事業承継の計画について|策定の手順・ポイントや計画書の書き方

事業承継には、後継者の育成や知識・経験の引き継ぎ、資産評価や法的手続きなど、計画的な準備が不可欠です。

円滑な事業承継のために、中小企業庁も事業承継計画書の作成を推進しており、その重要性が広く認識されています。
実際に多くの人がこの事業承継計画書を活用して、スムーズに会社の引き継ぎを進められています。

この記事では、事業承継計画書の概要や手順、計画書の書き方など、事業承継計画について分かりやすく解説します。

事業承継計画とは?

事業承継計画は、会社を次の世代に引き継ぐための大切な準備です。
後継者の育成や財産の移行、手続きの整備など、多くの手順が含まれています。

これらは複雑で時間を要する作業ですが、計画をしっかり立てて準備を進めることで、引継ぎがスムーズに行えるようになります。

事業承継計画書と事業承継計画表の違い

事業承継計画書と事業承継計画表は、会社を引き継ぐ計画立てる際に使う重要なツールです。

■事業承継計画書:「何をするか」を具体的に書いた計画書

後継者の育て方やお金の評価、法律的な手続き、そして事業の戦略や手順など、事業承継の全体像を文書化します。
事業承継の方針を明確にし、計画的に進める指針となり、関係者での共有、金融機関や行政機関への説明資料としても活用できます。

■事業承継計画表:「いつ・誰が・何をするか」を時系列で整理した表

事業承継計画書に基づいて具体的なスケジュール、やるべきことの担当者や期限を明確にし、進捗状況を見える化します。
カレンダーやタイムラインに沿って誰がいつ何をするかが一目で分かるので、計画の進行を管理しやすく、遅れや問題点を早期に発見でき、対策を立てやすくなります。

なぜ事業承継計画書を作成する必要があるのか?

事業承継計画書の目的は、会社の状況を把握し、現経営者と後継者の考えを合わせ、関係者の協力獲得、後継者教育、そして事業承継税制を特例活用することの5つです。

会社の現状を把握するため

会社を次の世代に引き継ぐには、まず現状を正確に把握することが重要です。

  • 会社の強みや課題
  • 経営状況の詳細(財務状況、収益性など)
  • 従業員の概要(人数、年齢構成、スキルなど)
  • 取引先との関係性(主要取引先、契約状況など)

これらを明確にすることで、問題点が浮かび上がります。
また、引き継ぎ後の経営計画も具体的に書き込み、将来の計画を立てるための基盤を整えることができます。

現経営者と後継者の認識を合わせるため

事業承継計画書は、現経営者と後継者の間の “約束事” を明確にする役割があります。話し合いのポイントは以下の通りです。

  • 会社の将来の方向性
  • 大切にしたい価値観
  • 従業員の方の処遇の方針
  • 設備投資への規模

現経営者と後継者が、細かく話し合い認識の違いを埋めていくことで、事業承継計画書に両者の合意事項を明確に書き込むことができます。
会社の将来像について共通の理解を持つことで、引き継ぎ後のトラブルを防ぎ、会社の発展につなげることができます。

関係者の協力を得やすくするため

事業承継の成功には、以下のような関係者の協力が欠かせません。

  • 家族や親族
  • 従業員
  • 株を持っている方
  • 取引先の会社
  • 銀行などの金融機関

事業承継計画を立てる際には、関係者から意見を集めて、合意事項を計画書に取り入れます。
取引先との関係性や従業員の取り扱いなど、会社の将来に関わる重要な事柄を明確に書くことで、引き継ぎ後の問題を減らすことができます。

後継者の教育に役立つため

後継者の育成には、長い時間を要するため、現経営者と後継者が経営目標や方針について一致することが大切です。
事業承継計画書を活用することで、後継者は事業に対する理解を深めることができます。

