事業承継対策で自社の株価を下げる10の方法|評価方法もあわせて解説
非上場株式(証券取引所に上場されていない会社の株式)は、実際の価値よりも高く評価される傾向があります。
これは、事業を引き継ぐ際に大きな問題となる可能性があり、相続税や贈与税への対策として、株価を適切に評価し、場合によっては引き下げることが重要になります。
本記事では、株価を下げる理由、方法、自社株の評価方法などについてわかりやすく解説します。
目次
事業承継で株価対策が必要な理由
事業承継において株価対策が重要となる主な理由は以下の2点です。
1. 相続税・贈与税の最適化:
適切な株価評価により、課税対象となる会社の評価額を適正化できます。
例えば、評価額が1億円から8000万円に下がれば、最大で1100万円の節税効果が生まれる可能性があります。ただし、不当な株価引き下げは税務上の問題となるため、適切な評価方法の選択が極めて重要です。
2. 後継者の株式保有率確保:
事業を引き継ぐ方(後継者)は、会社の経営権を維持するために十分な数の株式を保有する必要があります。
しかし、自社株を現金化することは簡単ではないため、株価が高すぎると、後継者が必要な数の株式を取得するのが難しくなってしまうのです。
これらの理由から、事業を引き継ぐ前に自社株の価値を適切に評価し、必要に応じて引き下げておくことが、重要な税金対策となります。
この対策は、計画的かつ継続的に行うことが重要です。通常、株価対策は3〜5年程度の期間をかけて行うため、事業承継の5〜10年前から準備を始めることが望ましいです。
自社株の評価方法の種類
非上場株式((証券取引所に上場されていない会社の株式))の評価方法は、会社の規模、業種、株主が同族(親族など)かどうかなどによって異なります。
主な評価方法は以下の2つです。
1. 類似業種比準方式
- 同族株主の場合に使用
- 会社の業績や資産の内容を株価に反映させる方式
- 主に大きな会社で利用される
- 同じような事業を行っている上場企業の株価を参考に計算
2. 純資産価額方式
- 会社の資産から負債を引いた額(純資産)を基に株価を算出
- 小規模な会社や業績があまり良くない会社で使用されることが多い
場合によっては、これら2つの方式を組み合わせて株価を算出することもあります。
これらの評価方法を理解し、適切に活用することで、事業承継をスムーズに進め、不必要な税負担を避けることができます。
類似業種比準方式
類似業種比準方式は、主に大規模な同族会社(親族などが主要株主である会社)で利用される評価方法です。
この方式では、上場している同業種の会社の株価を参考に、自社の株価を算出します。
■計算式
■計算のポイント
- 類似業種の選定が重要です。国税庁が業種ごとに公表する類似業種の株価を使用します。
- 0.7は中会社の場合の掛け率で、会社の規模によって変動します。
- 配当、利益、純資産の3要素を均等に評価することがこの方式の特徴です。
純資産価額方式
純資産価額方式は、主に小規模な会社や業績が芳しくない会社で利用される評価方法です。会社の純資産(資産から負債を引いた額)を基に株価を算出します。
■計算式
■計算のポイント
- 資産や負債の評価額は、通常、時価で計算します。
- 土地や有価証券など、含み益や含み損がある資産については、適切な評価が必要です。
- この方法は会社の清算価値に近い評価となるため、業績の良くない会社で使われることが多いです。
両方式とも、正確な評価には専門的な知識が必要になります。
実際の適用にあたっては、税理士や弁護士などの専門家に相談しましょう。
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事業承継のために株価を下げる10の方法
株価を下げる仕組みは、主に会社の純資産(資産から負債を引いた額)を減らすか、利益を減らすことです。ただし、評価方法によって効果的な対策が異なります。
以下に、評価方法ごとの有効な対策をまとめました。
【類似業種比準方式】
- 役員退職金を支給する
- 役員報酬を増やす
- 配当金を引き下げる
- 生命保険を活用する
- 不良債権・資産を処分する
【純資産価額方式】
- 不動産を購入する
- 設備投資をする
- 株式数を増やす
- 高収益部分を子会社化・別会社化する
- 会社規模を大きくする
これらの方法は、会社の財務状況や将来の事業計画に大きく影響します。
そのため、単に株価を下げるだけでなく、会社の持続的成長も考慮しながら適切な方法を選択することが重要です。
税務上のリスクを抑えるために、専門家と一緒に慎重に進めることをお勧めします。
役職退職金を支給する
役員退職金を支給すると、会社の純資産を減らすことができます。
特に、長年経営に携わってきた先代経営者や退職する役員への支給は、金額が大きくなりやすいため、株価引き下げに有効です。
ただし、注意が必要なのは、会社の業績や規模に見合わない過大な額の場合、税務上で損金不算入(経費として認められない)と判断される可能性があることです。
適正額の目安として、以下の点を考慮します。
- 在任期間
- 退職時の役位
- 会社の業績や規模
- 同業他社の支給実績
専門家に相談しながら、適切な金額を決めることが重要です。
役員報酬を増やす
役員報酬を増やすことで、会社の利益や純資産を減らすことができます。
ただし、適正範囲内の報酬でなければ、税務上で認められない可能性があります。
特に注意が必要なのは、小規模会社で役員が経営者のみの場合です。
報酬を増やすと経営者個人の所得税が上がってしまうからです。
以下の点を慎重に検討します。
- 役員報酬の増額と後継者の所得税対策のバランス
- 会社の業績や規模に見合った適正な報酬額
- 同業他社の役員報酬の水準
専門家に相談しながら、最適な方策を決定します。
配当金を引き下げる
配当金を引き下げることで、自社株の評価額を下げることができます。
特に類似業種比準方式(親族などが主要株主である会社)で評価される場合に有効です。
ただし、株主からの反発を避けるために、以下のような工夫が必要です。
- 特別配当の利用(類似業種比準方式の計算には参入されない)
- 株主への丁寧な説明
また、事業承継の2年前から実施することが望ましいです。
