事業承継における中小企業の現状や課題は?解決策とともに弁護士が解説
中小企業は日本経済を支える柱ですが、後継者不足が深刻化しています。
少子高齢化の進行に伴い、今後も廃業を選択する中小企業が増加すると予想されています。
中小企業庁もこの問題に対し対策を呼びかけ、様々な支援策を打ち出しています。
この記事では、事業承継の現状や課題、そして支援制度についてわかりやすく解説していきます。
目次
事業承継における中小企業の現状
経営者の高齢化
中小企業庁の調査によると、経営者の平均年齢は年々上昇しており、現在では66歳を超えています。
後継者のいない企業は全体の65%にも上り、高齢化の影響はますます深刻化しています。この問題は、「2025年問題」と呼ばれています。
■2025年問題とは:
多くの団塊の世代の経営者が一斉に75歳を迎え、後継者不足で多くの中小企業が廃業に追い込まれるという現象
これは日本全体の課題であり、この状況を打破し、日本経済の持続可能な成長を保つためには、「次の世代に引き継ぐ」という考えを共有し、具体的な対策を打つことが求められています。
後継者不足の問題
経営者の高齢化や少子化の影響で、会社を継いでくれる後継者を見つけることがますます困難になっており、休業や廃業する中小企業が増えています。
これは、経営が黒字であろうと赤字であろうと関係なく「引き継いでくれる後継者がいないから」という理由です。
子どもや家族に会社を継いでもらいたいという願いもありますが、「会社を継ぐのは大変そう」という不安や、都会への進出を選ぶこともあります。
以前は親から子へと会社を譲る親族内承継が一般的でしたが、近年はその数も減少しています。
中小企業が抱える事業承継の8つの課題
中小企業の事業承継が進まない理由として、以下のような8つの課題があります。
①後継者の選任・育成
●適任者を見つけにくい
経営スキル、リーダーシップ、業界知識など、たくさんの条件を満たす人材を見つけるのが難しい
●後継者の能力や経験の不足
選ばれた後継者でも、実際に経営をまかせられるだけの経験や知識が足りないことがある
●会社の全体像の把握
会社の持続可能な成長のために会社の全体像をよく理解し、しっかりとした将来計画を立てられる力が求められる
●会社維持への準備不足
後継者が決まっても、資金調達や法的手続きなど、会社を引き継ぐための準備が不十分なことがある
こうした課題を解決するには、計画的な後継者育成プログラムの実施や、外部の専門家のアドバイスを取り入れながら、着実に準備を進めていきましょう。
②事業承継による税負担
●相続税・贈与税の負担増
事業承継では相続や贈与が発生するため、高額な税金がかかる
●事業用資産の評価が難しい
土地や建物、機械設備など会社の資産の適正な値段を決めるのが難しく、値段が過大になると、相続税の負担がさらに大きくなる
●資金調達の困難さ
事業承継に伴う相続税等の税金の支払いは高額になる場合があり、十分な資金を準備するのが難しいことが多い
●本業への影響が心配
税金対策に時間とお金をかけすぎると、本来の事業の運営が疎かになってしまうリスクがある
●一時に多額の税金を避ける対策
遺産分割の活用や納税の延期制度の活用など、一度に多額の税金を払わずに済む方法を考える必要がある
こうした税負担の問題に対しては、早めに専門家に相談し、最適な方法でしっかりと納税対策を立てましょう。
③個人保証の引き継ぎ
●経営者個人の借金の保証
会社の借り入れに個人で保証をつけていることが多く、個人保証を次の経営者にどうやって引き継ぐかが問題になる
●貸し手の了解が必要
個人の保証は、貸し手の了解なしに後継者に引き継げないため、貸し手の了解を得るための話し合いが必要である
●後継者に資金不足
後継者にお金がない場合、貸し手が了解してくれない場合があり、後継者に新たな保証をつけてもらうのが難しくなる
●前の経営者の保証解除
会社を引き継いでも、前の経営者の個人保証が残ることがあり、前の経営者の保証を完全になくすのは難しい場合がある
●お金の計画の見直し
個人保証があるかないかは、会社の資金計画に大きな影響を与え、追加でお金を借りることにもなるかもしれない
