法人の事業承継の手続きの場合、どこから着手し、誰に何を届け出るのかなど、最初の一歩で迷いやすいポイントがいくつもあります。
必要書類・税金・補助金などの情報は多い一方で、自社に当てはめると「何を・いつ・誰がやるのか」を具体的な計画に落とし込めないことも多いのではないでしょうか。
実務では、株式や出資持分の移転・代表者交代の登記・税務の異動届・雇用や社会保険・許認可の承継・金融機関や取引先への周知などを、抜け漏れなく段取りすることが重要になります。
そこで本記事では、法人の事業承継の流れの手順や、必要書類・税金などの費用、活用できる補助金までをわかりやすく解説していきます。

目次
事業承継の手続きで法人の場合の流れは?
法人の事業承継は、以下のような手順で進めると混乱が少なくなります。
- 1.現在の経営状況の分析と課題の把握
- 2.後継者の選定や育成
- 3.事業承継計画の策定
- 4.親族や従業員など関係者への周知
- 5.株式や出資持分の承継
- 6.経営権の承継手続き
- 7.事業承継後の取り組み
M&Aによる第三者承継では、デューデリジェンスや契約、公正証書、PMI(統合作業)まで工程が増えるため、早い段階から専門家の伴走を確保しておくと、税務・法務の判断がぶれません。
ここからはそれぞれの工程について、詳しく解説します。
現在の経営状況の分析と課題の把握
はじめに、現在の経営状況の分析と課題の把握をする必要があります。
まずは以下のような内容を棚卸しします。
- BS(貸借対照表)・PL(損益計算書)・CF(キャッシュフロー計算書)の過去3〜5年分
- 主要KPI(重要業績評価指標)
- 取引先構成
- 借入・担保・保証
- 許認可・知財・契約関係
- キーマン依存度 など
ここで重要なのは、「経営者が変わっても揺るがない、強靭な事業基盤を持つ会社」へと作り替える視点です。
例えば、社長個人保証の軽減、社内規程や決裁権限の文書化、属人業務の手順書化、赤字部門の精査と撤退方針などです。
課題が見えたら、承継前改善計画として「いつ・誰が・何をやるか」を四半期ごとに落とし込みます。
M&Aを視野に入れる場合は、ノンコア資産の整理や在庫評価の適正化など、買い手目線での磨き上げをおこない、判断していく必要もあるでしょう。
企業診断の第一歩として、国や自治体の事業承継診断や専門家への相談がおすすめです。
専門家の視点が入ることで、見落としがちな課題を発見するきっかけになります。

後継者の選定や育成
後継者の選定や育成は何よりも重要です。
後継者として親族内・役員・従業員・第三者のいずれを選ぶかで、求められる資質も育成期間も異なります。
候補者の経営観・価値観・リーダーシップに加え、財務・人事・営業・生産などの業務理解度、地域・主要取引先との関係性を見える化してください。
社内承継では、OJTローテーションや決裁権限の段階移譲、社外研修・メンター導入が有効です。
第三者承継(M&A)の場合は、買い手企業の経営陣に理念継承や地域への配慮を求める条項を入れるなど、非価格面についても承継可能かを重要な論点として捉えておくことも必要です。
いずれの型でも「現経営者の役割縮小プラン(移行スケジュール)」を早期に共有し、二重権限の期間を短くすると現場の混乱防止に直結します。
事業承継計画の策定
事業承継計画は、まず全体像を以下の順序で作成し、具体的な実行スケジュールとしてまとめます。

税務(相続・贈与・法人)と法務(株式・出資、契約、登記)は、同時並行で設計するのがポイントです。
株式の価値評価や資金繰りの分析は、事業承継に必要な納税資金を事前に確保したり、分散している株主の株式を買い取る必要があるかを判断したりする上で、直接的な判断材料となります。
またM&Aを選ぶ場合は、以下のような流れがあります。

各ステップを時間軸に沿って配置し、それぞれの段階における担当責任者と、判断を下すための明確なルールを定めてください。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」が示す5つのステップをチェックリスト化すると、全体の見通しが格段に良くなります。
