持株会社を利用した事業承継とは?メリット・デメリットや手順などを詳しく解説
持株会社方式とは、事業会社の株式を保有する別会社(持株会社)を設立し、その持株会社の株式を承継者に引き継ぐ方法です。
従来は大企業で主に使われていましたが、近年では中小企業の事業承継においても有効な手法として注目されています。
本記事では、持株会社を活用した事業承継の基本的な仕組みや、そのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
目次
持株会社(ホールディングス化)を利用した事業承継とは
持株会社を利用した事業承継(ホールディングス化)について説明します。
持株会社の種類は主に2つあります。
- 事業持株会社
- 純粋持株会社
【1. 事業持株会社】
事業持株会社は、自社で事業を行いながら、他の会社の株式も保有する会社です。
(つまり、自分で商品やサービスを提供しつつ、子会社の経営管理もする会社のこと)
例えば、A社が自社で製造業を営みながら、販売会社B社とサービス会社C社の株式を持っているような形です。
【2. 純粋持株会社】
純粋持株会社は、自社では事業を行わず、他の会社の株式を保有して経営管理することだけを目的とする会社です。
子会社たちの「親会社」として、全体の戦略を立てたり、資金を配分したりする役割を担います。
例えば、X持株会社が製造会社Y社、販売会社Z社の株式を100%保有し、それぞれの会社の経営を管理するような形です。
一般的に「持株会社」と言われるのは、この【純粋持株会社】を指すことが多いです。
大企業でよく利用されるイメージがありますが、実は中小企業にもメリットがあります。
事業承継で持株会社を利用するメリット
事業承継において持株会社を活用する際の、主な4つのメリットについて解説していきます。
株式分散を防止できる
株式の分散による意思決定の遅れや経営の一貫性の喪失は、持株会社の利用で解決できます。
【株式を集中管理】
持株会社が事業会社の株式を一括して保有するため、株式が分散するのを防ぎます。
これにより、スムーズな意思決定や一貫した経営方針の維持が可能になります。
【相続時の株式管理が簡単】
将来的に相続が発生した場合でも、持株会社の株式を承継するだけで済むため、事業会社の株式が分散するリスクを減らせます。
持株会社を使えば、経営の安定性と将来の相続問題を一気に解決できます。
資金調達が容易になる
持株会社を利用すると、資金調達が容易になります。
■資金調達が必要な理由
事業の拡大、新規プロジェクトの開始、設備の購入など、大きな資金が必要になる場合があります。
予期しない資金需要に対応するための準備も重要です。
■資金調達がしやすい理由
持株会社が事業会社の株式をまとめて保有することで信用力が上がり、銀行からの融資が受けやすくなります。
さらに、持株会社が全体の資金管理を行うため、資金を効率よく配分でき、各事業会社が個別に資金を調達するよりも有利な条件で資金を確保できます。
持株会社を使えば、スムーズかつ効率的に必要な資金を調達できます。
先代経営者が利益を得られる
先代経営者が事業会社の株式を持株会社に売ることで、現金を受け取ることで譲渡益を得ることができます。
これは、長年の努力の成果を具体的に評価して報酬として受け取る機会です。
- 経営成果を活用: 得られた現金は先代経営者の老後の生活や家族のための財産として活用できます。
- 相続や贈与との違い: 持株会社経由の承継では、得られた譲渡益に税金がかかりますが、相続や贈与に比べて税金が少なくなる場合があります。
持株会社を使えば、経営者としての成果をしっかり評価し、経済的な安定を図るため合理的な手段です。
節税効果がある
事業承継における主な税金は相続税や贈与税で、大きな負担となります。
しかし、持株会社を介した承継では、事業会社の株式を売却する際の譲渡益にかかる税金を最小限に抑えることができます。
- 持株会社が事業会社の株式を保有することで、資産の評価額が低くなります。
- 資産評価額が低くなるため、相続税や贈与税の負担が軽減されます。
- 節税効果により、家族間での資産移転をスムーズに行うことができます。
持株会社を利用することで、事業承継の際の税金負担を大幅に減らすことが可能です。
事業承継で持株会社を利用するデメリット
持株会社を活用する際には、メリットだけでなくデメリットもあります。
以下に、主な3つのデメリットについて解説します。
借入金が発生する
持株会社を設立する際、多くの場合、銀行からの借入が必要になります。
これは事業会社の株式を購入するためです。
■返済リスク
- 借入金には返済義務があるため、計画的な返済が求められる
- 特に経営状況が悪化した場合、返済計画に狂いが生じると、会社の存続が危うくなる可能性がある
将来を見据えた堅実な経営と慎重な資金計画が必要です。
