事業譲渡を検討し始めたとき、多くの経営者の方がまず気にされるのは、「事業譲渡を進めるなかで従業員はどうなるのか」という点ではないでしょうか。
事業譲渡は事業承継の有力な選択肢のひとつですが、会社そのものではなく「事業」を引き継ぐ方法であるため、従業員の扱いをどう進めればよいのかと不安を感じる方も少なくありません。
「従業員の雇用は守られるのか」「説明や通知は、いつ・どのようにおこなえばよいのか」「退職金や勤続年数はどうなるのか」などの疑問を抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
そこで本記事では、事業譲渡で従業員はどうなるのか、説明や通知のタイミング・退職金・必要な書類まで、わかりやすく解説していきます。
ご自身も従業員の方も納得できる事業譲渡を進めるための、参考にしてください。

目次
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
弁護士・法律事務所Si-Law/(株)TORUTE代表・西田幸広 熊本県を中心に企業顧問70社、月間取扱160件以上(2025年8月時点)。登録3,600社・20超業種を支援し、M&A・事業承継を強みとする。弁護士・司法書士・社労士・土地家屋調査士の資格保有。YouTubeやメルマガで実務解説・監修/寄稿多数。LINE登録特典で「事業承継まるわかりマニュアル」提供。
事業譲渡とは?
事業譲渡とは、会社がおこなっている事業の全部または一部を、他の会社や個人に引き継ぐ方法のことです。
会社そのものを渡すのではなく、あくまで「事業」を対象とする点が特徴になります。
例えば、製造部門だけを譲渡したり、特定の店舗やサービス事業のみを引き継いだりすることもできます。
不要な資産や負債を切り離しやすく、状況に応じた柔軟な承継ができることから、事業承継の選択肢として検討されるケースも少なくありません。
ですが事業譲渡では、従業員との雇用関係が自動的に引き継がれる仕組みにはなっていません。
雇用契約は基本的に譲渡会社に残るため、従業員を引き継ぐ場合には個別の対応が必要になります。
この「人の扱い」こそが、事業譲渡を難しく感じさせる大きな要因と言えるでしょう。
だからこそ、仕組みを正しく理解し、順序立てて進めていくことが大切です。
事業譲渡で従業員はどうなる?
事業譲渡をおこなう場合、「従業員はどうなるのか」という疑問を持たれるかもしれませんが、選択肢はひとつではありません。
具体的には、以下のような方法があります。
- 譲受会社へ転籍する
- 譲渡会社に残る
- 従業員が退職を選ぶ
- 出向や段階的に引き継ぐ形になる
- 従業員の役割や体制を見直す
どの選択肢が適切かは、譲受会社の方針だけで決まるものではありません。
従業員一人ひとりの事情や考え方、そして経営者がどのように説明し、準備を進めてきたかによっても変わってきます。
ここからは、それぞれの選択肢ごとの特徴やメリット・デメリットを解説していきます。
譲受会社へ転籍する
まず比較的多く見られるのが、従業員の譲受会社への転籍です。
これは、元の会社との雇用関係を終了し、引継ぎ先の会社と新たに雇用契約を結んでそのまま働き続ける形になります。
事業を引き継ぐ側にとって、業務内容や現場をよく知る人材は欠かせない存在であり、従業員を含めて事業を丸ごと受け継ぐ前提で話が進むことも少なくありません。
ただし、事業譲渡では雇用契約が自動的に移るわけではないので、従業員本人の同意が必要になります。
新しい会社の条件や働き方に納得できなければ、「転籍を希望しない」という判断がなされることもあるでしょう。
そのため、譲受会社での雇用条件やこれからの働き方について、できるだけ具体的に整理した状態で説明することが大切です。
「この先、どのような環境で働くことになるのか」を具体的にイメージできることで、従業員も判断しやすくなります。
