薬局の事業承継の方法とは?メリット・デメリットや価格相場など

高齢化社会の進展に伴い、医薬分業が進んだ日本では、調剤薬局は住民の健康管理を担う、地域医療を支える重要な存在として欠かせません。
しかし、薬局経営者の高齢化や後継者不足が深刻化しており、事業承継が課題となっています。

その解決策として、親族や従業員への承継だけでなく、M&Aを通じた事業承継も増加しています。

本記事では、薬局の事業承継の必要性や方法、メリット・デメリット、価格相場、注意点などについて詳しく解説します。

薬局の事業承継とは

■事業承継とは:

現在の経営者が自社の事業を次世代の後継者に引き継ぐことを指します。
後継者には、経営者の親族、社内の従業員、または外部の第三者が含まれます。(外部承継の場合、M&Aを活用して事業を譲渡する選択肢もあります)

事業承継とは

■調剤薬局とは:

医師が発行した処方箋に基づき薬を調剤して患者に提供する専門薬局です。
医薬分業が進んだ日本では、医療機関と連携し、地域住民の健康を守る重要な役割を担っています。
近年では、処方箋薬だけでなく、健康相談や一般用医薬品(OTC)の販売、介護用品の提供など、多角的なサービスも行われています。

■薬局の事業承継の必要性

薬局の事業承継は、地域医療の継続において極めて重要です。
後継者がいない場合、経営者の引退とともに薬局が閉鎖され、地域住民が医療サービスを受けにくくなる恐れがあります。
地域に根ざした調剤薬局がなくなることで、高齢者や通院困難な患者にとっては生活上の大きな困難となります。
そのため、薬局経営者には早めの事業承継の準備が求められます。

薬局業界の現状

薬局業界は、少子高齢化や医療制度改革の影響を強く受けており、経営環境が大きく変化しています。

  • 処方箋枚数の減少
    少子化により医療を必要とする人口が減少傾向にあり、薬局の収益源となる処方箋枚数が伸び悩んでいます。
    一方で、高齢化に伴い慢性疾患を抱える患者は増加しており、患者一人あたりの処方箋の枚数は増加しています。
  • 大手薬局チェーンの台頭
    大手調剤チェーン薬局が、M&Aを通じて規模を拡大し市場シェアを占めつつあります。
    大手は豊富な資金力を背景に新規出店や買収を行い、効率的な運営で競争力を強化しています。
    その影響で、中小薬局は価格競争や顧客の流出などの課題に直面しています。

中小薬局は、大手との差別化を図るために地域密着型のサービスを強化する動きがあります。
具体的には、

  • 健康相談や栄養指導の提供
  • 在宅医療や訪問薬剤師サービスの強化
  • 一般用医薬品や介護用品の販売
  • M&Aによる承継の増加
    \後継者不足が深刻化する中、小規模薬局が事業継続のためにM&Aを活用するケースが増えています。
    譲受側の企業は、地域顧客やノウハウを取り込むことを目的とし、売却側にとっては事業の存続を図る手段となっています。

薬局で事業承継が行われる理由

薬局で事業承継が求められる背景には、次のような理由があります。

  • 経営者の高齢化
    日本全国で中小薬局を経営者の多くが高齢化しており、健康や家庭の事情を理由に引退を考えるがケースが増えています。
  • 後継者不足
    親族内に薬剤師資格を持つ後継者がいない場合、親族内承継は難しくなります。(このようなケースでは、親族外承継やM&Aを検討する必要があります。)
  • 薬剤師不足
    特に地方では薬剤師自体が不足しており、後継者探しがさらに困難です。
    人材不足は薬局運営の課題とも密接に関係しています。
  • 競合他社の増加
    大手チェーン薬局の進出により、地元の中小薬局が価格競争に直面しています。このため、効率化や承継を通じた生き残り策が必要とされています。
  • 調剤報酬改定への対応遅れ
    調剤報酬の改定は、薬局収益に直接影響を与える要因です。
    経営基盤が弱い薬局では、適応が遅れることで経営が悪化するリスクがあります。
  • 簡単に廃業しづらい理由
    薬局は地域医療を支える重要な存在であり、単なる商売以上の公共的な役割を担っています。
    特に高齢者が多い地域では、薬局が閉鎖することで住民の医療アクセスが損なわれ、地域全体に深刻な影響を与えます。
    そのため、廃業の代わりに事業承継が選ばれるケースが増えています。

