小売業界の事業承継|市場動向やメリット・デメリット、注意点など

小売業界では、人手不足や経営者の高齢化といった課題が深刻化しています。
後継者がいない中小企業や個人商店では、廃業を余儀なくされることも少なくありません。
これらの問題を解決する方法の一つとして、「事業承継」が注目されています。

本記事では、小売業界における事業承継が増加している背景、そのメリット・デメリット、さらには事業承継を進める際に注意すべき点について詳しく解説します。

小売業界の現状と市場動向

■小売業界とは

消費者に直接商品やサービスを提供する業種で、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、専門店、ネットショップなど・・
地域密着型の店舗から全国展開のチェーン店まで、さまざまな形態で人々の生活を支えています。

■現状と市場動向について

現在、小売業界は、人口構造の変化や消費者ニーズの多様化を背景に、日々進化を続けています。
ネット通販の拡大や、大型商業施設の進出が一層進む中、地域に根差した店舗も地元顧客の信頼を得ながら、独自の強みを発揮しています。

一方で、企業数は減少傾向にありますが、その中で事業承継が進み、次の世代が新たな視点を取り入れて事業を展開する動きも見られます。
こうした事業承継は、業界の活性化や地域の発展にもつながると期待されています。

小売業界で事業承継が増えている原因

小売業界で事業承継が増加している背景として、以下のような理由が挙げられます。

  • 経営者の高齢化
  • 人材の不足
  • インターネット通販や同業他社との競争の激化
  • 設備投資・物価高による資金不足

以下に、それぞれの要因についてわかりやすく解説します。

経営者の高齢化

小売業界では、経営者の高齢化が進んでおり、中小規模の店舗を中心に、経営者の平均年齢は60歳を超える例が多くなっています。
(※中小企業庁の調査:2022年によれば、中小企業全体の約6割で経営者が60歳以上であり、その半数近くが「後継者未定」とされている)

かつては、親族内での事業承継が一般的でしたが、現在では少子化や若年層の多様な選択により、後継者が他業種に進むことも増えています。
これにより、第三者への事業承継が現実的な選択肢として検討される場面が増えています。

特に地域密着型の店舗は、地元住民の日常生活を支える重要な役割を担っており、次世代へ引き継ぐことでその役割を維持することが可能になります。

人材の不足

少子高齢化や地方から都市部への人口流出の影響により、小売業界全体でも人材不足が課題となっており、特に地方の店舗では、労働力の確保が難しい状況が続いています。
(※総務省のデータによると、2010年から2020年にかけて、地方の若年層人口は約10%減少しており、労働人口の減少が深刻化)

さらに、小売業界に多い非正規雇用では、待遇の不安定さが指摘されています。
例えば、正規雇用との待遇差が大きいことが原因で、長期的に働き続ける人材が減少する傾向にあります。

このような背景から、店舗運営を支える人材が不足し、事業承継を選択する経営者が増加しています。

インターネット通販や同業他社との競争の激化

インターネット通販が普及し、消費者がスマートフォン一つで商品を購入できる環境が整いました。

経済産業省の調査:2021年では、日本のEC(電子商取引)市場規模は約20兆円に達し、年々増加傾向にあります。
このような状況の中で、従来の店舗型ビジネスは、ネット通販や同業他社との競争が激化しています。

また、価格競争の激化により、特に地域に根差した個人経営の店舗が、競争力を維持することが難しい場面もあります。
例えば、大型商業施設やチェーン店との競争では、商品の価格や配送サービスの迅速さが求められることが多く、小規模店舗にとっては負担となる場合があります。