譲受会社へ転籍するメリット
譲受会社へ転籍する大きなメリットは、事業の流れを大きく変えずに引き継ぎやすい点です。
従業員が引き続き業務を担うことで、取引先や顧客との関係が保たれやすく、事業の安定につながります。
例えば、長年付き合いのある仕入先の担当者が同じまま残ることで、発注条件や納期の調整がスムーズに進むといった場面もよく見られます。
従業員にとっても、仕事内容や職場の人間関係が大きく変わらないケースが多く、慣れた業務を続けられるという安心感を得られるはずです。
急に別部署へ異動させられたり、まったく新しい業務を任されるような事態が起きにくいという点も、心理的には大きな支えになります。
また、生活の見通しを立てやすい点も、メリットだと言えるでしょう。
経営者としても、長年一緒に働いてきた従業員の雇用を次につなげられたという意味で、精神的な負担が軽くなるのではないかと考えます。
譲受会社へ転籍するデメリット
一方で譲受会社へ転籍するデメリットとして、給与・役職・評価制度などの条件が変わる可能性があります。
これらの条件が十分に整理されないまま話を進めてしまうと、従業員の不安や不信感にもつながりかねません。
例えば、「同じ仕事なのに評価基準だけ厳しくなった」「残業の扱いが変わった」と感じる人が出てくると、現場の雰囲気が悪化しやすくなります。
また、すべての従業員が転籍に同意するとは限らないため、想定していた人数を譲受会社へ引き継ぐことができなくなるケースもあります。
特に、家庭の事情や将来設計によって、判断が分かれることもあるでしょう。
例として、介護を要する家族を抱えている従業員が通勤先の変更を受け入れられない、あるいは定年を間近に控えた人が環境変化を望まない、といった理由で不同意となることも現実には起こります。
転籍を前提に計画を立てるのではなく、同意が得られなかった場合の対応もあらかじめ考えておくことが重要です。
譲渡会社に残る
事業譲渡をおこなっても、譲渡会社が別の事業を続ける場合、従業員もそのまま譲渡会社に残って働き続ける形も考えられます。
例えば、一部の事業だけを譲渡し、残った事業を継続する場合などが典型的です。
転籍を望まない従業員にとっては、環境を大きく変えずに済むため、気持ちの負担が比較的少ないでしょう。
ただし、事業譲渡によって会社の規模が小さくなると、仕事量と人員のバランスが崩れることがあります。
「残る=安心」とは限らないため、譲渡後にどの事業を続け、どのような体制で回していくのかをできるだけ具体的に示しておくことが大切になるでしょう。
譲渡会社に残るメリット
譲渡会社に残るメリットは、慣れ親しんだ職場で働き続けられる点です。
勤務地や生活リズムが大きく変わらず、人間関係も維持しやすいため、精神的な負担が比較的軽くなります。
毎日の通勤ルート・取引先との関係・社内の相談相手などが変わらないことは、思っている以上に心の安定につながります。
特に家庭の事情などで転籍が難しい従業員にとっては、現実的な選択肢になりやすいでしょう。
他にも、介護や育児を抱えている人にとって、勤務地が変わらないこと自体が大きな安心材料になるケースも少なくありません。
経営者側にとっても、急いで雇用条件を変更したり手続きを整え直したりする必要が少ないことから、初動の対応を進めやすいというメリットがあります。
譲渡会社に残るデメリット
譲渡会社に残るデメリットとしては、事業譲渡によって会社の売上や事業規模が小さくなると、将来の雇用が不安定になる可能性があることが挙げられます。
例えば、主力事業を譲渡したあとに残った部門だけでは仕事量が十分に確保できず、残業が減る一方で昇給機会も乏しくなる、といった状況が生じることがあります。
こうした変化は、従業員の将来不安を強めやすいものです。