薬局における事業承継の方法とメリット・デメリット

地域医療を支える重要な存在である薬局では、事業承継の方法が大きな課題となっています。
薬局の経営には調剤報酬や地域住民との信頼関係が深く関わっており、他の業種とは異なる特有の承継方法が必要です。
薬局の事業承継には大きく3つの方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。

以下、各方法について詳しく解説します。

事業承継の方法とは?

親族内承継

親族内承継は、経営者の子どもや配偶者など、親族が薬局を引き継ぐ方法です。

日本では、薬局の承継方法として一般的に行われてきました。
しかし、少子化やライフスタイルの多様化により、親族内承継が難しいケースが増えています。

【メリット】

  • 長年築き上げてきた薬局の経営方針や、地域住民との深い信頼関係をそのまま引き継ぐことができます。
    特に薬局の場合、地域医療との結びつきが強いため、親族が承継することで安定感があります。
  • 親族であれば、承継において互いの状況を把握しやすく、周囲(患者や従業員)からの理解も得やすいです。

【デメリット】

  • 調剤薬局の運営には「薬剤師資格」が必要です。
    後継者が資格を持たない場合、資格取得のための学費や時間が必要になり、事業承継が長期化します。
  • 後継者の選定や経営方針について親族間で意見が分かれることがあります。
    場合によっては感情的な対立が事業に影響を及ぼす可能性もあります。
  • 親族であっても経営能力が不足していたり、薬局経営に興味がない場合、事業継続が困難になる可能性があります。

親族外承継

親族以外の従業員や外部の第三者が薬局を引き継ぐ方法です。

親族に後継者がいない場合や、親族が薬局経営を望まない場合に選択されることが多く、従業員の中から適任者を選ぶケースや、外部から経営者を迎えるケースがあります。

【メリット】

  • 親族に限定せず、薬局運営に適したスキルや経験を持つ人材を選ぶことが可能です。
    特に、長年勤めている従業員が引き継ぐ場合、地域住民との信頼関係や業務知識をそのまま活用できます。
  • 親族が薬局経営に携わることを望まない場合でも、地域医療を守るための事業継続が可能です。

【デメリット】

  • 外部承継では、買収資金が必要となるケースがあります。特に個人での買収は負担が大きく、後継者の資金力が不足する場合があります。
  • 従業員や患者に親族外承継を説明し、信頼を得るための努力が必要です。
    引き継ぎが上手くいかない場合、地域住民や患者の不安を招く可能性があります。

M&A

M&A(事業譲渡)は、薬局の事業を第三者(主に他の薬局経営者や企業)に売却する形で引き継ぐ方法です。
近年、後継者不足が深刻化する中、大手薬局チェーンが地方薬局を買収するケースが増加しています。
廃業を防ぎながら地域医療を継続するための有効な選択肢として注目されています。

【メリット】

  • 後継者問題を解決:親族や従業員に適任者がいない場合でも、第三者への譲渡によって事業の引き継ぎが可能です。
    特に、大手チェーンが買収する場合、豊富な運営ノウハウを活用することで、経営の安定が期待できます。
  • 老後資金を確保:経営者が薬局を売却することで得られる資金は、引退後の生活資金として活用できます。
    適正な価格で譲渡することで、老後の不安を軽減することができます。
  • 地域医療を継続できる:事業を譲渡することで、地域住民がこれまで通り医療サービスを受けられる環境が保たれます。