こうした市場環境の変化は、事業承継を通じた経営の新しい展開を考えるきっかけとなっています。

設備投資・物価高による資金不足

小売業界では、競争力を維持するために設備投資が重要とされています。
例えば、新たな店舗の開設や既存店舗の改装には、多額の資金が必要です。

しかし、近年の物価高騰が経営に影響を及ぼしており、仕入れコストやエネルギーコストの上昇が経営の負担を増大させています。

(※日本銀行のデータによると、2022年の物価上昇率は約3%で、近年では異例の高水準であり、小売業者が従来の経営スタイルを維持することが難しくなる)

特に中小規模の店舗では、設備更新に必要な資金を確保するための資金調達が課題となることが多く、次世代の経営者による新しい取り組みが期待されています。

小売業界における事業承継のメリット・デメリット

事業承継には、売却側(引き継ぐ側)と買収側(後継者)の双方にメリットとデメリットがあります。

以下にそれぞれのポイントを整理しました。

売却側のメリット・デメリット

【メリット】

  • 後継者不足の解消
    後継者がいない場合でも、第三者に引き継ぐことで事業を継続できます。
  • 従業員の雇用維持
    事業が引き継がれることで、従業員の雇用を守り、地域の雇用環境への貢献が可能です。
  • 事業の存続
    地域で長年培ったブランドや顧客基盤が次世代に継承されます。
  • リタイア後の収入確保
    事業売却による資金が、引退後の生活資金や新たな挑戦の資金となります。
  • 地域経済の活性化
    新しい経営者が事業を引き継ぎ、新たな視点で地元を発展させる可能性があります。

【デメリット】

  • 後継者不足の解消
    後継者がいない場合でも、第三者に引き継ぐことで事業を継続できます。
  • 従業員の雇用維持
    事業が引き継がれることで、従業員の雇用を守り、地域の雇用環境への貢献が可能です。
  • 事業の存続
    地域で長年培ったブランドや顧客基盤が次世代に継承されます。
  • リタイア後の収入確保
    事業売却による資金が、引退後の生活資金や新たな挑戦の資金となります。
  • 地域経済の活性化
    新しい経営者が事業を引き継ぎ、新たな視点で地元を発展させる可能性があります。

買収側のメリット・デメリット

【メリット】

  • 既存の基盤をそのまま活用できる
    既に確立されたブランドや顧客基盤、従業員の知識や経験を引き継ぐことで、事業をスムーズに開始できます。
  • 新規参入のコストを抑えられる
    新たに事業を立ち上げる場合に比べて、設備投資や市場調査のコストを削減でき、迅速に市場に対応できます。
  • 早期収益化が見込める
    既に利益が出ている事業であれば、短期間で収益を上げられる可能性があります。
  • 地域での信頼を継承
    長年にわたり築かれた地域住民との信頼関係を引き継ぐことで、円滑な事業運営が期待できます。
  • 事業拡大や多角化の機会
    既存事業との相乗効果を図りながら、事業の規模拡大や新たな分野への展開を進められる可能性があります。

【デメリット】

  • 資金調達の課題
    事業買収にはまとまった資金が必要となるため、資金計画の立案や調達方法の選定が求められます。
  • 顧客や従業員との関係再構築が必要
    前経営者が築いた信頼関係を維持し、新たな経営体制における信頼関係を構築するには、時間と労力が必要です。
  • 期待通りの収益が得られない可能性
    事前の想定よりも利益率が低下するリスクや、設備の老朽化が予想以上であった場合など、慎重な事前検討が求められます。
  • 手続きにかかる負担
    許認可の名義変更や契約更新など、法的手続きや事務作業が多く発生し、専門的な対応が必要になる場合があります。
  • 組織や運営のリスク
    新体制への移行時に、従業員の離職や取引先との関係変化が発生するリスクがあり、計画的な対応が必要です。

