親族外承継とは|メリット・デメリットや方法、成功のポイントなど

事業承継は長い間、親族内で行われることが一般的でした。
特に昭和から平成初期にかけては、後継者として子や親族が継ぐ、親族内での承継が大半を占めており、中小企業の約90%以上が親族間で経営を引き継いでいたとされています。
しかし、少子化や経営者の高齢化が進む中で、親族内に後継者がいない企業が増え始め、2000年代に入ると「親族外承継」という形で経営を引き継ぐ割合が徐々に高まりました。
中小企業庁のデータによると、2010年には親族内承継の割合が60%を下回り、親族外承継が約40%を占めるまで増加しま、直近では、親族内承継が約30%に減少し、親族外承継が50%以上を占めるまでになっており、「親族外承継」は今や事業承継の主流の一つといえる状況になっています。
(※参考:中小企業庁 事業承継ガイドライン)。
本記事では、「親族外承継」の基本的な定義や方法、親族内承継との違い、具体的な事例、さらにはメリット・デメリットについて詳しく解説します。
目次
親族外承継とは
親族外承継とは、親族ではなく、第三者に会社の経営や資産を引き継ぐことを指します。
この第三者には、自社の従業員や役員、外部の専門経営者、または他企業などが含まれます。
親族外承継の方法は主に以下の3つに分類されます。
- 従業員や役員への承継(内部昇格)
- 外部から専門経営者を招く(外部招へい)
- 他企業とのM&Aを活用した承継
これにより、親族内承継が困難な企業でも、事業の継続や発展が可能になります。
しかし一方で、外部人材の選定や新しい経営者の適応などの課題も存在します。
親族内承継の違い
親族外承継は、親族以外の従業員や役員、外部人材などを後継者に選ぶ方法を指します。
それぞれに特徴があり、メリットとデメリットが存在します。
■主な違い
[承継者の範囲]
- 親族内承継→血縁関係のある親族
- 親族外承継→親族以外の第三者(従業員、役員、外部人材)が対象
[承継コスト]
- 親族内承継→比較的コストが低く、税制の優遇を受けられる場合がある
- 親族外承継→外部人材の選定や調整、など親族内承継に比べ費用が発生することが多い
[承継のしやすさ]
- 親族内承継→会社文化や業務を引き継ぎやすいが、親族間のトラブルや後継者の能力不足が課題になる場合がある
- 親族外承継→適任者を広く選ぶことができるが、後継者が会社に適応するまでに時間がかかることがある
第三者承継の違い
親族外承継の中でも、「第三者承継」は、外部の企業や投資家を後継者とする方法です。
これは、特にM&A(企業の買収・合併)を活用する場合に該当します。
親族外承継の一形態として考えられますが、従業員や役員への引き継ぎとはいくつかの点で異なります。
■主な違い
[承継対象]
- 親族外承継→自社の従業員や役員など内部の人材が後継者
- 第三者承継→自社に所属していない外部企業や投資家が対象
[承継方法]
- 親族外承継→内部昇格(従業員や役員を昇格)や外部招へい(外部から経営者を招く)が中心である
- 第三者承継→M&A(買収・合併)による企業売却が中心となる
[譲渡対価]
- 親族外承継→所有権が現経営者に残る場合もあり、譲渡対価が不要なケースが多い
- 第三者承継で→企業価値評価に基づき、現経営者へ対価が支払われる(株式譲渡や現金支払いなど)
親族外承継は、会社内部での後継者を中心に考える方法で、会社の文化や業務の継続性が重視されます。
一方、第三者承継は外部から新しい資本やノウハウを取り入れ、会社成長させる手法として用いられます。
中小企業における親族外承継の割合
中小企業庁の調査[2021年]によると、親族外承継の割合は約50%を超えています。
一方で、親族内承継の割合は約30%まで減少しました。この背景には、以下の要因があります。
- 少子化の影響:後継者となる子供がいない、または事業を引き継ぐ意思がないケースが増加
- 経営者の高齢化:65歳以上の中小企業経営者の半数以上が後継者不在
