事業承継ファンドとは?メリット・デメリットや仕組みなどの基本を解説
多くの中小企業が直面する後継者問題に、新たな解決策として「ファンド」という選択肢があります。
このファンドは、新しい後継者を見つけ出し、企業の継続を支援するため方法で企業は安定した将来へと進むことが可能になります。
しかし、利用する際には、そのメリットやデメリット、選び方に注意が必要です。
本投稿では、事業承継ファンドの基本を、わかりやすく解説します。
目次
事業承継ファンドとは
事業承継ファンドは、後継者不在で困っている中小企業を支援する制度です。
多くの中小企業が後継者を見つけられずに経営の危機に直面しており、お金を借りることも以前より難しくなっています。
さらに、経営の知識や経験が不足している場合も多いため、ただお金を貸すだけでなく、経営のアドバイスを受けられる事業承継ファンドは大きな助けになります。
このファンドを利用することで、多くの投資家から中小企業は必要な資金を得て、新しい経営者を見つけ、経験豊かな専門家の経営サポートを得ることができます。
事業を次の世代に引き継ぎ、安定した成長を目指すことができるのです。
後継者がいない状況でも企業を守るための「助け合い」の仕組みです。
事業承継ファンドが注目されている背景
事業承継ファンドが注目されている背景は以下の通りです。
- 後継者不在による中小企業の経営危機が増加している中、伝統的な事業承継方法だけでは対応が難しくなっている
- 銀行の貸し出し条件が厳しくなり、特に中小企業が資金を集めるのが一層難しくなっている
- 経営資源や専門知識の不足が、中小企業の成長機会を制限しており、外部からの支援が求められている
- 経営コンサルティングや専門的なアドバイスという、従来の融資にはない価値を提供している
事業承継ファンドは中小企業にとって成長へ向けた新たな選択肢のひとつとして注目されています。
事業承継ファンドとM&Aの違い
事業承継ファンドとM&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)はどちらも成長戦略や会社の未の形を作る大切な手段ですが、その目的や使われ方には大きな違いがあります。
事業承継ファンド
主に後継者不在による経営危機に直面している中小企業を対象としています。
新たな経営者や事業継承者を見つけること、または現経営者に対する経営支援を行うことを目的として設立されます。
資金提供に加え、経営コンサルティングや専門家によるアドバイス、経営資源の提供など、経営面でのサポートを重視します。
M&A
会社が市場シェアの拡大やシナジー効果の実現、新しい分野に手を広げたいときに使われます。
成長戦略や競争力強化の一環として実施されることが多いです。
買収、事業部門の売却、合併など様々な手法を含み、財務面での取引が中心となり、買収資金の調達、評価額の算定、交渉、契約締結といった流れです。
事業承継ファンドは特に後継者問題を抱える中小企業の支援に焦点を当てており「後継者を見つけて、スムーズにバトンタッチするためのサポート役」で、M&Aは戦略的手段であり「力を合わせて、もっと大きく強くなるための手法」です。
親族内事業承継 | 親から子や親戚に経営を引き継ぐ方法 |
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親族外事業承継 | 家族以外の人が経営を引き継ぐ方法 |
第三者承継(M&A) | M&Aは会社同士が手を組んで、もっと大きくて強い会社を作る方法 |
事業承継ファンドを活用できるケース
事業承継ファンドを活用できる場合は以下の通りです。
親族や社内に後継者候補がいない
家族や会社の中に、会社を継ぐ人が見当たらない場合
事業承継ファンドを活用して、外部から、新しい経営者を探すお手伝いをします。
後継者候補はいるがまだ経験が浅い
後継者がいても、その人がまだ経営に必要なスキルや経験を十分に持っていない場合
事業承継ファンドから派遣される専門家やコンサルタントが、実務のトレーニングや経営戦略など経営のコツを教えるサポートを提供します。
後継者候補に資金力がない
後継者はいるが、事業を引き継ぐための資金が不足している場合
後継者が会社の株式を取得するには相当な資金が必要です。
しかし、後継者の資金力が十分でないケースも少なくありません。
後継者は一旦事業承継ファンドに株式を売却し、その後、ファンドの支援を受けながら資金を積み立てます。
資金が十分に積み立てられた段階で、後継者はファンドから株式を買い戻すことができます。
現在の経営陣に経営を任せたい
現在の経営者が引き続き会社をリードしたいが、支援が必要な場合
現経営者が経営を続けたい場合、複数の支援を提供します。
資金提供だけでなく、経営戦略の見直しや事業効率化などのアドバイスも含まれます。
経営者が会社の運営を続けることを望む場合、ファンドに一部の株式を売却し、経営権を維持しつつ外部からの資金と専門知識を得ることができます。
しかし、経営者は会社の一部所有権をファンドに譲渡する代わりに、経営権を守るために、もう一度、一部の株式に投資する必要があります。
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事業承継ファンドを活用するメリット
事業承継ファンドを活用すると以下のようなメリットがあります。
メリットの詳しい内容は以下の通りです。
意図に沿った事業承継ができる