親族や従業員など関係者への周知
事業承継は、「情報の出し方」でうまくいくかが決まるとも言えます。
まずは経営陣、次に管理職、そして全社員といった順で段階的に発表し、理由・時期・体制・変わらないことをセットで伝えます。
取引先・金融機関には、代表交代の通知、新体制の役員一覧、印鑑届・与信枠の再確認などの同時進行で進めるようにするとよいでしょう。
地域や顧客向けには、ホームページ・プレスリリース・店頭掲示などで不安の芽を不安の芽をできるだけ小さくするようにしましょう。
周知後はQ&A集を用意し、現場が即答できるようにしておくと、信頼を維持しやすくなるでしょう。
株式や出資持分の承継
株式や出資持分の承継は、相続・贈与・売買・第三者割当などの方法を比較し、評価額・資金調達・税負担・ガバナンスへの影響を総合的に判断します。
評価・資金の段取りに合わせて、納税猶予(法人版事業承継税制)の可否や要件の検討が必要です。
贈与・相続で承継する場合は、認定支援機関の関与、特例承継計画や認定申請など、期限に期限には注意が必要です。
まずは意思決定フローと提出書類のスケジュール化、金融機関・主要株主・士業の連携体制を整えるようにしてください。
ここからは、親族内・従業員承継の場合とM&Aの場合に分けて、実務ポイントを掘り下げます。
親族内承継・従業員承継の場合
親族・従業員への承継は、理念継承と社内の受容性が高く、雇用・取引の安定につながりやすいのが長所です。
一方で、買い取り資金・納税資金の確保や、代表交代後の意思決定スピードの確保が課題になりがちです。
対応策は、議決権の集約、定款・株主間契約の整備、役員構成の見直し、COO・CFO等の補佐役を配置することなどが考えられます。
税務面は納税猶予の適用可能性を軸に、贈与・相続・売買の比較表を作成し、最終方針を最終的に方針を決めていくとよいでしょう。。
国税庁等の最新要件に沿って、期限を管理するようにしてください。
金融機関との納税資金・買付資金の事前協議、株主名簿・議事録の整備までをひとつのパッケージとして進めると、作業のやり直しを防ぎ、効率的に進められます。
M&Aの場合
第三者承継(M&A)は、後継者不在の解消や事業シナジーの獲得が狙いです。
プロセスは、以下のようになります。

特にPMIでは、人事・IT・会計・ガバナンスを計画的に統合し、顧客・仕入先・金融機関への周知を同時に進行するようにしましょう。
価格だけでなく表明保証・アーンアウト・競業避止等の非価格条件も重視します。
補助金を活用すれば、専門家費用や統合の初期コストの一部が軽減されるケースもあるので、都度最新の情報を確認するようにしてください。
以下の記事では、事業承継とM&Aの違いについてもまとめています。
関連記事:事業承継とM&Aの違いは?メリットとデメリットや選び方のポイント・課題も徹底解説!
経営権の承継手続き
経営権の承継手続きには、商業登記が必要です。
会社の登記事項に変更が生じた場合、その事由が生じた日から2週間以内に登記を申請することが、会社法第915条第1項で義務付けられています。
申請様式・オンライン申請の案内は、法務局が公開しています。
登記事項の変更に連動して、税務署の異動届、都道府県税・市区町村税の異動届、銀行の届出印や代表者登録、約定の再締結なども一緒に進めるとスムーズです。
参考:法務局|商業・法人登記の申請書様式
参考:法務局|株式会社変更登記申請書
事業承継後の取り組み
事業承継は、ゴールではなくスタートです。
後継者の就任後は、以下の内容に時間を投資するようにしてください。
- 現行戦略の再検証
- 財務・人事・ITの見える化
- 主要顧客・仕入先・金融機関への定期説明
- KPIの再設定と運用
- 組織文化の再定義(価値観・評価・報酬)
PMIが必要なケースでは、30-60-90日計画で統合ロードマップを運用し、システム・会計科目・与信ルール・承認フローなど、日々の業務が滞らない順序で統合を進めます。
