経営者保証ガイドラインとは?事業承継における特則や要件などをわかりやすく解説
中小企業の経営者が高齢化する中、事業承継は大きな課題となっています。
特に、経営者が個人の財産を担保にする「経営者保証」が大きな問題となり、承継が進まないことも多くあります。
本記事では、この問題を解決するための「経営者保証に関するガイドライン」について、わかりやすく解説します。
目次
事業承継における経営者保証の問題
経営者保証は、企業がお金を借りるときに、社長個人がその返済を保証する仕組みです。
これにより、中小企業でも融資を受けやすくなります。実際、融資を受けている中小企業のうち、8割以上が経営者保証をつけています。
しかし、経営者保証は事業承継にとって重要な課題となります。
後継者には多額の借金リスクがかかり、経営者保証の存在が後継者にとってハードルになり、承継を拒否するケースもあります。
経営者保証に関するガイドラインとは
経営者保証ガイドラインは、中小企業の経営者や金融機関に向けたルールブックです。これは、2014年2月1日から日本商工会議所と全国銀行協会が主導して導入されました。
このガイドラインは法的な強制力はないものの、中小企業や金融機関が自主的に実践することを促す役割があります。
経営者保証ガイドラインの利用は増加しており、経営者や金融機関にとって非常に有益な指針として機能しています。
経営者保証ガイドラインが策定された背景
経営者保証ガイドラインが策定された理由は、以下のような背景があります。
1.会社が倒産した場合、経営者個人が借入金を返済しなければならないという責任があります。
これが、経営者個人のリスクを高め、経営者自身が負債を負うリスクを意識せざるを得ない状況を生み出しています。
2.経営者保証が積極的な経営を阻害するケースもあります。
経営者がリスクを背負うことを避け、新しい事業展開や投資に消極的になることがあり、経営の成長や発展に制約を与える可能性があります。
3.経営者保証があると、事業再生を行いにくくなることも指摘されています。
経営者が負債を抱えることで、事業再生やリスク管理が難しくなり、企業の成長や持続性に影響を及ぼすことが懸念されています。
これらの課題を解決するために、経営者保証ガイドラインが策定されました。
経営者のリスクを適切に管理し、経営者個人の負担を軽減することが目的です。
経営者保証ガイドラインの主な内容
経営者保証ガイドラインは経営者の負担を軽減し、事業承継や再生に向けた支援を行っています。
主な内容は以下の通りです。
経営者保証契約の解除・見直し
経営者保証とは:
企業が融資を受ける際に社長個人がその返済を保証する仕組みのこと
この契約は、新規の融資だけでなく、すでに経営者保証がついている過去の融資にも適用され、解除・見直すことが可能です。
■メリット
【積極的な経営活動の推進】
経営者保証があると、経営者は個人資産にリスクが及ぶため、積極的な経営判断を避けることがあります。
保証契約を解除または見直すことで、経営者はリスクを軽減し、より積極的な経営活動が行えるようになります。
【債務整理時の負担軽減】
会社が債務整理を行う際、保証契約の解除・見直しで、経営者個人の負担を最小限に抑えられます。
これは、経営者の個人の破産リスクを減らし、事業再生に向けた取り組みを支援するために重要です。
■ 実際の手続き
- 金融機関への相談
まず、取引金融機関に経営者保証の解除・見直しを相談します。 - 必要書類の提出
企業の経営状況や財務状況を示す書類を準備し、金融機関に提出します。 - 審査と協議
金融機関が書類を審査し、必要に応じて経営者と協議します。 - 契約の見直し
合意が得られれば、経営者保証契約の解除・見直しが正式に行われ、新しい契約条件が設定されます。
経営者保証の解除や見直しは、中小企業の経営者にとって、個人リスクを軽減し、より積極的な経営を行うための重要な手段です。
債務を返済するときの自宅・生計費用の保護
経営者保証ガイドラインでは、経営者が会社の借金返済をする際、自宅や生活費を保護する仕組みが設けられています。
これにより、経営者やその家族の最低限の生活が維持されます。
■具体的な保護措置
債務整理を行う場合でも、以下のような保護が適用されます。
【自由財産の保護】
・自由財産として99万円の現金が残ります
・年齢に応じて、100万円~360万円までの現金が確保されます
【自宅の保護】
