ロックアップとは?期間の目安やメリット・デメリット、注意点など

M&Aにおいて「ロックアップ期間」とは、会社の売却後も一定期間、売り手側の経営者や重要な社員が会社に留まる契約のことを指します。
ロックアップ期間はM&Aの成功に大きく関わる要素であり、適切な契約内容を検討し、双方が納得できる形で設定することが大切です。
特に、後継者不在に悩む中小企業にとって、M&Aは事業承継の選択肢の一つです。
近年、地方の中小企業では後継者不足が深刻化しており、第三者承継としてのM&Aが注目されています。
本記事では、ロックアップの目的や期間の目安、メリット・デメリット、注意点について分かりやすく解説します。
目次
ロックアップ(キーマン条項)とは
ロックアップとは、M&Aにおいて会社を売却した後も、売り手側の経営者や会社にとって欠かせない社員が一定期間会社に残り、業務の引継ぎを行う契約です。
(対象となるのは通常、売り手側の社長や役員、熟練した技術者、営業責任者など、事業運営において特に影響力のある人々です。)
この契約は「キーマン条項」とも呼ばれ、経営の安定や新しい経営陣へのスムーズな移行を目的としています。
ロックアップ期間を設けることは、M&Aにおいて買い手・売り手双方にとって重要な要素です。
特に中小企業の事業承継においては、経営の安定と円滑な引継ぎを確保するために、ロックアップ期間の設定が効果的です。
M&Aにおけるロックアップの目的
ロックアップの目的は、事業承継後の安定を確保することです。
- 円滑な業務の引き継ぎ:後継者が経営に慣れるまでの期間、前経営者がサポートすることで、事業の混乱を防ぎます。
- 取引先や従業員の安心感の確保:急な経営者交代による不安を軽減し、信頼関係を維持します。
- 後継者の成長支援:経営のノウハウや人脈をスムーズに引き継ぎ、新体制の立ち上げを支えます。
ロックアップが設定されていない場合、事業の混乱や信用不安が生じる可能性があり、後継者の負担が大きくなってしまいます。
そのため、多くの事業承継においてロックアップが活用されています。
ロックアップ期間の目安
ロックアップ期間は企業の規模や事業内容によって異なりますが、一般的には1年~3年程度が多いとされています。
- 中小企業の場合:1~2年程度
- 大企業や専門知識が必要な業種の場合:2~3年程度
ロックアップ期間が長すぎると売り手側の負担が増え、短すぎると十分な引継ぎができないため、適切な期間を見極めることが重要です。
買い手側に適した期間
買い手の立場から見ると、ロックアップ期間は事業の安定を確保するための大切な要素です。
以下のような理由から、1年〜3年程度が適しているとされています。
- 短すぎると引継ぎが不十分 になり、M&A後の事業運営に支障をきたす可能性がある。
- 長すぎると売り手側の意欲が低下し、効率的な引継ぎができなくなる可能性がある。
適切な期間を設定することで、事業の安定を図りながら、新しい経営体制へのスムーズな移行が可能になります。
売り手側に適した期間
売り手の立場から見ると、適度なロックアップ期間を設定することで、無理なく事業の引継ぎを進めることができます。
一般的に1年〜2年程度が適切とされています。
- 期間が長すぎると、売却後の生活設計に影響が出る。
- 一定期間、会社の業績が良かった場合には追加の報酬を受け取れる契約を結ぶこともできる。
引き継ぎ後の生活設計や資金計画を踏まえ、バランスの取れた期間を設定することが重要です。
ロックアップ期間を設定するメリット・デメリット
ロックアップ期間を設けることで、買い手・売り手の双方にとってメリットがありますが、同時に注意すべきデメリットも存在します。
買い手側のメリット・デメリット
■買い手側のメリット
- 売り手側の経営者やキーマンが一定期間在籍することで、従業員や取引先の不安を軽減し、事業の安定性を維持できます。
- 新体制の準備期間中、現経営陣からの直接的なサポートにより、業務やノウハウの継承がスムーズに進みます。
- 売り手側の経験や知識を活用し、後継者の育成を効果的に行うことができます。
■買い手側のデメリット
- 売り手側の意欲が低下すると、引継ぎが円滑に進まない可能性があります。
- 期待していた人物が実際には業務に深く関与していなかった場合、ロックアップの効果が限定的となります。
- 売り手と買い手の企業文化の違いから、経営方針や業務において摩擦が生じる可能性があります。
売り手側のメリット・デメリット
■売り手側のメリット
- ロックアップ期間中に会社の業績が向上した場合、契約に基づき追加の報酬を得られることがあります。
- 急な退任を避けることで、従業員や取引先に対する責任を果たし、信頼関係を維持できます。
