企業価値を高める5つの方法|メリットや評価方法なども解説

企業価値とは、「その企業がどれだけの価値を持っているか」を示す指標です。
これは単なる売上や利益の大きさだけでなく、不動産や設備といった有形資産、知的財産やブランドといった無形資産、さらには負債や市場環境、将来の成長性など、さまざまな要素を考慮して算出されます。

企業価値が正しく評価され、向上することで、金融機関からの融資が受けやすくなり、M&Aや事業承継の際に有利な条件を引き出せるなど、多くのメリットがあります。
本記事では、企業価値の基本的な考え方や評価方法、そして具体的にどのように企業価値を向上させるのかについて解説します。

企業価値とは

■企業価値(Enterprise Value, EV)とは:企業が持つ資産や収益力を総合的に評価したもの

これは単に企業の売上や利益だけではなく、負債を含めたトータルの価値 を示す点が特徴です。

【企業価値に含まれる主な要素】

  • 有形資産(土地・建物・設備・在庫 など)
  • 無形資産(ブランド・顧客基盤・特許・商標 など)
  • のれん代(企業のブランド力や信用力など、財務諸表には明確に記載されない価値)
  • 負債(銀行借入・社債 など)

特に中小企業においては、財務データだけでなく、経営者の手腕や従業員のスキル、顧客基盤などが企業価値を決める重要な要素となります。

事業価値(EV)・時価総額との違い

企業価値は、事業価値(EV)時価総額 という概念と混同されることがありますが、それぞれ定義が異なります。

指標 定義・特徴 企業価値(EV)との違い
企業価値(EV) 企業の全体的な価値を示し、株主価値だけでなく負債も含めたトータルの価値 事業価値と時価総額の両方を考慮
事業価値(EV) 企業の事業活動そのものの価値(営業利益や資産を基に計算) 企業価値から「余剰資産(現金・投資資産など)」を除いたもの
時価総額 株式市場での評価(株価 × 発行済株式数) 上場企業向けの指標で、非上場企業には適用しづらい

中小企業では非上場企業が多いため、時価総額よりも事業価値や純資産の評価が重要になります。

企業価値を高めるメリット

企業価値を向上させることには、以下のようなメリットがあります。

■融資が受けやすくなる
企業価値が高い企業は、金融機関からの信用が向上し、融資が受けやすくなります。
特に日本政策金融公庫や地方銀行は、企業価値を基に融資判断を行うケースが多くあります。

■倒産リスクを抑えられる
財務状況が改善し、経営基盤が安定することで、資金繰りの悪化による倒産リスクを軽減できます。
実際、中小企業庁の調査(2023年)によると、倒産企業の約60%は「資金繰りの悪化」が主な原因です。

■M&A(事業売却・承継)で有利になる
企業価値が高い企業ほど、買い手企業から高い評価を受け、売却価格が上がる 可能性が高くなります。
特に後継者不足の中小企業においては、企業価値の向上=円滑な事業承継 につながります。

■取引先や投資家の信頼を得られる
財務状況が良く、将来性のある企業は取引先や投資家からの信用が高まり、ビジネスの成長につながります。

企業価値の評価方法

企業価値を評価する方法はいくつかありますが、大きく以下の3つに分類されます。

  • コスト・アプローチ:企業の資産(不動産・設備・在庫など)の価値を基準に評価する方法
  • インカム・アプローチ:将来的に企業が生み出す利益やキャッシュフロー を基準に評価する方法
  • マーケット・アプローチ:類似企業の売買価格や市場価格と比較して評価する方法

企業の業種や財務状況、目的(M&A・事業承継・資金調達など)によって適した評価方法は異なります。
特に中小企業の場合、資産価値を重視するコスト・アプローチ や、将来の収益力を考慮するインカム・アプローチ がよく用いられます。

コスト・アプローチ

■コスト・アプローチとは?
企業の貸借対照表(バランスシート)に記載された純資産を基準に、企業価値を評価する方法です。
企業が持っている資産(現金・不動産・設備・在庫など)から負債を差し引いた金額を企業価値とみなします。

この方法がよく使われる場面

  • 金融機関の融資審査(担保価値を確認するため)
  • 事業承継時の株式評価(中小企業の評価に適している)

■メリット

  • 簡単に計算できる(財務諸表があれば評価可能)
  • 赤字企業でも評価できる(利益がなくても、資産があれば価値がある)
  • 金融機関が重視(融資の際の担保価値を確認しやすい)