  • 会社の現状や課題を詳しく把握できる
  • 将来の経営計画について学ぶことができる
  • 経営者としての心構えを身につけられる

事業承継計画書は後継者の育成においても非常に重要な役割を果たします。

事業承継税制の特例を利用するため

親族内で事業承継を行う際には、相続税や贈与税といった税金の負担が発生しますが、事業承継税制の特例を利用することで税負担を大幅に軽減できます。
特例を利用するためには、以下のような要件を満たす必要があります。

  • 親族内での事業承継であること
  • 事業承継計画書(特例承継計画)を策定していること

特例を利用するための手順は次の通りです。

1. 事業承継計画書(特例承継計画)を作成する
2. 認定経営革新等支援機関(仕業の専門家)から指導と助言を受ける
3. 期限までに都道府県庁へ計画書を提出する

事業承継に伴う税負担を減らすためには、計画的に進めることが大切です。

事業承継計画を策定する手順

事業承継計画を策定する流れは以下の通りです。

①現状の把握

事業承継計画を作るには、まず自社の現状を正確に把握することが非常に重要です。

1. 会社の売上げと利益

・売上高の推移と見通し:
– これまでの売上げ総額の変化と、これからの売上げの見通しを確認する

・営業利益(会社の純利益):
– 売上げから費用を引いた、会社の実際の利益を知る

2. 会社の人と財産はどうなっているか

・従業員数と年齢構成
– 現在の従業員数と、年齢から将来の人数変化を予想する

・会社の資産総額
– 土地や建物、設備、現金など会社が持っている資産の総額を確認する

・キャッシュフロー(お金の流れ)
– 会社への入金と出金の流れを表す数値で、今後の動きも把握する

3. 会社を取り巻くリスク

・競合他社との違い
– ライバル会社と比べて、利益率などに差があるかを見る

・会社の借金状況
– 会社の借金総額と、返済できる見通しを立てる

・業界の動向と新しい技術

– 業界の変化や新技術に、会社がうまく対応できるかを考える

・会社の強み・弱み
– 会社の良い点と悪い点を分析し、今後の競争力を判断する

4. 経営者とお金の状況は?

・経営者の健康と年齢
– 経営者の健康状態と年齢を確認し、万が一の場合に備える

・経営者個人の財産
– 経営者個人が持つ会社の株式割合と、他の資産状況を把握する

5. 後継者候補の状況

・後継者の探し方
– 会社の中や外部から、次の経営者になれる人材を見つける

・候補者の適性チェック
– 候補者の経営能力、やる気、適性などを評価する

6. 相続についての確認

・相続人と株式の割合
– 配偶者や子供など、経営者が亡くなった場合の相続人と株式の割合を確認する

・相続人同士の関係
– 相続人同士の人間関係を見て、トラブルが起きないか心配する

・財産分配のルール決め
– 経営者の財産をどのように分けるかルールを決める

・相続税対策
– 相続で発生する税金額を計算し、対策を立てる

このようなポイントを入念にチェックすることで、会社の現状を正しく把握でき、しっかりした事業承継の計画が立てられます。

②関係者の意思確認

後継者を選ぶ際には、候補者の気持ちを丁寧に確認します。
そして、家族や幹部などの意見も取り入れ、誰もが納得できる選択をしましょう。

③承継方法・後継者の検討

事業承継には、大きく分けて3つの方法があります。

1.親族内承継:会社を経営者の家族や親戚に引き継ぐ方法

【メリット】
・会社の文化や価値観を受け継ぎやすい
・資金調達の必要性が低い
・経営者と後継者の信頼関係が築きやすい

【デメリット】
・経営能力のある人材が家族内にいない場合がある
・相続税の負担が大きくなる可能性がある
・世代交代が進まず、経営の刷新が難しくなるケースがある

2.親族外承継:会社の従業員や外部の人材に経営を任せる方法

【メリット】
・後継者選定の幅が広がり、適材適所の人材配置ができる
・新しい視点や発想が入る

【デメリット】
・社内の信頼関係の構築に時間がかかる
・報酬や株式の取得資金が必要

3.第三者承継(M&A): M&Aとは「合併と買収」の略で、会社を他の会社に売却する方法

【メリット】
・後継者選びや育成の負担なく、比較的短期間で承継が完了する
・売却益が得られるケースがある
・経営資源(人材、資金、ノウハウなど)の獲得が期待できる

