事業承継の手続きを徹底解説!基本的な流れ・必要書類・税金を紹介

会社の将来を左右する事業承継。
事業承継は避けられない経営課題ですが、手続きが複雑なため後手に回りがちです。

業承継の具体的な流れから必要書類、かかる費用、個人事業主への対応など、わかりやすく解説していきます。

事業承継とは

事業承継とは、経営者が自分の会社や事業を次の世代の後継者に引き継ぐことです。

会社の社員や財産、知識も一緒に引き継がれます。
廃業という選択ではなく、今まで築いてきた会社の名前や価値を守り続けることができます。

事業承継とは

事業承継の方法と必要な手続き

事業承継の方法には、主に以下の3つの種類があります。
それぞれの手続き、必要書類、費用(税金)について解説します。

親族内承継 親から、子や親戚に事業を引き継ぐ方法
従業員承継 家族以外の会社の人が事業を引き継ぐ方法
第三者承継(M&A) 家族や従業員ではなく、外部の別の会社や人に引き継ぐ方法

親族内承継の手続き

【親族内承継】は、特に中小企業で多く選ばれる方法です。
経営者が亡くなった後や年を取ってから、親族に経営を引き継ぐのが一般的です。

具体的な手続きは以下の2つの方法があります。

■相続による承継

経営者が亡くなった後、株式などの遺産が後継者に譲渡されます。

経営者が遺言書を作成し、後継者に株式を相続する
– 遺言書がない場合、法律で決まった割合で親族全員に株式が分けられる
– 相続人全員で話し合い、遺産分割協議をして後継者に株式を渡すこともできる

■生前贈与による承継

経営者が生きているうちに、後継者に対して株式などを譲渡します。

会社の取締役会や株主総会で承認を得る
– 後継者に対し、経営者が持っている会社の株式の全部または一部贈与

このように、親族に株式を渡すことで、スムーズに経営を引き継がせることができます。

親族内承継とは?

相続対策としての事業承継

必要書類

親族内承継の必要書類は以下の通りです。

遺言書 経営者が亡くなった後、株式などをどのように相続するかを決めるための大切な書類
生前贈与契約書 経営者が生きているうちに、後継者に株式を贈与する際に作成する契約書
事業譲渡契約書 会社の事業そのものを後継者に譲渡する際に、その内容を記した契約書
株式譲渡契約書 会社の株式を後継者に譲渡する際の、株式の移転内容を記した契約書
遺産分割協議書 相続人全員で話し合い、遺産をどのように分けるかを決める書類(後継者に株式を渡す際に必要となります)

このように、親族内承継では様々な書類を作成する必要があります。

費用(税金)

親族内で事業を引き継ぐ場合、後継者には税金がかかることがあります。

・相続の場合は、相続税
・生前贈与の場合は、贈与税

しかし、事業承継税制を利用すると、条件を満たせばこれらの税金が猶予されたり免除されたりします。
また、現経営者が株式や事業を譲ると、譲渡所得に対する税金がかかります。
この税金も適切に申告して納める必要があります。

専門家に相談することで、税金を減らす方法を見つけやすくなります。

従業員承継の手続き

従業員承継では、現経営者から従業員が会社の株式を買い取ることで、経営権を取得します。
また、現経営者が株式を保有したまま、経営権だけを従業員に引き継ぐ方法もあります。

従業員承継(社内承継)とは?

必要書類

従業員承継の必要書類は以下の通りです。

株式譲渡承認請求書 従業員が株式を買うために会社に許可を求める書類
株式譲渡契約書 株式の売買について詳しく書かれた契約書(売る値段や支払い方法などが書かれている)
株式名義書換請求書 株主の名前を従業員に変えるための書類(提出することで、正式に株主として認められる)
株主名簿 会社の株主リストであり、手続き中は最新の情報を持っている必要がある(株主が変わるときはすぐに更新する)

これらの書類は専門家を活用し、正しく作成することが大切です。

費用(税金)

従業員で事業を引き継ぐ場合の費用は以下の通りです。

購入費用 従業員が株式を買うために必要なお金(多額になることが多いので、しっかりと準備が必要)
譲渡所得税 経営者が株式を売った際にかかる税金(売却して得た利益に対して課税される)
経費 株式を売るときにかかる手数料など(これらの経費を引いた金額が課税対象になる)

従業員による株式の買い取りは多額の出費となるため、しっかりとした資金計画を立てることが大切です。
また、経営者側も税金について計画しておく必要があり、節税の方法も考えながら手続きを進めましょう。