- M&Aの普及:事業を売却する選択肢が広まり、親族外への承継が増えた
これらのデータから、親族外承継は今後さらに増加すると予想されています。
親族外承継の2つの方法
親族外承継には以下の2つの主要な方法があります。
- 経営のみの承継
- 自社株式の承継
それぞれを以下に詳しく解説します。
経営のみの承継と自社株式の承継の比較
経営のみの承継 | 自社株式の承継 | |
---|---|---|
対象 | 経営権の移行 (所有権は現経営者が保持) |
所有権(株式)と経営権の移行 |
資金負担 | 基本的に大きな資金負担はない | 株式の譲渡に伴う資金調達が必要 |
メリット | 移行が比較的スムーズ | 後継者が一貫して会社を管理可能 |
課題 | 経営者と所有者の意見の対立リスク | 資金調達や譲渡後の関係性の調整が必要 |
経営のみの承継
「経営のみの承継」は、会社の経営権を後継者に引き継ぎながら、株式や資産(所有権)は現経営者が保持する方法です。
この方法では、以下の2つの手法が一般的です。
【内部昇格(ないぶしょうかく)】
従業員や役員の中から後継者を選び、経営権を移す方法です。
社内の状況をよく理解している人材を選ぶことで、以下のメリットがあります。
- 会社の文化や業務を理解しているため、引き継ぎが比較的にスムーズです。
- 安心感:従業員や取引先からの信頼を得やすくなります。
例:専務や部長が社長に昇格し、経営権を引き継ぐケース。
【外部招へい(がいぶしょうへい)】
社内ではなく、外部から経営者を迎える方法です。
以下のメリットがあります。
- これまで会社になかった知識や新しい視点の導入することができます。
- 社内に適任者がいない場合でも、最適な人材を確保できます。
例:他企業で経営経験を持つ外部人材を社長に招くケース。
自社株式の承継
「自社株式の承継」は、会社の所有権(株式)を後継者に移す方法です。
以下の手法が一般的です。
【MBO(マネジメント・バイアウト)】
現経営陣が会社の株式を買い取り、所有権を引き継ぐ方法です。
- メリット:業務や文化をスムーズに引き継ぐことができます。
- 課題:株式の買い取りには多額の資金調達が必要です。
例:社長が所有している株式を専務が購入し、経営権と所有権を取得するケース。
【EBO(エンプロイー・バイアウト)】
従業員が株式を買い取り、経営権を引き継ぐ方法です。
- メリット:従業員が経営権を持つことで会社へのコミットメントが向上します。
- 課題:株式の購入資金や、共同経営時の意思決定の調整が必要です。
例:幹部社員が共同で株式を購入し、経営権を取得するケース。
【M&A(企業買収・合併)】
会社を他の企業に売却し、株式と経営権を譲渡する方法です。
- メリット:現経営者は引退でき、買収側の知識や視点を活用して会社を成長させることが可能です。
- 課題:買収先との相性や、従業員・取引先との関係性が影響を受ける可能性があります。
例:同業他社が会社を買収し、経営を引き継ぐケース。
選択肢ごとのメリットと課題を十分に理解し、事前に綿密な計画を立てることが重要です。
親族外承継のメリット
親族外承継では、後継者の選択肢が広がるため、企業にとって最適な経営者を選ぶことが可能です。
また、新たな視点を経営に取り入れることも期待できます。
以下は主なメリットです。
後継者の選択の幅が広い
親族外承継では、社内外を問わず後継者を選ぶことができます。
これにより、適任者を広範囲から探すことが可能になり、優秀な人材を確保できるチャンスが広がります。
(たとえば、他業界での実績を持つ外部人材が新しい経営者として迎えられ、企業に革新をもたらした例がある)
また、社内から選ばれる場合も、これまで会社を支えてきた社員が経営を引き継ぐことで、事業に対する深い理解を活かせます。
この柔軟性が、親族外承継の大きな特徴であり、企業の成長や持続性を支える力となります。
経営方針や理念を引き継ぎやすい
