事業承継対策の方法とは|必要性や流れ、成功のポイントなど

事業承継とは、現経営者が会社を退任する際に、経営権や資産、株式を後継者に引き継ぐことを指します。
しかし、適切な準備を行わないと、後継者が決まらず会社が混乱したり、相続税や贈与税の負担が会社の資金に影響を与えることがあります。
複数の相続人がいる場合、経営に関する意見がまとまらずトラブルが発生することもあります。
本記事では、こうした問題を防ぐための対策や、事業承継の進め方を解説します。
目次
事業承継対策が必要な理由とは
事業承継を行う際、対策を講じないと以下のような問題が起きることがあります。
- 会社の存続が危うくなる
経営者が急に退任すると、経営が混乱して事業が続けられなくなることがあります。 - 税金の負担が大きくなる
相続税や贈与税が高額になり、会社の資金繰りに影響を与えることがあります。 - 相続トラブルが発生する
複数の相続人がいる場合、経営権をめぐる争いが起きることがあります。
以下に、それぞれの理由について詳しく解説します。
会社の存続のため
事業承継では、会社の経営権や資産だけでなく、会社全体の運営を支える仕組みを引き継ぐ必要があります。
経営者が突然退任すると、準備不足が原因で次のような問題が発生することがあります。
- 後継者が経営に慣れるまでに時間がかかり、会社が混乱する
- 経営の判断が遅れ、事業に影響が出る
- 資産の管理が適切に行われず、会社の信用が失われる
事業承継対策を行うことで、こうしたリスクを防ぎ、会社の存続を守ることができます。
節税対策となるため
事業承継を行う際には、相続税や贈与税が大きな課題となります。
会社の株式や資産の評価額が高い場合、それに伴う税金が会社の資金を圧迫することがありますが、次のような方法で税負担を軽減することが可能です。
- 事業承継税制の活用
一定の条件を満たせば、相続税や贈与税の負担を軽減できる優遇制度があります。 - 株式評価額を引き下げる
株式の価値を適切に見直すことで、税金の負担を軽くすることができます。
これらの対策を行うためには、事業承継の計画を早めに立てることが重要です。
相続トラブル回避のため
事業承継を巡るトラブルの多くは、相続が原因で発生します。たとえば、複数の相続人がいる場合、次のような問題が起きることがあります。
- 株式が分散してしまい、経営の判断が遅れる
- 相続人同士で意見が対立し、会社の運営が停滞する
- 後継者が明確に決まらず、経営権が不安定になる
トラブルを避けるためには、事前に後継者を決め、株式や資産の分配について家族で話し合っておくことが大切です。
また、弁護士などの専門家のアドバイスを受けることで、適切な解決策を見つけることができます。
事業承継対策が必要な会社の特徴
事業承継対策が特に必要とされる会社には、次のような特徴があります。
- 後継者が決まっていない
- 現経営者に業務が集中している
- 相続人が複数いる
- 経営者一人に依存している
- 事業の規模が拡大している
これらに当てはまる場合は、早めに事業承継の準備を進めることをお勧めします。
事業承継対策を行う流れ
事業承継対策を進めるには、以下の流れで対応するのが一般的です。
- 会社の現状把握
会社の状況を総合的に確認し、対策が必要な課題を明確にします。 - 後継者候補の選定
後継者としてふさわしい人物を選び、経営を引き継ぐ準備を進めます。 - 事業承継計画書の作成
具体的な引き継ぎ手順を計画し、税制優遇を受けるための条件を整えます。
①会社の現状把握
事業承継をスムーズに進めるためには、まず会社の現状を把握し、必要な対策を講じる準備を行うことが重要です。
以下の観点から確認を進めます。
- 後継者候補の有無
親族内、社内、取引先などに後継者となる候補がいるかを確認します。
適切な候補者がいない場合、外部から迎え入れる選択肢も検討します。 - 経営資源の状況
従業員数、平均年齢、資産額、資産内容、キャッシュフローなど、会社が保有する経営資源を把握します。
これにより、事業を継続するための基盤を確認します。 - 経営リスク
会社が抱える負債や業界内での競争力を整理し、経営上のリスクを明らかにします。 - 経営者自身の問題点
現経営者が保有する自社株式や個人名義の土地・建物の状況を整理します。これらの資産が事業運営にどう関わっているかを確認します。 - 相続時の問題点
法定相続人の数や関係性、相続財産の内容を特定します。
また、専門家の支援のもと相続争いを未然に防ぐための対策を検討します。
これらの項目を総合的に把握することで、具体的な事業承継計画を立てる土台を作ることができます。
②後継者候補の選定
後継者候補の選定は、以下の方法を検討しながら、最適な後継者を選びます。
- 親族を後継者とする
家族内で承継を行う方法です。
親族は会社への愛着や理解が深い一方で、適性や能力が不足している場合は補助的な教育が必要です。 - 従業員などを後継者とする
