります。これに対し、畜舎や堆肥舎は建物であり、登記によって名義を整えるのが原則です。

この違いを意識せずに「牧場一式を譲る」という一枚の書面だけで済ませてしまうと、何頭をいつの時点で渡したのか、まだ出荷前の個体は誰のものかが曖昧になります。

実務では、家畜の譲渡(頭数・個体識別番号・引渡日・価格の決め方)と、施設・土地の譲渡を、別の書面として整理しておくほうが後の争いを防ぎやすくなります。

牛の個体識別台帳と飼養衛生管理の名義を切り替える

牛については、牛の個体識別情報の管理及び伝達に関する特別措置法(牛トレーサビリティ法)に基づき、管理者が出生や譲渡・譲受けの届出を行うこととされています。管理者が変わるときは、この届出を忘れないことが大切です。

また、家畜伝染病予防法に基づく飼養衛生管理基準への対応や、飼養状況の報告も、事業主が変われば名義の整理が必要になります。

これらは税金や価格の話に比べて地味ですが、届出が整っていないと、その後の検査や補助事業の申請で引っかかることがあります。最新の手続きは、県の家畜保健衛生所にご確認ください。

家畜排せつ物の処理施設と、周辺との関係も引き継ぐ

家畜排せつ物の管理に関する法令上の基準への対応、堆肥の販売や散布の取り決め、近隣との間で交わしてきた約束——これらは帳簿に出てこないのに、承継後にもっとも揉めやすい部分です。

とくに口約束で続いてきた「この時期は散布を控える」「堆肥はあの農家に回している」といった取り決めは、代が替わった途端に認識のずれが表に出ます。

承継の準備段階で、文書になっていない取り決めを後継者と一緒に書き出しておくことをおすすめします。

補助事業で導入した施設は、勝手に譲渡できないことがある

畜産クラスター事業など、国や県の補助を受けて畜舎や機械を導入している場合、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律により、一定期間は財産の処分(譲渡・担保提供・目的外使用)が制限されるのが原則です。

この点を知らずに資産を移してしまうと、補助金の返還を求められる可能性があります。

承継の方法を決める前に、過去の補助事業の交付決定通知と、処分制限期間を確認しておくことが重要です。処分の承認が必要かどうかは、交付元の窓口に照会するのが確実です。

なお、株式譲渡で会社ごと渡す場合は、設備の所有者(法人)が変わらないため、事業譲渡の場合とは扱いが異なるのが一般的です。どの渡し方を選ぶかが、ここでも効いてきます。

米・メロン・ごぼう——菊池市の農地と施設を引き継ぐとき

菊池市は、菊池米や七城のこめ、メロン、いちご、水田ごぼう、スイカなど、野菜・米の産地としても知られています。農地が絡む承継には、会社の承継とは別の手続きが入ります。

農地の権利移動には農業委員会の許可か届出が必要になる

農地を売買・贈与したり、貸し借りしたりする場合には、農地法第3条に基づく農業委員会の許可を受けるのが原則です。許可を受けないままの契約は効力が認められないことがあります。

もっとも、相続によって農地を取得した場合は、許可ではなく農業委員会への届出で足りるのが原則とされています。「親から子へ」という同じ結果でも、生前に渡すのか相続で渡るのかで手続きが変わるわけです。

どちらの道を選ぶかは、税金だけでなく、他の相続人との関係や、後継者が営農を続けられる体制があるかどうかで判断することになります。

ハウス・乾燥機・育苗施設は農地と別に譲渡の書面を作る

メロンやいちごのハウス、米の乾燥調製施設、育苗施設、トラクターや管理機といった機械類は、農地そのものとは別の財産です。

一代で作り上げた販路や栽培の技術は引き継げても、設備の名義が整っていなければ、後継者は担保に入れることも買い替えることもできません。

リース中の機械や、共同利用のために他の農家と費用を出し合った施設がある場合は、その契約関係も合わせて確認しておく必要があります。

JAの組合員資格と、出荷・精算の名義を切り替える

出荷先がJAである場合、組合員資格や出荷契約の名義、精算金の振込口座をどう切り替えるかを決めておく必要があります。

ここが整っていないと、承継後の最初の出荷で精算金が先代の口座に入ってしまい、相続財産との区別がつかなくなるという、ごく実務的なトラブルが起きます。

出荷の時期を考えると、切り替えのタイミングは作型に合わせて逆算して決めるのが現実的です。

別記事では「熊本で農業の後継者を募集するには?第三者継承の流れ・農地法3条の許可と機械や施設の譲渡の注意点」、「農業の法人化は事業承継に有利?農地所有適格法人の要件・親子間の進め方と納税猶予の注意点」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

