個人事業主の事業承継を詳しく解説!手続きの流れや税金などの基礎知識

日本の町を元気にしているのは、個々のお店や事業を営む人たちです。
地域社会にとって不可欠な存在で、暮らしを支えてくれています。

しかし、事業を次世代に引き継ぐことは難しく、後継者不足は深刻です。
多くの事業主が直面するこの事業承継の課題について、次の世代に事業を引き継ぐ方法や、必要な手続き、そして税金のことなど、個人事業主の方向けにわかりやすく解説していきます。

個人事業主の事業承継とは

個人事業主が経営している事業を、今の持ち主から新しい持ち主へと渡すことを意味します。
事業の運営に関わる権利、必要な資源、そして資産の全てが、承継の際に新しい経営者へと渡されることになります。

〇経営権
事業をどうやって動かしていくか、どんな決定をするかという「決める力」のこと

〇経営資源
事業をスムーズに運営するために必要なお金や情報、人などのこと

〇物的資産
お店や事務所、機械や在庫品など、目に見える形のあるもの

事業承継とは?方法や流れなどをわかりやすく解説

個人事業主と法人の違い

■個人事業主:個人が自分の責任の下、事業を運営している状態
自分が事業の顔となり、自分と事業は一体で、事業のリスクは全て個人の責任になります。

■法人:法律に基づいて独立した組織
会社は個人とは別に権利や義務が発生し、会社が決めたことは、会社自身の責任になります。
(例:株式会社や有限会社)

個人事業主の事業承継の方法

個人事業主の事業承継方法には【売買(M&A)】【贈与】【相続】の3つがあります。

売買(M&A)

事業を他の人に譲渡し、その対価としてお金を受け取る方法です。
これにより、新しい経営者によって事業が継続されます。

事業承継におけるM&Aとは?

贈与

事業を引き継ぐときにお金を受け取らずに、家族や信頼できる人に譲る方法です。
家族内での事業引継ぎや、家族外の信頼できる人によって事業が継続されます。

家族間での事業の引き継ぎによく使われます。
家族内での承継と、家族外への承継の2種類があります。

親族内事業承継 家族や親族に事業を引き継ぐこと
親族外事業承継 家族以外の第三者に事業を引き継ぐこと

■親族内事業承継
家族で次の世代へと事業を続けていく方法です。
例えば、お父さんが自分のお店を子どもに渡す場合などがこれにあたります。

■親族外事業承継
家族に後継者がいない場合や、事業が特定の技術を持つ人によってより良く運営されると考えられる時に選ばれる方法です。
例えば、事業を専門の管理者や他の企業に譲渡する場合などがこれにあたります。

贈与には税金の面で注意が必要で、特に大きな事業を渡す場合には「贈与税」が発生する可能性があります。

相続

事業主様が亡くなられた際に、遺言によって事業が家族や相続人に引き継がれる方法。
遺言がない場合は、故人の財産を相続人間で分け合う「遺産分割協議」が必要となります。

相続対策としての事業承継

個人事業主が事業承継を行う際の流れ

個人事業主が事業承継を進める際には、後継者選びと廃業届出から税務調整に至るまでの各種手続きが重要です。
信頼できる人を選び、必要な書類をしっかりと提出し、慎重に進めましょう。

■現経営者が行う廃業の手続き

1‐ 後継者を決める
事業を引き継ぐ人を決めます。
家族、信頼できる従業員、または外部の第三者が該当するかもしれません。

2‐ 廃業を知らせる
地方自治体、商工会議所に伝え、商号の登録を抹消します。
青色申告をしていた場合は、その取りやめの手続きも必要です。

3‐ 必要な書類
税務署には「廃業届」、商工会議所には「事業廃止届」を提出します。

4- 納税調整
事業を終了することで、予定していた「所得税」や「復興特別所得税の納税額」を減額する申請を行います。

5- 従業員関連
従業員を雇用していた場合は、労働局に「給与支払事務所の廃止届」を提出します。

これら一つ一つ丁寧に進めることで、現経営者は事業の正式な終了を各関係機関に通知します。
手続きでわからないことがあれば、専門家に相談しましょう。

■後継者が行う開業の手続き

1‐ 開業届の提出
地方税事務所や商工会議所に新しい事業を始めることを伝えるため「開業届」を提出します。

2‐ 所得税青色申告承認申請
税金のお得な制度「青色申告」を利用するため「青色申告承認申請書」に必要事項を記入して税務署へ提出します。

3‐ 専従者給与届出
家族がビジネスを手伝ってくれる場合は「専従者給与届出書」に家族の情報を記入し、税務署へ提出します。

4- 消費税課税事業者選択届出
商品やサービスを販売して消費税の納付が必要な場合は「消費税課税事業者選択届出書」を国税局に提出して、消費税の納税者であること伝えます。