公的支援メニュー(承継後の経営力強化・販路開拓)もあわせて内容をしっかり把握し、優先順位をつけて重点分野に資金を活用します。。
【その他】専門家への相談
法人の事業承継は、会社法・税務・登記・労務など、多くの専門分野が絡み合う、非常に複雑なテーマです。
一つでも判断を誤ると、会社の財務や事業の継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。
ゆえに計画立案の初期段階から、専門家の伴走は必要と言えます。
弁護士は、契約に関するすべてを取りまとめます(表明保証・競業避止・労務や知財などの重要な論点を含む)。
一方、税理士・公認会計士は株価の評価、納税猶予の手続き、税務申告の実務を責任を持って実行します。
司法書士は変更登記、社労士は社保・雇用保険の変更、スキーム設計と交渉・クロージングを推進するのはM&Aアドバイザーが適しています。
事業承継・引継ぎ支援センターや認定経営革新等支援機関といった公的機関は、中立的支援をおこないます。
TORUTE株式会社では、弁護士を筆頭に第三者承継士が事業承継をサポートさせていただいておりますので、ぜひ一度ご相談ください。

事業承継の手続きに必要な書類とは
事業承継の手続きに必要な書類は承継の型によって変わりますが、どの型においても共通して以下の4つが基本です。
- 登記事項(就任・退任・本店移転等)
- 税務異動
- 社保・労保の変更
- 許認可名義の承継
それに加えて、以下の内容を準備します。
- 株式・持分の移転に関する契約書・議事録・同意書
- 代表交代の取締役会議事録
- 銀行の届出印変更
- 主要取引の基本契約更新
- 個別の委任状や印鑑証明書
M&Aの場合は、基本合意書(LOI)・最終契約(SPA/ASC)、公正証書の要否、クロージング条件(CP)に合わせた添付書類が追加されます。
ここからは、承継の型ごとに詳細に解説します。
親族内承継の場合
贈与・相続・売買のいずれかで株式等を移すため、以下の書類が必要になります。
- 株券・払込証明・株主名簿(発行会社の実務に応じて)
- 贈与契約書や遺産分割協議書
- 取締役会・株主総会議事録
代表交代や役員選任の登記申請書が中心です。
納税猶予を使うなら、認定申請や継続届出などの特有書類が生じます。
株式評価書・資金計画書・承継計画書といった必要な書類一式を、漏れなくセットで準備し、事前に金融機関と共有しておけば、その後の手続きが円滑に進みます。
親族外承継の場合
役員・従業員承継では、以下の内容がポイントになります。
- 株式売買契約書
- 退職慰労や役位調整に関する社内決裁
- 役員報酬規程の更新
- 表明保証や競業避止の条項整備
買い取り資金は、役員からの借り入れ・金融機関からの融資・ストックオプションの発行など、複数の方法を組み合わせて用いることもあります。
事業承継後は、稟議制度や内部統制といった経営管理体制を新しい代表者に合わせて更新し、社外への代表者変更通知と誰がどこまで決裁できるかを明確にすることで、社内外の混乱を防ぎます。
M&Aによる事業承継の場合
M&Aによる事業承継の場合、必要書類は・買収監査資料(財務・税務・法務・人事・IT)・最終契約・株式譲渡実行書など多数に及びます。
PMIでは、人事制度・ITや会計・販売管理・与信・承認フローなど毎日の業務が停止しないよう配慮しつつ、影響の少ないものから優先順位をつけて統合してください。
公的のPMIガイドラインに、中小企業向けの実務ポイントがまとまっています。
参考:中小企業庁|事業承継「主な支援策/中小PMIガイドライン」
個人事業主の事業承継の場合
個人事業の承継は、事業用の資産や許認可、契約の名義を新しい経営者に切り替えることが主な手続きです。
この際、開業・廃業届や青色申告承認申請などの税務手続きの扱いには特に注意が必要です。
法人化や親族への引き継ぎをおこなう場合、業種を規制する法律(業法)によって、許認可をそのまま引き継げるかどうかのルールが異なります。
必ず関係省庁や自治体の最新の手引きを確認するようにしてください。
事業承継の届け出はどこにすればいい?