また、残る従業員の役割が曖昧なままだと、「結局、自分は何をすればいいのか」が見えず、不満や不安が膨らむこともあるでしょう。
最悪の場合、じわじわと従業員の退職が続き、残った事業の継続が難しくなることも考えられます。
従業員が残留を選んだ場合には、譲渡後の事業方針や体制、仕事量の見通しなどを丁寧に伝えておくとよいでしょう。
将来像を共有しておくことで、従業員も腰を据えて働きやすくなります。
従業員が退職を選ぶ
事業譲渡では、すべての従業員が転籍や残留を選ぶとは限りません。
譲受会社の条件に納得できない場合や、将来への不安が拭えない場合には、従業員自身が退職を選ぶこともあります。
これは決して珍しいことではなく、現実的に起こりうる選択肢のひとつと言えるでしょう。
ただ、経営者としては、「申し訳ない」「自分の判断で迷惑をかけてしまったのではないか」と感じてしまう場面かもしれません。
ですが、転籍はあくまで本人の意思によるものであり、無理に引き留めることが必ずしも正解とは限りません。
大切なのは、退職という選択肢があることを前提に、条件や手続きの整理をしておくことです。
そのうえで、事情を丁寧に説明し、誠実に向き合うようにしましょう。
退職するメリット
従業員が退職する場合、雇用関係を明確に整理できる点はひとつのメリットです。
転籍条件を巡る調整や、そのあとの行き違いを避けやすくなるため、実務面では対応がシンプルになることもあります。
例えば、「給与水準をどこまで引き継ぐか」「役職をどう扱うか」といった細かな交渉を重ねずに済むケースも考えられます。
従業員にとっても、新しい職場を自由に選べるため、自身の希望やライフプランに合った道を探しやすくなるでしょう。
経営者としても、無理に条件を合わせ続けるより、互いに納得した形で区切りをつけられる場合もあります。
特に、条件面で折り合いがつきにくいケースでは、退職という選択が双方にとって現実的な解決策になるかもしれません。
円満退職として整理できれば、「事業譲渡の影響で辞めざるを得なかった」という印象を残さずに済む可能性も高まり、関係も悪化しにくくなるはずです。
退職するデメリット
一方で、退職にはデメリットもあります。
長年会社を支えてきた従業員や事業に欠かせないキーマンが退職する場合、引き継ぎが難しくなり、譲受会社からの評価に影響することも考えられます。
具体的には、特定の顧客との関係をひとりが担っていた場合、その人が抜けることで取引が縮小する可能性もあります。
また、経営者自身の心理的な負担も小さくありません。
「ほかに方法があったのではないか」「あの人を守れなかったのではないか」と、あとになって考え込んでしまうこともあるでしょう。
特に信頼関係の深い社員であるほど、その想いが強く残りやすいものです。
さらに、退職金や有給休暇の扱いなど金銭面の整理が不十分だと、後々のトラブルにつながるおそれもあります。
支給額や支払い時期が曖昧なままだと、「話が違う」といった紛争に発展するケースも現実に起こりえるのです。
出向など段階的に引き継ぐ形になる
事業譲渡では、従業員がいきなり譲受会社へ移るのではなく、一定期間「出向」という形で段階的に引き継ぐこともあります。
出向とは、元の会社に在籍したまま、他の会社で業務に従事することを指します。
業務の引き継ぎや、取引先・現場との関係を大切にしたい場合に、選ばれることが多い進め方です。
段階的に引き継ぐことで、譲受会社は事業内容を理解する時間を確保でき、従業員も新しい環境に少しずつ慣れていくことができます。
特に、専門性の高い業務や引き継ぎに時間がかかる事業では、有効な選択肢になるでしょう。
ただし、出向はあくまで一時的な措置です。
目的や期間を曖昧にしたまま進めると、従業員にも譲受会社にも不安が残るため、あらかじめ「何のための出向か」「最終的にどうなるのか」を整理しておくようにしましょう。
出向など段階的に引き継ぐメリット