【デメリット】

  • 経営方針の変更リスク:譲渡後、譲受先が経営方針を大きく変更する可能性があります。
    これにより、患者や従業員が不安を感じたり、従来のサービスが損なわれることもあります。
  • 信頼関係の喪失の可能性:地域密着型の薬局では、長年築いてきた患者や地域住民との信頼関係が損なわれる可能性があります。
    そのため、慎重な譲渡が求められます。
  • 格交渉の難しさ:譲渡価格を適正に決めるには、譲受先との交渉が必要です。
    円滑に進めるためには、専門家のサポートを受けることが重要です。

M&A(事業譲渡)は、薬局を存続させ地域医療を守るための重要な手段です。
ただし、地域住民や従業員に与える影響を考慮し、慎重に計画を進める必要があります。

薬局における事業承継の手続きの流れ

薬局の事業承継を円滑に進めるためには、計画的な準備が不可欠です。
突然の経営者引退や予期せぬ事態に備えるためにも、早めの準備が重要です。

以下は、薬局の事業承継手続きの主な流れです。

■事業承継の主な流れ

  • 会社の現状把握
    薬局の財務状況、従業員数、地域医療との関係性など、現在の経営状況を客観的に確認します。
  • 後継者候補の選定
    親族や従業員、第三者(M&Aを利用する場合)から最適な候補者を選びます。
  • 事業承継計画の立案
    後継者への引き継ぎをスムーズに行うための計画を作成します。
    承継時期や育成スケジュール、財務整理も含めます。
  • 後継者の育成
    後継者に経営ノウハウや地域との関係性を学ばせ、経営スキルを習得させます。
  • 関係者への説明
    従業員や取引先、地域の顧客に事業承継について事前に説明し、安心感を与えます。
  • 経営改善
    経営を健全化して薬局の価値を高めることで、承継後の経営を安定させます。
  • 事業承継の実施
    法的手続きや税務対策を行い、正式に事業を引き継ぎます。

事業承継には時間がかかるため、数年単位での準備が必要です。
詳しくは、こちらのページも参考にしてください。

事業承継の手続きを徹底解説!

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薬局の事業継承を行う最適なタイミング

事業承継を成功させるためには、タイミングがとても重要です。
後継者の育成や引き継ぎには5~10年の長い時間が必要とされるため、早めの準備を心掛けるべきです。

■事業承継のタイミングのポイント

  • 引退時期から逆算して準備を始める
    経営者が引退を希望する年齢から逆算して、承継計画を早めに始める必要があります。準備が遅れると、後継者育成や地域との信頼関係の継続が難しくなります。
  • 経営状態が良い時に行う
    経営が悪化してから事業承継を行おうとすると、希望する価格での売却が難しくなる場合があります。
    特にM&Aでは、薬局の収益性や地域での評判が価格に大きく影響します。

時間をかけて計画を立てることで、薬局の価値を高め、後継者や譲渡先にとってもスムーズな引き継ぎが可能となります。

薬局の事業承継における価格相場

薬局の事業承継における譲渡価格は、親族外承継やM&A(事業譲渡)を行う際に特に重要です。
価格は以下の3つの要素の合計で算出されることが一般的です。

1.価格相場を決める基準

  • 時価純資産価額

薬局が保有する資産(建物、在庫、設備など)の価値から負債を差し引いたものを時価で評価します。
具体的には、

  • 店舗の土地や建物の時価
  • 売掛金や在庫の市場価値
  • 借入金や未払い金の金額

などを総合的に判断します。

2.営業権(のれん代)

薬局のブランド力や収益性を反映した価値です。
「営業権」は、譲渡先が今後得られる利益を見越した金額で計算されます。
通常、年間の純利益の数年分(例:3~5年分)が目安となります。