■デメリット

  • 将来の収益性を反映しない(利益を生まない資産も評価に含まれる)
  • ブランドやのれん代などの無形資産を評価しづらい
  • 市場価格と乖離することがある(帳簿上の価値と実際の売却価値が異なる場合がある)

■ 主な評価手法

  • 簿価純資産法(資産を帳簿上の価値で評価)
    • 計算がシンプルで分かりやすい
    • ただし、古い設備や不動産の価値が適正に反映されないことがある
  • 時価純資産法(資産を現在の市場価値で評価)
    • 簿価純資産法よりも実際の売却価値に近い評価が可能
    • ただし、不動産や設備の査定が必要で、専門家の助言が必要

‐事例:地方の製造業の評価‐
例えば、地方で金属加工業を営むA社があるとします。

貸借対照表上の資産合計:5,000万円
負債合計:2,000万円
純資産(簿価純資産):3,000万円

しかし、A社は築30年の工場を所有しており、土地の時価が上昇しているため、専門家の評価により時価純資産は4,500万円となる可能性もあります。

インカム・アプローチ

インカム・アプローチとは?
企業が将来どれだけの利益(キャッシュフロー)を生み出すかを基準に評価する方法です。
特に、事業の収益力が重要視されるM&Aや事業承継で多く使われます。

■メリット

  • 成長性や収益性を反映できる(利益が増えるほど企業価値も上がる)
  • ブランド・技術力・顧客基盤などの無形資産も評価可能

■デメリット

  • 将来の予測が不確実(景気変動や競争環境の変化で利益が変動する)
  • 計算が複雑(専門家の分析が必要)

■ 主な評価手法

  • DCF法(割引キャッシュフロー法)
    • 企業の将来のキャッシュフローを現在価値に換算して評価
    • 大企業や成長企業向け(中小企業には適用が難しいこともある)
  • 収益還元法
    • 企業の年間利益(営業利益やEBITDA)に一定の倍率をかけて企業価値を計算
    • シンプルな計算で中小企業の評価にも向いている
  • 配当還元法
    • 株主に支払われる配当金の総額を基に評価
    • 非上場企業の事業承継時の株価算定によく使われる

‐事例:地方の飲食店の評価‐
例えば、地方のラーメン店がM&Aを検討しているとします。

年間利益(税引後利益):500万円
利益の5倍で評価すると、企業価値は2,500万円
このように、収益力を基準に企業価値を算定できます。

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチとは?
類似企業や業界の平均的な取引価格を基準にして企業価値を評価する方法です。

■メリット

  • 市場の相場を基に評価できる(現実的な価格になる)
  • 投資家や買い手が納得しやすい

■デメリット

  • 非上場企業では比較対象が少ない
  • 業界全体の市況に左右される

■ 主な評価手法

  • 類似会社比準法
    • 同業他社の売上や利益と比較して企業価値を算出
  • 類似業種比準法
    • 業界の平均的な指標(PER・PBRなど)を基に企業価値を算出
  • 市場株価法(主に上場企業向け)
    • 株式市場のデータを基に評価

‐事例:地方の製造業の評価‐
例えば、同じ地域の同業種の企業が「売上の1.5倍」で売却されていた場合、
A社の売上が1億円なら、企業価値は1.5億円と算定される可能性があります。

まとめ

企業価値の評価方法は、目的や状況によって異なります。

  • コスト・アプローチ→純資産を基準に評価
  • インカム・アプローチ→将来の利益を基準に評価
  • マーケット・アプローチ→市場の相場を基準に評価

自社に最適な方法を知りたい場合は、専門家に相談しましょう。

企業価値を決める要因

企業価値は、単に売上や利益だけで決まるものではなく、社会の動向や業界の成長性、企業の経営状態、財務の健全性 など、さまざまな要因が影響します。
特に中小企業の場合、景気の影響や事業承継の有無 などが重要なポイントとなります。

① 一般的要因(社会全般の動向)

企業の価値は、社会全体の動向によって大きく変動することがあります。

  • 景気が良いと売上や利益が伸びやすく、企業価値も上昇しやすくなり、逆に不景気では消費が落ち込み、企業の業績も悪化しやすくなります。
  • 補助金制度や税制改正の影響を受け、企業の収益構造が変わることがあります。
  • 金利が上昇すると借入コストが増え、企業の財務状況に影響を与える可能性があります。
  • 為替の変動や貿易摩擦が、仕入れコストや販売価格に影響を及ぼすことがあります。

