事業承継税制の要件は?メリット・デメリットなどを分かりやすく解説
 
								
事業承継税制は、中小企業や個人事業主の世代交代の際に発生する贈与税や相続税の負担を軽減し、スムーズな事業承継を支援するために設けられた制度です。
2018年度の税制改正により要件が緩和され、より利用しやすくなりました。
本記事では、事業承継税制の仕組みや要件、メリットや注意点などについてわかりやすく解説します。
目次
事業承継税制とは

事業承継税制は、中小企業の経営者が事業を後継者に引き継ぐ際、贈与や相続にかかる税金の負担を軽くするための制度です。
通常、事業を引き継ぐ時には多額の相続税や贈与税がかかることがありますが、この制度は条件を満たせばその税金の支払いを先延ばしにしたり、負担を大幅に軽減することができます。
2018年度の税制改正で特例措置が追加され、より多くの企業がこの制度を活用しやすくなりました。
後継者がスムーズに事業を引き継げるよう、税負担の面でも支援される仕組みです。
事業承継税制の目的
事業承継税制は、中小企業の経営者が事業を後継者に引き継ぐ際に、相続税や贈与税の負担が大きく、事業を続けるのが難しくなることを防ぐために導入されました。
後継者の税負担を軽減することで、円滑な事業承継を支援し、日本経済の土台である中小企業の継続と発展を目指しています。
一般措置と特例措置との違い
事業承継税制には、「一般措置」と「特例措置」の2種類があります。
2018年度の税制改正で導入された特例措置は、一般措置よりも条件が大幅に緩和されています。
主な違いは以下の通りです。
■対象株式の範囲
一般措置では総株式数の3分の2までが対象ですが、特例措置ではすべての株式が対象となります。
■納税猶予の割合
一般措置では、贈与の場合100%、相続の場合80%の税金が猶予されますが、特例措置では贈与・相続ともに100%の税金が猶予されます。
■事業承継計画の提出
特例措置を受けるためには、事前に「事業承継計画」の提出が必要ですが、一般措置ではこの提出は不要です。
| 一般措置 | 特例措置 | |
|---|---|---|
| 事業承継計画 | 不要 | 必要 | 
| 対象株式の割合 | 総株式数の3分の2まで | 全ての株式 | 
| 納税猶予の割合 | 贈与:100% 相続:80% | 贈与・相続とも100% | 
| 適用期間 | 贈与:贈与税申告期限から5年間 相続:5年間 | 贈与:贈与税申告期限から10年間 相続:10年間 | 
| 後継者の要件 | 代表者に就任していることが必要 | 代表者に就任していることが必要 | 
| 雇用維持の要件 | 継承後、5年間平均して80%以上の雇用維持が必要 | 継承後、5年間平均して80%以上の雇用維持が必要 | 
| 継続要件 | 5年間は継続して事業を営むことが必要 | 5年間は継続して事業を営むことが必要 | 
| 免除条件 | 一定の条件を満たせば、5年後に納税が免除される | 一定の条件を満たせば、10年後に納税が免除される | 
| 一般措置 | 特例措置 | |
|---|---|---|
| 事業承継計画 | 不要 | 必要 | 
| 対象株式の割合 | 総株式数の3分の2まで | 全ての株式 | 
| 納税猶予の割合 | 贈与:100% 相続:80% | 贈与・相続とも100% | 
| 適用期間 | 贈与:贈与税申告期限から5年間 相続:5年間 | 贈与:贈与税申告期限から10年間 相続:10年間 | 
| 後継者の要件 | 代表者に就任していることが必要 | 代表者に就任していることが必要 | 
| 雇用維持の要件 | 継承後、5年間平均して80%以上の雇用維持が必要 | 継承後、5年間平均して80%以上の雇用維持が必要 | 
| 継続要件 | 5年間は継続して事業を営むことが必要 | 5年間は継続して事業を営むことが必要 | 
| 免除条件 | 一定の条件を満たせば、5年後に納税が免除される | 一定の条件を満たせば、10年後に納税が免除される | 
| 事業承継計画 | |
| 一般措置 | 不要 | 
|---|---|
| 特例措置 | 必要 | 
| 対象株式の割合 | |
| 一般措置 | 総株式数の3分の2まで | 
|---|---|
| 特例措置 | 全ての株式 | 
| 納税猶予の割合 | |
| 一般措置 | 贈与:100% 相続:80% | 
|---|---|
| 特例措置 | 贈与・相続とも100% | 
| 適用期間 | |
| 一般措置 | 贈与:贈与税申告期限から5年間 相続:5年間 | 