小売業界の事業承継における手続きの流れ

事業承継は、計画的に進めることでスムーズな引き継ぎが可能になります。
以下は、一般的な手続きの流れです。

  • 会社の現状把握
    事業の収益性や資産状況、負債、顧客基盤などを整理します。このプロセスでは、専門家の協力を得ながら企業価値を正確に把握することが重要です。
  • 後継者の選定
    親族内での承継だけでなく、従業員や第三者への譲渡も視野に入れ、適切な後継者を選びます。それぞれの選択肢に応じた準備が必要です。
  • 事業承継計画の策定
    承継のスケジュール、資金計画、業務移行の方法など、具体的な計画を立てます。中小企業庁の統計によると、事業承継の準備には1~3年程度かかる場合が多いとされています。
  • 財務や税務の整理
    資産や負債の整理に加え、相続税や譲渡税の対策を行います。専門家と相談しながら税務リスクを軽減し、最適な形で事業承継を進めます。
  • 契約や法的手続き
    譲渡契約の締結、許認可の名義変更、取引先への通知などを進めます。これには一定の時間と手間がかかるため、事前に準備しておくことが重要です。
  • 引き継ぎ準備と実行
    業務内容やノウハウを後継者に移行し、経営のバトンタッチを行います。従業員や取引先にも丁寧に説明を行い、スムーズな移行を目指します。
  • 事業承継後の支援
    承継後も、新体制での運営をサポートする体制を整えることで、円滑な経営が実現します。

あくまでも一例ですが、おおむねこのように進みます。
準備には1年程度、場合によっては数年かかることもあります。

事業承継の売却価格の相場と評価方法について

事業承継では、売却価格を適切に算出することが重要です。
以下の3つの方法が一般的に用いられます。

■コストアプローチ

企業が保有する資産と負債を基に企業価値を算出します。
(例:不動産や設備の純資産価値)シンプルな計算方法ですが、将来の収益性は反映されません。

■マーケットアプローチ

同業種や市場の取引事例を参考に価値を評価します。
(例:近隣の同規模小売店がいくらで取引されたか)市場の動向を把握することが重要です。

■インカムアプローチ

将来の収益やキャッシュフローを基に企業価値を算出します。
(例:3年間の平均利益を基に計算)特に収益性の高い事業では有効ですが、正確な将来の予測が求められます。

また、これらに加えて「のれん代」と呼ばれる無形資産の価値(ブランド力や顧客基盤)が考慮されることもあります。
例えば、地域密着型の店舗では、「顧客との信頼関係」が大きな付加価値を生み出します。

価格はこれらの算出結果を基に売却側・買収側の交渉で決定されるため、専門家の支援を受けることで公正な評価が得られます。

小売業界の事業承継を進める6つの注意点

独占販売権の有無を確認する

事業承継では、「独占販売権の有無」が大きなポイントです。この権利があれば競争を回避でき、事業の強みとなります。
ただし、有効期限や対象範囲を事前に確認しないとリスクが生じます。
(例えば、ある企業が特定エリアの独占販売権を持つとしながらも、実はその権利が失効していたことで買収後に収益が低下した事例があります。)

こうした問題を避けるためには、以下の確認が必要です。

  • 独占販売権の有効期限や対象エリアを契約書で確認。
  • 売却側が特定顧客に対して独占販売権を付与していないか確認。
  • 必要に応じて専門家(弁護士)に契約内容を精査してもらう。

事前の精査によって、承継後のリスクを大幅に減らすことができます。

COC条項の有無を確認する

COC条項(Change of Control)は、事業の所有権が移転した際に取引先との契約がどうなるかを定めたものです。
この条項が存在する場合、取引継続には事前の承諾が必要になることがあります。
(例えば、家電小売店が契約確認を怠り、主要商品の取り扱いができなくなるといった問題が実際に発生しています。)

リスクを回避するためのポイントは以下です。

  • 契約書内にCOC条項の記載があるか確認する。
  • 条項に基づき、事前承諾が必要な場合は取引先に連絡。
  • 承諾の必要がない場合でも、事後報告を確実に行う。

