事業承継におけるM&Aとは?メリット・デメリットや流れなどM&Aの基礎知識
会社を次の世代につなぐ方法の一つがM&A。
後継者がいなくて困っても、M&Aを使えば、廃業ではなく会社を続けることができるのです。
本編では、M&Aの基本的な方法、流れ、成功のポイントなど解説します。
目次
事業承継におけるM&Aとは
■事業承継:経営者が次に会社を任せる人を選ぶこと
■M&A:会社同士が合体したり、一つの会社が別の会社を買うことで、より大きく強い会社が作られること
※M&Aは「Merger and Acquisition」の略で、日本語で「合併と買収」を意味する
後継者がいないときには「M&A」で他の人に会社を譲渡することができます。
会社を引き継ぐ方法はM&Aの他にもいくつかあります。
親族内承継 | 親族内承継は、親から子や親戚に経営を引き継ぐ方法 |
---|---|
親族外承継 | 親族外承継とは、家族以外の人が経営を引き継ぐ方法 |
第三者承継(M&A) | M&Aは会社同士が手を組んで、もっと大きくて強い会社を作る方法 |
M&Aの相手先の種類
■事業会社:自分のビジネスを大きくするために、他の会社を買う会社のこと
■ファンド:投資家から資金を集め、それを使って会社の買収や投資を行う組織のこと
ファンドは、買収した会社を改善し、価値を高めてから高い価格で売却することで、利益を出すことが目的です。
事業会社 | ファンド | |
---|---|---|
得られる経営資源 | 人材・設備・販路など | 経営ノウハウ・資金・人材ネットワークなど |
メリット | シナジー効果 | 経営の安定化、経営課題の解決、企業価値の向上 |
中小企業におけるM&Aの現状
中小企業における経営者の高齢化や後継者不在は、日本経済にとっても悪影響を及ぼす深刻な問題となっています。
この、後継者課題を解決する方法として今「M&A」が増えているのです。
かつて「M&A」には否定的なイメージもあったかもしれませんが、会社の継続と成長の賢い選択肢として今では多くの人に認知されています。
小さなお店や個人が引き継ぐ、小規模なM&Aも増加しており「M&A」が、より身近な選択肢となりつつあります。
M&Aによる事業承継のメリット
売却側のメリット
- 後継者問題の解決:会社を継ぐ人を、家族や社員だけでなく、広い範囲から見つけられるようになること
- 従業員の雇用維持:働いている人たちの仕事が続くこと
- 伝統の承継:大切な技術や知識を次世代に引き継ぐことができること
- 創業者の利益確保:会社を売ることで利益を得られること
買収側のメリット
- 市場シェアの拡大:自分たちの商品やサービスがもっと広く認知されること
- 新規事業への参:会社が大きくなるチャンスが増え、異なる種類のビジネスに対応できるようになること
- 事業の多角化:いろいろな種類のビジネスに対応できるようになり、会社がもっと強くなること
- 技術・ノウハウ・人材の確保:特別な技術や知識、才能のある人たちが加わり、新しい挑戦ができること
これらメリット活かし、築いてきた価値を守り、会社をさらに発展させることができるのです。
M&Aによる事業承継のデメリット
売却側のデメリット
- 希望条件での売却:自分の希望する時期や条件で売却が難しい
- 会社の理念の変化:大事にしていた会社の目標や考え方が変わってしまう
- 従業員の環境変化:職場の雰囲気や仕事の内容が変わり、働く人たちの環境に変化が生じる
会社を売るときには、これらの可能性をしっかり考えましょう。
買収側のデメリット
- 大きな資金が必要:大量の資金が必要で、その準備は容易ではない
- 隠れた負債のリスク:予期せぬ負債が引継いだあとに発覚すること
- 期待した成果が得られない:思い描いていた通りの成果を上げられない
会社を買うときには、これらの可能性をしっかり考えましょう。
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M&Aの手法と種類
M&Aの手法(スキーム)にはいくつかの種類があり、新しい事業を始めたり、それぞれ違うやり方で会社を大きくします。
株式譲渡
M&Aの中で、最もよく利用される手法です。
株式譲渡によって会社の所有権は変わりますが、会社のそのもの、名前、ブランド、そして従業員はそのままです。
これまで築いてきた関係や契約も継続されるため、ビジネスをスムーズに、もっと成長させることができます。
株式譲渡は、特に会社を成長させたい方にとって魅力的な選択肢です。
事業譲渡
M&Aの中で、手続きが株式譲渡よりも複雑で細かな調整が必要な手法です。
事業譲渡では、会社の一部、機械や技術、権利など、必要な要素のみを選んで、別の会社に譲ることができます。
■譲る側:整理して一部を切り離すことで、他の事業に集中できる
■受ける側:すぐに事業をスタートできる
事業譲渡は、ビジネスを効率的に整えたい、新しいスタートを切りたい場合に適した選択肢です。
会社分割
会社分割とは、事業の一部を新しい会社にするか、他社に渡す方法です。
会社は得意な分野に集中しやすくなり、一部の事業に問題があっても他に影響が少なく、問題解決もしやすくなります。
会社分割は比較的簡単で、シンプルなのでスムーズに行えます。
新設分割 | 新しい会社を作り、一部の事業を移す方法 |
---|---|
吸収分割 | すでにある会社へ、一部の事業を移す方法 |
合併