事業承継後は、登記・税務・社会保険や労働保険・許認可・事業承継税制に関する各種届出を、定められた提出先へ期限内におこなう必要があります。
ここではまず全体像として、「何を・いつ・どの制度で」動かすかを押さえたうえで、次の見出しで届け出先と実務の要点を順に解説します。
電子申請(オンライン化)が進む一方、書類の原本提出や印鑑が必要なケースも残っています。
安全かつスムーズに進めるために、日付管理と紙の書類準備を同時に進めてください。
登記に関する手続き
代表取締役の就任・退任、取締役変更、本店移転、商号変更などは、商業登記が必要です。
申請書・議事録・就任承諾書・印鑑届など必要書類を揃え、変更があった日から原則2週間以内に申請しなければなりません。
登録免許税の納付方法やオンライン申請が可能かも事前に確認してください。
登記が完了すると、、銀行の代表者変更手続きや取引先への通知がスムーズに進みます。
そのため事業承継の全スケジュールの中で、商業登記を最も優先して手配することをおすすめします。
税務に関する手続き
商号・代表者・本店所在地・事業年度・資本金等の変更は、所轄税務署へ異動届を提出し、必要に応じてe-Taxで電子申請します。
また、従業員へ給与を支払う事務所に変更がある場合は、「給与支払事務所等の届出書」が必要かどうかも合わせて確認してください。
同様に、地方税に関する異動届を都道府県税事務所や市区町村にも提出し、eLTAX(地方税の電子申告)に対応しているかも確認が必要です。
このような届出は、商業登記の変更日と提出内容の時系列を合わせ、納税地や各種通知先の情報が食い違わないようにすることが、最も重要なポイントとなります。
参考:東京都主税局|(法人事業税・都民税)異動届出書・記載要領/様式集
社会保険・労働保険に関する手続き
健康保険と厚生年金については、5日以内を目安に年金事務所へ「事業所関係変更(訂正)届」などを提出し、会社名、所在地、代表者などの情報を更新します。
労働保険は労働基準監督署、雇用保険はハローワークで各種変更届を提出します。
こちらは10日以内が目安です。
適用される保険の種類や管轄が変わることがあるため、必ず事前に事業所番号で所轄機関を確認するようにしましょう。
同時に給与計算ソフト・社会保険料振替口座・健康保険組合の登録情報も漏れなく更新が必要です。
参考:日本年金機構|事業主の変更や事業所に関する事項の変更があったときの手続き
許認可に関する手続き
建設業・産業廃棄物処理業・運送業・医療機関・飲食店など、法律で定められた許認可が必要な業種では、事業承継時に「名義変更」「承継」「新規取得」のいずれかの手続きが必要です。
これらの手続きは、業種を規制する法律によって要件や、事前の認可が必要かどうかがすべて異なります。
役員の変更や本社移転が、許認可を失う原因となる要件(欠格要件)に該当しないかを徹底的に確認してください。
また、誓約書・経歴書・法人登記事項証明書など、どんな添付書類が必要かを、必ず所轄官庁や自治体の最新の手引きで確認しましょう。
許認可の更新期限と事業承継の手続きの締切が重なってしまうケースが多く見られます。
手続きが滞ると事業が継続できなくなるリスクがあるため、必ず逆算してスケジュールを組み、余裕を持って準備をおこない、確実に事業を継続できるようにしましょう。
事業承継税制に関する手続き
法人版事業承継税制(非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予・免除)を検討する場合、承継の時期・スキームに応じて手続きを進める必要があります。
認定支援機関の関与・特例承継計画や認定申請・承継後の継続届出などがあり、期限管理にも注意が必要です。
参考:国税庁|法人版事業承継税制(非上場株式等の納税猶予・免除の特例)
納税猶予などの制度は適用要件やルールが改正で変わりやすいため、最新の国税庁情報にもとづき、専門家チームに株式評価や事後管理を含む全体設計を任せるのがよいでしょう。
登記や税務署への届出といった他の手続きと内容が食い違わないよう、整合性を取って進めることが重要です。

事業承継の手続きに必要な費用は?
