中小企業における事業承継|現状と課題、成功のためのポイント
日本では、約99%の会社が中小企業です。
これには小規模な個人事業主も含まれており、日本経済における役割はとても大きいです。
しかし、経営者の高齢化、後継者が見つからないという問題が深刻です。
これからの日本経済を支えるためには、中小企業を次世代にしっかりと引き継いでいかなければいけません。
本編では、事業承継の課題と、それを乗り越え、成功に導くためのポイントについて解説します。
目次
中小企業における事業承継の現状と課題
中小企業の事業承継がうまくいかず、廃業が増加しています。
これには様々な理由があります。
後継者不在
経営者が高齢になり、後継者が見つからない場合、会社を閉じることになります。
その結果、会社がこれまでに培ってきた貴重な技術や知識、独自の商品が失われ、働いている人たちも職場を失います。
廃業が続けば、日本の経済も次第に弱まってしまいます。
価値ある財産を次の世代に引き継ぐことの重要性を、もっと考えていく必要があります。
後継者の育成不足
会社を次世代に引き継ぐためには、適切な後継者の育成が欠かせません。
しかし、多くの中小企業では、このような長期的な人材育成に必要な時間が不足しがちです。
会社を引継ぐ人を育てるのは簡単ではありません。
早めに計画を立て、十分な余裕をもち、後継者の育成を進めることが重要なのです。
ワンマン経営による弊害
中小企業では、経営者が全ての重要な決定を行うことが一般的ですが、このワンマン経営は事業承継の計画を立てる時間が不足する原因になります。
経営者が事業承継に対して積極的に関心を持たない場合、次世代への引き継ぎについて十分に検討する機会が減少し、経営の交代時に適切な対策ができず、市場の変動に柔軟に対応できないリスクを高める可能性があります。
しかし、これらのリスクは、意見交換や対話、積極的なコミュニケーションにより軽減することができるのです。
そもそも事業承継とは?3つの種類
事業承継とは、現在の経営者が会社を次の人に引き継ぐことで、主に3つの方法があります。
一つ目は家族内で事業を引き継ぐこと、
二つ目は会社の従業員に引き継ぐこと、
そして三つ目は外部の誰かに事業を売ったり譲ったりすることです。
親族内承継 | 親から、子や親戚に事業を引き継ぐ方法 |
---|---|
親族外承継 (企業内承継) |
家族以外の会社の人が事業を引き継ぐ方法 |
第三者承継(M&A) | 家族や従業員ではなく、外部の別の会社や人に引き継ぐ方法 |
後継者不在の中小企業が会社を引き継ぐには?
家族や従業員に後継者がいない場合でも、M&Aを通じて第三者に事業を引き継ぐことができます。
■M&A(合併・買収):一つの会社が別の会社と合併する、または会社を買収すること
中小企業のM&A件数の推移
M&A(合併と買収)という用語は、最近ではニュースなどでよく目にするようになりましたが、多くの人が思い浮かべるのは、大企業同士の巨額な取引です。
そのため、中小企業の経営者の中にはM&Aは考えたことがない、という方もたくさんいらっしゃると思います。
でも、実は中小企業の間でもM&Aはどんどん増えていて、毎年3,000件から4,000件もの取引があります。M&Aはお互いの強みを活かし、新しい可能性を開き、事業の持続を支える重要な選択肢です。
一方で、かつては一般的だった家族内での事業承継は、少子高齢化や後継者不足といった社会的な要因により減少傾向にあります。
M&Aによる事業承継のメリット
M&Aによる事業承継のメリットとしては、次のようなことが挙げられます。
■後継者問題の解決
現在では少子化やライフスタイルの変化もあり、親族内では後継者が見つからないとうケースが多く見られます。
社内外の広く多くの人材の中から後継者を選ぶことが可能になります。
■従業員の雇用維持
会社を廃業してしまうと従業員は職を失ってしまいますが、会社が廃業されず事業が継続されるため、従業員は会社を辞める必要はなく、雇用が継続されます。