経営者やオーナーは、自分の思い描く未来計画に合った形で、会社を次の世代に渡すことができます。
たとえば、信頼できる従業員に経営を任せたい、または特定の分野で会社を成長させたいなど、具体的な目標に合わせた承継計画を立てることが可能です。
また、経営者がやりたいこと以外には干渉しません。
会社の文化や思いを大切にしながら、必要なときにだけサポートを受けることができます。
経営支援を受けられる
資金の支援だけでなく、経営の専門家や業界によるコンサルティングサービスを受けることができ、戦略の策定、財務の管理、業務の効率化など、さまざまな側面で手厚い支援が受けられます。
特にご高齢の経営者にとって、このような経営サポートは心理的な負荷を軽減する効果があります。
戦略相談や意思決定のサポートを通じて、経営者は孤立感やストレスを感じることなく、健全な経営を実現することが可能になります。
売却益を得られる
経営者やオーナーは、自分が持つ会社の株式を事業承継ファンドに売却することで、その売却から得られる利益を手に入れることができます。
このお金は、退職後の生活資金や、新たなビジネスへの投資など、自由に使うことができます。
経営者は負担なく事業を受け継ぎ、将来に備えることができるのです。
企業理念・文化を維持できる
ファンドの主な目的は、企業の持続可能な成功を促進し、企業価値を向上させることです。
これは経営者と一緒になって目指す目標です。
長年築いてきた文化や伝統を守り、社員や顧客との絆を維持しながら、これらの価値を守ることに注力します。
この取り組みは、地域社会にも良い影響を及ぼし、長く繁栄するための基盤を築きます。
事業承継ファンドを通じて、過去を尊重しつつ安定した環境で成長を続けることができるのです。
事業承継ファンドを活用するデメリット
事業承継ファンドを利用する際に考慮すべきデメリットは、以下の通りです。
経営権の部分的な放棄
事業承継ファンドから資金を受け入れることは、一部の経営権をファンドに譲渡することを意味する場合があります。
経営者は自由な意思決定を行う上で制約を受ける可能性があります。
利害関係の複雑性
経営目標や方針においてファンド側の意向を考慮する必要が生じ、経営判断が複雑になる場合があります。
財務負担の増加
ファンドからの資金提供は返済義務を伴うことが多く、利息や配当などの形で将来的に企業の財務負担が増加するリスクがあるため注意する。
企業文化のずれ
ファンドから派遣される経営支援チームと企業の既存の経営陣との間で、企業文化や価値観の相違が生じることがあります。
事業承継ファンドの活用を検討する際には、これらのデメリットを十分に理解し、企業にとって最適な決定を行うことが重要です。
事業承継ファンドの主な種類
事業承継ファンドは国内にいくつもあります。
その中でも代表的な事業承継ファンドを紹介します。
中小機構の事業承継ファンド
独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する事業承継ファンドは、公的視点からアドバイス提供をしてくれます。
民間よりも中小企業へのサポートが得意で、新規事業の創業や拡大も積極的に行っています。
中小企業の事業承継や成長支援で特に広く利用されています。
日本投資ファンド
日本M&Aセンターと日本政策投資銀行が共同設立したファンドは、たくさんの会社の引き継ぎの実績と経験があります。
全国の地域銀行と協力して、地元の会社を支援しています。
審査の難しさも比較的低く、中小企業にとって手軽に相談できる特長があります。
SBI地域事業承継ファンド
SBI地域事業承継ファンドは、地域の発展を目指し、後継者不足に悩む中小企業への支援を目的としています。
他のファンドとは違い、小さな企業にも投資し、地域経済の活性化を図っています。
これにより、地域の中小企業が持続可能な事業承継を実現できるようサポートしてくれます。
PE(プライベートエクイティ)ファンド
PE(プライベートエクイティ)ファンドは、日本プライベートエクイティ株式会社が運用する資金です。
中小企業経営者の事業承継問題に苦しむ方を支援し、出資します。
特に、従業員の自立を促進し、オーナー経営から組織経営への移行をサポートするのを得意としています。
PEファンドは、企業の持続的な成長や経営改善を促進し、中小企業を支える重要な仕組みとなっています。
自社に適した事業承継ファンドの選び方
自社に最適な事業承継ファンドを選ぶための大切なポイントは以下の通りです。
支援内容や特徴を理解する
事業承継ファンドは、資金提供だけでなく、経営改革、事業拡大、新しい市場への進出など、様々な支援を行います。
ファンドによって、得意とする分野や提供するサービスが異なるため、自社の事業戦略や必要とする支援に合致するファンドを選ぶことが重要です。
たとえば、技術革新が必要な場合は、その分野に強みを持つファンドを選びます。
事業承継ファンドには、「直接投資型」と「貸付型」という2つの主要な形式があり、それぞれが異なる特徴を持っています。
直接投資型ファンド
ファンドが企業に直接資金を提供し、その企業の一部の株式を取得します。
この方法で、ファンドは企業の経営に一定程度関与することになります。
企業に直接お金を投じ、経営改善や戦略策定の専門的アドバイスを提供し、必要に応じて、新しい経営者を連れてくることもあります。
(直接投資型ファンドは経営に積極的に関わりたい場合や、大規模な変革を目指す企業に適しています)