このように、個人保証の引き継ぎは、後継者のお金、貸し手との交渉、前の経営者の保証解除など、いろいろな問題がからむ難しい課題です。
④従業員の理解と雇用維持
●従業員の不安
今までと違う人が経営者になることへの不安や抵抗感があり、従業員が納得せず反対する可能性がある
●労働条件への不安
給料が下がる、休みが減る、残業が増えるなど、労働条件の悪化を恐れる
●仕事内容の変更への戸惑い
会社の経営方針が変わると、従業員の仕事内容が大きく変わる可能性へ不安や戸惑いが生じる
●経営方針の転換への不信感
会社の経営方針が、従業員と合わなければ、モチベーションの低下にもつながる
●優秀な人材の流出リスク
労働条件の悪化や経営方針への不満から、優秀な従業員が会社を辞めてしまうこともある
特に中心になって働いてくれている人が辞めると、会社の成績や引き継ぎにも響く可能性がある
従業員の理解と協力を得るために、従業員とのコミュニケーションを大切にし、不安を取り除く努力をしましょう。
一緒により良い会社を作っていく姿勢が何より大切です。
⑤取引先の理解
●事前の説明
従業員と同様、取引先にも事前に事業承継について説明し、理解を得ることが重要である
●適切な周知
事業承継の予定を適切なタイミングで周知し、取引先に不信感を抱かせない
●慎重な情報管理
事業承継に伴う情報漏洩に注意し、取引先との関係悪化や譲渡交渉への悪影響を避けるため、慎重な情報管理が求められる
●信頼関係の維持
事業承継後も、新しい経営体制のもとで取引先との良好な信頼関係を維持・構築することが重要
●承継後の関係継続
事業承継完了後、新経営者は取引先との関係維持に努め、継続的な信頼関係を築いていくことに努める
取引先の理解と協力なくして、事業承継の成功はありません。
早い段階からの説明と信頼関係の維持、引き継ぎの後も丁寧な対応を心がけましょう。
⑥自社株の買い取り資金不足
●株の値段が高くなる
次の経営者は、前の経営者から会社の株を買い取る必要があるが、会社の業績がよければ株式の評価額が高額になり、買い取るのにたくさんのお金がかかる
●資金調達が難しい
中小企業は自社のお金だけでは株を買い取れないことが多く、外部から資金を調達する方法を検討しなければならない
●借入れによる負債増加
株を買うお金を借りると、会社の借金が増えてしまうため、借金の返済で会社の財務状況が悪くなるリスクがある
●株が薄まる可能性
増資して株を買うお金を調達すると、既存株主の保有割合が下がり、経営権や株主の権利に影響が出る
このように、自社株の買取資金の確保は、資金面だけでなく経営権や株主関係にも影響を与える重大な課題です。
早めに専門家に相談し、適切な資金計画を立てるとともに、株主同士でよく話し合い、納得のいく解決策を見つけていくことが大切です。
⑦名義株の問題
■名義株とは?
会社の株を経営者個人の名前で持っている状態のことです。
本来、株式会社の株は会社という法人が発行するもので、個人の持ち物ではありません。
しかし、会社を設立する時や、お金を集めるために株を発行する際に、経営者自身の名前で株を持つことがあります。
■名義株の問題点
- 名義株の実態把握が困難
会社全体の株の数や内容を正確に把握するのが難しい - 名義株所有者の把握が大変
長年放置された名義株は、所有者の住所が不明で連絡が取れない場合、特定が困難である - 株主権の行使が不明確
名義株は、株主権を誰が実質的に持つのかわかりにくく、経営の意思決定に問題が生じるリスクがある - 株式評価の難しさ
株主権の所在がわからないと株式の評価額が過大になる恐れがあり、相続税の負担が重くなる - 相続対策の不備
個人名義の株は経営者個人の財産とみなされ、相続対策が不十分だと、相続争いに巻き込まれ会社運営に支障が出るリスクがある - 株式名義の書き換えが必要
経営者から後継者への株式引継ぎには、名義書き換えが必須だが、手続きが困難な場合がある
名義株の存在は事業承継を複雑にし、様々な問題を引き起こすリスクがあります。
名義株の実態を正確に把握し、専門家と一緒に計画的に名義変更を進めていきましょう。
■名義株問題への対策とは?