これは、直前の急激な変更が税務上で問題視される可能性があるためです。
配当政策の変更は中長期的な株主対策にも影響するため、慎重に検討する必要があります。
生命保険を活用する
生命保険の活用は、保険料の支払いにより会社の利益を下げる効果があります。
また、以下のような副次的なメリットもあります。
- 退職金の資金源となる
- 後継者の納税資金に使える
- 従業員の福利厚生になる
ただし、2019年の税務通達改正により、株価引き下げ効果が限定的になってきていまおり、生命保険の活用方法や最新の税務取り扱いについては、しっかりと確認しましょう。
詳細については、事業承継における生命保険の活用をご参照ください。
不良債権・資産を処分する
値下がりしている資産(不良債権、不動産、上場会社の株式、ゴルフ会員権など)を売却することで、以下の効果が得られます。
- 貸倒損失や売却損を計上できる
- 会社の利益や純資産を減らせる
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 将来の事業に必要な資産は安易に処分しない
- 税務上の取り扱いを確認する(特に関連会社間での取引)
資産の処分は会社の財務状況に大きく影響するため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが重要です。
不動産を購入する
不動産購入は、純資産価額方式で評価される場合に特に有効です。
これは以下の理由によります。
- 土地の評価額:時価の約7割
- 建物の評価額:時価の約6割
そのため、現金や預金で保有するよりも、不動産で保有する方が株価引き下げに効果的です。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 事業拡大に必要な不動産や賃貸用不動産を選ぶ(将来への投資)
- 取得後3年間は時価評価されるため、事業承継の3年以上前に購入する
不動産投資は多額の資金が必要なため、会社の財務状況や将来の事業計画を十分に考慮して判断することが重要です。
設備投資をする
設備投資は、以下の点で株価引き下げに効果があります。
- 減価償却費の計上により利益が減少する
- 古い設備の除却損を計上できる可能性がある
事業承継前に予定している設備投資がある場合は、前倒しで実施すると株価引き下げの効果が高まります。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 投資の必要性と採算性
- 資金調達方法(借入金の増加は純資産を減らす効果がある)
- 会社の将来の競争力への影響
設備投資は会社の将来の競争力に直結するため、単なる株価対策ではなく、事業戦略の一環として検討することが重要です。
専門家に相談しながら、慎重に判断しましょう。
株式数を増やす
株式数を増やすことで、1株当たりの価値(株価)を下げることができます。主な方法は以下の通りです。
- 株式分割(1株を複数株に分割)
- 新株発行(新たに株式を発行して株主に割り当てる)
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 株主構成が変わる可能性がある(特に新株発行の場合)
- 少数株主の権利に影響を与える可能性がある
株式数の増加は会社の支配構造に影響を与える可能性があるため、慎重に検討する必要があります。また、法的手続きも必要となります。
高収益部分を子会社化・別会社化する
高収益部門を分離することで、親会社の株価を引き下げる効果があります。
主な方法は以下の2つです。
【子会社化】
- 株式交換・移転や会社分割により実施
- 親会社の株式評価額計算に直接影響しなくなる
- 子会社の含み益は37%控除できる可能性がある
【別会社化】
- 事業譲渡や株式譲渡により実施
- 完全に別の会社となるため、親会社の株価に影響しない
ただし、以下の点に注意が必要です。
1.税務上の取り扱い
関連会社間の取引価格は適正に設定しましょう。不適切な価格設定は税務署から指摘される可能性があります。
2.分離後の事業運営体制
各会社が独立して運営できるか確認しましょう。人員配置、取引関係、必要な設備など、細かく検討が必要です。
3.従業員の処遇
従業員の労働条件が大きく変わる可能性があります。十分な説明と話し合いを行い、不安や不満を軽減することが大切です。
会社組織の再編は複雑な法的手続きが必要となるため、専門家のサポートを受けながら慎重に進めましょう。
会社規模を大きくする
会社規模の拡大により、純資産価額方式と類似業種比準方式の併用が可能になります。これにより、より有利な方法で自社株を評価できる可能性が高まります。
■主な方法:
- 他社との合併
- 大規模な事業拡大(新規事業への進出、大型設備投資など)
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 戦略的適合性:合併相手や新規事業が自社の長期的vision と合致しているか
- シナジー効果:経営資源の共有や補完によるメリットの創出
- 組織再構築:効率的な意思決定システムの確立
- 人材マネジメント:従業員のスキルと意欲の向上、適切な配置
- 財務戦略:資金調達方法の最適化、財務健全性の維持
会社規模の拡大は、株価対策としてだけでなく、企業価値向上の手段として捉えることが重要です。M&Aや大規模投資には複雑な法務・財務の知識が必要なため、専門家との連携が不可欠です。
事業承継で自社株を下げるための対策は「この街の事業承継」にご相談ください
事業承継の際に、自社株の価値を適切に評価し、必要に応じて対策を講じることは、相続税や贈与税の負担軽減につながることがあります。
しかし、その具体的な方法や手順に関して、不安を感じる経営者の方も少なくありません。
「この街の事業承継」では、お悩みに寄り添い、それぞれの状況に合わせて丁寧なアドバイスを心がけています。最新の制度を踏まえ、企業の将来を見据えた慎重な対策の検討も行っております。
自社株の評価方法や対策について、何かご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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