合併は、二つの会社が一つになり、イメージやブランドを保ちつつ強く大きな組織に進化することです。
異なる背景を持つ会社を一つにするためには、新しいルールを作る必要がありますが合併は、ビジネスのチャンスを開く、とても価値のある貴重な機会です。
新設合併 | 二つの会社が全く新しい会社を作ることで、元の二つの会社はなくなること |
---|---|
吸収合併 | 二つの会社がもう一つを合わせて大きくなり、合わせられた会社はなくなること |
事業承継でM&Aを行う際の流れ
①M&Aの検討・準備
■目標設定:M&Aを通じて達成したい目標と、理想のパートナー企業を考える
■専門家選定:適切な専門家、弁護士や会計士、M&Aアドバイザーと契約を結ぶ
■パートナー選定:マッチングと呼ばれる段階で、様々な企業との出会い、方向性や要件が合致するかを探る
この初期段階を慎重に進めることで、M&Aは順調に進みます。
②M&Aの打診・交渉
■M&Aスキームの選択: 合併や買収の形式を決定し、手続きの方向性が定めること
■企業価値算定: 会社がどれくらいの価値があるかを計算すること
■トップ面談: 社長同士がお互いの条件について話し合うこと
■基本合意書の締結: お互いの合意した内容を正式な書類にしてサインすること
■買収監査(デューデリジェンス): その会社の全てを徹底的に調査すること
この段階を細心の注意を払って進めることにより、M&Aは両社に利益をもたらし、両社にとって望む成果に結びつくのです。
③最終契約締結
■最終条件の調整: 最後の詳細を決定し、全員の合意を得ること
■最終契約締結: 双方の合意を正式な契約文書にして確定すること
■クロージング: 手続きが完了し、M&Aが正式に完了すること
両方の社長がサインし、M&Aのクライマックスを迎えます。
M&Aが正式に成立し、会社は新しい道を歩み始めるのです。
④クロージング後
社員や取引先などの関係者に、M&Aが完了したことをお知らせし(PMI)フェーズに入ります。
■PMIフェーズとは?:合併や買収後に、二つの会社をスムーズに一つにまとめる作業
■PMI:PMIは(Post-Merger Integration)の略で、(合併後統合)を意味する
二つの会社のやり方やルールを合わせ、会社の文化や雰囲気を一つにまとめます。
PMIの成功が、M&Aによるシナジー効果の実現と企業価値の向上に直結するため、新しい会社の基盤を固めるとても大切なときです。
M&Aで事業承継を成功させる5つのポイント
最適なタイミングで行う
準備には多くの時間が必要です。
「会社を次の世代に渡そう」と考えはじめたら5年、できれば10年くらいあれば余裕を持ってしっかりと準備を進めることができます。
株主から理解を得ておく
計画についてしっかり説明し、株主からの賛成と指示を得ることがとても重要です。
ただし、重要な情報は関係者を限定して伝え、情報漏洩には最大限の注意を払わなければいけません。
情報が漏れると、働く会社の人が不安になったり、お客さんやお取引先の信頼を失ってしまうかもしれないからです。
企業価値を向上する
■収益性の向上: 効率を上げ、利益を増やすこと
■ブランド価値の強化: 品質とサービスにこだわり、信頼されるブランドを築くこと
■新しいことに挑戦: 新しい技術やアイデアを取り入れて、他社とは違う特別なものを持つこと
これらの戦略を実行し、会社は更に大きな価値を築き上げることが期待されます。
公的支援を活用する
■事業承継ガイドラインの改訂: 会社を次世代に渡すための指針
■中小M&Aガイドラインの策定: 中小企業の合併・買収を促進するための戦略
■中小M&A推進計画の策定: 合併や買収をスムーズにするための具体的な計画
■事業承継・引継ぎ補助金: 事業承継に必要な費用を支援する補助金制度
■事業承継税制: 事業承継のときの税負担を軽減するための制税
政府は、中小企業の事業継承を促進するために幅広く支援しています。
これらの支援を活用することで、中小企業は事業承継をより円滑に、効果的に行うことができます。
専門家のサポートを受ける
M&Aは、法律や税務の複雑さで、細かなミスが思わぬ大問題につながることもあります。
しかし、専門家がいれば、複雑な手続きをスムーズに進め、最適な条件での交渉をサポートし、トラブルを未然に防ぎます。
M&Aにおけるリスクを適切に管理し、安心して進めましょう。
M&Aによる事業承継を成功に導くために、「この街の事業承継」がお手伝いいたします
事業承継を考え始めるとき、不安を感じるのはとても自然なことです。
自分の築いてきた会社をどう次世代に渡すか。単に決められるものではありません。
特に、M&Aのような大きな変化が予想される場合では、法律の問題、税金、交渉の方法といった、さまざまな複雑な問題をクリアする必要があります。
そんな時、冷静にリスクを管理し、適切な決断をサポートするために、私たち弁護士がいます。
一緒に、すべての不安をなくしていきましょう。
九州で事業承継の支援に携わってきました。
弁護士の西田幸広と申します。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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事務所概要
熊本
熊本市東区桜木3-1-30 ヴィラSAWADA NO.6 102号室
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