- 株を後継者に生前に贈る
経営者が持っている自社株を、後継者に生きているうちに贈る場合、贈与税はかかるが、経営権をまとめることができる - 経営者の味方になる株主を集める
経営者の考えに賛成して、一緒に株主としての権利を行使してくれる株主を確保する
(創業者の親戚や、長年の取引先に株を持ってもらうのも一案である) - 遺言書を準備する
経営者自身が遺言書を書いて、経営者が亡くなった後もスムーズに株を引き継げるようにする - 株主同士で取り決めを交わす
株主同士で契約を結び、株主の権利と義務や株の値段の決め方など、株の売買制限や引き継ぎ方法を決めておく
早めの対策で、名義株によるトラブルは未然に防ぐことができます。
株の引き継ぎ方法やタイミングは、専門家に相談しながら、慎重に検討しましょう。
⑧経営権の分散リスク
■経営権が分散するとは?
会社の株を複数の株主が分けて持っている状態であり、それぞれの株主が経営に対する発言権を持つ。
■経営権分散の問題点
- 意思決定の難航
株主が多すぎると、経営方針を決めるのが難しくなり、重要な決定が遅れたり、まとまらなかったりする恐れがある - 経営の安定性の低下
株主同士の意見が対立すると、経営の一貫性を保つことが難しくなり、会社の安定した運営ができなくなる - 事業成長の阻害
株主の間で意見が合わないと、新しい事業への投資や拡大が進まず、チャンスを逃して競合他社に後れを取ってしまう - 後継者選定の困難化
たくさんの株主の利害関係を調整しながら、後継者を選ぶのは難しいため、引き継ぎがうまく進まない - 優秀な人材の流出
経営が混乱すると、優秀な社員が会社を辞めてしまうことがあり、人材の流出は、会社の競争力の低下につながる
経営権が分散すると、会社の舵取りがうまくいかず、様々な悪影響が出る可能性が高くなります。
このリスクを避けるためにも、早めの対策が必要不可欠です。
■経営権の分散への対策とは?
- 株を後継者に集中させる
経営者が持っている株を、後継者に生前に贈ったり、後継者に買い取ってもらうなど、できるだけ多くの株を後継者に集める - 株主間で合意形成
株主同士で約束を交わして、会社の進む方向や株の扱いについて意見をまとめておくこと - 後継者を早めに育成
後継者を早い段階で決めて、計画的に経営能力を身につけさせること
経営権の分散リスクは、放っておくとどんどん大きくなってしまいます。
事業承継の本格的な準備に入る前に、早めにこれらの対策に取り組みましょう。
事業承継の課題を解決できないとどうなるのか
日本の経済において中小企業は多くの割合を占め重要な役割を果たしていますが、高齢化に伴う後継者不足が深刻な課題となっています。
事業承継の問題が放置されれば、多くの雇用と長年培ってきた技術、知識が失われる恐れもあり、中小企業の衰退は経済全体に大きな影響を与える可能性があります。
これは、日本全体の課題となっており、中小企業庁も対策を呼びかけています。
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事業承継における課題の解決策
次の世代への事業の引き継ぎや成長を促進する有力な手段としてM&Aが増加しています。
M&Aによる事業承継
事業承継の課題を解決するために、近年注目されているのが、M&Aです。
日本国内のM&Aの件数は増加傾向であり、事業承継型のM&Aについても年々少しずつ増加しています。
■M&Aとは:
M&A(合併と買収)とは、ある会社が他の会社を買ったり一緒になったりすることで、合併と買収の略です。
事業承継の場合、後継者のいない会社が、他の会社に買収されることを指します。
●後継者不足の問題を解決
事業を引き継ぐ意欲と能力のある会社に売ることで、事業の存続と発展が可能になります
【メリット】
- 創業者利益を確保
M&Aで会社を売却することで、創業者は株の対価として利益を得ることができ、長年の努力の成果を、引退後の生活資金や資産形成に活用できる - 経営者の個人保証を外すことができる
売却により、経営者が銀行に対して負っている個人保証を外すことが可能になり、経営者の大きな負担を軽減し、安心して引退できる - 従業員の雇用を守る
事業が存続することで、従業員の雇用を守ることができ、従業員の生活の安定と地域経済の維持に貢献する
後継者不足は深刻な課題ですが、事業の継続と持続的な発展を支援し、M&Aを通じてこの問題を少しずつ解消していく動きが期待されています。
公的な支援制度の活用
中小企業や小規模事業者の引き継ぎを支援する公的な支援制度の活用については以下の通りです。
経営承継円滑化法
経営承継円滑化法は、中小企業が事業を次の世代に引き継ぐ際の負担を軽減するための法律です。
【金融支援】
●銀行からの低金利融資
後継者が中小企業の事業を引き継ぐ際に利用できます。
都道府県知事の認定を受けた銀行から、低い金利でお金を借りられるため、返済負担が軽減されます。
●信用保証制度の利用
この制度を活用すると、通常よりも良い条件で信用保証を受けることができます。
●日本政策金融公庫からの低金利融資
後継者が中小企業の事業を引き継ぐ際に利用できます。
銀行よりもさらに低い金利でお金を借りられるため、返済負担が軽減されます。
2つの低金利融資の違いは?
