親族内承継とは?メリット・デメリットや流れ、成功させるポイントを解説
事業承継には、「親族内承継」「第三者承継」のほかにも、株式公開や経営幹部による経営買収など、さまざまな方法がありますが、一般的には「親族内承継」「第三者承継」の2つが主な方法です。
この記事では、家族や親戚へ会社を継ぐ「親族内承継」についてわかりやすく解説します。
目次
親族内承継とは
■親族内承継:会社経営者の親族(家族)の一人が、その会社を継ぐこと
経営者の子供や配偶者、兄弟姉妹など、親族関係にある人が、その会社を引き継ぐ形になります。
昔は、こうした形で親族の中から後継者を決めて会社を継ぐのが一般的でした。
長年家族で守り育ててきた会社を、スムーズに承継できたからです。
次の経営者は、事前に会社の仕事を学んだり研修を受けたりして、経営ノウハウを身につける必要があります。
また、株式の承継手続きや、経営者の遺言作成、相続対策など、丁寧な準備がとても重要です。
親族内承継 | 親から、子や親戚に事業を引き継ぐ方法 |
---|---|
親族外承継 (従業員承継) |
家族以外の会社の人が事業を引き継ぐ方法 |
第三者承継(M&A) | 家族や従業員ではなく、外部の別の会社や人に引き継ぐ方法 |
親族内承継の割合
日本の少子高齢化と人口減少は、企業の親族内承継にも大きな影響を与えています。
過去10年間のデータを分析すると、親族内承継の割合が減少している傾向が明らかです。
特に中小企業は、この影響をより強く受けています。
このような状況下で、親族外からの事業承継やM&A(合併・買収)が増加しており、企業が親族以外の選択肢を検討する動きが見られます。
親族内承継のメリット
従業員や取引先から理解・協力を得やすい
・多くの企業で長年採用されてきた手法のため従業員や取引先がこの方法に慣れ親しんでいる
・後継者が関係者にとって身近な存在であることが多く、会社の方向性や文化を理解する承継者に対して安心感が生まれる
・十分な説明とコミュニケーションを行い、透明性があれば、関係者は理解しやすく協力的になる
後継者育成の準備期間を確保しやすい
・家族の絆を活かし、後継者に経営の基礎を丁寧に教育できる
・幼少期から経営業務に携わることで、必要な知識やスキルを徐々に身につけることができる
・家族内での仕事体験は、事業への理解を深め、将来の経営者としての自信を築くのに役立つ
・外部での経験も積むことで、業界全体の理解を深め、事業の多角化や新しい視点を取り入れる機会が増える
相続や贈与による事業承継が可能
相続による事業承継
■相続:亡くなった人の財産を法律に基づいて引き継ぐこと
・自社株や事業資産を引き継ぐことで、会社の価値や信頼が次の世代に受け継がれる
・会社のブランドや信頼性が維持され、業界での地位を確立しやすくなる
贈与による事業承継
■贈与:事業資産や株式の財産を生きている人が後継者に早めに譲る方法
・後継者に早く資産や株を譲り、会社の安定性を保つことができる
・後継者への負担を減らし、会社の成長と発展を促進できる
親族内承継には、従業員や取引先の理解が得られやすく、後継者育成の期間を確保しやすいなど、事業継続に有利な点があります。
親族内承継のデメリット
適性のある親族がいるとは限らない
・家族の中に、会社を上手に経営できる人がいるとは限らない
・適任者がいた場合も、その人が会社を継ぐ意思がないかもしれない
親族間でトラブルが起こる可能性がある
・親から子への贈与や相続を利用することが多いため 後継者以外の家族から、不満が出る可能性がある
・経営権の集中や家族間の対立を招くリスクにつながる
・法的な問題に発展し、訴訟などのトラブルになることもある
個人保証の引継ぎで問題になりやすい
・現在の経営者が個人で借りたお金の保証を、後継者が引き継がなければならないことがある
・この負担が大きくなると、後継者にとっては困難な状況になるかもしれない
・後継者に経営の実績がないと、この保証の変更が認められない場合もある
・後継者にお金がない場合は、保証自体を引き継げないこともある
親族内承継には、適した後継者がいない、家族間のトラブル、個人保証の引き継ぎ難しさなど、慎重に検討すべき点も存在します。
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親族内承継で株式を引き継ぐ3つの方法
相続
■相続とは:亡くなった人(被相続人)の財産を、法律で決められた相続人(配偶者・子供など)に引き継ぐこと
相続で自社株を渡す手順
1‐経営者が遺言書を作成し、誰に何割の株式を渡すのかを明記
遺言書を作成する際は、専門家に相談することが賢明です。
2‐経営者が亡くなった後、相続人側で以下の手続きが必要
一定期間内に税務署へ相続税の申告を行います。
申告額の算出は、税理士などの専門家に依頼するのが一般的です(遺言がない場合は法定相続割合 配偶者1/2、子供1/2等で引き継ぐ)。
生前贈与
◼︎生前贈与とは:経営者が生きているうちに、自社株などの資産を無償で渡すこと
