事業承継にかかる消費税とは?課税されるケースや注意点、節税対策など

事業を後継者へ引き継ぐ際、消費税の取り扱いには注意が必要です。
一般的に、株式譲渡による事業承継では消費税は課税されませんが、事業譲渡や現物出資などの方法では、消費税が課税される場合があります。

本記事では、事業承継における消費税について、課税されるケースや注意点、節税対策をわかりやすく解説します。

事業承継にかかる消費税

事業承継の際に消費税の課税対象となるかは、過去2年間の課税売上高に基づいて判断されます。

  • 課税売上高が1,000万円以上の場合→原則として消費税が課税される

そのため、直近2年の課税売上高を確認し、消費税の対象となるか事前にチェックします。
また、事業承継の方法によって消費税の扱いが異なるため、以下の点も重要です。

  • 事業譲渡や現物出資による事業承継 → 消費税が課税されるケースがある
  • 株式譲渡による事業承継 → 消費税は課税されない

このように、事業承継の手法により消費税の取り扱いが異なるため、専門家に確認してから手続きを進めましょう。

消費税の課税資産

事業承継において、消費税が課税される資産と課税されない資産があるため、それぞれの資産を把握しておきましょう。

【課税資産】

  • 有形固定資産(※土地を除く)
    例:建物、車両、器具・備品、機械装置など
  • 無形固定資産(一部例外あり)
    例:漁業権、商標権など
  • のれん代
    例:ブランド力、技術力、ノウハウ、顧客リストなど
  • 棚卸資産
    例:原材料、商品在庫、仕掛品、製品など

【非課税資産】

  • 土地
  • 特許権
  • 有価証券
  • 債権

【実際の準備と行動ポイント】

  • 資産の洗い出し
    承継対象の資産について、課税・非課税の分類を確認しリスト化する
    事業承継を進める際は、どの資産が消費税課税対象となるか明確にしておく
  • 承継方法の選定
    株式譲渡と事業譲渡のどちらが適切か、消費税の観点も踏まえて検討する
    費税が課税される資産が多い場合、節税対策として株式譲渡も考慮する
  • 専門家への相談
    専門家に相談し、消費税負担が最小限になる方法をアドバイスしてもらう

事業承継における消費税対策は、事前準備と正確な資産分類がポイントです。

法人と個人事業主の納税義務者の違い

法人と個人事業主では、税金を納める責任が誰にあるかが異なります。
それぞれの違いをわかりやすく説明します。

法人の場合

法人は、会社そのものが一つの独立した存在としてみなされ、法人自体が税金を納める責任を持つ納税義務者となります。
社長が変わったとしても、会社の名前や法人格が変わらなければ、法人として税金を支払う義務は引き続き会社にあります。

経営者が交代しても税務手続きは基本的にそのままで、特別な変更手続きは必要ありません。

個人事業主の場合

個人事業主の場合、事業を行っている本人が直接税金を納める義務を持つ納税義務者です。
たとえば、親が事業を行っていて、その事業を子が引き継ぐと、税務上は親と子がそれぞれ別の納税者として扱われます。

親が事業をしている間は親が税金を納め、子が事業を引き継いだ後は、子が新しい納税義務者として税金を納める必要があります。

【注意点】
個人事業主では、事業を行う人が変わるたびに税務署への手続きが必要です。

事業承継の手法別における消費税の取扱い

事業承継には、贈与、相続、売買(M&A)の3つの方法があり、それぞれで異なる税金がかかります。
贈与や相続での承継では、消費税は原則発生しませんが、代わりに贈与税や相続税がかかることがあります。
一方、売買(M&A)による承継では、売り手側(現経営者)に消費税が課税され、買い手側は支払った消費税を控除できる仕組みです。

事業承継の方法ごとに税負担や手続きの違いについて詳しく解説します。

詳細はリンク先をご参照ください。

事業承継の方法とは?

生前贈与の場合

■生前贈与とは:

先代経営者が存命中に事業を後継者へ引き継ぐ方法です。この方法では、以下のような手続きと消費税の取り扱いが必要になります。

  • 事業の廃止と開始の手続き
    先代経営者が課税事業者である場合、税務署に「事業廃止届出書」を提出して事業の終了を報告します。
    後継者は、新たに事業を開始する手続きを行います。
  • 消費税の納税義務
    生前贈与により新しい事業主となった場合、後継者には開業後2年間は消費税の納税義務が原則発生しません。
    ただし、この期間中に課税売上高が1,000万円以上になると、その時点で消費税の納税義務が生じます。

■行動ポイント:

贈与後2年間は、売上高の管理に注意し、消費税の納税義務が発生するタイミングを把握しておきましょう。

相続の場合

■相続の事業承継とは:

経営者が亡くなった後に、後継者へ事業を引き継ぐ方法です。
相続による事業承継も、生前贈与と同じく「事業の廃止と開始」を行いますが、相続では先代経営者の売上実績を引き継ぐことが特徴です。

  • 先代の課税売上高の引き継ぎ
    相続による事業承継では、先代経営者の課税売上高が後継者に引き継がれます。
    具体的には、先代が経営していたときの売上と、後継者が事業を引き継いだ後の売上を合算して計算するため、引き継ぎ直後でも消費税がかかる可能性があります。
  • 相続人が複数いる場合の計算方法
    相続人が複数いる場合は、先代経営者の課税売上高を各相続人の事業承継割合に応じて按分して計算します。

