事業承継・引継ぎ補助金とは?内容や申請方法などをわかりやすく解説
「事業承継・引継ぎ補助金」は、中小企業及び個人事業主が円滑に事業を次の世代に引き継ぐための国の制度です。
この制度は、事業承継に関するさまざまな取り組みを支援し、次世代へのスムーズな引き継ぎを促進することを目的としています。
本記事では、補助金の種類、支給額、申請方法など、制度の全体像をわかりやすく解説します。
目次
事業承継・引継ぎ補助金とは
事業承継・引継ぎ補助金の主な目的は、後継者不足や経営難に直面している中小企業の存続と発展を支援することです。
この制度では、事業承継計画の策定費用、M&A関連の専門家相談費用、新規事業に必要な設備投資などを補助します。
対象は中小企業に加え、個人事業主も含まれ、幅広い事業者が利用可能です。補助率は事業の種類によって1/2から2/3で、補助上限額は最大800万円です。
この制度は、2021年度から始まった比較的新しい支援策で、「中小企業の事業承継・引継ぎ支援総合支援プログラム」の一環として実施されています。
中小企業庁の調査によれば、約6割の中小企業が後継者未定であり、今後10年間で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとされています。
〇補助金の対象となる取り組みの例
- 事業承継に向けた経営改善や事業転換
- 後継者教育や人材採用
- 事業承継時の株式買取資金
- M&A仲介業者への手数料
- 事業承継後の新商品開発や販路開拓
この制度は地域経済の維持や雇用確保にも寄与することが期待されており、国の重要な経済政策の一つです。
事業承継・引継ぎ補助金の3つの対象事業
事業承継・引継ぎ補助金は、取組内容や経費の種類に応じて以下の3つの事業に分類されます。
経営革新事業 | 専門家活用事業 | 廃業・再チャレンジ事業 | |
---|---|---|---|
対象者 | 事業承継やM&Aを機に、経営革新にチャレンジする事業者 | 補助事業期間に経営資源を譲り渡す、または譲り受ける者 | 既存事業を廃業して新しい事業にチャレンジする事業者 |
補助率 | 1/2~2/3 | 1/2~2/3 | 1/2~2/3 |
補助上限 | 600~800万円 | 600万円 | 150万円 |
主な対象経費 | 設備費、人件費、広告宣伝費など | M&A仲介費用、FA費用、デューデリジェンス費用など | 廃業費用(原状回復費、在庫処分費など)、新事業準備費用 |
事業の特徴 | 承継後の新たな取り組みを支援 | M&Aや事業承継時の専門家費用を支援 | 廃業に伴う費用や新事業の立ち上げを支援 |
経営革新事業 | 専門家活用事業 | 廃業・再チャレンジ事業 | |
---|---|---|---|
対象者 | 事業承継やM&Aを機に、経営革新にチャレンジする事業者 | 補助事業期間に経営資源を譲り渡す、または譲り受ける者 | 既存事業を廃業して新しい事業にチャレンジする事業者 |
補助率 | 1/2~2/3 | 1/2~2/3 | 1/2~2/3 |
補助上限 | 600~800万円 | 600万円 | 150万円 |
主な対象経費 | 設備費、人件費、広告宣伝費など | M&A仲介費用、FA費用、デューデリジェンス費用など | 廃業費用(原状回復費、在庫処分費など)、新事業準備費用 |
事業の特徴 | 承継後の新たな取り組みを支援 | M&Aや事業承継時の専門家費用を支援 | 廃業に伴う費用や新事業の立ち上げを支援 |
経営革新事業
対象者 | 事業承継やM&Aを機に、経営革新にチャレンジする事業者 |
---|---|
補助率 | 1/2~2/3 |
補助上限 | 600~800万円 |
主な対象経費 | 設備費、人件費、広告宣伝費など |
事業の特徴 | 承継後の新たな取り組みを支援 |
専門家活用事業
対象者 | 補助事業期間に経営資源を譲り渡す、または譲り受ける者 |
---|---|
補助率 | 1/2~2/3 |
補助上限 | 600万円 |
主な対象経費 | 設備費、人件費、広告宣伝費など M&A仲介費用、FA費用、デューデリジェンス費用など |
事業の特徴 | M&Aや事業承継時の専門家費用を支援 |
廃業・再チャレンジ事業
対象者 | 既存事業を廃業して新しい事業にチャレンジする事業者 |
---|---|
補助率 | 1/2~2/3 |
補助上限 | 150万円 |
主な対象経費 | 廃業費用(原状回復費、在庫処分費など)、新事業準備費用 |
事業の特徴 | 廃業に伴う費用や新事業の立ち上げを支援 |
この補助金制度は、中小企業の円滑な事業承継と新たな挑戦を後押しし、地域経済の活性化を目指しています。
以下に詳しく解説します。
経営革新事業
経営革新事業は、事業承継やM&Aを契機に新たな取り組みを行う事業者を支援する制度です。「承継後の取り組み」にかかる費用が補助対象となり、対象者によって3つの型に分かれます。
補助対象 | 補助率 | 補助上限 | |