事業承継の手続きに必要な費用は、大きく以下の3つに分かれます。
- 税金
- 専門家への報酬
- その他の費用
税金には相続税・贈与税・法人税に加え、登記関連の登録免許税や不動産が絡む場合の不動産取得税などが含まれます。
専門家は、税理士・公認会計士・弁護士・司法書士・社労士・M&A仲介やFAなどへの報酬です。
その他には公証人手数料、登記の収入印紙等、交通通信費・謄本料、デューデリ費用、PMIの初期投資などが該当します。
制度改正や自治体差があるため、最新の公的情報を基準に概算見積を取り、着手前に資金計画へ織り込むのが安全です。
それぞれの費用について、詳しく解説します。
税金
事業承継はどの方法でおこなうかによって、相続税・贈与税・法人税など、かかる税金の種類や金額がすべて異なります。
株式を贈与や相続で移す場合は、その評価額に応じた納税資金を必ず事前に準備しておく必要があります。
売買の場合は、法人税や受贈益といった税務上の論点が発生する可能性があります。
さらに、登記にかかる登録免許税や不動産の移転があれば、不動産取得税も別途必要です。
税制の優遇措置や軽減制度の適用については、最新の税務情報を必ず確認するようにしてください。
相続税・贈与税
まずは相続税・贈与税についてです。
非上場株式の承継では、納税猶予・免除の特例があるかどうかがカギです。
要件・手続・継続届出や雇用確保要件の扱いなど、詳細は国税庁のタックスアンサーに整理されています。
適用の可否で承継スキームや時期が大きく変わるため、事前審査とタイムライン管理を徹底しましょう。
参考:国税庁|No.4148「非上場株式等の納税猶予・免除の特例」
法人税
次に法人税ですが、株式の売買・合併・分割等では、組織再編税制や資産調整の論点が生じます。
のれんの償却や減損・繰延税金資産の回収可能性・役員退職金の損金算入要件など、会計と税務の二重確認が必要です。
専門家と着手前にタックスプランを立てるのがおすすめです。
登録免許税
登記手続きには、登録免許税がかかります。
不動産登記に関しては、移転原因ごとに税率が異なり、売買や贈与は1000分の20、相続は1000分の4などの規定(軽減措置の有無は時限)があります。
最新税率については、国税庁の税額表で確認するようにしてください。
不動産取得税
事業に用いる不動産の移転がともなう場合、都道府県税として不動産取得税が課されます。
軽減や非課税の扱いは用途・床面積・新旧など条件により異なるため、所轄自治体の案内や主税局の手引きを参照してください。
専門家への報酬
専門家への報酬は、役割と難易度により変わります。。
相見積もりを取り、最終的な成果物の内容、完了期限(納期)、そして追加の費用が発生する条件を事前に文書で明確に定めておくことが重要です。
税理士や公認会計士
税理士や公認会計士は、以下の内容が主担当です。
- 株価評価
- 納税猶予の適否判断
- 申告書作成
- 組織再編税務
- PMIの会計設計
報酬は案件規模・資産構成・書類量で変動します。
弁護士
弁護士は、以下の内容を担当します。
- 契約設計(株式譲渡契約・表明保証・競業避止・誓約条項)
- 許認可承継の可否判断、労務・知財・紛争予防
- PMIガバナンス
M&Aでは、企業の詳細調査(デューデリジェンス)と契約書の作成(ドラフティング)の作業量に応じて変動します。
M&A仲介会社やアドバイザー
M&A仲介会社やアドバイザーの仕事は、以下が中心です。
- 候補探索
- 交渉支援
- スキーム設計
- クロージング支援
報酬の支払いモデル(着手金、中間金、成功報酬など)や、その計算方法(レーマン方式など)をまず確認してください。
さらに、機密を守る義務(守秘義務)、専任契約か非専任契約かの区別、そして契約終了後の報酬支払い期間(テール期間)といった重要な契約条件をしっかり吟味しましょう。
その他の費用
その他にも実費として、以下の利用料などが発生します。
- 公証人手数料
- 登記の収入印紙
- 謄本・印鑑証明取得費
- 郵送費・交通費・通信費
- バーチャルデータルーム
公証役場の手数料は、契約書などに記載された金額(目的価額)が大きくなるほど、段階的に高くなる仕組みになっています。
公証人費用
公証人費用は、契約書を公正証書にする際や重要な会議の議事録の認証を受ける際に、公証役場で発生します。
手数料は、契約などに記載された経済的な金額(目的価額)に応じて定められており、数千円から数十万円の幅があります。
登記費用
登記にかかる費用は、登録免許税(税金)のほかに、司法書士への報酬や添付書類を取得するための実費などが別途必要になります。
手続きをオンライン(電子)申請にすることで、費用を抑えたり手続きの時間を短縮したりできる場合があります。
交通費や通信費など
専門家との面談、必要な書類の収集・郵送、公的機関への訪問などにかかる交通費や通信費などの実費もかかります。
オンラインでの打ち合わせや電子申請を積極的に活用することで、これらの実費を削減できる余地があります。

事業承継で費用を抑えるための3つのポイント
事業承継を進めるなかで、なるべく費用負担を抑えるのは重要です。
そのためのポイントとして、以下の3つがあります。
- 事業承継税制を活用する
- 補助金・助成金を活用する
- 複数の専門家から見積もりを取る
ひとつずつ詳しく解説します。
事業承継税制を活用する
事業継承では、事業承継税制が活用できます。
事業承継税制の目的は、後継者への事業承継にともなって発生する相続税や贈与税の負担を軽減することです。
非上場株式の承継で納税猶予・免除が使えると、資金負担は大きく変わります。
要件・期限が命ですので、認定支援機関と連携しつつ、国税庁の最新ガイダンスに沿って事前準備を進める必要があります。
補助金・助成金を活用する
事業承継・M&A補助金などの補助金や助成金も活用できます。
事業承継・M&A補助金は、専門家費用や設備投資、PMIに係る費用の一部を支援する仕組みです。
電子申請はjGrantsを通じておこない、GビズIDの取得が前提となります。
参考:jGrants(デジタル庁)|補助金の電子申請システム
公募枠・対象経費・スケジュールは年度で変動するため、公式サイトと公募要領を確認するようにしてください。
その他に自治体での助成金を活用できる場合もあるので、所在地をもとに調べてみる価値はあります。
以下の記事でも、事業承継に使える補助金について詳しく解説しています。
関連記事:事業承継に使える補助金は?2025年度のスケジュールや申請方法・対象経費なども解説!