\事業承継、何から始めるか迷ったら/

運送業・建設業・設備工事業を引き継ぐときの許可の問題

運送業・建設業・設備工事業を引き継ぐときの許可の問題のイメージ画像

菊池市では、資材の運搬や土木・建築、設備工事を手がける事業者の承継のご相談も増えています。これらは許可事業であるため、「渡し方」を間違えると事業が止まるおそれがあります。

業種株式譲渡で渡す場合事業譲渡・個人の代替わりで渡す場合相続で渡る場合
一般貨物自動車運送事業法人が変わらないため、原則として許可は継続事業の全部を対象とする譲渡譲受の認可を受けるのが原則被相続人の死亡後60日以内に認可を受ける必要があるとされている
建設業原則として許可は継続事前に認可を受けて許可を承継できる制度がある(令和2年10月施行)一定の期間内に認可を申請する必要がある
産業廃棄物収集運搬業原則として許可は継続事業譲渡では引き継げないのが原則で、新たな許可が必要届出により一定期間継続できる場合がある
飲食店・食品製造の営業許可原則として許可は継続営業者が変わるため、承継の届出または新たな許可が必要届出により承継できる場合がある

株式譲渡なら許可はそのまま、事業譲渡だと認可が必要になる

法人の株式を譲渡する場合は、会社という許可の主体が変わらないため、許可は原則としてそのまま残ります。これが、許可事業の承継で株式譲渡が選ばれやすい理由です。

これに対し事業譲渡の場合は、許可の主体が変わります。一般貨物自動車運送事業では、事業の全部を対象とする譲渡譲受について認可を受けるのが原則とされており、個人から法人になる場合も同様です。

「法人化したいから事業譲渡で」と安易に進めると、認可が下りるまで営業できない期間が生じるおそれがあります。順番を含めて事前に設計しておくことが大切です。

相続で継ぐときは期限がある——間に合わないと許可を失う

個人で許可を得て事業をされていた方が亡くなった場合、相続人が事業を続けるには期限内の手続きが必要になります。

一般貨物自動車運送事業については、被相続人の死亡後60日以内に認可を受けることが必要とされており、この期間を過ぎると申請できないとする運用が案内されています。

建設業についても、事前の認可により許可を承継できる制度が令和2年10月から設けられており、相続の場合も一定の期間内に認可を申請することとされています。

いずれも日数が短いため、「四十九日が終わってから」では間に合わないことがあります。期限と必要書類は、管轄の運輸支局や県の建設業の窓口で最新のものをご確認ください。

運行管理者・専任技術者という「人」の要件も承継の対象

許可事業では、許可そのものとは別に、一定の資格や実務経験を持つ人を置くことが求められるのが通常です。運送業の運行管理者や整備管理者、建設業の経営業務の管理責任者や専任技術者がこれにあたります。

先代が自らこの役割を担っていた場合、代替わりと同時に要件を満たす人がいなくなり、許可の維持が難しくなることがあります。

後継者が資格を取るまでに時間がかかるのであれば、承継の時期そのものを資格の取得時期に合わせて設計するという考え方も必要になります。

菊池市で手続きを進めるときの管轄は市内で2つに分かれる

ここが菊池市で事業承継を進めるときの、最も実務的で、かつ知られていない注意点です。

菊池市は、裁判所の管轄が市内で分かれているのが原則です。そのうえ、不動産の登記と会社の登記でも窓口が違います。

手続き菊池市の窓口対象となる区域など
相続・遺産分割・後見などの家庭裁判所の手続き熊本家庭裁判所 山鹿支部(山鹿簡易裁判所)旧菊池市・旧七城町・旧旭志村の区域
相続・遺産分割・後見などの家庭裁判所の手続き熊本家庭裁判所 本庁(熊本簡易裁判所)旧泗水町の区域
不動産(農地・畜舎・工場)の登記熊本地方法務局 阿蘇大津支局菊池市・合志市・菊池郡(大津町・菊陽町)など
会社・法人の登記(役員変更など)熊本地方法務局 本局菊池市を含む県北の広い区域

裁判所は旧市町村の区域で山鹿支部と本庁に分かれる

裁判所の管轄区域の一覧によると、菊池市のうち旧菊池市・旧七城町・旧旭志村の区域は熊本地方裁判所・家庭裁判所の山鹿支部および山鹿簡易裁判所の管轄とされ、旧泗水町の区域は熊本地方裁判所・家庭裁判所の本庁および熊本簡易裁判所の管轄とされています。