第三者承継(M&A)の手続き

  1. ① 【M&Aの検討・準備】
    自社の経営状況を分析し、M&Aが最適な選択肢かを検討する
    →自社の状況を調べ、M&Aが良い選択かどうかを考えます。
    例えば、売上や利益、借金の状況をチェックし、どのくらいの価値があるかを見極めます。
  2. ② 【M&A打診・交渉】
    買収候補先に接触し、M&Aの条件について両社で交渉を行う
    →買ってくれそうな会社を探して連絡し、条件について話し合います。
    どれくらいの金額で買ってくれるか、どんな条件で売るかを交渉します。
  3. ③【基本合意の締結】
    M&Aの基本的な内容に合意し、基本合意書を取り交わす
    →大まかな条件に合意したら、基本合意書という書類にサインします。
    ここには、買収金額や取引の大まかな流れが書かれています。
  4. ④ 【デューデリジェンスの実施】
    買収対象企業の実態を詳しく調査し、リスクの有無を確認する
    →買ってくれる会社が、自社の実態を詳しく調べます。
    これは、財務状況や法律の問題、事業の内容などを確認するとても重要なステップです。
  5. ⑤ 【最終契約の締結】
    デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な契約内容を決定する
    →調査結果を基に、最終的な契約を結びます。
    ここで、正式に会社の売買が決まります。

    [契約書にサインして、取引が確定する]
  6. ⑥ 【統合作業(PMI)】
    両社を円滑に統合するため、組織・システム・業務の統合作業を行います。
    →スムーズに統合するための作業を行います。
    例えば、会社のシステムを一つにまとめたり、従業員の働き方を新しい会社に合わせて変えたりします。

M&Aは複雑な手続きが多いですが、専門家に相談しながら進めることで、確実かつ安心して行うことが可能です。

事業承継におけるM&Aとは

必要書類

ロングリスト:最初に広く候補を集める多くの買収候補企業をリストにしたもの
ショートリスト:ロングリストから絞り込んだ、買収する可能性が高い企業のリスト

この2つは、どの会社が本当に興味を持っているかを見極めるためのものです。

ノンネームシート
買ってくれそうな会社に渡す、会社前を伏せた状態で、売上高や従業員数などの基本情報を記載した書類
会社名や所在地が特定されない範囲で記載します。

秘密保持契約書
M&Aの話し合い中に知った情報を外に漏らさないことを約束する契約書
お互いの企業秘密を守るためにサインします。

インフォメーション・メモランダム (IM)
売りたい会社の詳細な情報をまとめた資料
会社の歴史、事業内容、財務状況などが書かれています。

意向表明書
M&Aの交渉を始めたいという意思を正式に示す書類
どんな条件で買いたいか、「〇〇円で買いたい」という具体的な提案をします。

基本合意書
M&Aの大まかな条件に合意した、買収金額やスケジュールなどが記載した書類
これにサインすることで、本格的な調査が始まります。

デューデリジェンス関連書類
買い手が対象企業を詳しく調べるための書類一式であり、財務、法務、税務、ビジネス運営などの調査資料
例えば、過去の財務報告書や契約書のコピーが含まれます。

最終意向表明書
調査結果を基に、最終的な買収条件や価格を書いた、最終的な買収意思を示す書類
例えば、「調査の結果、〇〇円で買います」と具体的に書きます。

売買契約書
どの株式をいくらで買うか、支払い方法などを書いた、株式や事業の売買内容を詳しく記した契約書
[これにサインすることで、正式に売買が成立します]

最終契約書
買収後の取り決めなどが含まれる、M&Aの最終的な条件を決めた契約書
例えば、買収後の経営体制や従業員の待遇について書かれています。

TSA (Transition Service Agreement)
M&A後の移行期間中に提供されるサービスを決めた契約書
ITシステムのサポートや人事の支援などを書きます。

このように、一連の手続きは専門的な書類が多く、すべての手続きをしっかり理解し、必要な書類を適切に準備することが重要です。

費用(税金)

■買い手側の費用と税金
・買収資金:買収対象企業の株式や事業を購入するためのお金
・消費税等:買った資産に対してかかる税金

■売り手側の費用と税金
・譲渡所得税:株式や事業を売ったことによる利益に対してかかる税金
・法人税等:企業の利益に対してかかる税金

■専門家の費用
・M&A仲介会社:月額数十万円程度、取引金額に応じて1~5%の成功報酬がかかる場合もある
・弁護士や税理士:相談料・着手金・成功報酬(法的なリスク・専門的な書類等も含む支援内容)

これらの費用を考慮しながら、十分な資金計画を立てて進めることが重要です。

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事業承継の手続きの基本的な流れ

事業承継手続きには段階があります。
最初に会社の現状を把握し、次に後継者を選定し、計画を立案し、後継者を育成し、関係者に説明し、経営を改善してから最後に事業を引き継ぐという流れです。