【デメリット】
・会社の独自性が失われる可能性がある
・従業員の雇用が不安定になりやすい
・売却価格や条件が適切でない場合、不利益を被るリスクがある

自社の状況をしっかり分析し、会社の将来像、後継者の能力、資金面などを総合的に考えて、慎重に判断しましょう。

メリット デメリット
親族内承継
  • 従業員や取引先からの理解が得られやすい
  • 経営者としての教育を施す時間が十分に取れる
  • 親族が必ずしも後継者になる意志があるとは限らない
  • 後継者の選定に偏りが生じる可能性がある
親族外承継
  • 候補者が多くいるため適任者が見つけやすい
  • 先代経営者の意向を守ってくれる可能性が高い
  • 従業員の心理的な抵抗感が大きい場合がある
  • 後継者に株式を買い取る十分な資金がない
第三者承継(M&A)
  • 後継者を広く外部に求められる
  • 従業員の雇用を維持できることが多い
  • 事業の拡大や新分野への進出につながる可能性がある。
  • 希望額で買手が見つかるとは限らない
  • 企業文化の違いから、社内の融和が難しくなるケースがある

【中小企業経営者必見】事業承継とは?

事業承継におけるM&Aとは?

④事業承継計画書の作成

事業承継計画書を作成する際の、ポイントは以下の通りです。

  • 経営理念を明確にする
    会社の存在意義や大切にしている価値観を書き出し会社が目指す方向性を明らかにします。
  • 経営計画を具体的に示す
    事業内容や会社の戦略、将来の計画、達成したい目標や実行すべき行動を具体的に設定します。
  • 売上目標を明確に定める
    売上や利益など、達成したい具体的な目標を数値で設定します。
  • 承継の時期を決める
    事業承継を実行する具体的な時期を決定します。

事業承継計画書は、専門用語を避けてシンプルな言葉で書き、補足情報を追加することで、より具体的なイメージを伝えることができます。
また、箇条書きやイラストを活用することで、読みやすくわかりやすくまとめることができます。

⑤事業承継計画表の作成

事業承継計画書を作成する際の、流れ、ポイントは以下の通りです。

  1. ①具体的な行動計画を立てる
    例: 「3年後に後継者教育を完了する」「5年後に株式譲渡を実施する」など、事業承継のゴール設定します
    目標達成に必要な行動を洗い出し、いつまでに何をするのか無理のない現実的な行動計画を立てます。
  2. ②行動を計画表に記入する
    事業承継の指針となる行動計画を、具体的な行動内容と実行時期を含めて事業承継計画表に書き込みます。
  3. ③行動を開始する
    計画表に従って、一歩一歩着実に行動を開始します。
  4. ④進捗状況を確認する
    定期的に計画の進捗状況を確認し、予定通りに進んでいるか、遅れていないかをチェックします。
  5. ⑤原因を分析する
    進捗が計画通りでない場合は、その原因をしっかり分析します。
  6. ⑥計画を修正する
    状況の変化や進捗状況に応じて、必要に応じて目標時期や行動計画を柔軟に修正します。

事業承継計画表は、初めに設定した通りに進めることが望ましいですが、必要に応じて適切な調整を行いながら確実に進めていきましょう。

まずはお気軽にご連絡ください

0120-055-737

受付時間/AM8:30~PM5:30(土日・祝休)

事業承継計画書の記載内容と書き方

事業承継計画書は、特定の書式に厳密に従う必要はありません。
中小企業庁や商工会議所、金融機関、事業承継センターなどが提供するひな形を参考に、自社の状況や計画に応じて、適切な項目を選択・追加・削除し、記入します。

【事業承継計画書の記入例】

出典:日本政策金融公庫

【事業承継計画表の記入例】

出典:事業承継ガイドライン第3版(中小企業庁)

