事業承継特別保証制度とは?メリット・要件・利用方法をわかりやすく解説
中小企業の事業承継において、経営者保証が課題となることが多いです。
この課題を解決するために、「事業承継特別保証制度」が設けられました。
本記事では、この制度の概要、メリット、要件、利用方法などについて、わかりやすく解説します。
目次
事業承継特別保証制度とは?
事業承継特別保証制度は、中小企業の円滑な事業承継を後押しするための仕組みです。事業承継時の資金調達をサポートするために、2020年4月から運用が始まりました。
■経営者保証とは
・会社の借入に対して、経営者個人が保証人になること
・会社が返済できなくなった時、経営者個人の資産で返済する約束
■制度のポイント
・経営者保証なしで融資を受けられる可能性がある
・新旧経営者の二重保証を解消できる
・最大2.8億円まで保証を受けられる
■対象となる中小企業
・事業承継計画を策定している
・経営者の交代が見込まれる、または3年以内に交代した
経営者保証に関する課題を解決し、中小企業の事業承継を円滑に進めることが、この制度の主な目的です。
事業承継特別保証制度が設立された背景
設立された背景には以下のような理由があります。
■経営者保証が事業を引き継ぐ時の壁
・後継者が個人保証を引き継ぐことに抵抗感がある
・経営者保証があると、事業を譲る決心がつきにくい
・優秀な後継者候補が経営を引き継ぐことを躊躇してしまう
■二重保証の問題
・新旧の経営者両方に保証を求められることも
・前の社長が引退しても保証を続けなければならない状況に
経営者保証が事業を引き継ぐ時の壁にならないよう、経営者保証の重荷を軽くすることで、中小企業が存続・発展していけるよう支援することが狙いです。
事業承継特別保証制度を利用する3つのメリット
事業承継特別保証制度を利用すると、以下のような3つのメリットがあります。
事業承継時の経営者保証が不要になる
- 後継者が個人保証をしなくても、会社としてお金を借りられる
- 個人財産を担保にしなくていいので、後継者の不安が減る
- 保証の心配がなくなり、事業を引き継ぎやすくなる
経営者保証の不安がなくなることで、優秀な後継者候補も積極的に経営を引き継ぐ可能性が高まります。
専門家の確認を受ければ保証料率が軽減される
この制度を使うと、信用保証協会に保証料を支払う必要があります。
■専門家の確認
経営者保証コーディネーターの確認を受けると、保証料が安くなります。
(経営者保証コーディネーターとは:この制度を利用できるかチェックする専門家のこと)
専門家の確認がない場合 | 0.45%~1.90% |
---|---|
専門家の確認がある場合 | 0.20%~1.15% |
保証料が安くなるだけでなく、交渉も専門家がサポートしてくれるので事業承継の準備もスムーズに進められます。
経営者保証がある既存の借入金も借り換え可能
この制度は、新しくお金を借りる場合だけでなく、すでに借りているお金の見直しにも使えます。
■ プロパー融資も対象
経営者が個人保証をしている銀行からの直接融資「プロパー融資」も対象です。(プロパー融資とは、保証協会を通さずに銀行が直接審査する融資のこと)
借りているお金を新しい条件で借り換える際、経営者の個人保証を外すことが可能です。既存の融資に経営者保証が付いている場合でも、見直しを行うことで事業承継の準備を総合的に進めることができます。
事業承継特別保証制度の要件・内容
この制度は事業承継を計画中または最近実施した企業向けの制度です。
利用する要件・内容は以下の通りです。
対象者
この制度を利用できるのは、次の条件を満たす中小企業です。
- 3年以内に事業承継を予定している会社
- 最近3年以内に事業承継を行った会社(2020年1月1日~2025年3月31日の承継が対象)
さらに、以下の全ての条件も満たす必要があります。
- 会社の資産が負債を上回っていること
- 借入金の返済能力が一定以上あること(EBITDA有利子負債倍率で判断)
- 会社と個人の財産が明確に分かれていること
- 返済条件の緩和を受けている借入金がないこと
これらの条件は、会社の健全性と事業継続の可能性を確認するためのものです。