基本的な流れは以下の通りです。

①会社の現状把握

会社の持ち物を確認する
土地、建物、機械、商品、現金など、会社が持っている全ての物とお金を書き出し、正確な値段を専門家に教えてもらいます

株式の状況を確認
・株主の人の名前と株式の数を全て確認します
・会社が発行した全部の株式の数と、会社が持っている自社株の数も確認します

会社のお金の動きを確認
・過去5年から10年くらいの売上や利益などのデータを調べます
・借金の残り、利息(借りた金のお金)の払い方も確認します

会社の仕事の現状を分析
・主な商品・サービスと、その売上への貢献割合を確認します
・従業員の数と仕事の内容、給料などを一覧にします
・主要な取引先の会社と、取引内容、金額、年数を洗い出します

②後継者候補の選定

候補者の経営能力を判断する
・将来の目標、判断力、リーダーシップなどを見ます
・これまでの実績と今後の可能性を総合的に判断します

会社の理念や文化の理解度を確認する
・創業者の考え方や志を継承できるのか、従業員や取引先、地域との信頼関係が築けるのか後継者と話します

引き継ぐ意欲と熱意を見極める
・長期的に取り組む意欲があるか、後継者と事業承継の目標を共有します

③事業承継計画の立案

いつ、どのように引き継ぐか具体的に決める
・一気に渡すか、段階を踏むかを選択します
・株式を渡すか、事業を渡すか、会社売買かを決めます

後継者の勉強計画を作る
・必要な知識分野(販売、お金の動き、人事など)を特定します
・研修内容と期間、方法(実習、現場学習、外部講座など)を決めます

お金の計画を立てる
・相続税、贈与税、登録に必要な税金や手数料を試算します
・お金の準備方法(増資、借り入れ、物件売却、補助金など)を検討します

関係者への説明計画を作る
・従業員、主な取引先、銀行、役所など関係者リストを作成します
・いつ、どのように(説明会、個別説明など)説明するか決めます

事業承継の計画について

④後継者の育成

事業承継計画に沿って後継者の育成・教育を行う
・マネジメント、リーダーシップ、企業文化理解など経営に必要な知識・技術を教えます
・外部の専門家に教えてもらうことも検討します
・後継者を子会社や関連会社に連れていき、実務経験を積ませるのも有効です

育成期間は平均3〜5年が目安ですが、最長で10年近くかかることもあります。
できるだけ早期から着手し、計画的に進めることが大切です。

⑤関係者への説明

説明対象:親族、従業員、主要取引先など
・親族に不公平感を持たれると、後に遺留分を請求されるトラブルになる恐れがあります
・従業員が不安や不満を抱けば、人材流出や業績低下の原因になります

このようなトラブルを避けるため、関係者の理解を得ておくことが重要です。
伝えるタイミングと伝え方を工夫しましょう。

伝えるタイミング
・事業承継計画が固まった段階で、早めに関係者に伝えることが望ましいです
・親族や主要取引先には、計画の初期段階で概要を説明し、意見を聞く機会を設けます
・従業員には、具体的な計画ができた後に、段階的に伝えます

伝え方
・親族:個別に説明し、納得できるように詳しく話すことが大切です
・従業員:全体会議や部門ごとのミーティングを通じて、分かりやすく説明します
・主要取引先:個別に訪問し、信頼関係を維持しながら説明します

関係者への丁寧な説明と理解を得ることが、事業承継の成功に繋がります。

⑥経営改善

経営改善とは、会社をより良くするための取り組みです。

お金の流れを良くする
・お金に余裕を持たせます。
・借金を返済したり、使っていない物を売却したりします

仕事の流れを見直す
無駄をなくして効率的にします。
新しいITシステムを導入し、作業を自動化したり、デジタル化を進めたりします。

人員体制を見直す
・人手不足の部署に新しい人を入れたり、余っている人を他の部門に移したりします
・従業員のやる気を高めるために定期的な研修やトレーニングを行い、スキルアップを図ります
・社員の意見を聞く場を設けることも大切です

後継者に良い状態で会社を引き継いでもらうため、これらの経営改善をしっかり進めることが大切です。
具体的な行動を計画し、確実に実行していきましょう。

⑦事業承継の実施

事業承継を実施する際には、以下の手順を踏んで進めます。

会社の資産・株式を譲渡し、後継者に経営権を渡す

事業承継計画に基づき、会社の資産や株式を後継者に譲渡し、経営権を移します。

株式会社譲渡の方法
株式を渡す方法には「相続」「生前贈与」「売買」の3つがあります。

相続:経営者が亡くなったときに、後継者が株式を相続します
生前贈与:経営者が生きている間に、後継者に株式を贈与します
売買:後継者が株式を買い取ります

専門家と相談して、最適な方法を選びます。

組織の変更、役職の変更、伝える
・事業承継に伴い、組織や役職の変更を行います
・株主総会や取締役会でこれらの変更を承認してもらいます
・取引先や関係者に対して正式に案内し、新しい体制を知らせます