経営者の住む自宅が手元に残ります
(※ただし、自宅が過度に高価でないことが条件となります)
■メリット
自宅や生活費【最低限の生活の維持】が守られることで、経営者とその家族が安心して生活を続けることができます。
これにより、経営者は事業再生に専念しやすくなります。
■実際の手続き
- 金融機関への相談
まず、取引金融機関に債務整理について相談します。 - 必要書類の提出
自宅の価値や経営者の年齢に基づく現金の金額を示す書類を準備し、金融機関に提出します。 - 審査と協議
金融機関が書類を審査し、必要に応じて経営者と協議します。 - 保護措置の適用
合意が得られれば、金融機関は経営者の自宅や生計費用の保護措置を適用します。
自宅や生活費の保護は、経営者が債務整理を行う際の負担を大幅に軽減し、事業再生に向けた取り組みを支援します。
金融機関と協議を重ね、適切な手続きを踏むことが重要になります。
保証債務履行時における残額免除
経営者保証ガイドラインには、経営者が会社の借金を全額返済できない場合に残債務を免除する措置が設けられています。
【残債務の免除】
残債務の免除とは:
経営者個人の資産では会社の債務を全額返済できない場合、残債務部分が免除されること
・経営者は自身の資産の範囲で可能な限り債務返済を行います
・それでも返済残額が発生する場合、当該残額については、債権者(金融機関)に対する債務を免除される
【手続きの流れ】
- 金融機関への相談
まず、取引金融機関に残額免除について相談します。 - 必要書類の提出
返済能力を示す資料を準備し、金融機関に提出します。 - 審査と協議
金融機関が資料を審査し、必要に応じて経営者と協議します。 - 免除の決定
合意が得られれば、金融機関は保証債務の残額を免除します。
残債務の免除は、経営者が個人で過度な借金を背負わないように、一定の条件で残りの借金を免除する仕組みが設けられています。
これにより、経営者の負担が軽くなり、借金整理や事業再生に向けた取り組みが支援されます。
専門家と協力して適切な手続きを進めることが大切です。
事業承継時に焦点を当てた経営者保証ガイドラインの特則
経営者保証に関するガイドラインでは、事業承継時の経営者保証について特別な取り扱いが定められています。
この「特則」は2019年12月に公表され、2020年4月から適用が始まりました。
背景には、事業承継がスムーズに行えるよう、金融機関に対して事業承継時の経営者保証に関する対応を求める必要がありました。
経営者保証ガイドラインの特則の要点
この特則では、以下の点が重要とされています。
■「前経営者と事業後継者への個人保証の二重徴求は原則禁止」
事業を引き継ぐときに、前の経営者と新しい後継者の両方から個人保証を求めることは原則として禁止されています。
・後継者に経営者保証を求める場合は柔軟に対応
後継者に保証を求める場合、金融機関は状況に応じて柔軟に対応する必要があります。
これにより、後継者が無理なく事業を引き継げるようになります。
・前経営者との保証契約の見直し
事業承継の際には、前経営者との保証契約について適切な見直しを行う必要があります。
・経営者保証を求める際の理由説明
金融機関が経営者保証を求める場合には、その具体的な理由を説明する義務があります。
これにより、経営者は保証を求められる理由を理解し、納得して手続きを進めることができます。
特に「二重徴求の禁止」が大きなポイントです。
事業承継前の経営者と後継者の双方から保証を求めることを原則として禁止する内容です。
これにより、後継者に過度な負担がかからないよう配慮されています。
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経営者保証ガイドラインの適用対象・要件
経営者保証ガイドラインには、その適用対象と一定の要件が定められています。
経営者保証ガイドラインの適用対象
次の条件を全て満たす会社がこのガイドラインの対象となります。
- 中小企業であること
対象となるのは中小企業です。(大企業はこのガイドラインの対象外です) - 経営者個人が会社の債務の保証人になっていること
経営者個人が、会社の借金の保証人として署名している場合が対象です。 - 会社と経営者双方が誠実に財産状況を開示していること
会社と経営者が自分たちの財産状況を正直に公開していることが条件です。 - 反社会的勢力に絡んでいないこと