複数の専門家から見積もりを取る
案件の特性によって、必要とされる専門知識・チーム体制・作業量(稼働量)は大きく異なります。
最終的に求める成果物の内容・業務の範囲(スコープ)・報酬の条件を比較し、専門家との相性や対応の速さも含めて、総合的に依頼する相手を決めてください。
無料相談なども活用しながら複数の専門家から見積もりを取り、市場の費用感を把握するのがおすすめです。
事業承継の失敗例は?

事業承継の失敗には、周知の失敗・期限管理の失敗・税務設計の失敗・PMI(統合)の失敗といったことが考えられます。
【周知の失敗】
代表交代の「理由」「具体的な時期」「新しい体制」といった重要な情報が十分に共有されないと、社内外に大きな不安や憶測が広がりやすくなります。
その結果、重要な人材(キーマン)の離職や、取引先との条件悪化といった深刻な事態を招きかねません。
混乱を避けるためには、発表を一度にすべてではなく段階的におこない、同時に想定される質問と回答(Q&A)や問い合わせ窓口を必ずセットで用意し、開示することが不可欠です。
【期限管理の失敗】
商業登記・税務署への異動届・社会保険や雇用保険の変更届など、各種提出物の期限をうっかり忘れてしまうと、罰金(過料)が発生したり、手続きのやり直し(手戻り)が生じたりする原因となります。
このようなミスを防ぐために、事業承継専用のカレンダーを作成し、「いつまでに・どこに・何を提出するか」を具体的なタスクとして落とし込み、進捗を厳密に管理する必要があります。
【税務設計の失敗】
納税猶予(事業承継税制)の適用条件や手続きの期限を誤って認識すると、想定外の多額の税金を支払う事態につながります。
適用要件は国の改正によって常に変わるため、最新の税務情報を確認してください。
株式評価・納税資金計画・申請手続きのすべてを専門家と協力し、並行して設計していくことが極めて重要です。
【PMI(統合)の失敗】
M&Aが成立した後、人事制度・ITシステム・会計処理などの重要な統合作業(PMI)を後回しにすると、現場が混乱し、一時的に売上が落ち込む事態につながります。
クロージング前から30-60-90日計画のような短期集中の計画を用意し、作業の優先順位と達成目標(KPI)を明確にした上で、速やかに実行することが求められます。
事業承継の手続きで失敗しないための3つのポイント
事業承継の手続きで失敗しないためには、以下の3つのポイントを意識することが大切です。
- 早期に着手して後継者を育てる
- 関係者との対話を密にする
- 専門家と連携して税金対策をおこなう
これらのポイントを実践するため、まずは事業承継全体の工程表(ロードマップ)を作成し、商業登記・税務署への届出・社会保険・許認可などの各手続きの提出期限を一枚の表で可視化します。
並行して、後継者の実務トレーニングと社内外への情報発信を進め、納税猶予や組織再編といった専門的な判断が必要な部分は、専門家主導で計画を設計していきます。
以下で、これらの具体的な実行策について解説します。
早期に着手して後継者を育てる
まずは、早期に着手して後継者を育てることが重要です。
1〜2年の移行期間を前提に、後継者の業務ローテーション(営業・財務・人事・生産など)と権限を移譲していく段階的なスケジュールを作成します。
現経営者は社外への説明や、主要な取引先・金融機関との関係維持に専念し、「社長が二人いる」という二重統治期間はできるだけ短くしてください。
後継者への権限移譲を円滑に進めるため、RACIチャート(誰が責任者かを示す表)や承認権限表・決裁の基準を最新の状態に更新し、毎月進捗確認のための面談を実施します。
後継者の責任範囲を、現社長に同行して学ぶ「影武者同行」から、一緒に決裁する「共同決裁」、そして一人で決裁する「単独決裁」へと段階的に広げます。
このプロセスを通じて、達成目標(KPI)や人材配置を調整しながら、「新しい後継者に完全に任せても事業が大丈夫」な状態を作り上げましょう。
関係者との対話を密にする
次に、関係者との対話は密にすることを意識してください。