生前贈与の手順
- 1‐ 専門家に株式の適正評価額(時価)を査定してもらう
- 2‐ 評価額に応じて発生する贈与税について、節税対策を立てる(税理士などに相談)
- 3‐ 贈与契約書を作成する
- 4‐ 贈与の日から2カ月以内に、税務署へ贈与税の申告を行う
株式譲渡
◼︎株式譲渡(売買)とは:経営者が保有する自社株式を、後継者に有償で売却すること
株式譲渡の手順
- 1‐ 売買価格を、株式評価額を基準に経営者と後継者で交渉して決める
- 2‐ 後継者側で、株式購入のための十分な資金を準備する
- 3‐ 売買契約を取り交わす
- 4‐ 株式の名義書換手続きを行う
- 5‐ 株式譲渡にかかる税金を申告する
いずれの方法も一定の手続きが必要で、専門家に相談しながら進めることが重要です。
自社の状況に合わせ、メリット・デメリットを検討して最適な方法を選びます。
弁護士 | 相続や生前贈与、株式譲渡などの手続き全般、法的手続きやトラブル解決、法的アドバイスの専門家 |
---|---|
税理士 | 相続税や贈与税の計算や申告手続きを代行、相続財産の評価や節税方法の専門家 |
司法書士 | 遺言書の作成や相続手続き、株式譲渡契約書の作成、登記手続きの専門家 |
行政書士 | 相続や生前贈与、株式譲渡に関する手続きやアドバイスを提供、遺産分割協議書の作成や登記手続きの専門家 |
相続や生前贈与、株式譲渡などの手続きは複雑であり、専門知識や経験が必要です。
手続きの際には、適切な専門家に相談して、安心して進めましょう。
親族内承継の基本的な流れ
親族内承継の流れは下記のような手順で進められます。
①後継者を選定・育成する
家族みんなで話し合い、後継者候補を決めます。
最終的に1名を後継者として選定します。
■後継者が決まったら、現経営者の下で実務に携わる
・現在の者から徐々に仕事を教えてもらう
・経営の基礎から丁寧に教育を受ける
・実際に会社で働きながら、ビジネスのことを学んでいく
・外部の研修なども活用し、経営スキルを高める
早めに準備をはじめることで、円滑な後継者育成を実現できます。
②株式の承継準備をする
株式を後継者に渡す方法を決めます。
■株式の移転の選択
相続、贈与、売却、の各方法を専門家と相談しながら検討し、適切な方法を選択します。
■株式の移転を明確化
・移転割合:完全移転(100%)か、一部移転(○○%)かを決定する
・譲渡時期:株式の譲渡時期やスケジュールを決める
・移転価格:株式の適正価格を専門家に計算してもらい、明確な価格を算出する
これらの準備を早めに専門家に相談することで、株式の移転プロセスをスムーズに進めることができます。
③従業員や取引先に周知する
周りの人に経営の変更を丁寧に伝え、理解と協力を得るために以下の対策を行います。
■従業員への事前周知
・説明会を開催して詳細をしっかりと説明する
・新しい後継者の人柄やビジョンも紹介し、信頼関係を築いていく
■関係者への事前周知
・大切な取引先や金融機関にも個別に説明に回り説明する
・これまでの信頼関係が続くよう努める
丁寧な説明とコミュニケーションを通じて、安定した環境と円滑な対応を促進します。
④株式や会社資産の承継手続きを行う
親族内承継の際には、会社の資産や株式を後継者に譲るための手続きが必要です。
この手続きには、遺言と生前贈与の2つの方法が一般的です。
【遺言】
■遺言とは:亡くなった後の財産の行き先を決める法的文書
遺言者(経営者)の最後の意思を、明確に示すことができます。
■遺言書の作成方法
・公正証書遺言:公証役場で公証人立会いの下、作成する
・自筆証書遺言:自分で書いて押印する
■遺言書の中身
・後継者への株式や資産の内容と割合を明記する
・遺産の分配方法や家族への最低限の遺産分(遺留分)も考慮する
■遺言書の選択
・公正証書遺言:確実性が高いが費用が高い
・自筆証書遺言:特定の要件を満たす必要がある
■亡くなった後の手続き
・期間内に相続手続きを行い、遺言に基づいて資産が後継者に渡るようにする
・登記や名義変更、相続税の申告も適切に行う
遺言は経営者の最後の意志を守る大切な手段です。
遺言書の中身は明確にしておき、後継者への財産譲渡や遺産分配を円滑に行うための準備が大切です。
【生前贈与】
■生前贈与:経営者が生きている間に株式や資産を後継者に無償で譲渡すること
この方法では、遺言と異なり即時に資産が移転します。
■贈与契約の締結
・贈与契約を結ぶ際には、何を贈与するのか、贈与の時期などを契約書に書く
・特に、配偶者の同意や受贈者の確定が重要
・公正証書で贈与するのが確実ですが、費用がかかる
■贈与税の計算と申告
・贈与によって一定額を超えると贈与税が課税される
・贈与前には専門家に相談し、評価額を計算して税金を節税する方法を考える
・贈与後は2ヶ月以内に税務署に贈与税を申告しなければならない
■登記などの手続き
・不動産の所有権移転登記や自動車の名義変更が必要
・株式の名義書換手続きも行う