会社や経営者が反社会的勢力と関わりがないことです。(その恐れもないことが求められます)
■個人事業主について
個人で事業を営む人(個人事業主)も経営者保証ガイドラインの対象となります。このガイドラインは、【全ての条件】を満たす会社や事業主が対象となります。
経営者保証ガイドラインの3要件
ガイドラインでは、経営者個人に過度の負担がかからないよう、次の3つの条件が決められています。
- ①法人と経営者との関係の明確な区分・分離
- ②財務基盤の強化
- ③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
①法人と経営者との関係の明確な区分・分離
経営者保証ガイドラインでは、会社と経営者個人の区別をはっきりとさせることが重視されています。
- 資産や会計の分離
会社の資産や会計と、経営者個人の資産や家計をしっかり分けることが大切です。 - 車の名義変更
経営者個人の車を会社で使用する場合、車の名義を会社名に変更することが推奨されています。 - 自宅事務所の確認
自宅を事務所として使っている場合は、弁護士や税理士による実態の確認が推奨されています。
このように、会社と経営者個人の資産や会計を明確に区分・分離することが求められています。
はっきりとした境界線を設けることで、税務や法的な問題を回避しやすくなります。
②財務基盤の強化
経営者保証ガイドラインでは、会社の財務基盤を強化することが重要視されています。
- 好業績と十分なキャッシュフロー
定期的に利益を上げ、現金の流れが安定していることが重要です。
売上高の増加やコストの適正管理などがこれに該当します。 - 利益の貯蓄
利益の一部を貯金として残すことで、将来の投資や緊急時に備えることができます。 - 返済能力の客観的な示し
経営者個人の保証がなくても、会社自体が借金を返済できる能力を示すことが求められます。
利益の安定や資金管理の改善が重要です。 - 財務状況の改善
借金を減らし、資産を増やすことで、財務状況を健全に保ちます。
負債比率の改善、売上高や利益率の向上、適切な資金運用などが挙げられます。 - 業績の安定と貯蓄の増加
変動する経営状況にも柔軟に対応し、利益をしっかり貯蓄することが大切です。
売上高の変動を最小限に抑える努力や、リスクマネジメントを行い借金返済の能力を確保することが目指されます。
このように、経営状況の改善や資金管理の適正化などを通じて、会社自体の財務基盤を強化します。
経営者個人の保証に依存しない体制を整備することが求められています。
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
経営者保証ガイドラインでは、会社の財務状況を正確に把握し、適切に情報開示を行うことで、経営の透明性を確保することが重要とされています。
- 借金の状況や将来の業績予測を正確に開示する
会社の借金の状況や将来の業績予測を正確に開示することが大切です。
これにより、投資家や取引先、金融機関などに対して透明性を保ちます。 - 専門家にチェックしてもらい、信頼関係を築く
財務情報を弁護士や税理士にチェックしてもらい、正確な情報を出すことが大事です。
専門知識を活用して、財務情報の正確性を高めることで、信頼関係が築けます。 - 業績予測に変化があれば、すぐに金融機関に報告する
会社の業績予測に変化があれば、すぐに金融機関に伝えることが大切です。
これにより、金融機関との信頼関係を維持し、将来の財務状況に対するリスクを減らすことができます。
事業承継を後押しする経営者保証ガイドラインについてご不明点があればお気軽にご相談下さい
経営者保証に関するガイドラインは、事業承継の難しい問題に対処する上で参考になる内容が含まれています。
しかし、専門的な部分も多く、一人で判断するのは難しいことも多いでしょう。特に負債に関する条件などについては、専門性が高く理解が難しい部分があります。
しっかりとガイドラインの本質を正しく理解できれば、適切な対策を立てることができます。
事業承継のこと、経営者保証のことについて、わかりやすく説明します。
弁護士の西田幸広です。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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