- 自身の築いた事業やノウハウを次世代に伝えることで、会社の発展に寄与できます。
■売り手側のデメリット
- 売却後も一定期間会社に留まる義務が生じ、新たな活動や生活設計に制約がかかる可能性があります。
- 業績連動型の報酬体系の場合、当初想定していた資金を得られないリスクがあります。
- 経営責任が継続するため、精神的な負担が続く可能性があります。
ロックアップ期間の設定が必要なケース
ロックアップ期間を設けるべきケースには、以下のようなものがあります。
- 経営者の影響が大きい場合
長年にわたり社長が主要取引先との関係を築いてきた場合、急な交代による混乱を避けるため、一定期間の在籍が望ましい。
特に、社長が主要取引先との信頼関係を築いている場合、ロックアップ期間を設定することで、取引の継続がスムーズになる。 - 事業運営において重要な役割を果たす人がいる場合
特定の取引先との信頼関係を持つ営業責任者や、キーマンとなる技術者がいる場合、急な退職によって取引が不安定になる可能性がある。 - 管理部門を取りまとめる人の影響が強い場合
財務や総務などの管理部門を実質的に仕切る人物が急に退職すると、資金繰りや労務管理が滞るリスクがある。 - 専門技術やノウハウが属人的な場合
特殊な技術やノウハウを持つ人材がいる場合、後継者への引継ぎが完了するまで一定期間が必要。
例えば、熟練の技術者が製造工程を一手に担っている場合、そのノウハウを若手社員に伝えるために、2~5年程度のロックアップ期間を設定することもある。
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ロックアップ期間を設定する際の注意点
ロックアップ期間は、M&A後の経営の安定性を確保するために重要な要素ですが、期間や条件を誤ると、売り手のモチベーションが低下したり、新経営陣への移行がスムーズに進まなかったりするリスクがあります。
そのため、適切な期間設定と契約内容の調整が必要です。
【買い手側】最適なロックアップ期間を設定する
ロックアップ期間は、長すぎても短すぎても問題が生じます。
- 短すぎる場合→買い手が事業運営を完全に理解する前に旧経営陣が退くため、ノウハウや顧客関係の引継ぎが不十分になる。
- 長すぎる場合→売り手のモチベーションが低下し、かえってM&Aのメリットが薄れる可能性がある。
■一般的なロックアップ期間の目安
企業規模 | ロックアップ期間の目安 |
---|---|
小規模企業(売上1億円未満) | 6カ月〜1年 |
中規模企業(売上1億円〜10億円) | 1年〜2年 |
大規模企業(売上10億円以上) | 2年〜3年 |
■大事なポイント
- 売り手と話し合い、無理のない期間を決める。
- 会社の状況や業種に合わせて、柔軟に調整する。
【買い手側】アーンアウト条項の活用も検討する
アーンアウト条項 とは、M&Aが終わった後の一定期間、売り手がどれだけ会社に貢献したかに応じて追加でお金を支払う仕組みです。
■アーンアウト条項のメリット
- 売り手のやる気を保てる → 会社の成長に協力すれば、その分の報酬が増える。
- 買い手のリスクを減らせる → 実際に会社が利益を出した場合にだけ、追加のお金を支払えばよい。
■例:アーンアウトの活用例
会社の売却額 5億円のうち、3億円を最初に支払い、残り2億円は 2年間の業績が一定の基準を満たせば支払う という契約をする
この仕組みを使えば、売り手は最後まで責任を持って経営に関わることができ、買い手も安心して事業を進めることができます。
【売り手側】競業禁止義務や他社への出資が禁止されることがある
M&Aの契約では、 売り手が一定期間、同じ業界で働いたり、新しい会社を立ち上げたりできない という条件が付くことがよくあります。
これは、売り手がM&A後に競争相手になってしまうのを防ぐためです。
■競業禁止の一般的な条件(※1)※1: 経済産業省「競業禁止契約の実態」
内容 | 一般的な制限 |
---|---|
禁止される期間 | 1〜3年 |
制限の範囲 | 国内または特定の地域 |
対象となる人 | 売り手の経営者・主要な幹部 |
このルールが厳しすぎると、売り手は今後の仕事に困ることになります。
そのため、契約の前に 競業禁止の期間や範囲をしっかり確認し、必要なら条件を見直してもらうことが大切です。
【売り手側】買い手側の信頼度や待遇を事前確認する
ロックアップ期間中は、売り手が買い手の経営方針に従って仕事をすることになります。
そのため、次のような点を事前に確認しておくことが大事です。
- 会社の方針や経営のやり方が自分に合うか?