社内で能力が高く、信頼のおける従業員を後継者に選ぶ方法です。
業務に精通しているため、スムーズな引き継ぎが期待できます。 - M&Aを活用する
他社に事業を譲渡する方法です。
適切な相手を選べば、従業員や取引先の関係を維持しながら事業を存続させられます。
会社の状況や後継者の条件に応じて、これらの選択肢を慎重に検討することが重要です。
③事業承継計画書の作成
事業承継計画書は、事業を円滑に引き継ぐための具体的な計画をまとめた文書です。
この計画書には、以下の内容を含めます。
- 後継者の選定と育成計画
誰を後継者とするか、その育成スケジュールを明確にします。 - 資産や株式の承継方法
贈与、相続、売却など、最適な方法を記載します。 - 承継スケジュール
承継の時期や、段階的に引き継ぐ場合のタイムラインを設定します。
また、「事業承継税制の適用」を受けるためには、この計画書が必要です。
専門家の支援を受けながら作成することで、計画の実効性を高めることができます。
事業承継対策の方法
事業承継をスムーズに行うためには、次のような対策を検討する必要があります。
- 後継者対策
- 株価対策
- 納税資金対策
- 遺産分割対策
以下にそれぞれについて詳しく解説します。
後継者対策
後継者を育成し、経営を引き継ぐためには、一般的に5~10年の準備期間が必要とされています。
この期間中に、後継者が経営者として必要なスキルや信頼を築くことが重要です。
- 経営に必要な知識やスキル
後継者が経営者としての判断力を持つため、財務管理、事業戦略、リーダーシップなどの実務スキルを習得させます。
必要に応じて外部の経営者育成プログラムへの参加も検討します。 - 現経営者とともに経営を経験
現経営者が意思決定を行う場に後継者を参加させ、経営の実践的な流れを学ばせます。また、段階的に責任あるポジションを任せ、徐々に業務を引き継ぎます。 - 従業員や取引先との信頼関係
後継者が社内外で信頼を得られるよう、従業員や主要取引先と接触する機会を増やします。経営者としての信頼を高めることは、スムーズな引き継ぎに直結します。
後継者育成には時間がかかるため、計画的かつ早期の取り組みが欠かせません。
株数対策
事業承継においては、株式の分配や持分比率の調整が重要です。
経営権を安定させながら、後継者の税負担を軽減するための対策が求められます。
- 従業員持株会や好意的な株主への株式移転
株式を従業員持株会や信頼できる株主に移転することで、経営権の安定を確保しながら、後継者の税負担を軽減します。
(この方法は、従業員の会社への帰属意識を高める効果もあります。) - 後継者の持分比率を調整
後継者が保有する株式の比率を調整し、贈与税や相続税の負担を抑える方法が取られます。
※ただし、株式移転のタイミングや対象を誤ると、経営権が不安定になるリスクがあるため、慎重な対応が必要です。
株価対策
株式評価額を適切に調整することで、相続税や贈与税の負担を軽減することができます。
株式評価額は、税金計算の基準となるため、計画的な対策が求められます。
・評価額を下げる具体的な方法
役員退職金の支払いによる損金計上や、不要な資産の売却などを通じて株価を引き下げることが可能です。
これにより、納税負担を抑えることができます。
・注意点
評価額を過度に引き下げる行為は、税務署から否認されるリスクがあります。
不当と判断された場合、追徴課税の対象となるため、税理士や会計士などの専門家と連携して進めることが重要です。
納税資金対策
事業承継では、贈与税や相続税の納税資金を準備することが不可欠です。
計画的に資金を確保するため、以下の方法が取られます。
- 生前贈与を活用
財産を生前に分割して贈与することで、相続時の税負担を軽減します。
特に、年間110万円の非課税枠を活用して早めに準備を進める方法が一般的です。 - 代償給付金の確保
他の相続人が遺留分を請求する場合に備え、後継者が代償給付金を用意できるよう計画します。 - 事業承継税制の活用
特定の条件を満たすことで、相続税や贈与税の負担を大幅に軽減できる制度です。
専門家のアドバイスを受け、適切に利用することが求められます。
遺産分割対策
遺産分割は親族間でのトラブルを引き起こす大きな要因となるため、早めの対策が重要です。
- 遺言書の作成
遺言書を作成し、相続財産の分割方法を明確に記載することで、相続人間での争いを防ぐことができます。 - 家族間の事前協議
生前に家族間で話し合いを行い、同意を得ることで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。 - 専門家のサポートを受ける
弁護士や税理士など専門家に相談し、法的・税務的な観点から最適な分割方法を検討します。
これらの対策を行うことで、後継者がスムーズに経営を引き継げる環境を整えることが可能です。
