事業承継信託とは?メリット・デメリットや方法をわかりやすく解説
事業承継信託は、経営者の死亡や認知症などに備えて株式を信託することで、「もしも」の事態に対する事業承継対策として注目されています。
これにより、社長の生前の意思を尊重しながら、スムーズに後継者への引継ぎが可能になります。
本記事では、事業承継信託の特徴やメリット・デメリットについて、わかりやすく解説します。
目次
事業承継信託とは
事業承継信託とは、会社の株式などの資産を信託銀行に預けて管理してもらい、事業承継をスムーズに進めるための仕組みです。
信託には3者が関わります。
- 【委託者】現経営者で、資産を信託銀行に預ける人
- 【受託者】信託銀行など、預かった資産を管理・運用する人
- 【受益者】信託された資産から利益を受ける人(後継者など)
信託には、営利目的の商事信託と、家族間の資産承継などに使われる民事信託(家族信託)の2種類があります。
事業承継信託は商事信託の一種で、経営者の認知症対策としても活用できます。
事業承継信託の種類
事業承継信託には、以下の3つのパターンがあります。
- 遺言代用信託(遺言代用型信託) :遺言書の代わりになる信託
- 他益信託 :社長以外の人を受益者に指定する信託
- 後継ぎ遺贈型受益者連続信託 :社長と後継者が順番に受益者になる信託
それぞれの特徴を詳しく解説します。
遺言代用信託
■遺言代用信託
株式を信託銀行に預けておき、社長が亡くなった後に後継者に株式を引き継ぐ仕組みです。
- 社長が自社の株式を信託銀行に預ける(信託する)
- 社長が亡くなった後、信託銀行から後継者へ株式が引き継がれる
- 遺言書がなくても、社長の意思通りに株式を引き継げる
この仕組みのメリットは、社長の死亡後に遺言書の手続きをせずに、すぐに後継者が株式や財産を受け取れることです。
また、遺言の内容が明確になるため、相続をめぐるトラブルを防げます。
他益信託
■他益信託
社長が受益者を後継者に指定して株式を信託し、信託期間中は株式の配当を受け取れる仕組みです。
- 社長が自社株式を信託銀行に預け、後継者を受益者に指定する
- 信託期間中、社長は信託銀行から配当を受け取ることができる
- 信託期間が終われば、後継者が株式を引き継ぐ
この仕組みのメリットは、社長が生きている間に株式を信託することで、事業の引継ぎがスムーズに行えることです。
また、信託期間中に配当を受け取れるため、経済的なメリットも得られます。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託
■後継ぎ遺贈型受益者連続信託
社長と後継者が順番に受益者となり、最後は後継者が株式を引き継ぐ仕組みです。
- 社長が自社株式を信託銀行に預ける
- 第一受益者に指定された社長が、信託銀行から配当を受け取る
- 社長が亡くなった後は、第二受益者の後継者が配当を受け取る
- 信託期間が終わったら、後継者が株式を引き継ぐ
この仕組みのメリットは、社長が生きている間に信託を活用することで、後継者への引継ぎがスムーズに行えることです。
また、信託期間中に配当を受け取れるため、経済的なメリットも得られ、後継者も安心して事業を引き継ぐことができます。
事業承継信託のメリット
事業承継信託には、以下のようなメリットがあります。
- 経営者の希望に沿った事業承継ができる
- 後継者争いを避けることができる
- 経営の空白期間がない
- 節税が期待できる
それぞれ詳しく解説します。
経営者の希望に沿った事業承継ができる
事業承継信託は、柔軟性が高く、信託契約の内容を自由に決められます。
例えば、「後継者が一定の年齢に達するまでは株式を引き継がない」といった条件を設定することができます。
これにより、経営者の希望に沿った事業承継が可能になります。
後継者争いを避けることができる
事業承継信託では、経営者が後継者を指名できます。
株式の承継先をあらかじめ決めておくことで、経営者の亡き後に後継者争いを避けることができます。
これにより、家族間のトラブルを防ぎ、円滑な事業承継が可能です。
経営の空白期間がない
事業承継信託では、経営者が亡くなった直後から信託銀行が株式を管理します。
このため、経営の空白期間を作らずに済み、業務の継続性が保たれます。
これにより、従業員や取引先の不安を軽減し、会社の安定経営につながります。
節税が期待できる