前提状況

■親族関係
・法定相続人(家族)とのつながりはどうなっているか
・後継者に会社の株式をいつ、どのくらい渡すか

■承継予定時期
・ 現在の経営者の年齢を考える
・いつ頃会社の株式を譲渡するか

■会社概要
・資本金(会社の資金)はどのくらいか
・会社の始まりや歴史的変遷について

まずは前提条件を丁寧に理解し、その上で計画を立てていくことが大切です。

経営者の想いと後継者の想い

■経営者
・経営理念や会社に対する想い
・その想いがどのように生まれ、なぜそれを大切にしているか

■後継者
・経営者の想いをどう理解したか、どう応えようとしているか表明する

経営者と後継者が想いを共有し、受け渡しを大切にすることが、事業承継の成功に繋がります。

事業の現状分析と将来予測

■SWOT分析:会社の強み、弱み、機会、脅威を洗い出す分析手法

・強み(Strengths)
会社が持っている優れた製品、人材、技術力資源や能力のこと

・弱み(Weaknesses)
老朽設備、人手不足、資金力不足など会社の不足していること

・機会(Opportunities)
新市場開拓、新技術活用、規制緩和など利用できる外部の好機会のこと

・脅威(Threats)
新規参入者、代替品、為替変動などのリスクや外部の脅威のこと

この分析を通して、会社が抱える課題が明らかになります。
そこから、弱みへの対策や危険を避ける方法を見えてきます。

後継者は会社の現状を正しく把握し、会社をより良い方向に導くことができます。

事業承継計画を策定する際の3つのポイント

事業承継計画を考えるときに大切なポイントは以下の通りです。

最適な年齢・タイミングで計画を立て始める

事業承継は、会社の将来にとって極めて重要な課題ですが、緊急性が低い経営課題のため、検討自体を先送りされる傾向があります。
次の世代への承継にはある程度の意識があっても、財産の承継に関しては相続税の評価を聞いた程度で終わってしまうこともあります。

しかし、健康面の不安や自社の株式評価も考慮し、経営者の方は60歳近くなったら自分の株式や資産をどうするかまで具体化し、しっかりと計画を立てる時期です。
決算後に計画を立てることが望ましいですが、遅れると承継手続きが複雑化する恐れもあるため、タイミングを逃さないように注意しましょう。

誰が見ても分かるように記載する

事業承継は会社全体に関わる大きな出来事であり、従業員の皆さんや取引先の企業に対しても、しっかりと理解してもらう必要があります。

特に後継者が第三者の場合、計画書の内容を頼りに会社を判断することになります。
事業承継計画書は、会社がどういう状態なのか、これからどうしていくのか、できる限り具体的で分かりやすい内容にする必要があります。
現経営者しか知り得ない情報も、隠すことなく開示しておくべきです。

現経営者だけで策定しない

事業承継計画書は現経営者だけでなく、会社を継いでいく後継者の方や、会社で働く従業員のためにも作られるものです。

経営者一人で作成すると、法務や税務面での見落とす恐れがあります。
後継者や従業員らと話し合い、弁護士や税理士などの専門家に相談しながら、客観的な計画を立てることで、より確かな内容と充実した計画になります。

事業承継計画の策定でお悩みなら、専門家である「この街の事業承継」までご相談下さい

事業承継は会社の永続的な発展にとって極めて重要な経営判断です。
事業承継計画書を作成は必須であり、現経営者と後継者の方向性を合わせるだけでなく、関係者間の利害の対立や税制面でのデメリットを回避できます。
また、お取引先や金融機関からの信頼も得やすくなります。

しかし、事業承継計画は専門性が高く、専門家の適切な関与が不可欠です。
計画策定から実行に至る全過程で、的確なサポートを受けることで、リスクを避け、安心して計画を進めることができます。

事業承継のこと、わかりやすくお伝えします。
熊本で25年 弁護士の西田幸広です。

西田 幸広 弁護士

この記事を監修した弁護士

西田 幸広 法律事務所Si-Law代表

まずはお気軽にご連絡ください

0120-055-737

受付時間/AM8:30~PM5:30(土日・祝休)

コラム一覧に戻る