■行動ポイント:

相続では先代の売上実績が影響するため、事前に相続後の消費税負担を確認しておくとスムーズです。

売買(M&A)の場合

■売買(M&A)による事業承継とは:

現経営者が事業を買い手に売却する方法です。
この方法では、消費税の取り扱いがやや複雑です。売買による事業承継では、売却する側の事業者(現経営者)に消費税が発生します。

  • 消費税の課税対象
    売却価格に対して消費税が課され、譲渡企業(売り手側)は、譲受企業(買い手側)に譲渡価格に消費税を加えて請求します。
    その際、課税資産(建物や設備など)と非課税資産(土地や株式など)を分けて、課税対象となる消費税を計算します。
  • 買い手側の仕入税額控除
    譲受企業(買い手側)は、支払った消費税を仕入税額控除として申告し、後に消費税の支払額から差し引くことができます。

■行動ポイント:

M&Aを検討する場合は、譲渡価格に消費税が含まれるかどうか、またその後の税務処理についても確認しておきましょう。

まずはお気軽にご連絡ください

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受付時間/AM8:30~PM5:30(土日・祝休)

事業承継の消費税に関する3つの注意点

事業承継では、消費税の取り扱いに注意が必要です。
ここでは、特に重要な3つのポイントについて、わかりやすく解説します。

棚卸資産額は変動する

棚卸資産と消費税:企業の売却時には、純資産やのれん代に基づいて譲渡価格が決まります。
この純資産には、商品や原材料などの棚卸資産も含まれ、消費税はその譲渡価格に対して発生します。

■注意点:

棚卸資産の額は日々変わりやすいため、譲渡のタイミングによって消費税額が大きく変わることがあります。
棚卸資産が多い場合、消費税の負担も高額になる可能性があるため、時期や方法を慎重に検討します。

■対策:

  • 譲渡の対象となる棚卸資産を調整する
  • 消費税負担を軽減するため、贈与や相続といったM&A以外の承継方法も検討する

のれん代次第で消費税が高額になることがある

のれん代とは:のれん代は、企業のブランド価値や収益力に対する評価額で、売買によって事業を引き継ぐ際に発生することがあります。
この、のれん代が譲渡価格に含まれることで、消費税額が高くなる場合があります。

■注意点:

のれん代が高額だと消費税の負担も大きくなるため、譲渡価格設定に配慮が必要です。

■対策:

  • 事業譲渡ではなく、会社分割や合併といった方法も検討する
  • 適正価格でのれん代を設定するため、評価方法を見直す

消費税課税事業者選択届出書を提出すべき場合がある

■消費税課税事業者選択届出書とは

売上が1,000万円以下の事業者は免税事業者となり、消費税を支払う義務がありません。
しかし、あえて課税事業者を選択することもでき、これにはメリットがあります。

■メリット

課税事業者を選択することで、仕入れや設備投資で支払った消費税を控除する「仕入税額控除」が可能となります。
消費税の還付を受けることができ、最終的に税負担を抑えることができます。特に、事業拡大のための設備投資が多い場合には有効な方法です。

■対策

支払った消費税が受け取る消費税を上回る場合、課税事業者選択届出書の提出を検討し、還付を受けられるかどうか確認する

消費税課税事業者選択届出書とは:

売上が1000万円以下の事業者は、免税事業者として消費税を払う義務がありませんが、自分から課税事業者になることを選択することも可能です。

事業承継における消費税の取り扱いはケースによって異なるため、専門家のアドバイスを受けて、自社の状況に最も合った方法を選ぶことが重要です。

事業承継の消費税を節税するためには?

事業承継をする際の消費税の負担を少しでも軽くするためには、「相続」よりも「生前贈与」を活用するのがポイントです。
これは大きく2つの理由があります。

  • 1つ目、生前贈与のほうが消費税の課税売上高を計算する際に有利になりやすい点
    相続では、現経営者がこれまでの事業で得た売上高も含めて計算されるため、消費税の負担が増えてしまうことがあります。
  • 2つ目の理由は、「事業承継税制」を活用できること
    この特例により、一定の条件を満たせば、後継者が事業用の資産を引き継ぐ際の贈与税や相続税が軽減され、納税の猶予や免除も可能になります。

こうした制度を上手に使うには、事前の計画が肝心です。専門家に相談しながら進めることで、安心して事業承継を行うことができます。

事業承継税制の要件は?

事業承継では消費税がかかる場合があります。ご不明な点は「この街の事業承継」へご相談ください。

事業承継の方法次第で、思わぬ税金の負担が生じることをご存知でしょうか。
例えば、相続で事業を引き継ぐ場合、現経営者の売上高が後継者にも合算されるため、消費税の負担が重くなることがあります。
また、生前贈与やM&Aなど、どの方法を取るかで税負担が変わります。

「この街の事業承継」では、ご事情をしっかり伺いながら、後継者の税負担をできるだけ抑え、円滑に事業を引き継ぐための方法をご提案いたします。
たとえば、「今のうちに贈与で事業資産を移し、将来の税金を軽くしたい」といったご相談にも対応いたします。

まずはお気軽にご相談ください。

西田 幸広 弁護士

この記事を監修した弁護士

西田 幸広 法律事務所Si-Law代表

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