■経営資源の継承
技術・ノウハウ・商品・サービスといった経営に必要な資源をそのまま引き継ぐことができます。
ゼロから新規に事業を立ち上げることと比べると、リスクも抑えられます。
■創業者利益の確保
創業者が経営する会社の株式を譲渡して得られる利益が創業者利益です。
会社の経営状況や規模によっては大きな金額にもなり得ることから、事業拡大や会社経営の上でのモチベーションの1つとなります。
M&Aによる事業承継のデメリット
M&Aによる事業承継のデメリットとして、次のようなことが挙げられます。
■理想の引き継ぎ先が見つかりにくい
自分の会社を引き継いでほしいと思っても、すぐにやりたいという人を見つけるのは難しいかもしれません。
特に、自分が望む条件を満たす相手を探すのは簡単ではありません。
■働く環境の変化
従業員の勤務地が変わることがあって、その結果、通勤時間が長くなったりすることがあります。
また、新しい管理者のもとで、これまでとは違った仕事の仕方を求められることもあり、職場の雰囲気が変わることがあります。
■従業員の労働条件の変更
従業員の仕事の条件や環境が変わることがあって、新しい状況に慣れる必要が出てきます。
まずはお気軽にご連絡ください
受付時間/AM8:30~PM5:30(土日・祝休)
中小企業が事業承継を実施する流れ
中小企業が事業を次の世代に引き継ぐときの流れは次の通りです。
■現状と課題の確認
自分の会社がどんな状態にあるか、どんな問題があるかをしっかりと見極めます。
会社がうまく売れるかどうかもこの時に調べます。
会社の状態を知ることが、これからの計画を立てる第一歩になります。
■事業承継の計画作りと相手探し
会社の現状と課題がわかったら、次は事業承継の計画を立てます。
これから数年間の経営計画の中に、いつ事業を引き継ぐか、どんな問題があるか、どう対処するかなどを考えます。
この計画をしっかり作ることが、スムーズな事業承継へとつながります。
同時に、事業を引き継いでくれる相手も探し始めます。
■経営の改善
事業を引き継ぐ前に、会社の経営状態をより良くしておくことも大切です。
お金の管理をもっとしっかりする、組織をうまくまとめるなど、事業承継後も会社がうまくいくように準備します。
■事業承継・M&Aの実行
すべての準備が整ったら、実際にM&Aを行います。
このとき、契約の手続きや税金の問題など、細かいところにも注意が必要です。
複雑な部分が多くあり、法務や税務などの面で深い知識が求められます。
中小企業が事業承継を行う際の注意点
後継者と古参社員の対立
新しい社員が新たなアイデアを持ち込むとき、長年勤める社員は慎重な姿勢になることがあります。
これは特に、社長が代わり世代交代の際に見られる現象です。
しかし、互いの考えを尊重し、世代間の違いを乗り越えて協力することで、会社は新しい成長を遂げることができるのです。
負債・個人保証の承継
事業を引き継ぐとき、会社が借りているお金(負債)や、社長が個人的に保証している契約も一緒に受け継がれることがあります。
前の社長さんが「会社がお金を返せなくなったら、私が払います。」と約束していたことも含まれます。
これらをしっかりと把握し、どう対処するか計画を立てることで会社を健全に成長させることができます。
後継者としっかりと話し合い、円滑に事業を引き継げるように準備しましょう。
相続時の遺留分トラブル
事業を引き継ぐとき、後継者以外にも相続権を持つ家族がいる場合、遺留分の問題でトラブルが生じることがあります。
■相続権:家族の中に「自分にも権利がある」と主張する人が出てくるかもしれないこと
家族が遺産として会社の一部を欲しいと言うこともある
■遺留分:法律で定められた相続人が最低限受け取れる遺産の割合のこと
遺言で全てを後継者に渡すとしても、他の相続人には一定の割合で遺産を受け取る権利がある
特に、相続人が株式の遺留分を主張すると、株式が相続人に分配され、経営の一体感が損なわれ、後継者の経営権に影響が出ることがあります。