譲渡益には税金がかかる
持株会社に事業会社の株式を売却する際、先代経営者に譲渡益(売却益)が発生します。
この譲渡益には譲渡所得税がかかります。
■税率の比較
- 相続や贈与による承継の方が税率は、低くなる場合もある
(例えば、相続税の税率が譲渡所得税より低い場合、相続による承継の方が税負担は少なくなります)
専門家に相談しながら、自社に最適な方法を最適な承継方法を選択することが重要です。
租税回避行為とされるリスクがある
持株会社方式による事業承継を、単に税金対策だけを目的として行うと、税務署から租税回避行為と指摘されるリスクがあります。
■追徴課税の可能性
- 租税回避行為と判断されると、追徴課税(後からの税金請求)を受ける可能性があり、企業に大きな財務的負担となる
- このリスクを避けるためには、持株会社化に合理的な事業上の理由があることを説明できるようにしておく必要がある
(例えば、グループ経営の効率化や将来のM&A戦略など、税金対策以外の明確な目的を持つことが重要です)
税務署の質問に適切に対応できるよう、専門家のアドバイスを受けながら準備しましょう。
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持株会社を利用した事業承継の手順
持株会社を活用した事業承継は、主に5つの段階があります。
各ステップの詳細を順に解説していきます。
①後継者の出資により持株会社を設立する
- 目的:事業を引き継ぐための新しい会社を作ります
- 特徴:子会社の議決権を後継者が承継可能
- 手続き:
- 法人登記(約24万円の登録免許税)
- 定款作成(公証人による認証が必要)
- 資本金の払い込み
この段階で適切な手続きを踏むことが、後の承継をスムーズにする基盤を作ります。
②金融機関から融資を受ける
- 必要性:十分な自己資金がない場合、株式取得のための銀行からお金を借りる
- 手続き:
- 事業計画書を作成する
- 取締役会の承認をもらう
- 金融機関との交渉、話し合いを行う
資金調達は事業承継の重要なポイントです。
金融機関との良好な関係構築が、スムーズな承継につながります。
③先代経営者から株式を譲受する
- 目的:承継する会社を子会社化すること
- 手続き:
- 株式譲渡契約書の作成と取り交わし
- 株式譲渡代金の支払い
- 結果:後継者が100%出資の持株会社を通じて、間接的に子会社の経営権を取得する
この段階で、実質的な経営権の移転が行われます。
適切な契約書の作成と、円滑な代金支払いが重要です。
④譲渡承認の手続きを行う
- 必要な場合:
- 会社のルールで株の売買に制限がある場合
- 株主間の取り決めで承認が必要な場合
- 手続き方法:
- 先代経営者または新旧経営者共同で承認請求書を提出
- 取締役会で審議と承認を行う
この手続きは、将来のトラブル防止のために重要です。
⑤持株会社の取締役会で承認手続きを行う
- 目的:株式取得を正式に承認すること
- 手順:
- 取締役会を開催する
- 株式取得の目的や条件を説明する
- 質疑応答を行う
- 承認の決議を行う
- 議事録を作成し保管する
この最終承認により、持株会社を活用した事業承継が正式に完了します。
持株会社スキームにおける株価への影響について
■株価が下がる理由
持株会社が子会社の株を全て所有すると、株価の評価方法が変わります。
特に非上場会社では、少数株主がいなくなることで、より低い評価方法が適用されます。
■株価が下がることのメリット
【相続税・贈与税の負担軽減】
株価が下がることで、相続税や贈与税の課税対象額が減少し、税負担が軽くなります。
【将来の税負担増加を防止】
事業が成長しても株価の上昇を抑え、将来の相続・贈与時の税負担増加を防ぎます。
【経営戦略の柔軟性向上】
低価格で子会社株式の取得や売却が可能となり、M&Aや組織再編の選択肢が広がります。
このように、株価の低下は事業承継を円滑に進める上で重要です。
ただし、税務上の取り扱いは複雑なため、専門家に相談しながら進めることが重要です。
持株会社を利用した事業譲渡については「この街の事業承継」にご相談下さい
最近では中小企業でも、持株会社を使った事業承継で次の世代に会社を引き継ぐケースが増えています。
しかし、その仕組みや手続きが複雑で悩んでいる経営者の方も多いのではないでしょうか。
そんな時は、ぜひ「この街の事業承継」にご相談ください。
持株会社の設立から、税金の問題、手続きの進め方まで、きめ細かくサポートいたします。
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熊本で25年、弁護士の西田幸広です。
この記事を監修した弁護士
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