出向など段階的な引き継ぎの大きなメリットは、事業の移行を落ち着いて進めやすい点です。
従業員が転籍前に一定期間関与することで、仕事の進め方や判断のコツを、譲受会社へ直接引き継ぎやすくなります。
例えば、「この取引先にはどこまで踏み込んで提案してよいか」「この設備はどのタイミングで点検すべきか」といった、マニュアルに書ききれない現場感覚を対話しながら共有できます。
その結果、「この仕事はあの人に聞かないとわからない」という状態を少しずつ解消でき、業務が一部の人に集中する状態を防ぐことが可能です。
譲受会社にとっては、現場を理解しながら引き継ぎを進められるため、安心して事業を受け取れるでしょう。
さらに従業員側も、急激な環境変化を避けられることで、気持ちの整理がしやすくなります。
経営者としても、事業がきちんと引き継がれていく過程を見届けられる点は大きな安心材料となり、次の判断もしやすくなるでしょう。
出向など段階的に引き継ぐデメリット
出向など段階的に引き継ぐ形には、デメリットもあります。
出向の際に、「誰の指示に従えばよいのか」「評価はどこがおこなうのか」といった点がはっきりしていないと、従業員は判断に迷い、現場で混乱が生じやすくなります。
譲渡会社と譲受会社の上司から異なる指示が出ると、どちらを優先すべきなのか、といった仕事の優先順位がわからなくなることもあるでしょう。
また、出向期間が長引くと、「いつまでこの状態が続くのだろうか」という不安が広がりやすくなり、仕事に集中しづらくなる場合も考えられます。
こうした事態を避けるためには、出向の目的・期間・最終的にどの会社に所属するのかを整理したうえで必要に応じて書面にまとめ、関係者全員が同じ理解を持てるようにしておくと安心です。
従業員の役割や体制を見直す
事業譲渡を機に、従業員の役割や組織体制を見直すケースもあります。
譲渡後は会社の規模や事業内容が変わることが多く、これまでと同じ人員配置のままでは回りにくくなる場合があるためです。
経営としては、必要な仕事に人をきちんと当て直し、無理のない体制に整えることが求められます。
ただし、体制の見直しは従業員にとって不安を招きやすい点にも注意が必要です。
「次は自分が対象になるのではないか」と感じる人が増えると、職場の雰囲気が悪くなり、連鎖的に退職者が出てしまうこともあります。
そのため、見直しをおこなう場合は、目的や理由を丁寧に伝え、今後の見通しをできるだけ具体的に示すようにしましょう。
従業員の役割や体制を見直すメリット
従業員の役割や体制を見直した場合、仕事の重なりや無駄が減り、会社全体を動かしやすくなるメリットがあります。
事業譲渡のあとに経営を安定させるには、限られた人員で無理なく回せる仕組みを整えることが重要です。
効率化はそのための現実的な手段と言えるでしょう。
また、担当範囲をはっきりさせることで「誰が何をするのか」が明確になり、残る従業員も働きやすくなる場合があります。
例えば、営業は誰が窓口なのか、設備管理は誰が責任者なのかを整理するだけでも、現場の動きはずいぶんスムーズになるはずです。
役割が曖昧な状態が続くと、責任の押し付け合いが起きやすくなるため、体制を整える意義は小さくありません。
従業員の役割や体制を見直すデメリット
一方で、説明が不足したまま役割や体制を見直すと、不信感や反発を招きやすくなるというデメリットがあります。
特に、配置転換や労働条件の変更が絡む場合には、従業員の受け止め方によって大きな摩擦が生じることもあるでしょう。
伝え方を誤ると、「話が違う」「聞いていない」といった不満にもつながりかねません。
また、解雇や条件変更をともなう場合は、法律面のリスクも高まります。
だからこそ、経営者だけで判断を抱え込まず、社労士や弁護士など専門家の意見も踏まえながら、手順と根拠を整理して進めていくのがおすすめです。
株式譲渡の場合は従業員はどうなる?