中小企業では‐
特に 補助金や融資の条件 には注意が必要です。
地方の企業ほど 景気の影響を受けやすい 傾向があります。

② 業界要因(業界の特性や将来性)

同じ業績の企業であっても、業界全体の成長性によって企業価値は大きく変わります。

  • 成長している業界では企業価値が向上しやすい(例:AI、再生可能エネルギー分野)
  • 衰退している業界では企業価値が低下する可能性がある(例:紙の印刷業、ガソリン車関連産業)
  • 競争が激しい業界では価格競争が発生し、利益率が低下しやすい
  • 技術革新によって業界の構造が変わることがある(例:ガラケー市場の縮小とスマートフォン市場の拡大)

中小企業では‐
地域密着型の企業は、業界の変化にどのように対応するかが重要です。
競争が激化すると、価格を下げざるを得なくなることがあります。

③ 企業要因(会社の状態や経営のやり方)

企業の経営状態や将来性が、直接的に企業価値へ影響を与えます。

  • 売上や利益が安定している企業ほど、評価が高くなります。
  • 将来性のある事業を展開している企業は、企業価値が向上しやすいです。
  • ブランド力や顧客基盤が強い企業は、競争力が高まります。
  • 経営者の手腕も企業価値に影響を与える要素となります。

中小企業では‐
特に社長の存在が大きく、後継者がいない場合は企業価値が下がることがあります。
事業の柱が1つしかない場合、不況時に大きな影響を受ける可能性があります。

④ 株式要因(資本のバランスや市場の評価)

これは主に 『上場企業向け』の要素 ですが、中小企業においても 資本のバランス は重要です。

  • 上場企業では、株価が企業価値の指標となります。
  • 安定した配当を行う企業は、投資家からの評価が高くなります。
  • 借入が多すぎると財務リスクが高まり、企業価値が低下する可能性があります。

中小企業では‐
上場していない企業でも、財務の健全性が評価のポイントとなります。
借入が多い場合、金融機関からの信用が低下することがあります。

⑤ 目的要因(評価の目的による違い)

企業価値の評価は、目的によって異なる視点で算出されることがあります。

  • M&A(企業の買収・合併):成長性や他社との相乗効果(シナジー)が重視されます。
  • 事業承継(後継者への引き継ぎ):実態に即した企業価値の評価が求められます。
  • 資金調達(銀行や投資家向け):財務の健全性や安定したキャッシュフローが評価のポイントとなります。

中小企業では‐
事業承継の問題は企業価値に大きく影響します。
後継者が決まっていない企業は、将来性が不透明と見なされ、価値が下がることがあります。

まとめ

  • 景気や業界の動向に影響を受けやすいため、最新の情報を把握することが重要です。
  • 社長の存在が大きく、後継者が不在の場合、企業価値が低く評価されることがあります。
  • 財務の健全性が評価に直結し、借入が過剰な場合は企業価値が低下することがあります。
  • 成長する業界の企業は、将来的に企業価値が上がりやすい傾向があります。

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企業価値を高める5つの方法

企業価値を高めるためには、以下の5つのポイントが重要です。

  • 収益性を向上させる(利益を増やす)
  • 投資効率を高める(資金を有効に活用する)
  • 財務状況を見直す(健全な財務体制を構築する)
  • 従業員とのエンゲージメントを高める(組織力を強化する)
  • 無形資産を把握・活用する(ブランド・技術・ノウハウを活かす)

収益性を向上させる

利益を増やし、企業の安定した成長を実現するには、「売上を伸ばす」と「コストを削減する」の両方が不可欠です。
限られた資源の中で最大限の成果を上げる工夫が求められます。

■ 売上を伸ばす方法

  • 既存顧客との関係を深める(定期購入プラン・紹介制度を導入)
  • WebやSNSを活用した集客を強化する(広告コストを抑えつつ新規顧客を獲得)
  • 売れ筋商品の単価を上げる(付加価値をつけて価格を適正化)

■ コストを削減する方法

  • ITツールを活用し業務効率化を図る(会計ソフト・クラウドサービスの導入)
  • 仕入れルートを見直し、コストを最適化する(複数の業者を比較・交渉)
  • 固定費の削減(事務所の家賃交渉・電気代の見直し・不要なサブスク解約)

売上アップとコスト削減の両輪を回すことで、利益を最大化し、企業の成長を加速できます。

投資効率を高める(資金を有効に活用する)

