事業承継と廃業はどちらを選ぶべき?それぞれのメリット・デメリットなど

経営者にとって、事業の将来を大きく左右する重要な決断が訪れます。
事業を承継して続ける道、事業を閉じる選択、どちらも慎重に検討すべき大切な選択肢です。

本記事では、「事業承継」と「廃業」のそれぞれの意味を解説し、メリットとデメリット、どちらを選ぶべきかを判断するための基準についてわかりやすく解説します。

事業承継と廃業の意味

経営者が会社経営から身を引く主な選択肢として「事業承継」と「廃業」があります。
どちらを選択するかで、会社の未来や関係者への影響が大きく変わってきます。

それぞれの特徴を見ていきましょう。

事業承継とは

事業承継とは、現経営者が後継者に経営権を引き継ぐことを指します。

事業承継には主に以下の種類があります。

  • 親族内承継: 子どもなどの親族に経営権を引き継ぐ方法です
  • 従業員承継: 社員に経営権を引き継ぐ方法です
  • 第三者承継: 社外の人物や他社に経営権を引き継ぐ方法です
  • M&A: 他社に事業を売却する方法です

事業承継を選択することで、長年築いてきた事業価値や従業員の雇用を守ることができます。

廃業とは

廃業とは、経営者の意思で事業活動を終了し、法人を解散することを指します。
倒産や清算とは異なり、債務超過に陥っていなくても自主的に廃業を選択することができます。
実際には、黒字の状態でも後継者不在や将来性への不安といった理由から廃業を選ぶことがあります。

廃業を選択する場合は、以下の点に注意して進めることが必要です。

  • 取引先や従業員への影響: 最小限に抑えるための対策を講じる
  • 税務上の処理: 適切な手続きを行う
  • 法的手続き: 必要な手続きを確実に実施する
  • 経営者の生活設計: 廃業後の生活に関する計画を立てる

これらの点を考慮することで、廃業手続きを計画的に進めることができます。

中小企業における廃業数の現状

中小企業庁の「2023年版中小企業白書」によると、日本の中小企業の廃業率は年々上昇しています。
2020年度の廃業率は約3.6%で、約12万社が廃業しました。特に、小規模事業者の廃業率は高く、約4.2%に達しています。

また、帝国データバンクの「2023年全国社長分析」では、70歳以上の社長が約35%を占めると報告されており、このデータからも、高齢化が進んでいることがわかります。

これらの統計から、多くの中小企業経営者が事業の継続に課題を抱えており、廃業を検討せざるを得ない状況に置かれていることがわかります。

中小企業が廃業してしまう理由とは?

中小企業が廃業に至る主な理由には以下のようなものがあります。

  • 後継者不在の問題
  • 事業承継の資金不足の問題
  • 経営者の時間的・体力的問題

詳しくは、当サイトの「事業承継の課題」ページでも解説しています。

事業承継の課題

後継者不在の問題

後継者不在は、中小企業が廃業を検討する際の最も大きな要因の一つです。
(中小企業庁の調査によると、廃業を考えている企業の約半数が「適当な後継者がいない」ことを主要な理由として挙げています。)

家族経営の企業では、子供が事業を継ぐ意向がない場合や、従業員の中にも適切な後継者がいない場合に、問題が深刻化することがあります。
また、業界の将来性や事業の収益性に対する不安があると、外部からの後継者を見つけるのも難しくなります。

事業承継の資金不足の問題

事業承継には相当の資金が必要であり、これが廃業の理由となるケースもあります。
具体的には、後継者が株式を買い取るための資金や、相続税・贈与税の支払いに必要な資金が不足することがあります。
また、事業を継続・発展させるための設備投資や、負債の返済に必要な資金調達が難しいこともあります。

この資金調達の壁が、結果的に廃業を選ばざるを得ない状況を招くことがあります。

経営者の時間的・体力的問題

事業承継の準備には通常3〜5年程度かかるとされており、高齢の経営者にとってはこの期間が大きな負担となります。
東京商工リサーチの調査によると、経営者の平均引退年齢は70歳前後であり、体力的な限界を理由に廃業を選ぶケースも多いです。

さらに、日々の経営に追われる中で事業承継の準備に十分な時間を割けないことも問題です。
特に小規模事業者では、経営者が多くの業務を一手に担っていることが多く、承継のための時間確保が難しくなり、結果的に廃業につながることがあります。

事業承継と廃業はどちらを選ぶべきか?