事業承継信託では、通常の相続による事業承継と異なり、後継者が相続税や贈与税を負担する必要がありません。
ただし、信託財産が相続財産とみなされる場合には相続税がかかります。
節税効果が期待できるため、みなし相続の可能性についても含め、専門家に相談して確認することが大切です。
(■みなし相続とは:実際の相続ではないが、相続税法上、相続財産とみなされる財産を指します)
事業承継信託のデメリット
事業承継信託は、スムーズな事業承継を可能にする魅力的な制度ですが、デメリットも理解しておく必要があります。
経営者の死亡が前提の事業承継となる
事業承継信託は、経営者が亡くなった後の事業承継を想定した制度です。
生前に事業を引き継ぎたいと考えている場合には適していません。
経営者が元気なうちに事業承継を進めたい経営者は、他の方法を検討する必要があります。
遺留分減殺請求をされる可能性がある
■遺留分減殺請求とは
相続人が最低限相続するべき分(遺留分)を主張し、信託財産の返還を求める制度です。
経営者の子供が複数いる場合、事業承継信託を通じて特定の子供に株式を集中させると、他の子供から遺留分減殺請求を受ける可能性があります。
ただし、信託を使った場合の遺留分減殺請求への対応方針はまだ明確ではありません。(将来的にどのような判例が出るかは注視が必要です。)
遺留分減殺請求については、専門家の助言を受けましょう。
信託制度について周囲の理解が得にくい
事業承継信託は比較的新しい制度であり、まだ馴染みが薄い状況です。
会社の株主や取引先、従業員の方など、事業の引継ぎに直接関わる関係者に対して、この制度の詳細を十分に理解してもらうためには、時間と丁寧なコミュニケーションが必要です。
信託を活用した事業承継のメリットや仕組みについて、具体的な事例を交えながらわかりやすく説明し、理解と協力を得ることが大切です。
契約内容によってはトラブルになりやすい
事業承継信託の契約は通常長期間にわたります。
10年や20年といった期間が一般的ですが、この間には関係者の意向が変わったり、予期しない出来事が発生するリスクがあります。
例えば、「後継者が特定の条件を満たせば株式を引き継ぐ」という契約が、後継者が条件を満たせない場合などが挙げられます。
信託契約の内容次第では、トラブルの引き金になりかねないので、契約の際には弁護士や税理士などの専門家とよく相談し、慎重に決めることが重要です。
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事業承継信託を行う3つの方法
事業承継信託を実行するには、以下の3つの方法があります。
- 事業承継信託の契約を締結する
- 遺言書に事業承継信託について記載する
- 自己信託で宣言をする
それぞれの方法について、詳しく解説します。
事業承継信託の契約を締結する
事業承継信託の契約は、経営者と信託銀行との間で結ばれます。
この契約では、
- 信託する株式の内容
- 後継者の指定
- 信託期間
- 収益の受け取り方
などが詳細に定められます。
契約の効力は、契約締結時から発生します。
(ただし、信託財産の移転時期は契約内容によって異なるので注意が必要です)
例えば、経営者が亡くなった時に財産を移転する契約なら、その時まで契約の効力は発生しません。
■ポイント
信託契約を結ぶ際には、弁護士や税理士などの専門家に相談し、内容を慎重に吟味することが重要です。
一度契約を結んだ後は、変更が容易ではないため、長期的な視点で検討しましょう。
遺言書に事業承継信託について記載する
遺言書で事業承継信託を指示する場合は、遺言書に
- 信託銀行の名称
- 信託する株式の内容
- 後継者の指定
などを記載します。
遺言の効力は、経営者が亡くなった時点で発生します。遺言執行者が指定されていれば、その人が遺言内容を実行に移します。
ただし、遺言書の内容が信託銀行に伝わるタイミングが経営者の死後になるため、信託の準備に時間がかかる可能性があります。
また、遺言書の内容次第では、遺留分減殺請求を受けるリスクもあります。
■ポイント
遺言を活用する場合は、信託銀行と事前に相談し、スムーズに遺言内容を実行できる体制を整えておくことが大切です。
遺言の内容次第で、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクがあるので、慎重に慎重に検討しましょう。
遺言書に事業承継信託について記載する
遺言書で事業承継信託を指示する場合は、遺言書に
