事業承継における金庫株(自社株買い)とは?活用するメリット・デメリット

会社が自ら発行した自社株を買い取ることを「金庫株(自社株買い)」と言います。
事業承継の際には、金庫株を活用することで様々なメリットがあります。

ここでは、金庫株(自社株買い)について、わかりやすく説明します。

金庫株(自社株買い)とは

■金庫株(自社株買い)とは
株式の発行会社が自社の株式を買い取ること

厳密には「自己株式」と呼ばれますが、会社自身が保管しているようなイメージから「金庫株」という名称が定着しました。

金庫株は、2001年10月の改正商法により解禁されました。
金庫株を使うことで、会社は自分の株を市場から買い戻し、会社の中に保管できます。
これは、株価の安定や経営の安定に役立ちます。

事業承継における金庫株の目的

中小企業の事業承継では、以下のような問題を抱えていることが多いです。
金庫株(自社株買い)の活用により、これらの問題に対応することができます。

  • 株式分散
    多くの株主に株式が分散していると、会社の意思決定が難しくなります。
  • 後継者の税金負担
    後継者が株を相続する際に、相続税が大きな負担になることがあります。

金庫株を使うと、会社が自分の株を買い取ることで、株の分散を防ぐことができます。また、後継者にとっては、税金の負担を軽減しやすくなります。

自社株の引き継ぎ方法

後継者は最低でも自社株の5割以上を持っている必要があります。(5割以下になると、役員解任のおそれがあるためです。)

自社株の引き継ぎ方法には、主に以下の3つがあります。

株式贈与 親から子へ株式を無償で贈与する方法です。贈与税が発生する場合がありますが、計画的に行うことで負担を軽減できます。
遺言による相続 経営者が亡くなった際に、遺言に基づいて株式を相続する方法です。相続税が発生しますが、事前に対策を講じることで影響を軽減できます。
株式譲渡 株を売買契約で譲る方法です。譲渡価格の設定や支払い方法に注意が必要です。

これらの方法を活用して、後継者がスムーズに自社株を引き継ぎ、経営を安定させることができます。

事業承継における金庫株(自社株買い)のメリット

金庫株(自社株買い)を使うことで、事業承継において多くのメリットがあります。
ここでは、その具体的なメリットについてわかりやすく説明します。

株式分散を防止できる

金庫株を利用すると、後継者が持つ株の割合を増やすことができます。

■メリット

  • 経営権の強化
    後継者が会社の株を多く持つことで、経営権が強化されます。
  • 安定した経営
    後継者が50%以上の株を持つことで、会社の経営を安定して行うことができます。
  • 株式の保持
    会社が後継者のために株を買い戻すことで、後継者が株をしっかり持ち続けることができます。
  • 遺産相続後の維持
    経営者が亡くなった後でも、分散した株式を会社が買い取ることで、遺産相続後も後継者の株式保有比率を維持できます。

これにより、後継者はより強い経営権を持つことができ、会社の安定した運営が可能になります。
株が分散してしまうと、経営が難しくなることがあるので、金庫株を活用してこれを防ぎます。

相続税の負担を軽減できる

金庫株を活用することで、相続税の負担を軽減することができます。

■メリット

  • 税負担の発生
    相続や贈与で株式を引き継ぐ場合、相続税や贈与税が発生します。
  • 換金性の問題
    非上場企業の株式は市場での取引がないため、現金に換えるのが難しく、納税資金を確保しにくいです。
  • 金庫株の取得
    相続により取得した自社株式を会社が金庫株として取得することが可能です。
  • 納税資金の確保
    後継者は自社株を会社に売却することで得た代金を、相続税の納税資金として活用できます。

この方法により、後継者は納税のための資金を確保しやすくなり、税負担を軽減できます。
非上場企業の株式は売りにくいので、金庫株を使って現金化し、納税資金に充てることが効果的です。

みなし配当課税の特例とは

■金庫株特例とは
事業承継の際に特別な税制優遇を受けられる制度です。

通常、個人が会社に株式を売却すると、その利益は「みなし配当」として扱われ、最高税率55%の配当金課税がかかります。
しかし、事業承継において相続や遺贈で株式を取得した場合、みなし配当としてではなく「譲渡所得」として扱われます。
この場合、課税率は最大でも15%と大幅に低くなります。