このリスクを避けるためには、早めの計画と相続人とのコミュニケーションが必要です。
専門家の助言を得ながら、相続問題を未然に防ぎ、家族全員が納得する解決策を見つけましょう。
中小企業の事業承継を成功に導くための大切な4つのポイント
早い段階から準備する
事業承継の成功に向け、十分な準備期間を確保することです。
後継者を見つけ、その人を育て、仕事のノウハウを伝え、業務を引き継ぐまでには、少なくとも5年から10年が必要です。
できれば60歳頃から事業承継を考えはじめましょう。
早めに考え、早めに計画を立てることで、事業の引き継ぎを円滑に進めることができます。
会社を磨き上げる
事業承継の成功に向け、会社をよりいい状態にすることです。
引継ぎを考えたら、まず経営や財務の状況をしっかり把握します。
その上で、会社をもっと魅力的にするための取り組みを考え、会社の価値を向上させる取り組みを行いましょう。
会社の魅力を高め、会社の良さを伝えることで、事業の引き継ぎを成功させる土台が作られます。
関係者の理解を得る
事業承継の成功に向け、周囲の理解を得ること。
引継ぎをはじめるとき、従業員や取引先、株主、相続人など関係者が理解し協力することです。
特に相続人が複数いる場合は、トラブルのリスクが高まりますので、慎重に対処する必要があります。
「なぜ事業承継を行うのか」「次の社長をどう選ぶのか」を説明し、情報の共有とコミュニケーションを重視することで、安心して事業の引き継ぎをスタートすることができます。
専門家に相談する
事業承継の成功に向け、専門家の話を聞くことです。
引継ぎの際に、法的な課題や財務上の問題、相続のトラブルなど、予期せぬ問題が起きた場合、それが会社に大きな影響を及ぼすことがあります。
リスクを避けるために、専門家に相談して、これらの問題を適切に管理しましょう。
会社が大きなトラブルに巻き込まれることがないよう、リスクを減らしながら事業の引き継ぎ進めるのが安全で賢い選択です。
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中小企業の事業承継を後押しする支援制度
事業承継支援制度は、経営者の高齢化や後継者不足などによる事業の継続性の問題に対処するため、中小企業庁によって設けられた制度です。
事業承継・引継ぎ支援センター
全国の47都道府県には、事業承継やM&Aに関する公的支援機関「事業承継・引継ぎ支援センター」があります。
これらは中小企業庁が設立したもので、中小企業や小規模事業者の事業承継を支援しています。
不安や心配事、わからないことを無料で相談できる窓口です。
小さな疑問や問題も、ここで専門家のアドバイスを受けることにより、安心して事業承継を進めることが可能になるでしょう。
ガイドライン・マニュアル
「中小M&Aガイドライン」と「中小M&Aハンドブック」は中小企業庁によって、中小企業の持続可能な成長と事業承継を支援する目的で近年に発表されました。
対象 | 主に中小企業の経営者や後継者 |
---|---|
目的 | 事業承継や他社との合併・買収(M&A)の際に生じるリスクを減らし、スムーズな取引を支援すること |
企業価値の適正評価、効果的な交渉方法、そして公平かつ効率的な取引を実現するための具体的なアドバイスが、経営者や後継者の課題解決に役立ちます。
公的支援機関 | ・政府や地方自治体によって設置された組織 ・個人や企業が直面する様々な課題の解決にサポートしている ・災害支援、雇用創出、産業振興など、幅広い分野が含まれる |
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中小企業庁 | ・中小企業や小規模事業者のサポートを目的とする政府の機関 ・資金調達、技術革新、事業承継など、中小企業が直面する様々な課題に対する支援を行っている ・中小企業庁は、日本の経済産業省の一部である |
補助金や支援機関