生前贈与は、経営者が自らの意志で資産を移転し、後継者にスムーズに引き継ぐための有力な手段です。
このように、遺言も生前贈与も、専門家に相談しながら慎重に手続きを進める必要があります。
法的に適切な対応をすることがとても大切です。
⑤個人保証や担保を後継者に変更する
経営者が個人で会社の借金の保証をしている、自分の家や土地を借金の担保に入れていることがあります。
■担保とは:借金の返済保証として物や権利を提供するもの(例えば不動産、株式、自動車などが利用される)
■後継者への引き継ぎ
・経営者名義の借金の保証人や担保物件を後継者に引き継ぐ必要がある
・早めに銀行と話し合い、経営者側の保証や担保を外す手続きを進める必要がある
・金融機関と相談し、しっかりとスケジュールを立てる
■後継者の資金計画や事業計画の確認
・借金の返済負担が過大にならないように注意する
・後継者にも同様の保証や担保を求めるかどうか、検討し相談する
・会社の安定的な運営を確保するための対策を講じする
後継者にとって保証人や担保提供者となることは大きな責任です。
担保の変更は会社の存続にも影響するため、銀行との打ち合わせを丁寧に進めることが重要です。
親族内承継を成功させるためのポイント
親族内承継を成功に導くには、以下のポイントに気を付けましょう。
- 早くから事業承継の準備を進める
- 後継者以外の親族にも配慮する
- 公正証書遺言で遺言書を作成しておく
- 節税のために税制上の優遇措置を活用する
早くから事業承継の準備を進める
10年後のことを考えて、長い目で準備をすることが大切です。
経営者の方が60歳頃を目途に後継者候補を見定め、計画的に育成を始めましょう。
後継者には社内実務の経験を積ませると共に、経営者資格認定機構が実施する研修など、外部の専門プログラムの活用も検討します。
後継者以外の親族にも配慮する
計画を分かりやすく説明し、家族全員の理解を深めることが大切です。
遺留分の民法規定に抵触しないよう注意が必要です。
遺産をどう分けるかは、家族で話し合いながら決めていきましょう。
非上場企業の場合、事業承継に伴う株式評価が過大にならないよう気をつけます。
■遺留分とは:相続人のうち特定の人に最低限与えられる相続財産の割合を定めた民法の規定のこと
公正証書遺言で遺言書を作成しておく
公正証書遺言を作成すれば、法的な確実性が高まります。
経営者の意向を明確に遺言書に記載しておくことでトラブルをさけることができます。
遺言執行者の指名や、具体的な遺産分割方法の記載なども可能です。
■遺言執行者:遺言執行者と遺言書に記された遺言を実行する役割を担う人のこと
この人は遺産分割の手続きや遺産の管理を行います。
遺言執行者は、遺言者が信頼できる人を選ぶことが重要です。
■遺産分割方法:遺言書に記された内容に基づいて行われる方法のこと
具体的には、特定の資産を特定の人に分ける方法や、全体の遺産を均等に分割する方法などがあります。
遺言書にはこれらの方法が具体的に記載されているため、遺言書を作成する際には慎重に考えて決めることが重要です。
節税のために税制上の優遇措置を活用する
事業承継税制の抜本特例を利用すれば、納税を最長25年先延ばしできます。
一定の要件を満たせば、最終的に相続税が全額免除される制度もあります。
生前贈与を上手に活用した節税対策も、専門家と相談して検討しましょう。
■事業承継税制の抜本特例:家族や親族間で事業を承継する際に適用される税制
税金の免除や猶予など、特別な税制が適用されることで、贈与税や相続税の負担が軽減され、事業を継承する際の負担を軽くすることができます。
株式の承継後も気をつける
株式を引き継ぐには、法的な手続きが必要になります。
・株主が誰かをきちんと確認し、資格を得ることが重要です。
・株式公開買取制度の活用も、選択肢の一つとなり得ます。
■株式公開買取制度:企業が自分の株を株主から買い戻すこと
この制度を使うと、株主は自分の持っている株を企業に売ることができます。
家族全員で話し合いながら、遺言書作成や税制優遇措置の活用に取り組むことが、親族内事業承継の成功の鍵となります。
わからないことや不安な点は、専門家のアドバイスを活用しながら、安心して進めていきましょう。
親族内承継は早い段階から準備が必要です。まずはこの街の事業承継にご相談下さい。
日本では遺言書を作成している人は少ないですが、遺言があれば多くの相続関連の裁判は防ぐことができます。
遺言書の有無は、相続問題に大きな影響を与えます。
これは、事業承継においても同じです。
事業承継や相続は予見できるものなので、しっかりと対策を講じることができるのです。
相続や事業承継に関するご質問があれば、お気軽にお話ください。
熊本で25年 弁護士の西田幸広です。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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