事業承継の場面でこれが効いてくるのは、相続が起きた後の遺産分割調停、遺言書の検認、先代の判断能力が落ちたときの後見開始の申立てといった手続きです。

どちらに申し立てるかは住所によって決まるのが原則ですので、ご自宅や会社の所在地が旧どの町村の区域かを、早めに確認しておくと手戻りを防げます。

不動産の登記は阿蘇大津支局、会社の登記は本局

熊本地方法務局の管轄区域一覧では、菊池市の不動産登記は阿蘇大津支局が、会社・法人の登記は本局が扱うものとされています(阿蘇大津支局では、商業・法人登記について証明書の交付や印鑑に関する事務のみを取り扱うとされています)。

つまり、代替わりに伴って「畜舎の敷地の名義を変える」「役員を変更する」を同時に行う場合、書類を出す先が二つに分かれるということです。

司法書士に依頼する場合は問題になりにくいのですが、ご自身で進める予定の方は、往復の手間を見込んでスケジュールを組んでおくのが現実的です。最新の管轄は法務局のご案内でご確認ください。

菊池市商工会・金融機関・県のセンターの使い分け

菊池市では、市・菊池市商工会・地元金融機関・日本政策金融公庫熊本支店・熊本県商工会連合会が、中小・小規模事業者の事業承継支援について連携する協定を結んだと紹介されています。身近な窓口から相談を始められる環境が整えられてきています。

大まかには、現状の整理や支援制度の情報収集は商工会や県のセンター、資金の相談は取引金融機関、そして株式や農地の名義、遺留分、契約書の条項といった権利関係の詰めは弁護士、という使い分けが現実的です。

どの窓口も無料で相談できる部分がありますので、まず話を聞いてもらうところから始めても遅くはありません。

別記事では「熊本県事業承継・引継ぎ支援センターの無料相談はどこまで?後継者人材バンクの流れ・費用と弁護士に頼む場面」、「事業承継は取引銀行に相談していい?熊本の地元金融機関に頼める支援と手数料・情報管理の注意点」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

\事業承継、何から始めるか迷ったら/

家族経営でもめやすい論点と、先に手を打てること

菊池市の牧場や農家、工務店の多くは家族経営です。家族だからこそ曖昧にしてきたことが、相続の場面で一気に表に出ます。

一緒に働いてきた貢献は、相続分にそのまま反映されにくい

後継者が20年、30年にわたって牧場や現場を支えてきたとしても、その貢献が法定相続分に自動的に上乗せされるわけではありません。

寄与分や特別受益といった制度で調整を求める道はありますが、主張するには記録や事情の裏付けが必要で、協議がまとまらなければ家庭裁判所の手続きになります。

「長年やってきたから当然自分が継ぐ」という前提は、兄弟姉妹の側から見ると「給与をもらって働いていただけ」と映ることがあります。この認識の差が、承継が壊れる典型的な入口です。

遺留分と、分けられない事業用資産という問題

事業用の資産は、財産の大部分を占める一方で、分割すると事業が成り立たなくなるという性質を持っています。畜舎と農地と家畜を三等分して、牧場が回るはずがありません。

そこで、遺言で後継者に事業用資産を集めることが多いのですが、他の相続人の遺留分という制約が残ります。

遺留分に相当する金銭をどう用意するのか、生命保険を使うのか、事業承継税制や民法の特例を検討するのか——これは早く着手したほうが選べる手段が多くなる論点です。

判断能力が落ちてからでは、打てる手が大きく減る

先代が認知症などで判断能力を失うと、株式の譲渡も農地の移転も遺言の作成も原則としてできなくなります。畜産や農業は体力を使う仕事であり、急な入院で一気に状況が変わることも少なくありません。

元気なうちに、遺言、任意後見契約、株式の種類や議決権の設計、生前贈与といった選択肢を整理しておくことが、結果的にいちばん負担の少ない道になります。

「まだ現役だから」というお気持ちはよくわかりますが、準備だけは早めに進めておく価値があります。

別記事では「事業承継で連帯保証人はどうなる?経営者保証の解除要件と相続時の扱い」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

親族内に継ぐ人がいないときの選択肢と費用の見通し

お子さんが熊本市内や県外にお勤めで、戻る見込みがないというご相談も多くいただきます。親族内に継ぐ人がいない場合でも、道は一つではありません。

従業員承継は、買い取り資金と経営者保証が論点になる

長く勤めてきた従業員に継いでもらう形は、現場の継続性という点では最も自然です。ただ、株式を買い取る資金と、金融機関の経営者保証をどう引き継ぐかという二つのハードルがあります。