- 役員として残るのか、社員として働くのか?
- 給料やボーナスはどうなるのか?
M&A後、売り手が「顧問」や「アドバイザー」として関わるケースもありますが、その場合も 勤務時間や報酬、役割を明確にしておくことが大切です。
【売り手側】ロックアップの有無・期間が売却金額に影響する
一般的に、ロックアップ期間が長くなるほど、買い手は会社の安定性が高いと考えるため、「売却価格が上がる傾向」があります。
しかし、売り手が長く残ることで、新しい経営体制がうまく機能しなくなることもあるため、単純に長くすれば良いというものではありません。
■ロックアップ期間と売却価格の関係(※2)※2: 企業会計基準委員会「M&Aにおける価格設定の考え方」
ロックアップ期間 | 売却価格への影響 |
---|---|
6カ月以下 | 価格が下がる可能性あり |
1〜2年 | 安定した価格交渉ができる |
3年以上 | 価格は上がるが、売り手の負担も増える |
売却価格だけを基準にせず、会社にとって最適な期間を考えることが大切です。
M&Aにおけるロックアップ期間は、会社の引継ぎを円滑に進めるために欠かせない契約の一つです。
売り手と買い手の双方が納得できる期間を設定することで、M&A後の事業の安定を確保できます。
- ロックアップ期間は、売り手とよく話し合い、無理のない長さにする。
- アーンアウト条項を活用すれば、売り手のやる気を維持しやすくなる。
- 競業禁止の条件は事前にしっかり確認し、必要なら交渉する。
- ロックアップ期間中の待遇を確認し、納得できる形にする。
- ロックアップ期間が長いほど売却価格は上がる傾向があるが、新しい経営体制への影響も考慮する。
ロックアップ期間の設定は、買い手にとっては事業の安定を確保するための対策であり、売り手にとってはスムーズな引継ぎと売却条件の向上につながる重要なポイントです。
しかし、期間が長すぎると売り手の負担が増えたり、新しい経営体制が定着しにくくなったりするため、慎重に判断する必要があります。
中小企業のM&Aでは、経営者個人の影響が大きいため、ロックアップ期間の設定次第でM&A後の事業の成否が左右されることもあります。
事前にしっかりと準備し、売り手・買い手双方が納得できる形を目指しましょう。
M&Aは会社の未来を決める重要な決断です。
ロックアップ期間を含め、契約内容を慎重に検討し、弁護士や専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
M&Aにおけるロックアップ期間についてのまとめ
- ロックアップ期間は、売り手側と買い手側よく話し合い、無理のない長さにする。
- 「アーンアウト条項」を活用すれば、売り手のやる気を維持しやすくなる。
- 競業禁止の条件は事前にしっかり確認し、必要なら交渉する。
- ロックアップ期間中の待遇を確認し、納得できる形にする。
- ロックアップ期間が長いほど売却価格は上がる傾向があるが、新しい経営体制への影響も考慮する。
ロックアップ期間の設定は、買い手にとっては事業の安定を確保するための対策であり、売り手にとってはスムーズな引継ぎと売却条件の向上につながる重要なポイントです。
しかし、期間が長すぎると売り手の負担が増えたり、新しい経営体制が定着しにくくなったりするため、専門家に相談しながら慎重に進めることをおすすめします。
中小企業のM&Aでは、経営者個人の影響が大きいため、事前にしっかりと準備し、売り手・買い手双方が納得できる形を目指しましょう。
M&Aにおけるロックアップ期間については「この街の事業承継」へご相談ください
事業承継には、親族に引き継ぐ方法、従業員に任せる方法、そして第三者に譲渡するM&A など、さまざまな選択肢があります。
その中でも、M&Aを成功させるうえで重要なのが「ロックアップ期間」 です。
しかし、ロックアップ期間の設定次第では、売り手・買い手の双方にとって負担になることもあるため、慎重に検討することが大切です。
「この街の事業承継」では、ロックアップ期間を含めたM&A全般のサポートを行っています。
経験験豊富な弁護士が、安心して事業承継を進められるようお手伝いします。
まずはお気軽にご相談ください。


この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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