限られた資金を効率的に運用することで、経営の安定を図り、持続的な成長を支えることができます。

■ 資金の流れを改善する

  • 売掛金の回収を早める(支払いサイトの短縮、電子決済の導入)
  • 在庫を適正管理し、資金の無駄を減らす(不要な在庫の処分、ジャストインタイムの導入)

■ 不要な資産を整理する

  • 遊休資産(使っていない土地・設備)を売却し、資金を活用
  • 利益を生まない事業を見直し、経営資源を集中する

手元資金の回転率を高めることで、安定した経営基盤を確立できます。

財務状況を見直す

財務の健全性を高めることで、企業の信用力が上がり、資金調達や事業拡大がしやすくなります。

■借入金の金利を見直す

既存の借入が高金利の場合、銀行に相談し、低金利の融資に借り換えることで、支払う利息を減らせます。
(例:年利5%の借入を3%に借り換えれば、利息負担が年間数百万円単位で削減されることもあります)

  • 無駄な借入を減らし、自己資本比率を向上させる
    自己資本比率(会社の総資産に対する自己資本の割合)は、50%以上 を目指すのが理想的です。
  • 資金繰りの安定化
    資金繰り表を作成し、毎月の収支を管理する
    会社のお金の流れを把握し、入金と支出のバランスをチェックする ことが重要です。
  • 固定費を削減し、利益を確保する
    固定費の削減(家賃交渉、サブスクリプション契約の見直し)不要な経費を見直す

■ 借入金の金利を見直す

  • 今の借入金の金利をチェックし、必要なら低金利の融資に借り換える
  • 信用保証協会や公的融資制度を活用し、金利負担を軽減

■ 資金繰りを安定させる

  • 資金繰り表を作成し、毎月のお金の流れを把握する
  • 補助金・助成金を活用し、少しでも手元資金を増やす

■ 固定費を削減する

  • 事務所の家賃を交渉する(空室が多いビルへ移転など家賃を下げる)
  • 無駄な経費をカット(使っていないサブスクや保険を見直す)

資金繰りを可視化し、経営の安定性を高めます。

従業員とのエンゲージメントを高める

■エンゲージメントとは:従業員が会社のビジョンや目標に共感し、主体的に働く意欲を持つ状態を指します

従業員とのエンゲージメントを強化することで、企業の生産性が向上し、企業価値の向上につながります。

■ エンゲージメント強化の方法

  • 働きやすい環境を整備する(フレックスタイム制・リモートワークの導入など)
  • 公正な評価制度を確立する(成果を適正に評価し、昇給やインセンティブに反映)
  • コミュニケーションを活発にする
  • キャリア支援を強化する(研修・資格取得支援など成長機会を提供する)

従業員のモチベーションが向上することで、生産性や定着率が高まり、企業全体の競争力が強化されます。

無形資産を把握・活用する

会社の価値は、売上や設備だけで決まるわけではありません。
「この会社ならではの強み」をしっかり活かすことで、他社と差別化し、競争力を高めることができます。

■ 無形資産の活用方法

  • ブランドを強化する(ロゴ・HP・SNSを統一し、企業の魅力を伝える)
  • ノウハウを蓄積し、共有する(業務マニュアルを作成し、誰でも同じ品質の仕事ができるようにする)
  • 特許や技術を活用する(他社にライセンス提供して収益化する)

無形資産「自社の強み」を活用することで、長期的な成長を支える強みを確立できます。

企業価値を向上する方法については「この街の事業承継」にご相談ください

企業価値は、経営者の長年の努力によって築かれた大切な財産です。

不動産や設備などの有形資産だけでなく、ノウハウや取引先との信頼関係、従業員の技術といった目に見えない価値も、企業にとって欠かせない要素です。
適正に評価されることで、融資が受けやすくなり、M&Aや事業承継の際にも有利に進めることができます。

しかし、財務の整理だけでは十分とはいえず、契約関係や経営権の安定も重要なポイントになります。
「この街の事業承継」では、弁護士・司法書士・社会保険労務士などの専門知識を活かし、企業価値の向上に向けた支援を行っています。
財務の健全化や資産管理の最適化だけでなく、株式や契約関係の整理、労務リスクの軽減など、多角的な視点からサポートいたします。

企業価値を向上させることは、経営者自身の財産を守ることでもあります。
まずは、お気軽にご相談ください。

西田 幸広 弁護士

この記事を監修した弁護士

西田 幸広 法律事務所Si-Law代表

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