資金については、役員退職金と株価の調整、分割払い、金融機関からの借入れといった組み合わせを検討することになります。

保証については、一定の要件を満たせば解除や引き継がない形を相談できる枠組みが整えられてきています。取引金融機関との話し合いを早めに始めるのが得策です。

第三者承継(M&A)は、情報の出し方を先に決めておく

第三者に譲る場合、最も気を遣うのが情報管理です。牧場や工場の所在地、従業員数、取引先がわかる資料が、社名を伏せていても地域内では容易に特定されてしまうことがあります。

菊池市のように同業者の顔が見えるコミュニティでは、「売りに出している」という話が従業員や取引先に先に伝わると、承継そのものが壊れます。

どの段階で誰に伝えるか、秘密保持契約をどう結ぶか、独占交渉を認めるのかといった点を、相手探しを始める前に決めておくことをおすすめします。

廃業を選ぶ場合も、許可・農地・家畜の整理が残る

どうしても継ぐ人が見つからず、廃業を選ぶ場合もあります。その場合でも、許可の廃止届、農地をどうするか、家畜の処分、リース契約の清算、従業員の雇用、借入金の整理といった作業が残ります。

とくに農地は、耕作されなくなった後の管理や税の扱いが問題になりやすく、畜舎は解体費用が想定より重くなることがあります。

廃業にも相当の費用と時間がかかりますので、「継がせられないから畳むしかない」と決める前に、一度第三者承継の可能性を含めて比べてみる価値はあります。

別記事では「事業承継の費用は総額いくら?熊本の中小企業の内訳相場と税金・専門家報酬・登記費用を抑える方法」についても解説していますので、あわせてご覧ください。

\事業承継、何から始めるか迷ったら/

菊池市の事業承継についてよくあるご質問

菊池市の事業者の方からいただくことの多いご質問にお答えします。

旧泗水町と旧七城町で、本当に手続き先が違うのですか

裁判所の管轄区域については、旧菊池市・旧七城町・旧旭志村の区域が山鹿支部、旧泗水町の区域が熊本の本庁とされているのが原則です。

一方、不動産の登記は菊池市全体が阿蘇大津支局、会社の登記は本局とされています。つまり「裁判所は分かれるが、法務局は分かれない」という形です。

ご自身の案件がどこに該当するかは、住所と手続きの種類の組み合わせで決まりますので、迷われた場合はお問い合わせください。

牛や豚を引き継ぐとき、価格はどう決めればよいですか

家畜は、月齢や繁殖の状況、相場によって評価が動くため、「契約日時点の頭数で確定する方法」と「引渡日の相場で精算する方法」のどちらを採るかを先に決めておく必要があります。

親子間で無償または低い価格で渡す場合は、贈与税や、法人が絡むときの税務上の取扱いという別の問題が出てきます。

評価と税務は税理士、契約条項の設計は弁護士、という形で分担しながら進めるのが安全です。個別の事情により結論が変わりますので、具体的な数字は専門家にご相談ください。

合志市や菊陽町、大津町でも同じ流れになりますか

基本的な流れは同じです。ただし管轄が異なります。合志市と菊池郡(大津町・菊陽町)は、裁判所については熊本の本庁の管轄とされており、不動産の登記は菊池市と同じ阿蘇大津支局が扱うものとされています。

産業の構成も少し異なり、合志市・菊陽町では製造業や物流、サービス業の承継のご相談が比較的多くなります。

業種が違えば論点も変わりますので、まずは「何を、どういう形で渡したいか」をお聞かせいただければ、必要な手続きを整理してご案内できます。

菊池市の事業承継は、県内最大規模の農業・畜産という土台があり、近年は建設業や運送業の仕事も増えているという、熊本県内でも特徴のある地域です。

そのぶん、家畜という動産、畜舎という不動産、農地、許可、そして市内で分かれる裁判所の管轄——確認すべきことが多岐にわたります。どこから手を付けるかで、使える制度も費用も変わってきます。

大切なのは、元気なうちに「何を、誰に、どういう形で渡すのか」を決めておくことです。判断能力が落ちてから、あるいは相続が起きてからでは、選べる手段が大きく減ってしまいます。

当事務所では、熊本市・八代市を中心に事業承継のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

\事業承継、何から始めるか迷ったら/

\じっくり相談したい方は、メールでもお受けしています/

まずはお気軽にご連絡ください

0120-055-737

受付時間/AM8:30~PM5:30(土日・祝休)

コラム一覧に戻る