■事業承継・引継ぎ補助金:
中小企業の事業承継を支援するための補助金制度
この補助金は、事業を後継者に引き継ぐ際に、資金的な支援を受けることができます。
後継者の育成や経営継承に関連する費用を一部支援します。
■事業承継・引継ぎ補助金の専門家:
税理士や弁護士、事業承継コンサルタントなど
補助金の申請方法や条件は少し複雑ですが、専門家のアドバイスを受けることで、活用のポイントを理解しやすくなります。
■M&A支援機関登録制度:
企業の合併や買収を支援する専門家が登録された制度
登録された専門家は、買収候補の選定や評価、交渉や契約の作成まで、各段階で専門的な支援します。
成功に向けた戦略的なアドバイスや専門知識を持ち、リスクを最小限に抑えながら価値を最大化するためのサポートを行います。
■M&A支援機関登録制度の専門家:
弁護士や会計士、投資銀行家、M&Aアドバイザーなど
税務や法務、経営戦略などの分野で、豊富な知識と経験を持つ専門家と連携しましょう。
税制
事業承継税制と経営資源集約化税制は、日本経済における企業の持続的な成長と活力を支えるための重要な税制策です。
■事業承継税制
事業承継税制は、贈与税や相続税の特例措置を通じて、事業の世代交代時に発生する税負担を軽減します。
実際に、家族経営の会社がこの税制を利用して事業を子供に無税で移転し、企業は新たな世代のもとで成長を遂げました。
この制度により、後継者がスムーズに事業を引き継ぐことができ、中小企業の閉鎖や廃業のリスクを減少させます。
■経営資源集約化税制
経営資源集約化税制は、事業が合併や事業を再編する際の税負担を軽減するための特別措置です。
「会社を合併したり、事業の部門を整理したりする時に、税金の負担を軽減してくれる制度」と簡単に言えます。
実際に、中小企業のグループがこの税制を活用して、税負担を軽減し、会社の組織を見直し、事業を効率的に再編しました。
その結果、仕事の効率が向上し、より良いサービスを提供できるようになりました。
この制度により、企業は経営資源をより効率的に配置し直すことが促進され、市場での競争力の向上、経営の効率化、新規事業投資や市場拡大への積極的な投資が可能となります。
これらの税制策は、企業の大切な節目に税の負担を軽減し、強力な支援を提供します。
税制策は複雑ですが、適切な専門家と協力し、最大限に活用しましょう。
金融支援
日本政策金融公庫は、国が運営する公的支援機関で、事業を営む方々や新しく事業を始めたい方々に向けてお金を貸し出しています。
利息が低く、返済期間も長いため、経済的負担を軽減しながら事業を進めることが可能です。
さらに、信用保証を利用すれば、民間銀行と異なり保証人や担保が不要なケースもあり、手続きがスムーズになります。
また万が一、返済が困難になった場合も、一定の国の保証があるので、スタートアップや事業拡大を安心して事業に取り組めるようにしています。
「この街の事業承継」は地域の中小企業の事業承継をサポートいたします。まずはお気軽にご相談下さい
事業承継って、多くの疑問や不安を抱えるものです。
法律に関すること、株の分け方、税金の問題
…「何が正解なのか、どうすればいいんだ?」と悩ませることがたくさんあると思います。
事業承継、簡単じゃない。でも、争いごとは避けたい。
だからこそ、しっかり計画を立てて、問題が起きないようにしておくことが大切です。
争いは防ぐことができるのです。
株の分け方を決めておくこと。
会社の価値をしっかり評価しておくこと。
税金をなるべく少なくする方法を考えておくこと。
これら全てが、スムーズな事業承継のためには必要です。
安心して次の世代に引き継がれるように
一つ一つの疑問に寄り添い、私、弁護士の西田幸広がわかりやすく解説します。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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