事業承継に贈与税はかかる?事業承継税制などの節税対策も解説
事業承継を行う際、経営者が後継者に株式や事業用資産を無償で譲渡する、この無償の財産移転には贈与税が課税されることになります。
この贈与税の負担を軽減するために、事業承継税制という特例措置が設けられて、制度を利用することで、贈与税や相続税の納税を猶予したり、免除したりすることが可能です。
本記事では、贈与税の課税対象と税率、事業承継税制の仕組み、節税対策についてわかりやすく解説します。
目次
事業承継には贈与税がかかる?
事業承継の際には、贈与税がかかる場合があります。
これは、経営者が生前に株式や事業用資産を後継者に無償で引き渡すと、税法上、贈与税の対象となるためです。
以下のような場合に贈与税が課されます。
- 株式の無償贈与:先代経営者が自分の保有株を後継者に無償で渡す際、その株式の評価額が贈与税の課税対象となります。
- 複数の株主からの株式贈与:後継者に経営権を集約するため、複数の株主から株式が贈与されるケースでは、それぞれの株主からの贈与に対し贈与税がかかります。
- 事業用資産の贈与:事業に必要な工場や設備、土地、建物などの事業用資産が贈与される場合も、これらの資産価値に応じた贈与税が発生します。
事業承継にはさまざまな資産が関わり、贈与税の負担が大きくなることが多く、後継者の経営に支障が出る場合もあるため、事前の対策が重要です。
贈与税の税率
贈与税の税額は、贈与された財産から基礎控除額を引き、その残額に税率をかけることで算出します。
贈与税の基礎控除は年間110万円で、この控除額を超える贈与額に応じて段階的な税率が適用されます。
【贈与税の計算方法】
計算式:
(受け取った財産額 – 基礎控除110万円) × 税率 – 控除額 = 贈与税額
(例)受け取った財産額が2,000万円の場合:
基礎控除:110万円
課税対象額:1,890万円(2,000万円 – 110万円)
税率15%、控除額10万円を適用し、贈与税は1,890万円 × 15% – 10万円 = 約283万円
基礎控除後の財産の合計額 | 贈与税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
基礎控除後の財産の合計額 | 贈与税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
基礎控除後の財産の合計額 | 200万円以下 |
贈与税率 | 10% |
控除額 | – |
基礎控除後の財産の合計額 | 400万円以下 |
贈与税率 | 15% |
控除額 | 10万円 |
基礎控除後の財産の合計額 | 600万円以下 |
贈与税率 | 20% |
控除額 | 30万円 |
基礎控除後の財産の合計額 | 1,000万円以下 |
贈与税率 | 30% |
控除額 | 90万円 |
基礎控除後の財産の合計額 | 1,500万円以下 |
贈与税率 | 40% |
控除額 | 190万円 |
贈与税は累進課税であるため、金額が高くなるほど税負担も増加します。
※自社株の評価額が大きい場合、贈与税負担も相応に高くなる点に注意が必要です。
贈与税の猶予制度「事業承継税制」とは
「事業承継税制」とは、円滑に事業を引き継げるよう、贈与税や相続税の納税を一定の条件下で猶予・免除する制度です。
後継者が贈与税の納税を猶予され、条件を満たすとそのまま免除される可能性もあります。
贈与税が免除される仕組み
事業承継税制を利用すると、後継者が10年間にわたって会社の経営を続けた場合、贈与税の全額免除が可能です。
例えば、経営継続の条件を満たすためには、従業員数を維持したり、会社の利益を一定水準以上に保つことなどが求められます。
加えて、後継者は引き続き会社の役員であることが条件の一つです。
贈与税で事業承継税制を活用する手続き
事業承継税制の適用を受けるには、以下の手続きが必要です。
1.都道府県への申請
事業承継税制の適用を希望する場合、都道府県へ「認定申請書」を提出します。
- 申請書に記載する内容:事業の内容、会社の業績、後継者のプロフィールや経営に関する計画などが必要です。
- 必要な書類:企業の決算書、後継者の役員登記証明書、事業の現況報告書など、財務面や後継者の経歴を証明するための書類が求められます。
2.税務署への申告
都道府県から認定を受けた後、今度は管轄の税務署に「贈与税の納税猶予申告書」を提出します。
この申告によって、実際に贈与税の猶予が認められます。
- 申告のタイミング:贈与を受けた年の贈与税の申告期限(翌年3月15日)までに申請を行います。
- 申告内容:認定証明書や猶予対象となる株式や事業用資産の詳細、後継者が役員であることを示す証明書などが必要です。
このように、税制の適用には複数の機関に申請が必要なため、税理士などの専門家に相談しながら準備を進めるとスムーズです。
事業承継税制の要件
事業承継税制を適用するには、いくつかの要件があります。
以下の各条件を満たすことで、贈与税の納税猶予を受けることが可能です。
- 後継者要件
後継者は、贈与を受ける時点で会社の役員でなければなりません。
さらに、贈与後も経営責任を担い、引き続き会社運営に関わることが必要です。 - 経営継続要件
贈与後10年間、会社の経営を継続する必要があります。
また、従業員数が一定の水準以上を維持していることが条件となることがあり、業績や雇用を守る責任も求められます。 - 事業資産要件
承継の際に事業の中核となる資産が引き継がれていることも重要です。
(例えば、主要な事業用地、設備、工場など、継続的な経営に必要な資産が後継者に譲渡されているかが確認されます。)
これらの要件を満たして初めて事業承継税制の適用が認められます。
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事業承継における贈与税を節税するには?