- 信託銀行の名称
- 信託する株式の内容
- 後継者の指定
などを記載します。
遺言の効力は、経営者が亡くなった時点で発生します。遺言執行者が指定されていれば、その人が遺言内容を実行に移します。
ただし、遺言書の内容が信託銀行に伝わるタイミングが経営者の死後になるため、信託の準備に時間がかかる可能性があります。
また、遺言書の内容次第では、遺留分減殺請求を受けるリスクもあります。
■ポイント
遺言を活用する場合は、信託銀行と事前に相談し、スムーズに遺言内容を実行できる体制を整えておくことが大切です。
遺言の内容次第で、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクがあるので、慎重に慎重に検討しましょう。
自己信託で宣言をする
■自己信託とは
経営者が自分自身を受託者として、自分の財産を信託する方法です。
事業承継に自己信託を使う場合、経営者が自社の株式を信託財産として宣言します。
自己信託の効力は、宣言した時から発生します。
信託銀行を介さないので、手続きで費用を抑えられるのが魅力です。
ただし、自己信託で信託宣言した後に経営者が亡くなった場合、信託財産は相続財産に含まれてしまうので注意が必要です。信託財産に相続税がかかり、節税効果が限定的になる可能性があります。
また、自己信託では信託の専門家ではない経営者が受託者となるため、信託財産の適切な管理が難しいかもしれません。
■ポイント
自己信託を検討する際は、メリットとデメリットをよく比べて検討し、専門家のアドバイスを聞くのが賢明だと言えます。
自己信託は、信託の知識がない経営者にとって、運用面でのリスクが高いと言えます。十分な準備と覚悟が必要な選択肢だと言えるでしょう。
事業承継信託の実行方法には、それぞれ長所と短所があります。
自社の状況に合わせて、最適な方法を選ぶことが大切です。
事業承継信託を行う際のポイント
周囲の理解を得る
信託を理解してもらうためには、基本的な仕組みと役割を簡単に伝えます。
信託のメリットとして、税務優遇や資産保全などを説明し、リスクや対策についても率直に話しましょう。
必要に応じて弁護士や税理士の助言を得ることを勧め、質問に丁寧に答えることも重要です。
丁寧な説明と専門家の助言を通じて、信託の理解と協力を得ることがとても大切です。
遺留分に配慮する
遺留分は相続人が最低限受け取れる相続財産の割合ですが、事業承継信託での扱いは法的に不明確な部分があります。
円滑に進めるには、信託以外の財産を他の相続人に十分残すことが大切です。
(株式以外の面で優遇するなど、バランスに配慮することも有効です)
専門家に相談し、時間をかけて丁寧にすすめ、みんなが納得できる解決策を探りましょう。
事業承継税制の特例は利用できない点に注意!
■事業承継税制
経営者から後継者への自社株式の承継に係る贈与税・相続税の負担を軽減する制度です。
一定の要件を満たせば、納税が猶予されるなどの特例が適用されます。
しかし、自社株式を信託して事業承継を行う場合、この事業承継税制の特例は受けられません。
信託を利用すると、税制優遇が適用されず、通常の贈与税・相続税が課されるため、事業承継信託では、税負担が重くなる可能性があるのです。
信託の活用を検討する際は、税務面のデメリットにも注意が必要です。
専門家にしっかり相談し、信託以外の選択肢も比較検討しながら、自社に最適な事業承継の方法を見極めることが重要です。
(※2023年4月現在の制度に基づいて解説しています。今後、法改正等により変更の可能性もあります。最新の情報は専門家に確認しましょう)
事業承継信託をお考えならばこの街の事業承継にご相談ください
事業承継信託は、円滑な事業承継を実現する有効な選択肢の一つです。
ただし、手続きの複雑さや税務上の注意点など、いくつかのデメリットもあります。
専門的な知識が求められるため、自力で進めるのは難しいと感じる方も多いでしょう。
当事務所では、まず「信託」についてわかりやすく説明し、事業計画の策定から信託の設計、税務対策、関係者への説明まで、丁寧にサポートいたします。
安心して事業承継をすすめるための最適な方法を一緒に見つけていきましょう。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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