事業譲渡における従業員への影響|退職金の扱いや注意点などを詳しく解説

事業譲渡は、事業承継の一つの方法です。

本記事では、事業を譲渡する際、従業員の雇用はどうなるのか、労働契約や労働条件は、譲渡先の会社に引き継がれるのかなど、事業譲渡によって働く方がどのように変化するのか、基本的な流れや注意点についてわかりやすく説明します。

事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を、他の会社に引き継ぐことです。

事業譲渡が行われると、基本的に従業員の方は譲渡先の会社で働き続けることができます。
ただし、そのためには一定の手続きが必要となります。

「事業承継」とは、会社の事業を後継者に引き継ぐことを指しますが、詳しくは以下のリンク先をご覧ください。

【中小企業経営者必見】事業承継とは?

事業譲渡における従業員の処遇

事業譲渡によって、従業員の方の雇用はどのような影響を受けるのか、以下に詳しく解説します。

従業員の労働契約

事業譲渡が行われても、従業員の労働契約が自動的に引き継がれるわけではありません。
譲受企業と改めて雇用契約を結ぶ必要があります。

労働契約を承継するには、次の3つの同意が必要です。

  • 譲渡会社(譲渡元の会社)の同意
  • 譲受会社(譲渡先の会社)の同意
  • 労働者本人の同意

特に大切なのは、労働者本人の同意を得ることです。従業員に事業譲渡の内容を丁寧に説明し、理解を得ることが求められます。
労働者の同意なく、労働契約を承継することはできません。

契約承継型と再雇用型

従業員の労働契約の承継には、主に次の2つの方法があります。

  • 契約承継型:労働契約をそのまま譲受企業に引き継ぐ方法
  • 再雇用型:譲受企業と従業員の間で、新たに雇用契約を結び直す方法

契約承継型の場合、労働条件は原則としてそのまま引き継がれます。一方、再雇用型の場合は、譲受企業との間で新たな労働条件を取り決めることになります。
※ただし、再雇用型の場合でも、従業員本人の同意が必要です。
譲受企業の提示する労働条件に納得してもらった上で、雇用契約を結ぶことが大切です。

転籍同意書の締結

転籍同意書とは

転籍同意書は、事業譲渡によって従業員が新しい会社に移る際に、本人の同意を確認するための大切な書類です。

この書類には、通常、以下のような内容が書かれます。

  • 「新しい会社に異動することに同意します」という従業員本人の意思表示
  • いつから新しい会社で働き始めるのか(転籍の日付)
  • 新しい会社の名前、住所、代表者の名前など
  • 新しい会社でのお給料や働く時間、休暇などの労働条件
  • 新しい会社での仕事内容や役職など

転籍同意書にサインをすることで、従業員は新しい会社に移ることを受け入れ、労働条件などについて納得したことを示します。
転籍同意書を交わすことで、従業員と会社がお互いに同意した内容が明確になります。

これは、トラブルを防ぐためにも重要です。

従業員の労働条件

事業譲渡後の従業員の労働条件は、通常、そのまま引き継がれることが多いですが、一定期間経過後に新しい会社と従業員の間で、労働条件について話し合いが行われること場合もあります。
もし労働条件の引き下げを行う場合は、従業員の同意が必要です。

新しい会社が労働条件を変更するときは、次のようなことに注意します。

  • 労働条件を変えるには、従業員の同意が絶対に必要
  • 新しい会社は、前の会社の労働条件をしっかり確認して、できるだけ同じように引き継ぐよう努力すること
  • 労働条件を下げるときは、慎重に対応すること。従業員の理解と協力を得ながら、丁寧に進めることが大切

従業員の立場に立って考えることが何より大切です。

まとめ

会社が変わっても、従業員の雇用や労働条件がしっかり守られるよう、従業員と会社が協力し合うことが何より重要です。
新しい会社は、前の会社の労働条件を引き継ぐよう努力し、もし労働条件を下げるなら、従業員の理解と協力を得ながら、丁寧に進めることが大切です。

事業譲渡の際の労働条件の引き継ぎと注意点

労働条件はどのように引き継がれるのか、以下に詳しく解説します。

給与・待遇

従業員の離職を防ぐためにも、給与や待遇はそのまま引き継がれるのが一般的です。
転籍後の契約内容を提示した上で、従業員から転籍の同意を取りつけることが大切です。

一定期間後に、能力に応じて改めて雇用条件を話し合うこともできます。給与・待遇の変更には、必ず働く人の同意が必要です。
新しい会社は、前の会社の給与・待遇を把握し、引き継ぐように努力します。

有給休暇

転籍までに使い切れなかった有給休暇は、新しい会社に引き継がれます。前の会社が未使用分を買い取ることもあります。転籍後の有給休暇は、新しい会社のルールに従います。

有給休暇の引継ぎについては、事前に従業員に説明し、理解を得ることが大切です。
新しい会社は、働く人が有給休暇をとれるように保障する責任があります。

未払い賃金

譲渡前に払われていない給料は、前の会社が払う義務があります。未払い賃金を引き継ぐ場合その分、事業譲渡の値段が下がります。

未払い賃金の扱いについては、前の会社と新しい会社の間ではっきり決めておく必要があります。未払い賃金がある場合、速やかに支払われるよう、両社が協力して対応することが求められます。

事業譲渡すると従業員の退職金はどうなる?