親族外承継で「従業員」や「役員」に事業を引き継ぐ場合、企業の理念や経営方針を維持しやすい点がメリットです。
内部の人物が経営者となることで、周囲からの反発が少なく、これまで築いてきた信頼関係を守ることができます。
一方、外部からの後継者を迎える場合には、新たな専門知識や視点を取り入れることができます。
(たとえば、IT分野に強い経営者を招へいすることで、デジタル化や業務の効率化を図り、会社全体の競争力を向上させたケースもある)
このように、親族外承継は、事業の方向性を大きく変えずに企業を発展させる可能性を秘めています。
親族外承継のデメリット
親族外承継には、資金面や文化の違いによる課題が伴います。
慎重に計画を立て、対策を講じることが重要です。
後継者に資金力が必要
親族外承継では、株式や事業資産の購入に多額の資金が必要となる場合があります。
新たな後継者が融資を受けて事業を引き継ぐケースもありますが、その返済負担が経営に悪影響を与えるリスクもあります。
(たとえば、承継後の収益性が低下し、融資の返済計画が崩れ、事業全体に影響を及ぼすことがある)
このような事態を防ぐためには、専門家の助言を受けて事前に資金計画を立てることが必要です。
経営者保証の引継ぎでトラブルになりやすい
経営者保証は、後継者が事業の借入金を引き継ぐ際に問題となることが多いです。
この保証を巡るトラブルが原因で、新たな後継者が引き継ぎを拒否するケースもあります。
銀行との交渉が難航し、保証解除の条件が合意に達しないと、承継計画全体が遅延することがあります。
このリスクを軽減するためには、金融機関や専門家と協力して保証問題を事前に解決する準備が不可欠です。
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株式譲渡で親族外承継を行う流れ
親族外承継を株式譲渡によって行う場合、後継者選びから最終的な名簿書き換えまで、いくつかの重要なステップがあります。
1.後継者・承継先の選定
親族外承継では、後継者選びが最初の重要なステップです。
中小企業診断士などの専門家と連携し、企業価値を客観的に評価しながら適任者を探します。
■選定基準
- 経営スキルや経験があるか
- 企業理念に共感しているか
- 取引先や従業員と良好な関係を築けるか
後継者が社外の場合、相手の事業理解やコミュニケーション能力も考慮する必要があります。
2.条件交渉を行う
株式譲渡において、譲渡価格や条件は双方が納得できる内容にすることが重要です。
■話し合うポイント
- 株式の譲渡価格:事業価値や財務状況をもとに適正価格を設定します
- 支払い方法:一括払いか分割払いか、支払い時期や金額も調整します
- 事業の引継ぎ内容:従業員の雇用維持や取引先との契約継続など、承継後の運営方針を明確化します
■注意点
話し合いが不透明だと後々トラブルになる可能性があります。弁護士を交えて進めましょう。
3.株式譲渡契約の締結
条件が合意に達したら、正式な契約書を作成し締結します。
■契約書に含める内容
- 譲渡価格と支払い条件
- 従業員や事業資産の引継ぎに関する事項
- 取引先との契約や債務の引継ぎ条件
契約書の内容に不備があると、法的トラブルに発展するリスクがあります。
4.株式譲渡・株主名簿の書き換え
最後に、株式譲渡を実行し、株主名簿を変更します。
■手続きの流れ
- 株式譲渡後の株主を確定します。
- 株主名簿を更新し、後継者が正式な株主として記録されます。
■重要ポイント
名簿変更は、法的に経営者が承認されます。
税務上の手続きも必要になるため、税理士の助言を受けながら進めましょう。
株式譲渡には、法律や税務の知識が不可欠です。
また、取引先や従業員に事前に丁寧な説明を行うことで、安心感を与えられます。
詳細な手続きについては、以下のリンクをご覧ください。
親族外承継で役立つ制度・特例
親族外承継を円滑に進めるためには、活用できる制度や特例を事前に把握しておくことが重要です。