この特例を利用するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。

  • 相続手続き開始後3年10カ月以内に株式を売却すること
  • 事業承継の目的で行う売却であること

このように、みなし配当課税の特例を活用することで、事業承継に伴う税負担を大幅に軽減することができます。

相続税の取得費加算特例とは

■取得費加算の特例とは
相続や贈与で取得した財産の取得費(原価)に、支払った相続税を加算することで、譲渡時の課税所得を減らす制度です。

この特例を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 相続、遺贈、死因贈与により財産を取得した個人であること
  • 財産の取得者が相続税を納めていること
  • 財産の相続開始日から3年10カ月以内にその財産を譲渡していること

これらの条件を満たすことで、譲渡所得の計算において取得費を加算できるため、結果として課税される所得が減り、税負担が軽減されます。

株主への利益還元ができる

金庫株は、会社が自社の株式を買い取ることで、他の株主にもメリットがあります。
具体的には以下の通りです。

・会社が保有する株式には議決権が認められないため、他の株主の議決権比率が相対的に高くなります。

・自社株買いで購入した株式は発行済株式総数から除外されるため、一株あたりの利益が増加します。

・利益が増えることで、株主への配当が増加する可能性があるため、自社株買いは他の株主への利益還元になります。

金庫株をうまく活用することで、会社は株主への利益を増やし、企業価値の向上にもつながります。
企業が安定して成長するための一つの手段として、金庫株(自社株買い)は非常に有効です。

事業承継における金庫株(自社株買い)のデメリット

金庫株の取得資金が必要

金庫株(自社株)を買い取るには、当然ながら資金が必要です。
この資金をあらかじめ準備しておく必要がありますが、会社が資金不足の場合、株式の価値を低く見積もってしまうことがあります。

その結果、税務署から不当な評価として追徴課税を受けるリスクが高まります。

【ポイント】
・適切な資金計画を立てることが重要です。
・必要な資金を早めに確保し、適正な株価で取引するよう努めるべきです。

分配可能額に制限がある

自社株買いは、会社の分配可能額の範囲内でしか行えません。
(■分配可能額とは:会社の利益剰余金から債権者への支払額を引いたものです)

自社株買いを配当と同じ扱いにすることで、配当が過剰になり、債権者が資金を回収できなくなるのを防ぐ目的があります。
このため、分配可能額を超えて自社株買いを行うと、その取引は無効となります。

【ポイント】
・分配可能額の範囲内で自社株買いを計画することが必要です。
・無効取引を避けるために、分配可能額をしっかり確認しましょう。

取得情報を公開する必要がある

金庫株を取得する際には、会社法に基づき他の株主に対してその情報を通知する義務があります。
これは、株主間での買取価格や買取機会の公平性を保つためです。
全ての株主に対して買取価格や買取の事実を通知しなければなりません。

もし、他の株主より高い価格で買取が行われていることが判明すれば、不公平感から反感を買う恐れがあります。

【ポイント】
・公平性を保つため、全ての株主に買取情報を通知することが重要です。
・透明性を持って情報を提供し、公正な取引を心掛けましょう。

買取ができない条件がある

自社株買いには、一定のルールがあります。
例えば、会社の純資産額が300万円を下回る場合は買取ができません。

また、次のような条件で買取りができない場合があります。

  • 株主総会の決議がある場合[株主の同意が必要です
  • 合併や他社事業の全部譲受など、重大な会社変更があった場合
  • 相続人からの売渡請求があった場合[この場合は買取義務があります
  • 株主の所在が不明な場合
  • 単位未満株(1株未満)の取得の場合[別途ルールがあります

このように、一定の条件下では自社株買いが制限されたり、特別なルールが適用されます。

キャッシュフローに影響するおそれがある

自社株買いは、会社にとって支出のみが発生する取引です。
つまり、会社の手元資金が減少し、後のキャッシュフローに悪影響を及ぼす可能性があります。
(キャッシュフローとは:会社の現金の流れを指します)