3.月の技術料と処方箋応需枚数

技術料(調剤報酬)と処方箋応需枚数は、薬局の収益を直接的に示す重要な指標です。

  • 月間の処方箋枚数が多いほど、高い価値がつきやすくなります。
  • 技術料が安定している場合、譲渡先にとっても安心材料となります。

4.譲渡価格の目安

例えば、
処方箋応需枚数が月間2,000枚で、営業権を3年分と仮定した場合:
【営業権=年間純利益×3年分+時価純資産価額】
といった計算が基本です。

薬局の価格相場は地域性や市場動向により変動するため、専門家のアドバイスを受けることが重要です。
その価値を適切に評価することで、事業承継を成功させましょう。

薬局が事業承継を行う際の注意点

薬局の事業承継の際、準備不足や方法の誤りを避けるため、以下の注意点を押さえ、計画的に進める必要があります。

事業承継の準備は早めにはじめる

薬局の事業承継は、一般の中小企業に比べて準備期間が短くスムーズに進むケースが多いですが、それでも3~5年程度の計画期間が推奨されます。
後継者の選定や育成、財務状況の整理、関係者への説明など、計画的に進める必要があります。
特に薬局は地域医療を担う存在であるため、早めの取り組みが大切です。

■主な準備のポイント

  • 後継者の選定と資格の確認
    後継者が薬剤師資格を持たない場合、資格取得や学費の準備も計画に組み込む必要があります。
  • 地域医療を守る体制づくり
    承継が円滑に進むことで、患者や従業員に安心感を与え、地域医療の安定が保たれます。
    事業承継は薬局を次の世代につなぎ、地域の健康を守る前向きな取り組みです。
  • 専門家への相談
    法的手続きや税務対策など複雑な手続きは、弁護士や税理士などの専門家に早めに相談し、安心して進めましょう。

最適な事業承継の方法を選択する

事業承継には「親族内承継」「親族外承継」「M&A(事業譲渡)」の主な方法があり、それぞれの特徴に応じた適切な選択が必要です。

■方法選択のポイント

  • 親族内承継
    家族に薬局を引き継ぎたい場合、後継者が薬剤師資格を持つか、経営能力を備えているかを考慮した上で、育成計画を立てます。
  • 親族外承継
    従業員や外部の適任者を選ぶ場合、信頼性や経営力を重視して候補者を選定します。
  • M&A(事業譲渡)
    後継者がいない場合、事業の存続を図る選択肢として、大手薬局チェーンや地元企業への譲渡を検討します。

後継者の育成・引継ぎを十分に行う

後継者の育成や事業の引継ぎは、薬局の地域医療への貢献を維持するため、十分な時間をかけて計画を進める必要があります。

■育成・引継ぎのポイント

  • 経営スキルの継承
    調剤業務だけでなく、経営に関する知識やノウハウを後継者にしっかり伝えます。
  • 患者や従業員との関係構築
    後継者が地域住民や従業員から信頼を得るため、引継ぎ期間中に積極的な交流を図り、薬局の価値を次世代に引き継ぎます。
  • 専門家の活用
    法律や税務に詳しい専門家の助言を受けることで、引継ぎに必要な手続きの抜け漏れを防ぎます。

薬局の事業承継については「この街の事業承継」にご相談ください

日本全体で後継者不足が深刻な問題となっています。
薬局もその例外ではありません。

薬局は地域医療を支える大切な存在です。引き継ぎがうまくいかないと、患者さんや地域の方々にとって不安や困難が生じることもあります。
だからこそ、早めに準備を始めることがとても大切です。

「この街の事業承継」では、弁護士・司法書士・社労士である西田幸広が、薬局経営者の方のお悩みに寄り添いながら、しっかりとサポートします。
後継者をどう選ぶか、どう育てるか、また事業を譲る場合の手続きや方法についても、一緒に解決策を考えていきます。

地域の皆さんに必要とされる薬局を次の世代へつなぐため、一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。

西田 幸広 弁護士

この記事を監修した弁護士

西田 幸広 法律事務所Si-Law代表

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