こうしたリスクを未然に防ぐため、すべての契約を事前に確認し、必要に応じて取引先に通知や承諾を求める準備を進めましょう。

PMI(統合プロセス)を実施する

PMIとは、事業を引き継いだ後に、会社を一つにまとめてスムーズに運営するための取り組みです。
単に事業を買収するだけでなく、その後に新しい体制を整え、従業員や業務の調整を行うことが重要です。

  • 従業員にしっかり説明する:
    事業を引き継いだ理由や今後の方針を伝え、不安を取り除きます。
  • 仕事の無駄をなくす:
    重なっている部署や作業を整理して、効率よく運営します。
  • 新しい目標を決める:
    両社で同じ方向を目指して、利益を上げる計画を立てます。

こうした取り組みをすることで、承継後の会社を成功に導けます。例えば、ある企業が買収後の運営を整えた結果、1年で利益が20%増えた例もあります。

■PMIとは:Post-Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)」の略で、買収した後に、企業同士をうまく一つにまとめる作業のことを指します。

事前準備は早目に行う

事業承継を成功させるには、早い段階から準備を進めることが不可欠です。

準備期間が短い場合、買収先候補の選定や契約内容の見直しが不十分となり、後々のトラブルにつながるリスクが高まります。
例えば、ある中小企業が急な事業承継を余儀なくされた際、財務状況が整理されておらず、買収価格が市場価値より20%も低く評価された事例があります。

最低でも1年以上前から準備を始め、契約書の見直し、財務諸表の精査、税金対策を行うことで、安心して事業承継を進められる環境を整えることが大切です。
また、準備期間を十分に設けることで、売却先候補の選定や取引条件の交渉も有利に進めることができます。

高値で取引きできるタイミングを逃さない

事業を高値で引き継ぐには、業績が好調で市場が安定しているタイミングを狙うことが重要です。
例えば、飲食チェーンが市場拡大期に承継を行い、希望価格を実現した事例があります。

具体的な対策として以下が挙げられます。

  • 業績のピークを分析し、最適なタイミングで売却を進める。
  • 市場の動向を常に注視し、売却の準備を早めに進める。

適切なタイミングで進めるため、事業承継の専門家に相談するのも効果的です。

事業承継の専門家へ相談する

事業承継は、法務、税務、財務など幅広い専門知識が必要なため、専門家の力を借りることを強くおすすめします。

専門家の役割には以下のようなものがあります:

  • 弁護士:
    契約書の精査や交渉をサポートし、法律的なリスクを未然に防ぎます。
    また、株式譲渡や経営権移転に伴う法的手続き全般を進める役割も果たします。
  • 税理士:
    税金対策や財務状況の整理を行い、事業承継に伴う税負担を最小限に抑えます。
    例えば、贈与税や相続税の節税プランを立て、資産を有効活用します。
  • コンサルタント:
    買収先候補の選定や承継後の運営計画をサポートします。

具体的な例として、ある製造業が弁護士と税理士の連携を活用し、事業承継の際に税負担を30%削減し、法的手続きを迅速に進めたことで、取引先や従業員への影響を最小限に抑えた事例があります。

弁護士や税理士といった専門家のサポートを受けることで、リスクを減らし、安心して進むことができます。

小売業界の事業承継については「この街の事業承継」へご相談ください

地域の方々に長年愛されてきたお店や事業を、しっかりと次の世代につなぐために、事業承継は重要な一歩となります。

小売業界では、後継者不足や経営者の高齢化が進み、事業承継がますます重要なテーマとなっております。
「この街の事業承継」では、小売業界特有の課題に精通した経験を活かし、契約関係の確認から税務負担の最適化まで、承継に必要な手続きを弁護士が丁寧に進めさせていただきます。
築いてこられた信頼関係を守りながら、次世代への橋渡しもしっかりとサポートいたします。

どうぞお気軽にご相談ください。

西田 幸広 弁護士

この記事を監修した弁護士

西田 幸広 法律事務所Si-Law代表

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