事業承継と廃業は、法的手続きだけでなく、事業価値やノウハウの継承にも大きな違いがあります。
会社の状況、将来性、従業員の雇用、取引先との関係など、多角的な視点から検討が必要です。

事業承継のメリット・デメリット

メリット

  • 法人格と契約関係の継続
  • 事業価値とノウハウの維持・発展
  • 従業員の雇用継続
  • 取引先との関係維持
  • 相続税・贈与税の軽減可能性
  • 個人保証負担の軽減可能性

事業承継では、法人格が存続するため、多くの法的・経営的関係が維持されます。
長年培った技術やノウハウ、顧客との信頼関係が次世代に引き継がれ、さらなる発展の可能性が開かれます。
税制面でも、事業承継税制の活用により相続税や贈与税の負担軽減が期待できます。

デメリット

  • 複雑な株式・資産移転手続き
  • 後継者との詳細な契約締結
  • 債務承継のリスク
  • 後継者育成の時間と労力

事業承継には法的・経営的な課題も伴います。
株式や事業用資産の評価・移転には専門知識が必要で、後継者との契約締結も慎重に行う必要があります。
また、適切な後継者の選定と育成には、相応の時間と労力がかかります。

廃業のメリット・デメリット

メリット

  • 債務関係の整理
  • 経営負担からの解放
  • 個人保証範囲の明確化
  • 新たな人生の開始機会

廃業を選択した場合、債務関係を整理し、経営の重圧から解放されます。
個人保証の範囲が明確になり、将来的なリスクを限定できる可能性があります。また、新たなキャリアや人生を始める機会にもなります。

デメリット

  • 従業員の雇用喪失
  • 取引先との関係終了
  • 事業価値とノウハウの喪失
  • 労働問題や損害賠償のリスク
  • 清算手続きの時間とコスト
  • 個人債務残存のリスク

廃業には重大なデメリットもあります。従業員の解雇や取引先との契約解除に伴う法的リスクに加え、長年築いた事業価値やノウハウが失われてしまいます。
また、清算手続きにかかる時間と費用、経営者個人の債務が残るなどのリスクも考慮する必要があります。

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廃業を回避して事業承継するためのポイント

事業承継を成功させるためには、以下のポイントに注意が必要です。

  • 早期準備:後継者の選定・育成には時間がかかります。5~10年前から準備を始めることが理想的です。
  • 経営状況の分析:自社の財務状況、事業の将来性、業界動向を客観的に分析します。
  • 適切な承継方法の検討:親族内承継、従業員承継、M&Aなど、状況に応じた最適な方法を選択します。
  • 法的手続きの理解:株式移転、事業用資産の評価など、複雑な法的手続きを理解し、適切に対応します。
  • 税務対策:事業承継税制の活用など、税負担を軽減する方策を検討します。
  • 専門家の支援活用:弁護士、税理士、公認会計士など、各分野の専門家のアドバイスを受けます。

事業承継には様々な法的・経営的課題がありますが、適切な準備と専門家の支援により、多くの問題を回避または軽減できます。
具体的な事業承継の手続きについては、以下のページをご参照ください。

事業承継の手続きを徹底解説

補助金・制度の活用

事業承継を支援する主な制度には以下のようなものがあります。

  • 事業承継・引継ぎ補助金
    内容:事業承継・引継ぎに係る取組に要する経費の一部を補助
    要件:中小企業者で事業承継・引継ぎを行う者
  • 経営承継円滑化法による支援制度
    内容:遺留分に関する民法の特例、金融支援、税制措置など
    要件:中小企業者で事業承継を行う者
  • 事業承継税制
    内容:非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予・免除制度
    要件:中小企業者で一定の要件を満たす者
  • 中小企業向け事業承継融資制度
    内容:事業承継に必要な資金の低利融資
    要件:事業承継計画を有する中小企業者

これらの制度は、事業承継に伴う金銭的負担を軽減し、円滑な承継を支援します。

経営承継円滑化法とは?

廃業や事業承継についてのお悩みは「この街の事業承継」へご相談ください

事業の継続か廃業か。どちらの道を選ぶにしても、まずは正確な知識を得ることが何より大切です。

「この街の事業承継」では、弁護士・司法書士が、法務、税務、財務の観点から、廃業のリスクや事業承継の方法、利用可能な支援制度など、判断に必要な情報をわかりやすくお伝えします。
悩んだ末の決断だからこそ、十分な情報を基に最善の選択をしていただきたいと考えております。

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西田 幸広 弁護士

この記事を監修した弁護士

西田 幸広 法律事務所Si-Law代表

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