株式譲渡の場合、従業員はどうなるのかというと、雇用契約は原則としてそのまま引き継がれます。
株式譲渡では、会社の株主が変わるだけで会社そのものは存続し、事業譲渡のようにひとりずつ転籍の同意を得る必要もありません。
従業員対応の負担が比較的少ない点は、株式譲渡の大きな特徴と言えるでしょう。
「雇用を守りたい」という経営者の想いを形にしやすい方法でもあるのです。
一方で、事業譲渡とは異なり、会社全体が譲渡対象となるため、不要な資産や負債まで引き継がれる可能性があります。
従業員の雇用は維持しやすいものの、経営リスクも一体となって移る点には注意しておくとよいでしょう。
事業承継の株式譲渡の方法については、以下の記事で解説しています。
関連記事:事業承継の株式譲渡の方法は?メリットや手続き方法・税金の特例制度についても解説!
会社分割の場合は従業員はどうなる?
会社分割の場合に従業員はどうなるのかというと、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)」の仕組みに基づき、事業とともに雇用もまとめて引き継がれます。
事業譲渡とは異なり、雇用の移転が制度として予定されている点が特徴です。
ただし、従業員に何も伝えずに進めてよいわけではありません。
事前の説明や意見の聴取が求められており、形式的に進めると不信感や反発を招くおそれがあります。
仕組みが整っているぶん「あえて説明しなくてもよいのではないか」と考えてしまいがちですが、丁寧な説明は欠かせません。
どの事業に移り、どのような働き方になるのかを具体的に伝えておくと、従業員も安心して判断できるでしょう。
以下の記事で、会社分割における「承継会社」とは何かを解説していますので、こちらも参考にしてください。
関連記事:承継会社とは?分割会社との違いや手続き方法・メリットとデメリットもわかりやすく解説!
上記と比較すると、事業譲渡は「雇用が自動的に移らない」点が大きな違いだと言えます。
株式譲渡や会社分割に比べて、従業員一人ひとりへの説明や同意が必要になるため、経営者の対応力がより問われるでしょう。
実際にどのように進めていくか迷う場合は、ぜひ一度TORUTE株式会社にご相談ください。

事業譲渡は従業員への通知や同意が必要?
「事業譲渡は従業員への通知や同意が必要なのか」は、多くの経営者が最初に悩むポイントではないかと考えます。
事業譲渡では雇用契約が自動的に引き継がれる仕組みではないため、従業員への説明や同意が必要であり、重要な意味を持ちます。
特に、従業員が譲受会社へ転籍する場合には、本人の同意が欠かせません。
一方で、早い段階で伝えすぎると不確定な情報が広がり、職場に不安や混乱を招くことも考えられるでしょう。
そのため、事業譲渡の通知や同意は「いつ・何を・どこまで伝えるか」を整理したうえで進めるのがおすすめです。
準備をしっかりと整え、丁寧に向き合う姿勢が、信頼関係を守る第一歩になります。
従業員への説明や通知のタイミングは?
従業員への説明や通知のタイミングは、譲受会社との条件がある程度固まった段階がひとつの目安です。
まだ何も決まっていない状態で伝えてしまうと、噂や誤解が先行し、場合によっては職場の雰囲気が悪くなる可能性が考えられます。
一方で、直前になって突然知らせるのも望ましくありません。
「もっと早く知りたかった」という不満が生まれ、経営者への信頼に影響することもあるでしょう。
目安としては、事業譲渡の方向性と従業員への影響を具体的に説明できる状態になった時点で、できるだけ早めに伝えることが大切です。
すでに決定している事実とまだ確定していない事項を分けて説明しておくと、従業員の安心感につながります。
事業譲渡を従業員が拒否した場合はどうなる?