情報公開をまずは経営陣、次に管理職、そして全社員という順序で段階的におこないます。
この際、交代の「理由」「時期」「新しい体制」だけでなく、「変えないこと」(引き継ぐ理念や方針)を明確に伝えることが重要です。
不安や憶測を防ぐため、想定される質問と回答(Q&A)や問い合わせ窓口をあらかじめ用意し、社内の噂や不安を先回りして封じ込めます。
社外に対しては、金融機関や主要な取引先には新しい代表者への変更通知と、与信(信用枠)や契約内容の再確認をセットで実施します。
顧客や地域社会に対しては、ウェブサイトでの告知や説明会を開き、事業の理念やサービスが継続していくこと(連続性)をしっかりと示すようにしてください。
定期的な説明の機会とアンケート調査(サーベイ)を実施して、社内外の懸念や受け止め方(温度感)を常に把握しましょう。
専門家と連携して税金対策をおこなう
納税猶予(事業承継税制)・組織再編税制・登録免許税などは、高度な専門知識が必要な領域です。
そのため、弁護士・税理士・公認会計士・司法書士・社労士といった専門家と定期的に会議を開き、書類の提出先・期限・必要書類をまとめたチェックリストを作成しましょう。
株式評価・資金計画・契約書の内容(表明保証や競業避止などの重要条項)を、専門家と並行して設計します。
これらの計画が、e-TaxやeLTAXといった電子申請、および商業登記のスケジュールと矛盾しないよう、内容と期限の整合性を厳密に取ってください。
最新の資料や情報をデータルームなどで一元管理し、税制改正情報などを常にアップデートしながら、潜在的なリスクを継続的に見つけ出し、解消していくことが重要です。
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事業承継の手続きでは、数多くの課題があり、さまざまな専門家の力が不可欠です。
TORUTE株式会社では、本記事で解説したような全体設計から、株式や持分の契約設計・代表交代の登記連携・税務や許認可の確認・M&A後の統治体制(PMIガバナンス)設計まで、複雑なプロセスを合理的に判断してサポートいたします。
特に、表明保証や競業避止など「契約で事業を守るべき重要ポイント」は重要で、地域・従業員・取引先への配慮を盛り込んだ条項作りをおこないます。
事業承継・M&A補助金の活用も、認定支援機関・税務専門家と連携したチーム体制で支援いたします。
まずは現状を棚卸しし、「貴社専用の承継計画」を一緒に作る所から始めますので、ぜひ一度ご相談ください。
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まとめ
法人の事業承継の成功は、現状分析・後継者選定・計画・周知・株式等の承継・経営権手続・承継後の体制整備という、一連の段取り戦にかかっています。
併走する相手(公的支援・認定支援機関・各士業)をなるべく早く決定し、協力して提出期限・提出先・必要書類のスケジュールを一元管理すれば、税金や費用も最適化できます。
納税猶予や補助金の最新要件を確認しながら、自社に最も適した方法で「会社・家族・従業員を守る承継」を進めてください。
今日からできることは、まず会社の現状を棚卸しすること、そして関係者との打合せ日程を確保することです。
踏み出したら次の問題に必ずぶつかりますが、一つ一つに意味がありますので、弁護士・第三者承継士が専門的にサポートに努めます。
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
弁護士・法律事務所Si-Law/(株)TORUTE代表・西田幸広 熊本県を中心に企業顧問70社、月間取扱160件以上(2025年8月時点)。登録3,600社・20超業種を支援し、M&A・事業承継を強みとする。弁護士・司法書士・社労士・土地家屋調査士の資格保有。YouTubeやメルマガで実務解説・監修/寄稿多数。LINE登録特典で「事業承継まるわかりマニュアル」提供。
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