---|---|---|---|
創業支援型 | 経営資源を引継ぎ創業した者 | 2/3 | 800万円 |
経営者交代型 | 経営資源を承継した者 (親族内承継実施予定者を含む) |
2/3 | 800万円 |
M&A型 | M&Aにより経営資源を取得した者 | 1/2 | 600万円 |
補助対象 | 補助率 | 補助上限 | |
---|---|---|---|
創業支援型 | 経営資源を引継ぎ創業した者 | 2/3 | 800万円 |
経営者交代型 | 経営資源を承継した者 (親族内承継実施予定者を含む) |
2/3 | 800万円 |
M&A型 | M&Aにより経営資源を取得した者 | 1/2 | 600万円 |
補助対象
創業支援型 | 経営資源を引継ぎ創業した者 |
---|---|
経営者交代型 | 経営資源を承継した者 (親族内承継実施予定者を含む) |
M&A型 | M&Aにより経営資源を取得した者 |
補助率
創業支援型 | 2/3 |
---|---|
経営者交代型 | 2/3 |
M&A型 | 1/2 |
補助上限
創業支援型 | 800万円 |
---|---|
経営者交代型 | 800万円 |
M&A型 | 600万円 |
経営革新事業は、事業承継が行われた後に新たな挑戦をサポートし、中小企業の持続的な成長と競争力の向上を目指します。
具体的には、新しい商品を開発したり、新しい市場に進出したり、生産性を向上させるための設備投資を支援します。
これにより、引き継がれた事業の価値を高め、地域経済に良い影響を与えることが期待されます。
さらに、若い経営者が持つ斬新なアイデアを実現するための機会も提供します。これにより、産業が新しく生まれ変わり、地域全体の経済の活性化が進むことを目指しています。
専門家活用事業
専門家活用事業は、M&Aや事業承継の際に必要な専門家の活用を支援する事業です。
「M&A時」等にかかわる費用を補助対象とし、仲介業者の手数料やFAの費用、企業価値算定やデューデリジェンスの費用などが含まれます。
対象者によって2つの型に分かれます。
買い手支援類型 | 売り手支援類型 | |
---|---|---|
補助対象 | M&Aで他者から事業を引き継ぐ事業者 | 事業を譲渡する予定の事業者 |
補助率 | 1/2 | 2/3 |
補助上限 | 600万円 | 600万円 |
買い手支援類型 | 売り手支援類型 | |
---|---|---|
補助対象 | M&Aで他者から事業を引き継ぐ事業者 | 事業を譲渡する予定の事業者 |
補助率 | 1/2 | 2/3 |
補助上限 | 600万円 | 600万円 |
買い手支援類型
補助対象 | M&Aで他者から事業を引き継ぐ事業者 |
---|---|
補助率 | 1/2 |
補助上限 | 600万円 |
売り手支援類型
補助対象 | 事業を譲渡する予定の事業者 |
---|---|
補助率 | 2/3 |
補助上限 | 600万円 |
専門家活用事業は、M&Aや事業承継の進行を専門家の支援を通じて財政的にサポートします。
(この支援には、弁護士などの法律の専門家も含まれます)
具体的には、企業の価値評価、法律・財務のチェック、事業承継計画の策定などが対象です。
専門家の支援を受けることで、事業承継やM&Aの成功率が向上し、リスクを軽減することができます。
中小企業の事業承継やM&Aの成功率を高め、地域経済の安定と発展を目的としています。
廃業・再チャレンジ事業
廃業・再チャレンジ事業は、事業承継の際に既存事業を廃業する必要がある場合や、新たに挑戦する事業者を支援する制度です。
具体的には、補助対象となるのは次の2つの型です。
併用申請型 | 再チャレンジ申請型 | |
---|---|---|
補助対象 | 経営革新事業・専門家活用事業と併用申請する事業者 | 廃業後に新たな事業にチャレンジする事業者 |
補助率 | 2/3 | 2/3 |
補助上限 | 150万円 | 150万円 |
併用申請型 | 再チャレンジ申請型 | |
---|---|---|
補助対象 | 経営革新事業・専門家活用事業と併用申請する事業者 | 廃業後に新たな事業にチャレンジする事業者 |
補助率 | 2月3日 | 2月3日 |
補助上限 | 150万円 | 150万円 |
併用申請型
補助対象 | 経営革新事業・専門家活用事業と併用申請する事業者 |
---|---|
補助率 | 2/3 |
補助上限 | 150万円 |
再チャレンジ申請型
補助対象 | 廃業後に新たな事業にチャレンジする事業者 |
---|---|
補助率 | 2/3 |
補助上限 | 150万円 |
廃業・再チャレンジ事業は、事業承継の過程で既存の事業を廃業する必要がある場合や、廃業後に新しい事業に挑戦する事業者を支援します。
具体的には、建物の解体費や在庫の処分費、借入金の返済などが支援対象となります。