事業承継時の贈与税の負担は後継者にとって大きな負担になることがありますが、いくつかの有効な節税方法を取ることで軽減可能です。
適切な節税には、税務や法務の知識が必要であるため、税理士や弁護士などの専門家に相談することが重要です。
役員へ退職金を支払う
【退職金のメリット】
- 経費として計上可能:退職金は会社の経費として計上できるため、法人税の負担を軽減します。
- 優遇税率の適用:退職金には通常の給与よりも低い税率が適用されるため、税負担が抑えられるメリットがあります。
- 贈与税の回避:贈与ではなく退職金として受け取るため、贈与税を支払わずに事業資産をスムーズに移転可能です。
【手続きと注意点】
退職金を支払うためには、事前に「役員報酬規定」や「退職金支給規定」を策定し、会社内で承認を受ける必要があります。
これにより、支給額や支給タイミングを明確にしておくことが重要です。
退職金の支給額や手続きは税務上のリスクを伴うため、具体的な支給金額の設定や手続きについては、専門家と相談し、適切な金額と手続きを踏まえて進めましょう。
生命保険に加入する
生命保険を活用して事業承継のための資金を準備することは、相続税・贈与税の負担を軽減するための有効な方法です。
保険金を受取人が受け取る形で準備することで、予測しにくい税金の支払いや事業資金を円滑に準備できます。
【保険金の利用方法】
経営者が生命保険に加入し、後継者を保険金の受取人として設定します。
経営者に万が一のことがあった場合に、受取人である後継者が受け取った保険金を事業承継資金として利用できる仕組みです。
これにより、贈与税や相続税の支払いに備えた資金として活用でき、事業資金の移転もスムーズになります。
【具体的な活用例】
例えば、経営者があらかじめ高額の生命保険に加入し、後継者が保険金を受け取るように設定しておくことで、後継者はこの保険金を使って以下のような用途に充てることが可能です。
- 贈与税の支払い:保険金で贈与税や相続税を支払うことで、急な資金負担を抑え、事業承継を円滑に進められます。
- 事業用資産の購入:事業承継時には新たな設備や資産が必要となる場合もありますが、保険金をその資金として活用することが可能です。
生命保険の契約には、契約者・被保険者・受取人の設定が重要で、契約内容によって税務効果が変わります。
専門家と連携しながら最適な設計を行うことが重要です。
相続時精算課税を活用する
「相続時精算課税制度」は、贈与税を贈与時に発生させず、相続時にまとめて課税できる制度です。
この制度を利用することで、事業承継に伴う贈与税負担を軽減できます。
【メリットと効果】
- 贈与時の贈与税が非課税になる:相続時精算課税を使うと、年間2,500万円までの贈与額は非課税で贈与できます。
- 相続時に基礎控除を活用できる:相続発生時には、相続税の基礎控除額(例えば3,600万円+法定相続人数×600万円)を適用できるため、課税額を抑える効果があります。
- 贈与のメリットを生かしつつ節税が可能:後継者に事業資産を早めに移転しつつも、贈与時の税負担を抑え、資産承継ができます。
【具体的な流れ】
- 贈与の開始
経営者が後継者に財産を贈与する際、相続時精算課税制度の適用を決めます。(※この制度を選択すると、他の贈与税の制度は使えなくなるため、計画的に決定することが大切です。) - 税務署への申告
贈与を受けた年の翌年3月15日までに、税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を提出します。
これにより、贈与した金額に対する贈与税が猶予され、相続時にまとめて課税される形となります。 - 相続時の納税
相続が発生した際、猶予されていた贈与額と相続資産の総額に基づいて相続税が計算されます。
基礎控除を適用し、課税額を抑えつつ、最終的な納税額が決まります。
【注意点】
相続時精算課税は選択後の変更ができないため、適用を決める前に税理士や弁護士と相談し、家族や企業の状況に合った計画を立てることが重要です。
制度の利用や相続のシミュレーションを行うことで、事前に税負担の見通しが立てやすくなります。
事業承継の贈与税対策については「この街の事業承継」へご相談ください
事業承継の際、贈与税の発生で予期せぬ税負担が生じるケースがあります。
特に贈与税は、予期せぬ税負担を生み出すことがあり、対策を誤れば、引き継いだ後の経営にも影響しかねません。
しかし、贈与税の対策や制度を適切に活用することで、税負担を軽減することができます。
まずはお気軽にご相談ください。
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全力でサポートいたします。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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