特に「事業承継税制」や「遺留分に関する民法の特例」は、後継者や相続人とのトラブルを防ぎ、スムーズな承継を実現するために有効な手段です。
事業承継税制
事業承継税制は、事業を引き継ぐ際に生じる相続税や贈与税の負担を大幅に軽減する制度です。
特に中小企業においては、税負担が承継の大きな障壁となるため、この制度を活用することで、後継者の資金負担を抑え、円滑な事業承継を進めることが可能となります。
- 親族外承継の場合も適用可能
一定の要件を満たせば、親族外の後継者にも適用されます。
たとえば、後継者が承継後5年以上経営を続けるなどの条件があります。 - 専門家のサポートが重要
適用を受けるためには事前計画が不可欠です。
税理士や弁護士などの専門家と相談しながら、準備を進めましょう。
遺留分に関する民法の特例
遺留分とは、法定相続人が最低限保証される相続財産の割合です。
この制度により、たとえば遺言などで特定の相続人に大部分の財産を集中させても、他の相続人が一定の取り分を請求する権利を持ちます。
- 遺留分に関する民法の特例
この特例は、事業承継を円滑に進めるために遺留分の請求リスクを事前に回避する制度です。 - 特例の利用例
たとえば、遺産の大半を事業承継に充てる場合、この特例を活用することで、他の相続人との調整がスムーズになります。
事前に家庭裁判所の許可を得て、全ての相続人の合意を形成する必要があります。 - 活用のメリット
遺産分割によるトラブルを防ぎ、後継者が事業運営に専念できる環境を整えることができます。
この特例は、計画的な準備が鍵です。
適用には専門家の支援を受けながら進めましょう。
親族外承継を成功させるポイント
親族外承継を成功させるには、後継者の育成や関係者からの理解を得るといった計画的な取り組みが必要です。
後継者の育成の時間を十分にとる
後継者が経営者としての役割を果たせるようになるには、十分な育成期間と計画的なサポートが欠かせません。
特に親族外承継の場合、新しい経営者が企業文化に適応し、信頼を築くには時間が必要です。
- 計画的な育成の重要性
候補者の経営スキルや専門知識を磨くために、研修や外部での経験を積ませ、社内の従業員や取引先と信頼関係を構築するためのサポートも重要です。 - 早期の取り組み
承継計画は可能な限り早めに開始することで、スムーズな移行が実現します。
詳細はこちらをご覧ください。
関係者から理解を得る
親族外承継は、親族内承継に比べてトラブルが生じやすい傾向があります。
新しい経営者への不安感や方針の変更に対する反発を防ぐには、関係者への配慮が不可欠です。
■起こり得るトラブル
- 株式譲渡をめぐる親族株主からの反感
- 従業員が新しい経営者に不信感を抱き、士気が低下する
- 取引先が経営者交代に伴い取引条件を見直す
■トラブル防止のための工夫
承継計画を関係者に早めに共有し、十分な説明の場を設けることが効果的です。
新経営者の方針やビジョンを具体的に伝えることで、理解を得やすくなります。
親族外承継については「この街の事業承継」へご相談ください
「親族外承継を考えているけれど、何から始めればいいのか」――そんな不安を抱えていませんか?
親族外承継では、新しい経営者が親族以外となることで、さまざまな課題が伴います。
後継者の選定や株式譲渡の手続き、関係者との調整など、多くの準備が必要です。
計画的に進めなければ、後々トラブルが起きてしまうこともあります。
「この街の事業承継」では、親族外承継に関する不安や悩みをじっくりお聞きし、一つひとつ丁寧にサポートします。
法的なリスクの回避はもちろん、後継者の育成や関係者との調整まで、豊富な経験を活かしてお手伝いします。
まずはお気軽にご相談ください。


この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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