契約書の作成とサイン
会社の資産や株式の譲渡に関する契約書を作成し、サインをします。
[これは法的に重要な手続きです]

引き継いだ後の支援体制
・後継者が経営を円滑に行えるように、相談や支援を受けられる体制を整えます
・経験豊富な前任者や専門家のサポートを活用することが重要です

事業承継には多くの準備が必要です。ひとつひとつの段階を丁寧に進め、新しい経営体制へスムーズに移行できるよう進めていきましょう。

■後継者の教育が不十分な場合
・後継者がまだ十分に準備できていない場合は、無理に引き継がせず、教育が終わるまで待ちます
・タイミングを見計らい、最善の時期に引き継ぎを行います

このように、事業承継は慎重に計画し、適切に実施することが成功の鍵です。

株式譲渡による事業承継とは

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個人事業主が事業承継するときの手続き

事業の大小に関わらず、個人で事業をされている方を総称して「個人事業主」と呼んでいます。
個人で事業を行っているため、会社に比べると手続き自体は比較的簡単ですが、個人の資産と事業の資産を区別する必要があります。

①現在の経営者の廃業手続き
・廃業届の提出: 現在の経営者は、事業を止める(譲渡または廃業する)ことを税務署に届け出ます
・確定申告: 関係書類を添えて、確定申告を行います

② 新しい経営者(後継者)の開業手続き
・開業届の提出: 後継者が新たに事業を始める場合は、税務署に開業した旨を届けます
・必要な許可の取得: 事業を営むために必要な許可を取得します(業種による)
・資産の名義変更: 事業用の資産(設備など)の名義を後継者に変更します

■重要なポイント
資産の区別: 個人の資産と事業の資産を明確に区別することが必要です

個人事業主の事業承継は法人に比べて手続きが簡単ですが、事業を継ぐ際の手続きも複雑になる場合があります。
しっかりと準備を行うことでスムーズに進めることができます。

個人事業主の事業承継を詳しく解説!

事業承継の手続きを円滑に進めるためのポイント

早い時期から準備を始める

・一般的に事業承継には5年以上の準備期間が必要とされている
→できる限り早い段階から具体的な計画を策定し、着手することが賢明です。

・後継者選定や育成、関係者対応など、時間を要する作業が多くある
→準備が遅れると手続きが集中し、トラブルリスクが高まります。

事業承継は、早めに準備することがとても重要です。

税金・資金対策を行う

・事業承継を行う際は、必ず相続税や贈与税がかかってしまう
→事前に専門家に相談し、賢い方法で税金を減らす対策を立てましょう。

・一方で、株式を買い取る、事業を購入するには、多額の資金が必要である
→お金の準備が足りないと、事業承継そのものができなくなる恐れがあります。

・しっかりとお金の計画を早めに立てる必要がある
→資金調達の方法としては、会社の増資(新しい株を発行してお金を調達すること)や、銀行からの借り入れ、国や自治体の補助金の利用などがあります。

事業承継では、税金の心配と資金の心配が大きな問題となります。
税金対策と資金の準備を専門家に相談しながら進めていきます。

相続トラブルを防ぐ

・関係者の理解なくしてはスムーズな引き継ぎは難しくなる
→後継者以外の子供などに不公平感が生じ、トラブル要因になるリスクがあります。

・遺留分の請求などにより、承継自体が阻害される恐れがある
→事業承継の経緯と後継者選定の理由を、関係者に丁寧に説明し同意を得ることが不可欠です。

このように、事業承継には計画性と専門性が強く求められます。
長期的な視野を持ち、丁寧に着しっかりと準備を進めることが大切です。

事業承継の手続きをスムーズに進めるために「この街の事業承継」がお手伝いいたします

事業承継は、会社の永続的な発展に向けたとても重要な節目です。
しかし、複雑な手続きが多く、的確な対応が求められます。

経営者をはじめ、家族、従業員、取引先など多くの関係者にも影響が及びます。
最適な方法を見出すためには、専門家へのご相談が何より大切なのです。

そして、会社の歴史や背景を考慮すると、事業承継は時間を要するものです。
早めの準備をお勧めします。

事業承継について分かりやすくお伝えします。
弁護士の西田幸広です。

西田 幸広 弁護士

この記事を監修した弁護士

西田 幸広 法律事務所Si-Law代表

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