|---|---|
| 特例措置 | 贈与:贈与税申告期限から10年間 相続:10年間 | 
| 後継者の要件 | |
| 一般措置 | 代表者に就任していることが必要 | 
|---|---|
| 特例措置 | 代表者に就任していることが必要 | 
| 雇用維持の要件 | |
| 一般措置 | 継承後、5年間平均して80%以上の雇用維持が必要 | 
|---|---|
| 特例措置 | 継承後、5年間平均して80%以上の雇用維持が必要 | 
| 継続要件 | |
| 一般措置 | 5年間は継続して事業を営むことが必要 | 
|---|---|
| 特例措置 | 5年間は継続して事業を営むことが必要 | 
| 免除条件 | |
| 一般措置 | 一定の条件を満たせば、5年後に納税が免除される | 
|---|---|
| 特例措置 | 一定の条件を満たせば、10年後に納税が免除される | 
事業承継税制の適用要件
事業承継税制を利用するには、経営承継円滑化法の認定を受けることが必要です。
この法律に基づき、以下の3つの認定要件を満たす必要があります。
- 会社の要件
 中小企業であり、事業を継続するために一定の条件をクリアしている必要があります。
- 先代経営者の要件
 会社の代表者であり、事業を引き継ぐためにふさわしい立場にあることが求められます。
- 後継者の要件
 事業を引き継ぐ人物が、株式を適切に所有し、経営の責任を引き継ぐ準備ができていることが必要です。
会社の要件
- 中小企業であること
 会社の資本金が3億円以下、または従業員数が1,000人以下である中小企業が対象です。
- 非上場企業であること
 上場企業は対象外です。未公開株を保有する非上場企業がこの税制の対象となります。
- 事業を継続していること
 事業承継後も少なくとも5年間は事業を継続していることが必要です。
 事業が継続されていない場合、猶予されていた税金が即座に支払われることになります。
- 後継者への事業承継計画を持っていること
 事業承継計画を作成し、税務署に事前に提出することが求められます。この計画を基に税制の適用が認められます。
(まとめ)
会社は中小企業であり、非上場企業であることが条件です。
また、事業承継後も5年間の事業継続と、事前に後継者への事業承継計画を提出することが求められます。
先代経営者の要件
- 会社の代表取締役であること
 先代経営者は、事業承継時に代表取締役として会社を運営している必要があります。
- 一定の株式を保有していること
 先代経営者は、会社の株式を一定数保有していることが条件です。通常、総株式数の50%以上が望ましいです。
- 事業承継後、代表取締役を退任すること
 先代経営者は、事業承継が完了した後、代表取締役を退任し、後継者に経営権を完全に譲る必要があります。
(まとめ)
先代経営者は、事業承継時点で代表取締役を務めており、一定の株式を保有している必要があります。
事業承継後は、必ず代表取締役を退任しなければなりません。
後継者の要件
- 自社株式の過半数を保有し、筆頭株主であること
 後継者は、事業承継時に自社株式の50%以上を保有し、親族内で筆頭株主であることが求められます。
- 代表取締役に就任すること
 事業を引き継いだ後、後継者は代表取締役に就任することが必要です。
- 20歳以上であること
 後継者は、承継時点で20歳以上でなければなりません。
- 5年間、事業を継続すること
 事業承継後、後継者は5年間、事業を継続する義務があります。
- 雇用を維持すること
 後継者は、事業承継後の5年間で、従業員の80%以上を維持する必要があります。
(まとめ)
後継者は、筆頭株主であり、20歳以上であることが条件です。
また、代表取締役に就任し、5年間事業と雇用を維持することが求められます。
事業承継税制の開始後にも要件がある
事業承継時に、贈与税や相続税の納税が猶予される制度が適用される場合がありますが、そのためには以下の厳格な要件を満たす必要があります。
【5年間の主な要件】
- 後継者が会社の代表者であり、かつ筆頭株主であること
 後継者は、単に経営に関与するだけではなく、代表者として実権を握り、株式の過半数以上を保有している必要があります。
- 従業員の8割以上を維持すること
 従業員の雇用を安定させることは、地域経済や社会的責任において重要です。
 このため、事業承継後も8割以上の雇用を継続することが求められます。
- 事業を継続すること
 事業承継後5年間は、会社を売却したり廃業したりすることは許されません。