事業譲渡を従業員が拒否した場合はどうなるのだろうかと不安に感じる経営者も多いのではないでしょうか。
事業譲渡は会社の判断で進められる手続きですが、従業員はその契約の当事者ではありません。
そのため、「事業譲渡そのものに不安がある」「新しい会社には移りたくない」「働き方が変わるなら納得できない」といった形で、従業員が事業譲渡に否定的な姿勢を示すことも現実には起こります。
このような場面で経営者がまず気にかけるのは、「拒否された従業員をどう扱えばよいのか」という点だと思います。
ただし、従業員が事業譲渡に反対したからといって、直ちに解雇できるわけではありません。
実際には、「拒否されたらそのまま押し通す」よりも、次のような選択肢をその従業員とともに検討するのが一般的だと言えます。
- 譲渡会社に残って働き続ける
- 本人の意思で退職を選ぶ
- 一定期間の出向や段階的移行とする
経営者としては心苦しい場面かもしれませんが、無理に説得しようとすると、かえって関係が悪化することもあります。
あらかじめ「従業員が事業譲渡に同意しない場合の対応」を想定しておくことで、どのような反応があっても冷静に判断しやすくなるでしょう。
事業譲渡による退職は会社都合になる?

事業譲渡による退職が会社都合になるのかは、一律に決まるものではなく、退職に至った経緯によって扱いが分かれます。
例えば、譲受会社への転籍先が用意された状態で、従業員本人の判断で退職を選んだ場合は、「自己都合退職」とされるのが一般的です。
一方で、実質的に雇用を継続する選択肢がなく、やむを得ず退職に至った場合には、「会社都合」と判断されることもあります。
判断を誤ると、失業給付やトラブルの原因になりかねません。
そうならないためにも、個別の状況を丁寧に整理し、必要に応じて専門家に相談しておくと安心でしょう。
事業譲渡の場合、勤続年数はリセットされる?
事業譲渡にともない一度退職し、譲受会社で再雇用される場合、法律上は新しい雇用契約となるため、原則として勤続年数はリセットされます。
ただし実際には、譲受会社が配慮し、勤続年数を引き継ぐ扱いとするケースもあります。
こうすることで、従業員の安心感を高め、スムーズな引き継ぎにつながるためです。
勤続年数の扱いは退職金や有給休暇の日数にも影響するため、あらかじめ譲受会社と取り扱い方針を確認し、従業員にも説明しておくようにしましょう。
事業譲渡による従業員の退職金はどのくらい?
事業譲渡による従業員の退職金はどのくらい支払う必要があるのかも、経営者が悩みやすいポイントです。
退職金の有無や金額は、就業規則や退職金規程の内容に基づいて判断されます。
事業譲渡だからといって、必ずしも退職金を支払わなければならないわけではありません。
それでも、従業員の不安や感情に配慮し、一定の退職金を支給するケースは少なくないと言えるでしょう。
長年会社を支えてくれた従業員に対し、区切りとして退職金を用意することで、円滑な事業譲渡につながりやすくなります。
金額や支給条件は、後々の誤解を防ぐためにも書面で整理しておくのがおすすめです。

事業譲渡における従業員対応の注意点
事業譲渡における従業員対応の注意点として、まず心に留めておきたいのは、「人の問題を軽く扱わない」という姿勢です。
条件や価格の交渉に集中するあまり説明が後回しになると、「自分たちの扱いが決まらないまま話だけが進んでいる」と感じた従業員の不信感が広がり、交渉自体が停滞してしまうことがあります。
実際に、キーマンとなっていた社員が不安を理由に先に退職を決めてしまい、譲渡価値が下がったという事例も珍しくありません。
次に大切なのが、情報の伝え方と順序です。
ここまでにも触れたとおり、公式発表より先に噂が広がると、現場は一気にざわつきます。
例えば、取引先から先に話を聞いた従業員が動揺し、社内の雰囲気が悪化したというケースです。
「誰に・いつ・何を伝えるのか」をあらかじめ整理し、段取りよく進めるようにしましょう。
さらに忘れてはならないのが、従業員の気持ちへの配慮です。
書類や手続きだけを整えても、「自分の将来はどうなるのか」という不安が残ったままだと、あとからトラブルに発展することもあります。