貸付型ファンド
ファンドが企業に対して貸し付けを行い、将来的にそのお金を返済してもらう形式です。
この場合、ファンドは企業の株式を取得せず、経営への直接的な関与はありません。
お金の貸し付けに加えて、経営の効率化や改善に関するアドバイスも提供されます。
企業は経営権をそのまま保持しながら、外部からのサポートを受けることができます。
(貸付型は経営権を保持したまま、資金や専門的なサポートを必要とする企業に適しています)
過去の実績を確認する
これまでにどのような企業の事業承継を支援してきたか、その成功事例や実績を調べます。
同業種や類似の経営課題を持つ企業への支援の実績があるファンドは、専門知識や経験が豊富である可能性が高いです。
ファンドの過去の成果や評判を調査することは、そのファンドが自社にとって有益かを判断する上でとても重要です。
特に、類似の業界や規模の企業に対する成功事例があるか、また過程で企業の文化をどのように扱ったか、を確認することが推奨されます。
担当者との相性を見極める
担当者が会社のビジョンや文化を理解し、長期的なパートナーシップを通じて適切なアドバイスを提供できるかが鍵となります。
長期間にわたる関係になるため、会社の文化や価値観に共感し、それに基づいたサポートを受けられるかどうかを見極めます。
また、事業承継では多くの決定が求められるため、担当者との間で迅速かつ柔軟な意思決定が可能であること、そしてスムーズなコミュニケーションが維持できることも重要です。
専門家からアドバイスをもらう
事業承継は、法的、財務的、そして経営戦略的な複雑な課題を含むため専門家のサポートが必要不可欠です。
特に重要な理由は以下の通りです。
法的安全の確保
弁護士や法務顧問が、契約書の作成や法的リスクの評価、コンプライアンスの確認を支援し、将来的な法的紛争を未然に防ぎます。
財務・税務の最適化
会計士や税理士は、事業承継に伴う財務構造の再編成や税務戦略を提案し、適切な財務計画により、承継後も企業の財務健全性を保つことができます。
経営戦略の策定
市場の変化や業界トレンドに基づく中長期戦略を、専門家がサポートします。
これにより、承継後も企業の持続的成長が促されます。
専門家からのアドバイスを受けることで、企業と経営者のニーズに合った最適な解決策を見つけ出せます。
事業承継は、単なる経営権の移譲以上のものであり、企業の将来に重大な影響を及ぼすため、専門的な知見の取り入れが必要です。
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事業承継ファンドを活用した事業承継の流れ
自社の現状把握
事業承継を進める際、まず自社の現状を把握し、具体的なニーズを明確にします。
後継者不在、資金不足、成長戦略の策定が必要など、様々な課題が考えられます。
ファンドの種類理解
「直接投資型ファンド」と「貸付型ファンド」の違いを理解し、自社に最適なものを選びます。
直接投資型はファンドが経営に参加し、貸付型は資金提供のみとなります。
ファンドの選定
いくつかのファンドに連絡を取り、自社の状況を説明してみます。
支援内容、過去の実績、担当者との相性などを見極め、大まかな条件について話し合い、ファンドを選定します。
初期交渉
選定したファンドと直接会い、基本条件や支援範囲について話し合います。
この段階で予備的な合意に達することが目標です。
デューデリジェンス
ファンド側が、財務状況、経営状態、市場の位置づけなど、会社のあらゆる側面をチェックします。
この過程で、会社の必要な情報をすべて提供する必要があります。
契約締結
デューデリジェンスの結果に基づき、資金提供の条件や経営参加への度合いを含む具体的な契約を締結します。
支援開始
契約に基づき資金が提供され、支援が開始されます。
支援には、資金面だけでなく経営コンサルティングや戦略策定のサポートが含まれることがあります。
定期的なフォローアップ
ファンドと定期的に進捗状況を共有し、必要に応じて計画の調整を行います。
ファンドの退出
事業承継の目標が達成され、企業が安定した段階に達したら、ファンドは段階的に企業から撤退します。
貸付型ファンドの場合は全額返済が完了し、直接投資型の場合はファンドが保有する株式を売却して退出します。
このような流れを経て、企業は新たな段階へ安心して進む準備が整い、事業承継ファンドがその重要な支援を提供します。
事業承継ファンドを検討される際は、専門家である「この街の事業承継」にご相談下さい
事業承継ファンドについて興味はあるけれども、まだ理解しきれていない部分が多い……とお感じかもしれません。
確かに、この分野は新しく複雑な情報が多く、すぐには理解が難しいかもしれません。
新しい領域への一歩は、多くの疑問や不安を伴います。
しかし、それは成長への第一歩であるともいえます。
わからないこと、気になることがあれば、どうぞ遠慮なくお尋ねください。
最適な事業承継の方法を一緒に見つけ出し、わかりやすく丁寧にご説明することをお約束します。
私自身も新しい情報を学び続け、常に最新の知識をお伝えするために努力してまいります。
熊本で20年間、弁護士・司法書士として活動している西田幸広です。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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