 事業の継続が前提となっています。
【5年経過後の主な要件】
- 後継者会社の代表者であること
 5年が経過した後も、後継者が会社の代表者であることが条件です。
 経営責任を持ち続けることで、税制優遇が維持されます。
- 雇用の5割以上を維持すること
 5年経過後は、雇用の維持割合が若干緩和されますが、それでも従業員の5割以上を雇用することが必要です。
■要件を満たさなかった場合のリスク
これらの要件を満たせない場合、猶予されていた贈与税・相続税が免除されず、一括で納税義務が発生します。
特に後継者が突然事業を引き継ぐ際には、こうした税負担が大きな経営リスクとなり得るため、計画的な準備が非常に重要となります。
事業承継税制を受けるメリット・デメリット
メリット
事業承継税制は、税負担を大幅に軽減し、自社株式の評価が高い企業にとっても大きな助けとなる制度です。
活用することにより、次のような重要なメリットがあります。
- 
事業用資産の贈与税・相続税が猶予・免除される
 一定の条件を満たす限り、事業承継に伴う贈与税や相続税の納税が猶予され、最終的には免除される場合もあります。
 事業承継時の税負担が大幅に軽減され、次世代への円滑な引き継ぎが実現しやすくなります。
- 
現経営者の生前贈与にも適用可能
 この税制は、相続だけでなく、生前贈与にも適用されるため、経営者が存命中に後継者へ事業用資産を贈与する場合にも活用できます。
 計画的で円滑な事業承継が実現できます。
- 
自社株対策に有効
 特に中小企業やオーナー企業では、資産の大部分が自社株式で構成されており、相続や贈与時の評価額が高くなると税負担が大きくなります。
 この制度は、自社株式の評価が高い企業にとって、非常に効果的な節税対策となります。
- 
計画的な事業承継の後押し
 税制の優遇措置を活用することで、経営者は早期から計画的に事業承継の準備を進めることができ、スムーズな次世代への引き継ぎが期待できます。
デメリット
一方で、事業承継税制には以下のようなリスクや制約も伴います。
- 
猶予期間中に要件を満たせないリスク
 税制の適用を受けるためには、後継者が代表者であることや雇用の維持など、厳格な要件を満たし続ける必要があります。
 これらの要件が猶予期間中に満たされなかった場合、猶予されていた贈与税や相続税を一括で納税しなければならず、大きな負担が生じる可能性があります。
- 
株式を譲渡できない制約
 承継された株式は、一定期間他者に譲渡することが禁止されています。
 これにより、将来的な資金調達や事業再編といった経営戦略の柔軟性が制限されるリスクがあります。
- 
贈与税の負担が大きくなる可能性
 自社株の評価額が高い場合、生前贈与を選択した場合でも、贈与税の額が非常に大きくなるケースがあります。
 猶予制度を利用しても、最終的に免除されるかは保証されないため、後々の負担を見込んだ計画が必要です。
- 
専門家のサポートが必須
 事業承継税制を適用するには、税務や法務の専門知識が欠かせません。
 要件を満たさないリスクを避けるためにも、専門家の支援を受けることが必須です。
事業承継税制についてのご不明点は「この街の事業承継」へご相談ください
事業承継は、次世代に会社を引き継ぐ大切な過程ですが、多くの経営者が税金対策や法的手続きの複雑さに直面し、具体的な対策を見つけられずに困っているのが現状です。
事業承継税制の活用には厳しい要件があり、それを満たせない場合、贈与税・相続税の負担が一気にのしかかるリスクもあります。
しかし、事業承継税制をしっかりと活用すれば、税負担の軽減や円滑な事業承継など、大きなメリットも得られます。
「この街の事業承継」では、弁護士・社労士・行政書士の私、西田幸広が、これまでに多くの企業の事業承継を支援してきた経験と実績を活かし、税務・法務の複雑な問題も一つ一つ丁寧にサポートします。
ぜひお気軽にご相談ください。
 
	
この記事を監修した弁護士
西田 幸広 法律事務所Si-Law代表
弁護士・法律事務所Si-Law/(株)TORUTE代表・西田幸広 熊本県を中心に企業顧問70社、月間取扱160件以上(2025年8月時点)。登録3,600社・20超業種を支援し、M&A・事業承継を強みとする。弁護士・司法書士・社労士・土地家屋調査士の資格保有。YouTubeやメルマガで実務解説・監修/寄稿多数。LINE登録特典で「事業承継まるわかりマニュアル」提供。
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