事業譲渡が行われると、従業員の退職金はどのように扱われるのでしょうか。
退職金の扱いは、以下の2通りが可能です。

転籍前に退職金を精算する

前の会社が、転籍前に働く人の退職金を計算して払います。この場合、退職所得として税金がかかります。
税金の控除額は、働いた年数によって変わるので注意が必要です。

退職金を新しい会社へ引き継ぐ

退職金を新しい会社へ引き継ぐ場合、働く人の勤続年数も引き継がれます。
将来、新しい会社を辞めるとき、引き継いだ分も含めて退職金が計算されます。
引継ぎのときは、退職金の規則を働く人に説明して、同意を得ることが大切です。

退職金の扱いについては、従業員の利益を最優先に考え、丁寧に説明し、同意を得ることが重要です。また、税務上の取り扱いにも注意が必要です。

働く人が不安にならないよう、前の会社と新しい会社が協力し、適切に対応することが求められます。

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従業員から転籍を拒否された場合の対応

■働く人は、会社が変わることを断ることができる

前の会社に残るか、辞めるかを選択します。

前の会社に残る場合

  • 出向や配置転換などが考えられます。

辞める場合

  • 自主的に辞めることができます。
  • 会社都合で辞めさせられる(整理解雇)こともあります。

前の会社は、転籍を断ったことだけを理由に、働く人を解雇することはできません。

■転籍に同意しない場合

前の会社に残るか、辞めるかを選ぶことになります。

前の会社に残る場合

  • 働く場所や仕事内容が変わることがあります。

辞める場合

  • 自分から辞めることができます。
  • 会社の都合で辞めさせられることがあります。

ただし、転籍を断ったことだけを理由に、前の会社が働く人を解雇することは認められていません。

事業譲渡のタイミングで解雇(リストラ)は可能か?

会社が変わるタイミングで、働く人を解雇(リストラ)できるかどうかは、慎重に判断する必要があります。
人員を調整するには、以下のような方法が考えられます。

  • 退職勧奨:会社が働く人に辞めてもらうよう説得すること
  • 早期退職:定年前に、特別な条件で辞めてもらうこと
  • 希望退職:働く人の希望を募って、辞めてもらうこと
  • 整理解雇:会社の都合で、働く人を解雇すること

会社が変わるタイミングで人員削減をすることは可能ですが、慎重に行う必要があります。
自主的に辞めてもらう方法もありますが、会社の都合で解雇する場合は、法律に従って適切に丁寧に行わなければなりません。

一部の従業員だけを引き継ぐ場合の注意点

■人員削減を目的に、形だけの事業譲渡を行う場合

労働基準法に定められた整理解雇の条件を満たす必要があります。

■整理解雇とは:会社の都合で働く人を解雇すること

整理解雇が認められるには、次の4つの条件を満たす必要があります。

  • 人員削減の必要性があること
  • 解雇を回避するための努力をしたこと
  • 解雇対象者の選定が合理的であること
  • 解雇手続きが適正であること

これらの条件を満たさずに、形だけの事業譲渡で人員削減を行うと、違法な解雇となるおそれがあります。

■特定の働く人を排除するために事業譲渡を行う場合

働く人から不当な取引だと訴えられ、事業譲渡自体が無効になるおそれがあります。
特定の人を不当に排除するために事業譲渡を行うことは、権利の乱用に当たります。働く人は、裁判所に事業譲渡の無効を訴えることができます。

裁判所が不当な目的での事業譲渡だと判断した場合、事業譲渡自体が無効になります。事業譲渡を行う際は、公正かつ合理的な理由に基づいて行うことが大切です。

■一部の働く人だけを新しい会社に引き継ぐ場合は注意が必要

人員削減目的の形だけの事業譲渡は、法律違反のおそれがあります。
特定の人の排除目的の事業譲渡は、無効になることもあります。

働く人の権利を守ることが何より大切です。
事業譲渡を行う際は、働く人への影響を十分に考え、適切な手続きを踏むことが求められます。

事業譲渡で従業員とのトラブルを防ぐためのポイント

事業譲渡を行う際は、従業員とのトラブルを防ぐために、以下のようなポイントに注意しましょう。

適切なタイミングで事業譲渡のことを伝える

従業員が動揺しないように、適切な時期に事業譲渡の計画を知らせることが大切です。

従業員の立場に立って、丁寧な説明や対応をする

従業員の不安や疑問に耳を傾け、分かりやすく丁寧に説明することが重要です。従業員の意見や希望も聞き、できる限り配慮することが求められます。

従業員にとってのメリットを伝える

事業譲渡によって、待遇が良くなったり、キャリアアップのチャンスが広がったりするなどのメリットを伝えることで、前向きに受け止めてもらいやすくなります。

従業員の理解と協力を得ながら、円滑に事業譲渡を進めることが何より大切です。

事業譲渡による従業員の扱いについては「この街の事業承継」にご相談ください

事業譲渡を行う際、従業員の扱いについては細心の注意が必要です。
適切に対応しないと、従業員の不満や離職につながり、結果として事業譲渡の失敗になることがあるからです。

事業譲渡の際の従業員とのトラブルが不安……。
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「この街の事業承継」には、事業譲渡における従業員の扱いについて、法律や実務に精通した弁護士が在籍しています。

最適な事業承継の方法をご提案し、お客様と従業員の双方にとって、最良の解決策を一緒に見つけていきます。

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西田 幸広 弁護士

この記事を監修した弁護士

西田 幸広 法律事務所Si-Law代表

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