5- 簡易課税制度選択届出
消費税の計算を簡単にする簡易課税制度を利用する場合は、「選択届」を国税局へ提出します。

■必要に応じて行う追加の手続き

【許認可手続き】
ある特定の事業の場合、その業種に応じた許認可が必要になることがあります。関連する機関に確認し、手続きを行います。

【従業員・取引先の引継ぎ】
前の経営者から従業員や取引先を引き継ぐ場合、必要な情報を聞き、手続きを行います。

これら一つ一つ慎重に進めることで、新しい事業がより確実なものになります。
手続きでわからないことがあれば、専門家に相談しましょう。

まずはお気軽にご連絡ください

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個人事業主の事業承継にかかる税金

事業承継をする際、その方法によっては先代経営者や後継者に税金がかかる場合があります。

〇贈与税
経営者が生きている間に、事業や財産を家族や他人に無償で渡した場合にかかる税金です。
贈与された財産の価値が一定額以上であれば、後継者が支払います。

〇相続税
経営者が亡くなった後、株式などの財産を親族が受け継ぐときかかる税金です。
相続した財産の価値が法定の基準を超える場合、相続人や後継者が支払います。

〇所得税
M&Aで売買によって事業承継が行われた際、得た利益に対してかかる税金です。
現在の経営者が支払います。

〇消費税
課税売上高が1,000万円を越える消費税課税事業者である場合、事業承継でかかる税金です。
事業承継の方法によって納税の内容が異なります。

■ 生前に事業を引き継ぐ場合
先代の経営者は廃業するまでの売上に対して消費税を支払います。
後継者は、最初の2年間は消費税の納税義務が基本的にはありません。

■ 相続で事業を引き継ぐ場合
先代の売上も後継者が引き継ぐため、その売上に加えて新しい売上に対しても消費税を支払います。
(先代の売上高+後継者の売上高に対して消費税が課せられる)

これら税金については、個々の状況によって詳細が異なるため、具体的な手続きや金額を知りたい場合は、専門家に相談しましょう。

個人事業主の事業承継で節税対策として活用できる制度

事業承継に伴う税金の負担は経営者に大きな影響を与える可能性がありますが、節税対策の制度を十分に理解し活用することで、安心して進めることができます。

相続時精算課税制度

60歳以上の親や祖父母が18歳以上の子や孫に贈与する際、2,500万円までの贈与に対して贈与税が免除される制度

親から子への事業の早期承継が可能となり、初期段階での税負担が軽減されます。

税務署に申告する必要書類
贈与税申告書 贈与された物やお金の情報とその価値を記載した申告書のこと
相続時精算課税選択届出 贈与税免除(もらったものに税金をかけないようにする特別な制度)を利用するため、届け出のこと
関係証明書類 贈ってくれた人ともらった人が、法律上の家族関係にあることを示す戸籍謄本など

この制度を利用した贈与は最終的には相続税の対象となりますので、将来的な税負担について考慮する必要があります。
また、一度この制度を選択すると後で取り消すことはできないため、慎重に決定しましょう。

小規模宅地等の特例

被相続人が使用していた宅地や事業用地400平方メートルまでの土地について、課税価額の80%を減額できる制度

相続税の負担を大きく軽減することができます。

1- 土地の種類や利用状況に関する情報
対象となる土地が住宅用地、事業用地など、どの種類に該当するかを明確にし、現在の利用状況を確認します。

2- 相続人の資格
土地を相続する人が、法的に相続人としての資格があるかを確認します。

■税務署に申告する必要書類
相続税申告書の提出:亡くなった方が残した財産について、どんなものがあって、それぞれどれくらいの価値があるのかをまとめた公式の書類

1- 土地評価証明書
相続する土地がどれくらいの価値があるかを示す公式の書類

2- 相続関係証明書類の提出
亡くなった方と相続人が法律上の家族関係にあることを示す、戸籍謄本など

3- 土地利用計画書の提出
相続する土地をこれからどのように使っていくか、その計画を示した書類(必要な場合)

土地の種類や利用状況、そして相続人の条件によって異なる要件を満たさなければならないため、事前に必ず確認しましょう。

個人版事業承継税制

要件を満たした後継者が、2028年12月31日までに贈与や相続によって特定事業用資産を取得した場合、納税の猶予を受けることができる制度

贈与税や相続税に関する直接的な支出を遅らせることができ、資金繰りに余裕を持たせることが可能です。

1- 個人事業承継計画を作成
事業の将来の方向性や後継者の選定、資金計画などを具体的に計画し、必要な書類や手続きについても確認します。

2- 作成した計画を都道府県に提出
提出先を事前に確認し、作成した計画書と必要書類をまとめ、都道府県に提出します。

3- 都道府県からの認定を受ける
都道府県が提出された計画を審査し、承認すると公的な認定を受けることができます。

認定を受けることで、税制優遇措置の適用が可能となります。
しかし、もし承継後に要件を満たさなくなった場合は、猶予されていた税金と、その利息を支払わなければいけないので注意が必要です。