専門的な計算も必要になるので、専門家に相談しましょう。
保証限度額
この制度で借りられる上限は2億8000万円です。
ただし、組合など一部の形態では4億8000万円まで可能になります。
利用できるのは事業資金に限られます。(設備投資や運転資金など、事業に直接関わる資金であれば幅広く対象)
保証期間
■返済方法によって変わる保障期間
- 一括返済→1年以内
- 分割返済→最長10年(ただし最初の1年は返済猶予可能)
事業の状況に合わせて、適切な返済方法と期間を選べます。
まずはお気軽にご連絡ください
受付時間/AM8:30~PM5:30(土日・祝休)
事業承継特別保証制度を利用する方法
事業承継特別保証制度を利用するには以下の手続きが必要です。
各都道府県の信用保証協会へ問い合わせ
お近くの信用保証協会に連絡しましょう。(全国に52ある信用保証協会が窓口です)
信用保証協会のアドバイスに従って手続きを進めます。
【注意点】
申し込みできるのは、すでに取引のある金融機関だけです。
新規取引先での利用はできません。
必要書類の作成
申し込みの際は、以下の書類の作成が義務づけられています。
事業承継計画書 | 誰に、いつ、どのように事業を引き継ぐかを具体的に記載 |
---|---|
財務要件等確認書 | 会社の財務状況が条件を満たしているか確認 |
借換債務等確認書 | 既存の借入金を借り換える場合に必要 |
他行借換依頼書兼確認書 | 他の銀行からの借り換えの場合に必要 |
事業承継時判断材料チェックシート | 保証料を安くしたい場合に必要 |
これらの書類を用意することで、制度の利用がスムーズに進みます。
内容により必要書類は異なるため、具体的な必要書類については、申し込みをする金融機関や信用保証協会に事前に確認しましょう。
事業承継特別保証制度を利用する際の注意点
事業承継特別保証制度を利用する際には下記のような注意点があります。
・簡単に利用できるわけではなく、事業の状況や財務内容など、いくつかの条件をクリアする必要がある
・要件を満たしていても、審査で承認されない可能性がある(これは金融機関や信用保証協会の判断によります)
・保証解除には、最大2.8億円までという上限があり、全ての借入について保証を解除できるわけではない
事前に詳しい条件を確認し、弁護士など専門家に相談しながら準備を進めましょう。
また、この制度だけでなく、他の支援策も併せて検討することが望ましいです。
経営者保証解除に向けた「経営者保証ガイドライン」
■経営者保証ガイドラインとは
中小企業の経営者保証に関するルールのこと
金融庁と中小企業庁が策定し、金融機関が守るべき基準とされています。
【主な内容】
・会社と経営者の分離:会社と経営者の資産や経理が分離している場合、経営者保証は不要
・ 経営者の生活への配慮:経営者の最低限の生活費は保証の対象外とし、生活に必要な資産は守られる
・ 過剰な債務の免除:経営者の資産で返済できない債務は免除され、再起を支援する
【目的と注意点】
経営者保証の運用を見直し、中小企業の資金調達や事業承継を円滑化することです。
ただし、法的な拘束力はありません。
【メリット】
金融機関との交渉の際、このガイドラインを参考にすることで、より有利な条件での合意が期待できます。
専門家のアドバイスを受けながら、ガイドラインを理解し、自社の状況に合わせて適切に活用することが重要です。
事業承継特別保証制度を活用した事業承継は専門家への相談がおすすめです
会社を次の世代に引き継ぐ際には、多くの課題があります。
特に経営者保証の問題は大きな壁となります。
そこで注目されているのが、経営者保証なしで引き継げる「事業承継特別保証制度」です。この制度の利用には条件があり、手続きも複雑ですが、専門家のサポートがあれば安心です。
大切な会社を次の世代にしっかり引き継ぐため、制度の適用確認から書類の準備、銀行との交渉まで、丁寧にサポートいたします。
一緒に最適な方法を見つけていきましょう。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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