実務面だけでなく、気持ちの面にも配慮しながら進めることが、事業譲渡をスムーズに進めるための重要なポイントです。
事業譲渡を成功させるための従業員対応の進め方とは

事業譲渡を成功させるための従業員対応の進め方は、条件や金額だけで決まるものではありません。
従業員は、事業譲渡の契約当事者ではありませんが、長年会社を支えてきた大切な存在です。
その対応次第で、引き継ぎが円滑に進むこともあれば想定外のトラブルに発展することもあるため、感覚や場当たり的な判断に頼らず、一定の考え方と順序をもって進めることが重要になります。
具体的には、次のような点を意識するとよいでしょう。
- 従業員対応を後回しにしない
- 従業員ごとに想定ケースを整理する
- 譲受会社と人の扱いを事前にすり合わせる
- 伝えるタイミングと内容を慎重に設計する
- 同意しない場合の対応も想定しておく
それぞれのポイントについて、順番に解説します。
従業員対応を後回しにしない
先にも触れたとおり、事業譲渡を考え始めると、どうしても条件・価格・譲受会社との交渉に意識が向きやすくなります。
これは、経営者として自然なことだと言えるでしょう。
ですが、従業員対応を後回しにしないことは、事業譲渡を進めるにあたってとても重要になります。
「まだ決まっていないから」と説明を控えたくなる気持ちも理解できますが、噂や憶測が広がると不安や不信感が生まれ、意図しない退職につながることも考えられるのです。
従業員対応は最後にまとめておこなうものではなく、検討と並行して考えておくテーマだととらえておくとよいでしょう。
従業員ごとに想定ケースを整理する
事業譲渡に対し、従業員の受け止め方は、一人ひとり異なります。
同じ説明をしても、前向きに受け止める人もいれば、不安を強く感じる人もいるでしょう。
そのため全員を一律に扱うのではなく、役職・専門性・年齢・家庭状況などを踏まえて、従業員ごとに想定ケースを整理しておくと安心です。
特に長年会社を支えてきたキーマンについては、どの選択肢を取っても事業が回るよう準備しておくことで、経営者としての不安も軽減されます。
譲受会社と人の扱いを事前にすり合わせる
従業員対応を進める際には、譲受会社と人の扱いを事前にすり合わせておくことも大切です。
どの従業員を引き継ぐのか、雇用条件をどうするのかなどが曖昧なままでは、従業員に説明しようとしても具体的な話ができません。
譲受会社との合意が不十分な状態で説明すると、あとから話が変わってしまった場合に、従業員の信頼を損ねるおそれがあります。
すべての条件が決まっていなくても、「どのような考え方で人を扱うのか」という方向性は共有しておくとよいでしょう。
人の問題は条件交渉の付随事項ではありませんので、意識しながら早めに話し合い、共通認識を持っておくことが大切です。
伝えるタイミングと内容を慎重に設計する
先にもご紹介しましたが、従業員への説明は「何を伝えるか」と同じくらい「いつ伝えるか」が重要になります。
早すぎれば不安を与え、遅すぎれば不信感を招くため、判断に迷う場面も多いでしょうが、伝えるタイミングと内容を慎重に検討するようにしましょう。
説明する際には、確定している事実とまだ決まっていない事項を、分けて伝えるのがおすすめです。
わからないことを無理に断定してすべてを話そうとせず、「現時点ではここまで」と正直に伝えることが、結果として信頼関係につながります。
同意しない場合の対応も想定しておく
事業譲渡では、すべての従業員が転籍に同意してくれるとは限りません。
先にも述べたとおり、拒否される可能性があることを前提に考えておく必要があります。
残留・退職・出向など、同意しない場合の対応も想定しておくと、感情的な判断を避けやすくなるでしょう。
無理に説得しようとすると、かえって関係がこじれることもあります。
「同意しないこと」もひとつの選択だと受け止める姿勢を持つことで、経営者としても冷静に対応しやすくなるはずです。
従業員対応は、感情やタイミングに左右されやすいデリケートな部分ですので、第三者の視点も大切になります。
もし進め方に迷う場合は、ひとりで抱え込まず、TORUTE株式会社にご相談ください。

事業譲渡での従業員対応で必要な書類は?