法人版事業承継税制との違い

個人事業主向けと法人向けにそれぞれ用意されている事業承継税制には、いくつかの違いがあります。

■法人向け事業承継税制

〇対象者
会社を他の人や他の会社に渡したいと考えている経営者の方々
例えば、会社を経営してきた社長が引退を考え、自社を別の企業に売却したい場合に該当します。

〇法人税の減税措置
会社を引き継いだ時の税負担が通常より少なくなる可能性があります。

〇注意点
単に資産を売却するのではなく、会社の運営をしっかりと続けていくことが条件です。

法人向け事業承継税制は、経営者が会社をスムーズに引き継げるよう税負担を軽減する支援制度です。
この制度は、家族だけでなく外部の人や他の会社にも会社を渡すことが可能です。

■個人向け事業承継税制

〇対象者
自分のお店や仕事を家族に引き継ぎたいと考えている個人事業主の方々
例えば、お父さんが自分のお店や仕事を家族やこどもに譲りたい場合に該当します。

〇税額免除
贈与や相続による事業用資産の移転する時、最初2年間は特別に税金がかからないようになります。

〇注意点
一度この制度を利用すると、後からの変更はできません。そのため、将来の税負担についても事前によく検討する必要があります。

個人向け事業承継税制は、家族内での事業引継ぎを経済的負担なくスムーズに行えるよう支援する制度です。
税制の違いを理解し、最適な方法を見つけ、事業承継時の税金負担を軽減するためには、手続きや条件の詳細について専門家に相談しましょう。

出典:個⼈版事業承継税制の前提となる経営承継円滑化法の認定申請マニュアル2019年4⽉施⾏(経済産業省)

「事業承継・引継ぎ補助金」は個人事業主も対象

中小企業庁が提供する「事業承継・引継ぎ補助金」は、次の世代に事業を引き継ぐ際の費用負担を軽減する制度です。

〇対象
【中小企業や個人事業主で、次の世代に事業を引き継ぎたい方】
具体的には、お店や会社を後継者に引き渡したいと考えている方々です。

〇支援内容

  • 最新の機械やシステムを導入するための費用
  • 新しい経営者や従業員が必要なスキルを学ぶための費用
  • お店や施設を改装、新しい装置を入れるための費用
  • 新しいお客さんを呼ぶために広告を打つための費用
  • 法律のアドバイスやビジネスの戦略を考える、弁護士やコンサルタントに相談するための費用

〇申請条件
申請するには、まず自分の事業がこの制度の対象かどうかを確認しましょう。

〇補助金計画
補助金をどのように使うかの計画を作成し、提出します。

〇提出先
通常は地域の中小企業庁や関連する支援センターになります。
補助金の詳細や申請手続きについては、中小企業庁のウェブサイトで確認できます。
疑問や不明点があれば、地域のサポートセンターや専門家に相談してみましょう。

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個人事業主が事業承継を行う際の注意点

個人事業主と法人では、承継方法に違いがあります。

■法人の事業承継
株式譲渡:会社の「株」というものを新しい人に渡します。
手続きがシンプルで、事業全体を迅速に引き継ぐことができます。

■個人事業主の事業承継
承継方法:「売買(M&A)」「贈与」「相続」の3つの方法があります。
具体的にどの資産をどう引き継ぐか、細かく決めていく必要があります。

■注意すべきポイント
1- 資産と負債の承継
事業の財産だけでなく、借金や負債も引き継ぐことになります。
どの財産をどのように引き継ぎ、負債はどう扱うか慎重に考え、決定します。

2- 事業譲渡の税務
事業を引き継いだ後に発生する利益に対する税金や、引き継がれた資産に関する税務処理など、税金に関する問題は複雑です。
これらを正しく理解し、適切に対応するために、税務に関する専門家の助言を聞くことでリスクをさけます。

3- 負債の取り扱い
事業の継続に影響を及ぼす可能性のある負債については、特に注意が必要です。
負債をどのように管理し、将来的にどう対応するかを慎重に計画しましょう。

個人事業主の引き継ぎは、細かい計算や計画が必要ですが、適切な準備をすれば安心して進めることができます。
専門家としっかりとした計画を立てて、事業承継の手続きを進めましょう。

個人事業主の方で事業承継をご検討中なら、お気軽に「この街の事業承継」までご相談下さい。

経営者が会社の将来を決めるとき、二つの主な選択肢があります。

一つは事業の廃業で、これは事業の終了を意味します。
もう一つは事業承継で、自分が築き上げた価値ある事業を次の世代に託すことができます。
廃業は一つの終わりを告げますが、「承継」は、築いた事業の価値を次の世代に引き継ぐことができます。

中小企業庁は、日本経済の大きな柱である中小企業や個人事業主が事業をスムーズに引き継げるように、様々な支援制度を提供しています。

事業承継を検討している個人事業主は年々増えています。
その背景は、一生懸命に築き上げた事業を次の世代に繋ぎたいという共通の願いからです。

どんな質問にも、わかりやすくお答えします。地元熊本で25年間、弁護士の西田幸広です。

西田 幸広 弁護士

この記事を監修した弁護士

西田 幸広 法律事務所Si-Law代表

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