【ポイント】
・短期的な資金繰りだけでなく、長期的な会社の財務状況も考える
・自社株買いが将来の現金の流れにどの程度影響するか、しっかり見積もる
・会社の将来を見据えて、賢い財務運営をする

自社株買いは現金を減少させますが、計画的に行うことで大きな問題にはなりません。
ただし、将来の現金不足を防ぐために、財務状況を継続的に見直し、計画的に進めることが必要です。

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事業承継における自社株買いの流れ

自社株買いには、「買い取る株主を特定せずに行う方法」と「買い取る株主を特定して行う方法」の2つがあります。
ここでは、後継者など「買い取る株主を特定して行う方法」の流れを解説します。

  1. 1. 売主追加請求
    – 売主(株主)が自社株を売りたいという意思を会社に伝えます。
  2. 2. 株主総会の特別決議
    – 自社株買いを行うためには、株主総会で特別決議を通す必要があります。特別決議とは、株主の過半数以上の賛成が必要な重要な決定を指します。
  3. 3. 取締役会の決議
    – 株主総会での特別決議が通った後、取締役会で具体的な自社株買いの方法や条件を決定します。
  4. 4. 株主に対する通知
    – 自社株を買い取ることになった株主に対して、取締役会の決議内容を通知します。通知には、買い取る株式の数や価格などの詳細が含まれます。
  5. 5. 株主から譲渡の申込み
    – 通知を受けた株主が、自社株を会社に譲渡する申込みを行います。この申込みにより、自社株買いの手続きが進みます。

重要なのは、各ステップで法的な手続きを守り、公正かつ透明な取引を行うことです。

事業承継における金庫株(自社株買い)のポイント

事業承継における金庫株では、以下のポイントを組み合わせて活用することでメリットを得ることができます。
具体的には、生命保険、役員退職金、事業承継税制を組み合わせて活用します。

生命保険の活用

会社が法人契約の生命保険に加入すると、保険金が会社の収入になります。(保険金は会社の雑収入として扱われ、会社にとっては追加の資金源となります)

この保険金は、会社の剰余金分配可能額を増加させる効果があります。
現金で受け取ることができるため、資金繰りの改善や自社株買取資金の確保に活用できます。

【メリット】
後継者が株式を取得する際には、保険金を使って株を買い戻すことでスムーズに株式移動が行えます。

保険金の税務上の取り扱いには注意が必要ですが、適切に活用することで税務上のメリットも得られることがあります。

生命保険を活用した事業承継対策

役員退職金の活用

社長や役員の退職金支払いにはいくつかの影響があります。支出が増えて資金が減少し、余剰資金も減少することで会社全体の資産価値が下がります。
→自社株価の低下や株主間での株式移動を引き起こす可能性があります。

【ポイント】
適切な計画や経営方針を持っていれば、これらの影響を最小限に抑えることができます。
経営陣や株主との密接なコミュニケーションを重視し、円滑な事業承継や経営の安定を目指しましょう。

事業承継税制の活用

事業承継税制は、事業を引き継ぐ際に贈与税や相続税の支払いを一部猶予する制度です。(一定の要件を満たすと、税金の負担が軽減されます)

金庫株と組み合わせて活用することで、贈与税や相続税の節税効果が期待できます。
これにより、後継者にとっても経営を引き継ぎやすくなります。

事業承継で金庫株を有効に活用するために、この街の事業承継がアドバイスいたします。

円滑な事業承継のためには、様々な制度を上手に組み合わせる必要があります。
その一つが金庫株(自社株買い)の活用です。

金庫株を賢く活用することで、次のようなメリットが期待できます。

  • 会社の現金を節約できる(退職金の支払いなどで現金が減らない)
  • 後継者に株式を渡しやすくなる
  • 税金の支払いを少なくできる

節税効果を得ながら後継者への株式移転を有利に進めることができます。
一方で、金庫株の取り扱いは法令等の規制があり、デメリットや注意点も存在します。

金庫株の適切な活用方法について、わかりやすくお伝えします。

西田 幸広 弁護士

この記事を監修した弁護士

西田 幸広 法律事務所Si-Law代表

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