この支援により、事業の整理がスムーズに進み、新たな挑戦がしやすくなります。地域経済の活性化を促進し、事業者の再チャレンジを後押しします。
また、経営者が失敗を恐れずに新しいことに挑戦できる環境を整えることで、日本の起業家精神を育てる役割も果たしています。
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事業承継・引継ぎ補助金の申請方法・流れ
申請方法と流れについて、詳細に説明します。
-
アカウント登録(jGrants)
jGrantsという電子申請システムにアカウントを登録します。(これは、補助金申請をオンラインで行うために必要です)
jGrantsの公式ウェブサイトにアクセスし、指示に従って登録手続きを完了させてください。 -
申請書類の作成と提出
必要な書類を用意し、申請書を作成します。具体的には、事業計画書、必要な証明書類、経費明細などが含まれます。
作成した申請書類は、jGrantsを通じてオンラインで提出します。書類の不備や記入漏れがないように確認してください。 -
審査・採択
提出された申請書類は、審査員によって評価されます。審査内容には、事業の実現可能性や計画の妥当性が含まれます。
採択結果は、jGrantsや登録されたメールアドレスで通知されます。 -
交付申請・交付決定
採択された場合、正式に補助金の交付申請を行います。この申請では、補助金の額や交付条件が確定します。
交付決定の通知を受け取ることで、補助金の支払い準備が整います。 -
事業実施
補助金が交付決定後、事業を実施します。計画に基づいて、必要な活動を進めてください。 -
実績報告書の提出
事業完了後、実績報告書を作成し、jGrantsを通じて提出します。報告書には、事業の成果や支出の詳細が含まれます。 -
確定検査
実績報告書の提出後、確定検査が行われます。これは、書面検査および必要に応じて現地調査が含まれます。
書面検査では、提出した書類の内容が正しいか確認され、現地調査では実際の事業の状況が確認されることがあります。 -
補助金の請求
確定検査が終了し、問題がなければ、補助金の請求手続きを行います。請求書を作成し、必要な書類とともに提出します。 -
補助金の交付(支払)
補助金の請求が承認されると、指定の口座に補助金が支払われます。これで、全ての申請手続きが完了します。
この流れに従って、確実に申請と事業実施を進めてください。
事業承継・引継ぎ補助金の採択率はどのくらい?
事業承継・引継ぎ補助金の採択率は、年度や事業類型によって変動します。
直近の傾向としては、全体平均が約50~60%となっています。
事業類型別では、経営革新事業が約60~70%と比較的高く、専門家活用事業が約40~50%とやや低めです。
廃業・再チャレンジ事業は約30~60%と変動が大きい傾向にあります。
不採択となる主な理由には、申請要件を満たしていないこと、事業計画の具体性や実現可能性が低いこと、補助金の必要性が明確でないこと、計画が補助事業の趣旨と合致していないことなどがあります。
審査で加点を受けるポイント
必須条件ではないものの、加点を受ける可能性があるもの、ポイントについて、表でまとめて解説をお願いします。
経営革新事業 |
|
専門家活用事業 |
【売り手支援型のみ】
|
廃業・再チャレンジ事業 |
|
事業承継・引継ぎ補助金の審査では、特定のポイントが評価の対象となる可能性があります。
ポイントは必須の条件ではありませんが、申請時に該当する項目があれば、審査において有利に働くことがあります。
特に重要なのは、各事業区分で過去に補助金の交付決定を受けていないことです。
これは、新たな取り組みを奨励するための措置と考えられます。
また、経営革新事業では経常利益が黒字であることが期待され、専門家活用事業では経営力向上計画の承認が求められることがあります。これらは事業の健全性や成長性を示す要素として重視されています。
申請の際には、これらのポイントに該当するかどうかを確認し、必要な証明書類を準備することが重要です。
事業承継・引継ぎ補助金のご不明点は「この街の事業承継」へご相談ください
事業承継・引継ぎ補助金は、多くの中小企業にとって事業の継続と発展を支えるとても重要な制度です。
一見すると複雑に感じられるかもしれませんが、その仕組みを理解すれば、多くの方がそれほど難しくないと感じられることが多いです。
「この街の事業承継」では、皆様のお悩みに寄り添い、丁寧にサポートさせていただきます。
私西田幸広は、弁護士、司法書士、社会保険労務士の資格を有しており、事務所には行政書士も在籍しています。
補助金の仕組みや申請方法に不安をお持ちの方も、ご安心ください。
多角的な視点から一緒に考え、最適な方法を見つけていきます。
どうぞお気軽にご相談ください。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
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