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実際に起こりうる可能性を考慮した注意点
事業承継には、以下のようなリスクが伴います。
- 株式の分散による経営権の喪失
株式が分散すると、後継者が経営権を持てなくなる可能性があります。 - 納税資金不足
資金不足が原因で、会社資産を売却せざるを得ない事態に陥る可能性があります。 - 親族間の争い
遺産分割の対策不足によって、親族間の争いが長引き、事業運営に支障をきたすリスクがあります。
これらのリスクを防ぐためには、適切な計画と対策を講じることが不可欠です。
事業承継対策を成功させるポイント
事業承継対策は、専門家の間で早期に着手することが最も良い結果をもたらすとされています。
以下では、成功させるための重要なポイントを解説します。
事業承継対策は早めにはじめる
- 経営者の突然の退任に備える
経営者が病気や事故などの理由で突然退任する可能性は誰にでもあります。
早めに対策を講じることで、後継者育成や財務準備が間に合わずに事業が混乱するリスクを回避できます。 - 経営者と後継者の年齢差を考慮
経営者と後継者の年齢が離れている場合、適切なタイミングでの引き継ぎが難しくなる可能性があります。
後継者が経験を積む時間を確保するためには、計画的かつ早期の取り組みが必要です。 - 準備期間を確保する
事業承継には、後継者教育、株式や資産の整理、税務対策など、多くの準備が必要です。
一般的に、これらの対策には5~10年の期間が求められるとされています。
適切な事業承継の方法を選択する
事業承継には、以下の3つの主要な方法があります。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、会社の状況に応じて最適な選択を行うことが重要です。
方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
親族内承継 |
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|
親族外承継 |
|
|
M&A(第三者承継) |
|
|
さらに詳しい解説については、こちらをご覧ください。
事業承継対策についての相談先
事業承継対策は専門的な知識を必要とするため、信頼できる専門家や機関に相談することが推奨されています。
安心して利用できる支援機関の一つとして、「事業承継引継ぎ支援センター(中小企業庁認定)」が挙げられます。
以下は代表的な相談先です。
- 中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)
事業承継に関する情報提供や専門家の紹介を行っています。
中小企業向けのセミナーや相談窓口を全国で展開しています。 - 事業承継引継ぎ支援センター
各都道府県に設置された公的支援機関で、事業承継に関する無料相談や専門家派遣を実施しています。 - 商工会議所
各地域の商工会議所では、事業承継に関する相談窓口を設置しており、セミナーや個別相談を通じて支援を行っています。 - 弁護士
事業承継に関する法務対策(遺言書作成、相続トラブルの防止、株式移転の契約書作成など)を支援します。
専門家の視点でリスクを未然に防ぐ提案を行います。 - 顧問税理士・公認会計士
財務や税務のアドバイスに加え、株式評価や相続税対策など、事業承継における重要な課題解決をサポートします。 - 金融機関
銀行や信用金庫では、事業承継に関する資金調達や事業承継計画の策定支援を提供しています。
(事業承継に特化した融資制度もあります。)
事業承継対策については「この街の事業承継」へご相談ください
この街の事業承継では、熊本や福岡を中心に、地域の中小・零細企業の事業承継を支援しています。
「うちのような小さな会社でも引き継ぎ先が見つかるのか」「借金や赤字がある場合でも大丈夫なのか」といった不安を抱える方もいらっしゃいますが、事業内容や状況に応じて、適切な引き継ぎ先が見つかる可能性があります。
事業承継は非常にデリケートな問題です。そのため、相談内容は守秘義務を厳守します。
また、「従業員や取引先に知られると困る」といった場合でも、ギリギリまで秘密裏に進めることが可能です。
相談料については、国が参考として示している報酬基準に基づき、安心できる料金体系を採用しています。
大切な会社の未来をつなぐため、私たちは文化や思いを丁寧に引き継ぐことを大切にしています。
一つ一つのご相談に真摯に対応いたしますので、まずはお気軽に「この街の事業承継」にご相談ください。


この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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