都道府県知事が認めた銀行からの低金利融資は、特定の銀行が提供する低金利のお金で、信用保証制度はその銀行の条件を良くするものです。
日本政策金融公庫からの低金利融資は、国が提供するさらに低い金利のお金です。
【事業承継税制】
事業承継税制は、中小企業が事業を引き継ぐ時の税金の負担を軽くするための制度です。
●相続税・贈与税の支払い延期
後継者が先代から株を相続や贈与でもらった場合、税金の支払いを延ばすことができます。
●相続税・贈与税の免除
一定の条件を満たすと、後継者は、相続税・贈与税の免除が受けられます。
一定の条件とは?
- 後継者が先代から事業を引き継ぐ場合であること
- 後継者が事業の経営権を引き継ぐ意思を明確に示していること
- 後継者が一定期間、事業を継続して経営することを約束すること
- 事業の引き継ぎにより雇用が維持されること
税金の延期や免除は、後継者が事業を引き継ぐ際の負担を軽減してくれます。
しかし、条件や免除の対象となる税金の額は、法律や税務の決まりによって異なるため、詳細な条件や免除の対象については税務署や専門家へ相談しましょう。
事業承継・引継ぎ補助金
■事業承継・引継ぎ補助金とは?
国からもらえるお金で、事業を引き継ぐときの費用を支援する制度のこと。
- 費用の半分までを国が支援してくれる
- 最大で250万円から500万円の補助金がもらえる
- 条件を満たすと最大で200万円の追加支援も可能
- 補助率は経費の半分まで
詳しいことや申請の手続きは、税務署や専門家に相談してみましょう。
経営者保証に関するガイドライン
■経営者保証に関するガイドラインとは?
個人保証を減らして、事業を引き継ぐときのリスクを小さくするルールのこと。
- 会社の財務状態や返済能力が良ければ個人保証をなくせる可能性あり
- 保証金額も会社の状況に合わせて変更可能
こちらも、詳しいことや申請の手続きは、税務署や専門家に相談してみましょう。
事業承継の課題解決のための相談先
事業承継の課題解決には、専門家のアドバイスが重要です。
以下の表は、課題ごとにどの専門家に相談すれば良いか整理したものです。
事業承継全般に関する相談 | 商工会、商工会議所、中央会、金融機関、 士業など専門家、よろず支援拠点 |
---|---|
後継者探しに関する相談 | 事業承継・引継ぎ支援センター |
相続税・贈与税に関する相談 | 税理士・弁護士 |
株価に関する相談 | 士業など専門家 |
資金調達に関する相談 | 金融機関、信用保証協会 |
個人保証に関する相談 | 金融機関、中小機構 |
債務整理に関する相談 | 金融機関、中小企業再生支援協議会、弁護士 |
事業承継の課題やお悩みは、「この街の事業承継」にご相談ください!
中小企業庁の調べでは、中小企業・小規模事業者の皆様にとって、M&Aについて共感が得られていない状況が事業承継の進まない原因の一部とされていました。
以前は複雑で難しいイメージがあったかもしれません。
しかし、近年では日本の経済を支える手段として認識され、事業承継型のM&Aも増加しています。
次の世代への引き継ぎを手助けするため、国も手厚い支援を行っています。
事業承継のこと、M&Aのこと、わかりやすく説明いたします。
熊本で25年、弁護士の西田幸広です。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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熊本
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