事業譲渡での従業員対応では、あとから「聞いていない」「認識が違う」といったトラブルを防ぐために、書面で整理しておくことが大切です。
口頭の説明に加えて書類を用意しておくことで、経営者自身の判断を守るだけでなく、従業員に安心感を持ってもらう効果も期待できます。
会社の規模や従業員の状況によっても異なりますが、事業譲渡での従業員対応で必要な書類は、主に次の3つに分類できます。
- 従業員への説明・通知に関する書類
- 転籍・出向など雇用に関する書類
- 退職・残留となる場合の書類
それぞれについて、解説します。
従業員への説明・通知に関する書類
事業譲渡の初期段階で必要になるのが、従業員への説明・通知に関する書類です。
口頭だけで説明すると伝わり方に差が出やすいため、簡単でも次の内容をまとめた説明資料や通知文を用意するとよいでしょう。
- 事業譲渡を検討している理由
- 想定しているスケジュール
- 転籍・残留・退職など、従業員への影響の可能性
書面があれば、従業員があとから見返すことができ、不安や誤解を減らすことができます。
説明の場では、この資料をもとに対話する姿勢を意識すると、落ち着いて話し合うことができるはずです。
転籍・出向など雇用に関する書類
従業員が譲受会社へ転籍・出向などになる場合は、雇用に関する書類が必要になります。
代表的なものは、次のとおりです。
- 転籍同意書
- 給与・勤務地・役職などの雇用条件通知書
- 出向期間・指揮命令系統などの出向契約書
これらの書類では、給与・勤務時間・役割・出向期間など、具体的に条件を記載しておくことが大切になります。
口約束のまま進めるとトラブルにつながりかねませんので、条件を文書化することで従業員も判断しやすく、納得できるようになるでしょう。
退職・残留となる場合の書類
転籍せずに退職する場合や譲渡会社に残る場合にも、退職・残留に関する書類を整えておく必要があります。
まず退職の場合は、次の書類を用意しておくと安心です。
- 退職届
- 退職金・有給休暇の扱いなど退職条件に関する合意書
特に退職金や未消化の有給休暇は、あとから認識の違いが生じやすい部分です。
金額や支給時期を含めて書面で整理しておくと、感情的な対立を防ぎやすくなるでしょう。
また残留する従業員についても、今後の役割や雇用条件を確認する書面を用意しておくと、安心感につながります。
書類については法律的に必須ではなくとも、丁寧に対応しておくことで関係者全員が安心でき、スムーズに話を進めていくことができます。
信頼にもつながる部分ですので、不安に感じる場合は、ぜひ一度TORUTE株式会社にご相談いただけますと幸いです。

まとめ
事業譲渡で従業員はどうなるのかという問題は、制度や仕組みだけで割り切れるものではありません。
そこには、長年一緒に働いてきた人たちとの関係や、経営者自身の想いも深く関わってくるでしょう。
だからこそ、事業譲渡を検討する際には、従業員の行き先や選択肢を早めに整理し、説明・同意の進め方・退職金・書類の扱いまで含めて準備しておくことが大切です。
準備を重ねることで、「これなら従業員にも説明できる」「自分も納得できる」と感じられる状態に近付きます。
ひとりで抱え込まず、必要に応じて専門家の力を借りながら、後悔のない事業譲渡を進めていきましょう。
その積み重ねが、会社人生を穏やかに次へつなげる一歩になります。
まずはお気軽にご連絡ください
受付時間/AM8:30~PM5:30(土日・祝休)
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